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What's 二十絃箏

二十絃箏

1969年に新しい箏として登場した二十絃箏は今年で丁度40周年をむかえる。
伝統の影を秘めながら新しい時代の要求に押されてでつくられたこの箏は、広く普及し、特に新しい音楽、現代音楽を目指す専門家(演奏家・作曲家)にとって欠かすことのできない楽器となっている。
十三絃箏は限定された音域・音色の中で一音ずつを大切にしていく世界であったが、二十絃箏では糸の太さ、他が改良されたことで音域は4オクターブ、音色は幅広さと強さを具えて、外に向かって広がりを持つ様になった。

2009年 吉村七重

二十絃箏の現在と伝統との係り

1969年に新しい箏として登場した二十絃箏は今年で30周年をむかえる。
伝統の影を秘めながら新しい感覚でつくられたこの箏は、今日創始者である演奏家、野坂恵子氏や作曲家、三木稔氏ですら予想もしなかった程普及度は高く、特に新しい音楽(現代音楽、ジャズ、ポピュラー系、フユージョン等)を目指す専門家にとっては欠かすことのできない楽器となっている。これは三木 稔氏が初期に多くのすぐれた作品を書かれた事も大きな要因だろう。
 その次世代として存在する私はそれらの作品を継承すると共に、同時代の作曲家や国内外のレコード会社のプロデューサーとの共同業で、新しい作品を積極的に創ってきた。特に1988年からは委嘱作品だけでリサイタルのプログラムを組み、そこで出来た作品を国内外での演奏活動の中心に据えてレパートリーとし、CDにする作業を続けて10年になる。一昨年からは若手演奏家育成を目的とする演奏会「邦楽展」を開始し、11回を数えている。このように二十絃箏のあたらしいレパートリーを創り、定着させ、未来につなぐことが私の仕事だと思っている。

古典音楽について考えると一般の人が箏の古典に親しむ機会は実に少なく、それについての知識度も低い。今日に生きる私達にとって古典音楽はあまりに懸け離れた存在であり、まるで異郷の音楽のように聴こえるのである。
しかし海外での公演において私は、否応なく箏を演奏をする個人の演奏家としてだけでなく、邦楽の伝統を受け継ぐ者としての側面を考えざるをえない。
私は世界中どんな場所ででも、ただ客観的に鑑賞されるのではなく、観客と共感を持って1つのコンサートを共に作り上げたいと願っている。私の演奏する日本の音楽は人々にとって初体験なことが多いのでその事はとても大切なのだ。 現代音楽祭以外では古典と現代をプログラムの中で演奏することが多いが、古典でも純粋器楽のものは現代ものと同じ姿勢で聴いていただけるのに、歌を含む地歌では観客との間に言いがたい距離感ができてしまう事が多い。もちろんこれは日本文化への理解度が高く時代背景を知っている場合と、知らない場合とで全く違う。しかし同時代性を共有する現代曲ではホっとして共感を示してくれる。言うまでも無く江戸時代という特殊な鎖国社会で育まれた地歌と、現代に生きる洋楽系の作曲家の作品は全く質の異なった音楽であるから当然なのだが、両方の音楽を同じ演奏会で演奏する私自身、これまで古典と現代音楽とのあまりの差異に、やりにくさと違和感を永いこと持て余してていた。私は20歳までは古典を中心に演奏し、それ以降は現代曲を主に演奏してきたが、無意識に双方を全く違うものとして弾き分けてきたと思う。
 しかし考えてみれば昔からその時代その時代で、すぐれた感性を持った八橋検校のような先駆者が変革をして箏の歴史を創ってきた。その延長としての現在ならば両方ともそのまま受け入れる事ができるのではないかと考え、最近ようやくその違和感が少しとれてきた様に感じられている。

 私は変化する場所に身を置くのが好きなので、今二十絃箏の現在を創りながら仕事をしていける事をとても幸せに思っている。

1999年 吉村七重