カントリー音楽の原点を訪ねて

2001.9.24

OldSpagetti なんとか仕事を調整し、兼ねてからの念願だったカントリー音楽のメッカ、テネシー州ナッシュビルへ8月25日から約1週間、カミさんと2人で旅をしてきた。
とはいえ懐具合に余裕などあるわけもなく、一般大衆の味方、HIS格安往復エコノミーチケットにホテルも星3つクラスで我慢我慢。
ただし、今回は現地6泊 どこへも行かずナッシュビルオンリー、という点では落ち着いた余裕のある滞在なのだ。

 ヒューストンまでの大陸間移動はコンチネンタル航空の777。
エコノミーとはいえシートは窓際、中央とも全て3席、おまけにプライベートモニター付き。前席との距離もまあまあ耐えられる。
以前アムステルダム経由イスラエル渡航時のKLMもプライベートモニターだったがそれより空間に若干余裕がある。 当然キャビンクルーに日本人もいるが、どこぞの国際線に比べ英語はほぼネイティブ。ただ2度の食事とあいだのライトミールはやはり東南アジア系には敵わない。
ヒューストンで入国審査後さらに国内線でナッシュビルへと向かい、到着は同日の夕方。さて、いきなりカントリーライブだ。

 いまから約76年前、ここナッシュビル、ライマン公会堂(Ryman Auditorium)を発信地とし、1つの公開ラジオ番組がスタートした。
カントリー音楽を全米に流した「グランド・オール・オプリ」(Grand Ole Opry)だ。そして場所をナッシュビル郊外オプリランドのグランドオールオプリハウスに移し、今でも週末金曜・土曜夜を楽しませてくれている長寿番組。
これを見ずしてナッシュビルに来たと言えるか???
http://www.grandoleopry.com/ 実は旅の目的地が決まった時点でネットでチケットはゲット済み。
ということで、旅の初日だけはオプリランド内の5つ星ホテル(Opry Land Hotel)にて一時の贅沢三昧。

 オプリランドといってもこれは言ってみれば巨大ビニールハウスのなかにある小さな街で、ホテルや商店街、世界各地から調達した水を合成した川には滝が流れ込んでいる。この街全体の空調だけ考えてもラニングコストは膨大だ!なんて貧乏たらしく心配してしまう私達。

HardRock  公開ライブはPM9時半スタート、既に1階席はほぼ満席。観客はどちらかというと中高年層が多いようだ。さあ始まるぞー!
構成は全部で大きく5ステージ。バックバンドはフィドル、ペダルスティール、ギター、ベースという構成でプレーヤーはネクタイ姿のおじさんばかり。
ネット予約時に出演者はチェックしたが、知らないアーティストばかりで、果たして知っている人は誰もいなかった。
メインゲストもおじさん、おばさんで、歌うのは「どカントリー」、日本で言えば往年の演歌歌手コンサート風でちょっと失望してしまった。
一方、カミさんのほうはカントリー自体がライブは始めてとあって興奮気味。残念なのはペダルスティールの足元がスピーカに隠れてよく見えないので、僕の楽器説明は消化不良気味のようだった。

 印象に残ったのはCindy Thomson、唯一の若い女性シンガーで生ギター一本での歌は澄んだ声がとても印象的だ。どうやら今売り出し中なのだろう。
それから5ステージ目のブルーグラスバンド。バンドリーダーがComedy風の喋りで観客を爆笑の渦に巻き込んでいる。
我々2人だけが英語がわからず取り残されヒアリング力のなさを痛感。
でもこの英語は早口なうえスラングや流行り言葉を多用しているようで、TOEIC800点台でないと歯が立ちそうにない。おまけに日本人は(というか東洋人は)我々だけのようだ。
演奏もドブロギター(Dobro Guitar:のちにカミさんは「どぶろくギター」と呼んでいる)やフラマン(Flat Mandolin)の速弾きで盛り上がっていた。

しかし2時間半はあっという間だった。
グランドオールオプリでも時にはCMT(CountryMusicTV)のトップ10アーティストが出演し、チケットすら容易に手に入らないという事もあるらしいが、今回はCindyThomsonがメインで、それ以外のステージはおまけのようで、観客も後半は減っていた。

Nashborough いったい今のアメリカでのカントリー音楽の注目度はどんなものなのだろう。ナッシュビルというメッカに来ているとまわりはカントリーだらけで別の州との比較が出来ないが、少ない僕の渡米経験からしてもあまり注目度はないように思えるのだが、今回のライブでも出る側も見る側も若年層は非常に少ない。
ロックやジャズを聴いた時のスリリングな思いは どカントリーからは見つけにくい。
ただカントリーと言っても広義の意味では、ブルーグラス、ウェスタン、ウェスタンスイング、どカントリー、ヒルビリー、レッドネックカントリー、カントリーロックetc(一部僕が勝手に名付けてる)と色々で、中にはMTVでの上位に食い込むこともあるようだが、今回のステージの大半を占めた どカントリーでは若者はついてこないだろう・・ と1人余韻のなかで考えてしまった。
日本ではさらに顕著で、若者にカントリーといってピンとくる人はいないだろうし、おじさんおばさんは知っていても小坂一也ぐらいで、ジミー時田を知っていればカントリー通と呼べてしまうかも?
そもそもナッシュビルの知名度はどんなものだろう?
もっとスリリングな新ジャンルのカントリーを生み出して楽しさを広めてほしいよナッシュビル!!
「グランド・オール・オプリ・ピクチャー・ヒストリー・ブック」という本を「きっとこれはここにしか売ってない」という勝手な想像と脅迫感にかられ購入したのが今回初のお買い物でした。$5なり。

翌日はオプリランド内を探索し、その後グランドオールオプリ開催場所オプリハウスの横、グランドオールオプリミュージアムへ(無料です)。
ここでは古くからグランドオールオプリで名を馳せたカントリーアーティストの衣装、楽器や車の展示を見、以降過ごすナッシュビルダウンタウンの3つ星ホテルへ移動。

3つ星といってもロケーションはベストで、州議事堂までも歩いて行けるところはホテルを選んだカミさんのなせる技か。
ところでここナッシュビル、はっきりいって暑い暑い。内陸なので湿気はなさそうだが日差しが強くて日本の5月の暑い日に似ているとも言えるが、建物の中の冷房が強いせいで日中屋内から外に出ると一瞬目まいがする。気温は華氏表示のため、何度と言われてもピンとこないが、とにかく暑いのは確か!

ここからは昼は市内探索、夜はダウンタウンでカントリーのライブハウス三昧。

ライマン公会堂(Ryman Auditorium)はグランドオールオプリの発祥地。 建物の痛みがひどく公開番組はオプリハウスへ明け渡したが、その後修復され今でもコンサートなどに使われている。
舞台の上でインスタントカメラでギターを抱えた写真を撮ってくれるというので、ここは$5奮発して撮ってもらった。でも「おいおいこれで$5かよー!」。トホホの写真にがっくり。

Bike レンタカーで北の隣、ケンタッキー州のマンモスケイブに行ってみた。
ガイドによるケイブツアーは2時間コースから半日コースまでだが、時間の関係で2時間の「フローズン・ナイヤガラ」コースへ。
ま、言ってみれば洞窟探検なのだけど相当な広さだ、途中には身体をよじらなければ通れない箇所もあり、狭い所と広い所の差が凄い。中は常に華氏55度(といってもピンと来ない)、涼しい事は確かだ。
ナイヤガラのような形をした鍾乳石を見るために300段以上ある階段を降る訳だが、情けないことに途中太ももがピクピクしてくる。あー運動不足だー!!
(持ってきたジョギングシューズ使ってあげなきゃー!)
内部の広さは300マイル、今でも調査は続けられていて実際の広さはまだわかっていない。鍾乳洞と言われているが、今回のコースは一部を除き鍾乳石はあまり多くなかった。

レンタカーは真っ赤なフォード。こんなソリッドカラーの真っ赤な車に一度乗ってみたかった。今はソリッドカラーって少なくなったけどメタリックより好きだ。 それからこちらの車はコンパクトカーでも必ずクルーズコントロール(アクセルを踏まなくても一定の速度で巡航してくれるやつ)がついている。インターステートハイウェイでの長距離移動には必須のアイテムだ。

カントリー音楽の殿堂(Country Music Hall of Fame)はもともとダウンタウンから西に1.5マイルほどのミュージックロウ(Music Row)地区(かつて音楽産業の中心地でRCAスタジオなんかもあった場所)にあったが、移動し、ダウンタウンに構える博物館。
カントリーを築き上げたアーティストたちの軌跡とカントリー音楽の歴史を詳しく知ることが出来る。
若くして命を奪われたハンク・ウィリアムスから今人気の女性カントリーグループ、デキシー・チックスまで、舞台衣装、愛用の楽器などが紹介され、かつてプレスリーの愛用した黄金のピアノも見ることが出来る。

ところで、このデキシー・チックス(Dixie Chicks)http://www.dixiechicks.com/index.html、日本では全く知られていないけど、グラミー賞まで取った女性3人グループで、メインボーカル&ギター、サイドボーカル&フィドル、そしてサイドボーカルとドブロギター(またはバンジョー)という組み合わせ。
日本ではこんな楽器をもったグループは想像もつかないだろう。

タワーレコードでこのCDを買ったら、馬鹿でかい旗のようなバナーポスターをもらい、これが日本に帰るまでずっと足手まといだった。(ただでもらったものにお金をかけて郵送するのも馬鹿らしい)
結局、狭い我が家では貼る壁もなく、まだ日の目を見ていない。
どなたか欲しい方には差上げてもいいですが・・・!

Band Tootsie's Orchid Lounge, Robert's Western World, The Station Inn、これらライブハウスでは、どこのバンドも実力派。スティールやギターのカントリー的スーパープレイが間近に見られる。どのバンドも一曲はオーソドックスなナンバーを今風アレンジでやったり、どれも目が離せなかったし、グランドオールオプリと違いライブハウスでは結構若いアーティストが頑張っている!!
観客も皆陽気で年齢は関係なくおじさんおばさんもすぐダンスを始めてしまうあたりは日本との文化の違いがはっきり出てくる。ブルーグラスバンドは比較的平均年齢が高いようだが、白髪のおじさんのひくドブロの速弾きは圧巻だった。
観客の飛び入りもOKで、騒いでいた僕にも「歌わないか?」と誘いの声、これがまた飛び入り客の歌の上手いこと上手いこと。
僕の声量ではみんな帰ってしまいます、と断った。

買って帰りたいCDや音楽ビデオは山のようにあるが、カミさんの顔色を見ながら控え目に購入。もし後悔してもインターネットで購入できると思い、適当なところで財布の紐を締めたのでした。

ナッシュビルという街、坂の多い小さな街で4、5日いればだいたい街全体は網羅できる程度の規模だ。日本人は全然とは言わないが、それらしき人を見かけたのは数人程度。途中オハイオを拠点としてちょっとした旅をしている学生さんに会った。
彼女ナッシュビルは一泊だけだが、日本人はおろか東洋人にも遭遇しない環境にすこし恐れを感じていたようだった。 僕らに声をかけホッとしていたし、若い女性一人では到底行けそうにないライブにも一緒に行けて良い思い出になっただろう。

でも日本食レストランはあって、夜行ってみるとビジネスマン風の人が結構来ているのは、レコード関係の会社か、それともテネシー州に本社を構える話題のブリジストン・ファイヤーストン社関係か? マクドナルドもダウンタウンでは見かけず、バーガーキングも閑古鳥。やはり人が少ないって事なのだろうか?
黒人系はけっこう多く仕事っぷりも好感がもてる。

そう言えば、カントリー界にはかつて黒人系のアーティストはいなかった。唯一活躍したチャーリー・プライドも最初のグランドオールオプリではカーテン越しで行い、大拍手、でもカーテンが開き黒人とわかった観客は拍手を止め、彼が演奏を始めると再び大拍手をもらった、という逸話があるくらい、所謂WASPと呼ばれる人にしか受け入れられなかった音楽だったのだ。

今回旅行中、カミさんには「あの曲は学生時代にやった、あれは弾けるよ」と何度も言ったが、帰国後いざ弾こうとすると指がもつれて動かない。
嘘じゃない事カミさんに証明する為にも、月に数回はギターを弾こうと心に決めた今日この頃。 みんなに聞かせられる日も近いので期待して待っててちょ!


***
ところで今回はこの時期にアメリカに行けて良かった。
すこし後ろにずれていたらテロ事件で帰って来られなかったのでは。
今回の事件で肉親や関係者が犠牲となってしまった方々には謹んでお悔やみ申し上げます。




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