Title  
  
Predictors of Bruxism, Other Oral Parafunctions, and Tooth Wear over a 20-year Follow-up Period
ブラキシズム その他の異常機能、歯の摩耗についての予測因子の
20年間にわたる追跡調査

出典 J. of Orofacial Pain
著者
     Gunnar E. Carlson

Abstract

目的:ブラキシズム その他の異常機能、歯の摩耗についての予測因子を20年前に検査を行なったグループで分析を行なうことである。

方法:最初は無作為に抽出を行なった402人の7才、11才、15才の被験者について質問と臨床的な方法で検査を行なった。最初の検査から20年後最初のグループの94%を追跡できた。320人(85%)が完了し質問票の返却を得た。最も年の高いグループ100人(81%)は、咬合の要素、咀嚼システムの機能と異常機能に的をしぼった臨床的検査を施行中である。20年間の追跡により蓄積した口腔異常機能と歯の摩耗の予測因子を分析するために、最初の検査記録を独立変数とした論理的回帰を行なった。

結果:小児期に(日中のくいしばり かつ/または 夜間のこすり合わせとして定義された)歯ぎしり、くいしばり、夜間のみのこすり合わせ、爪噛み、その他の異常機能が単独あるいは共存するかどうかの主観的な報告は、20年後に同様な異常機能が存在するかどうかの予測因子となりうる。また日中のくいしばりと夜間のこすり合わせといった歯ぎしりの二つの構成要素も、それとは異なる予測因子となりうる。下顎遠心咬合(Angle Class U不正咬合)と小児期の歯の摩耗により成人期に歯の摩耗が増すことが予想できる。一方、非作業側の干渉がある方がない方より前歯の摩耗は少なくてすむ。

結論:小児期の口腔異常機能は多くの個体においてしつこい特性となる。小児期の下顎遠心咬合と歯の摩耗がある場合、20年後に前歯の摩耗が進むことが予測できる。一方非作業側の干渉により、35歳の個体のそうした摩耗の危険を回避できることが予測できる。

緒言

軽度のブラキシズムによって重篤な問題が起こることは稀ではあるが、度を越した異常機能は術者にとっても患者にとっても頭の痛い問題を引き起こす。こうしたブラキシズムの続発症として歯の摩耗、筋肉痛、TMJの痛み歯痛 歯の動揺、頭痛、補綴物に係る様々な問題がある。
最近の研究では、小児、若年者、成人それぞれにおいて、様々な口腔異常機能習慣とTMD症状や兆候の因果関係が明らかになっている。
現在ではブラキシズムの病因論としては多因子説がコンセンサスを得ている。ブラキシズムは構造的因子というよりは、ストレスと疼痛行動に関連した中枢系の現象と考えられている。最近ではブラキシズムは、睡眠障害や運動系の不調と定義されている。
小児期のブラキシズムの縦断的な進展についての定説はない。
歯の摩耗については過度なブラキシズムによって引き起こされた個体を見つけるのは容易である。しかし近年、歯の摩耗は多様な病因によることが強調されており、異常機能もその一つに過ぎない。
この調査の目的は、ブラキシズム、他の口腔異常機能、前歯の摩耗の予測因子について独立変数として最初の検査で記録した変数を用いて論理回帰を行なって分析を行なうことである。仮説は、小児期におけるブラキシズムや他の異常機能は、20年後のブラキシズムや他の異常機能の予測因子となりうるということである。

研究材料・方法

被験者

71115才の被験者402名を無作為抽出し、TMD症状、頭痛、口腔異常機能について質問し、TMDと咬合について臨床的兆候を調べた。20年後、最初の被験者のうち94%にあたる378名が追跡できた。それらの被験者に質問票を送ったところ320名から回答を得た。さらに10名は臨床的検査に応じた。

方法

質問項目は、頭痛も含めた咀嚼系の兆候の出現、ストレスをしばしば感じるか、心配をしているか、落ち込んでいるか、口腔異常機能、顔面外傷の既往、観察期間のTMD治療の有無、現在のTMD治療の必要性などである。くいしばり、夜間のこすり合わせなどの口腔異常機能、爪噛み、口唇や頬噛みといった口腔習慣についても質問した。

標準的臨床検査として、下顎の可動範囲の計測、開口時の偏移の出現、TMJ音の記録、下顎のロックや脱臼、動かした時の痛み、TMJあるいは筋肉の触診時の痛み、咬合時の接触歯の組の数、咬合の特徴、そして歯の摩耗程度などをみた。

統計分析

口腔異常機能、歯の摩耗の、予測因子の分析のためロジスティック回帰分析を用いた。

参考

Logistic regression従属変数Yが二値の名義変数の場合

ロジスティック回帰分析は最近医学の分野での使用が増加している多変量解析の方法である。いくつかの独立変数から二値の従属変数のどちらをとるのかを予測することが出来る。

O         従属変数は二値の名義変数である。すなわちbinaryまたはdichotomousであり、二つの内のどちらかの値を取る。例:発症 vs 非発症、生存 vs 死亡

O         独立変数(説明変数)は数値変数と名義変数のどちらでも扱うことが出来る。

O         独立変数の分布に影響されない。すなわち、正規分布に従うことを前提としていない。

O         それぞれの独立変数に対して算出される回帰係数(regression coefficient)はコホート研究であれば相対危険度(relative risk)、ケース・コントロール研究であればオッズ比として解釈できる。例:回帰係数が-0.43の場合、exp(-0.43)=0.65となり、この独立変数はOutcome=従属変数を低くするように関係していることを示す。

O         それぞれの回帰係数にたいするP値により有意に関係しているかどうか判定することが出来、Stepwise法によって有意に関係している因子を求めることも出来る。また、有意に関係していると判定された複数の因子が従属変数の決定に全体としてどれくらい寄与しているかをR-squareによって判定することが出来る。

O         Logistic regressionの独立変数の値とそれぞれの独立変数に対する回帰係数からその独立変数の組み合わせに対するOutcomeの確率Probabilityを求めることが出来る。

 

例:OutcomeA, Bの二つとする。x1, x2, x3の三つの独立変数とそれに対する回帰係数b1, b2, b3および切片b0が求められていた場合、その三つの独立変数の組み合わせでOutcomeAとなる確率pAは;

pA = 1/{1 + exp[-(b0 + b1x1 + b2x2 + b3x3)]}となる。

いいかえると各係数とそれぞれの独立変数の値を掛け合わせたものと切片を合計し、そのマイナスの値のExponential(自然対数の底を用いる)を計算しそれに1を加えて、その値で1を割り算した値が、結果がAとなる確率となる。結果がBとなる確率は1 - pAで求められる。

 

C型肝炎ウイルス陽性の肝硬変症において、肝細胞癌の合併があるのかないのか、という二値の結果を決める因子を明らかにしようとする場合にLogistic regression analysisを用いることが出来る。その場合には肝細胞癌の合併のある症例とない症例で肝細胞癌の合併と関連が予測されるいくつかの因子を解析することになる。

独立変数として、20年後の検査における変数を選択した。

1)     ブラキシズム(Yesから日中のくいしばり、と夜間のすり合わせの質問において片方あるいは両方あるものまで)

2)     日中のくいしばり

3)     夜間のすり合わせ

4)     爪噛みと口腔異常機能の片方または両者のあるもの

5)     前歯の摩耗(スコア1から2 対 3から5

こうした分析から得られた結果は95%信頼区間(IC)と調整P値によるオッズ比(OR)ととして示された。

結果 

20年後追跡時のブラキシズムを従属変数としたとき、二つの変数(ブラキシズムの報告とTMD症状)が統計的に顕著な予測因子となった。(Table.1OR3.1とは最初の検査時にブラキシズムを報告していたものは、20年後ブラキシズムを報告する可能性が約3倍大きいということを意味する。Table.2 では最初の検査でブラキシズムやTMD症状を報告していた被験者が20年後どのくらいその危険度が高まるかを示したものである。20年後追跡の結果ブラキシズムを自覚しているものは、20年前に頻繁なブラキシズムを報告していたものの100%、時々のもののうち75%であった。

くいしばりについては20年前のくいしばりが最大値をとった。またDiも他の予測因子として顕著であった。

夜間のすり合わせについては、歯の摩耗係数が顕著に予測因子となった。

爪噛みと口腔異常機能については、爪噛みと10年後の心理的緊張が同程度の予測因子となった。

20年後の追跡で咬合や口腔の異常機能について報告していたものの大多数は20年前に既にそれに        気付いていた。

前歯部の摩耗については下顎遠心咬合が最も顕著な予測因子で、他に前歯の摩耗と小臼歯の摩耗、シザースバイトも顕著であった。(Table3) Table4では初回検査の予測因子の記録と20年後の広汎な前歯部摩耗の関係を示している。

高度な前歯部の摩耗(スコア45)については非作業側の干渉のみが顕著な関わりをもっていた。OR0.26であったがそれが意味するところは、前歯と犬歯の摩耗の危険度を4倍(1/0.26)減らすことができるということである。

考察

20年後のおけるブラキシズムと口腔異常機能の顕著な予測因子は、最初の検査におけるブラキシズムと口腔異常機能の報告である。成人になってから自分がブラキサーと思っている人の大部分は子供のころにそのことに気付いている。すなわちブラキシズムは子供のころからしつこく続く行動であり、これはブラキシズムが子供のころの一過性現象であるとする説に反する。

子供のころのTMD症状も20年後のブラキシズムの予測因子となりうる。これはブラキシズムがTMD患者の病因の一つになるという説を支持することになる。しかしながら自己申告には疑問が残るということも忘れてはならない。

日中くいしばりと夜間の睡眠に関係したすり合わせは異なった異常機能を構成していることが分かっているので、様々なブラキシズムはその根本的要素により分類されるべきである。TMD症状とのかかわりにおいてもくいしばりとこすりあわせには違いがみられる。

TMD専門家の最近のコンセンサスとしてブラキシズムは咬合の特性とは結びついてはいないといわれている。今回の結果においても歯牙咬合因子とブラキシズムの顕著な関係はみあたらなかったが、このことを裏付けている。

最近の論文では歯の摩耗は多因子の病因によるものであることが指摘されているが、ブラキシズムもその一要因にすぎない。今回の分析においても歯の摩耗指数は20年後の夜間こすり合わせの強力な予測因子になりうるが、ブラキシズムは歯の摩耗の発生因子となりうるかどうかは、指摘されているほど確かなものではない。

15才時の下顎遠心咬合は35才時の前歯部摩耗の最も強力な予測因子となりうる。この説明として、下顎遠心咬合の個体は正常咬合のものに比べ、歯のすり合わせとくいしばりがよくみられるということが挙げられる。なぜかといえば、下顎遠心咬合をとる個体では、意識下あるいは無意識下にプロファイルを改善しようと下顎を突き出すため、前歯領域に摩耗が生じるためであろう。

歯の摩耗の増悪は、非作業側に干渉がないことと密接な関係にあることがわかった。しかし非作業側の干渉は咀嚼系の健康には有害であるとも、TMJクリッキングの予防の役を果たしているとも言われている。今回の分析は非作業側の干渉は前歯部の過度の摩耗を防止することを示している。一方でTMD症状に関連しているとの証拠は得られなかった。

結論

@       小児期のブラキシズム、くいしばり、夜間のこすり合わせ、爪噛み、他の異常機能は20年後の同様な異常機能の予測因子になる。これは多くの個体において口腔異常機能はしつこく続くことを示唆している。

A       ブラキシズム、日中のくいしばりと夜間のすり合わせといった2つの予測因子は、同じではない。このことはこの2つの咬合にかかわる異常機能はことなる様態をもつこという意見を支持するものである。

B       小児期の下顎遠心咬合と歯の摩耗によって、成人期における歯の摩耗の増大を予測できる。

C       非作業側の干渉は前歯の摩耗の進展の危険を減らすことができる。