9.なぜ どうなる 問題点は

 前項までに説明してきたことは、今回の国語審議会の素案が出るまでのいきさつを復習してきたまでである。現状では混乱は収まってはいないし、必ずしも今度の素案がその方向に建設的な提案とも思えない。
 なぜならば、略体表記に歯止めをかけるという目的がありながら、29文字に関しては略字体の表記を認めるという腰の引けた提案をしているからである。
 何度も繰り返すようだが、この半世紀にわたってやっと同意されてきた国語に対する我々の認識、すなわち<日常雑記の1945文字=常用漢字>、それを越える場合は<置き換えまたは交ぜ書き>、<人名用にのみ使える漢字166文字>、<かなづかいは発音通り>、<動植物名はかな表記>等といったコンセンサスをさらに混乱させることになるからである。

 従って、ここで新たな提案をするのであれば、このレベルに戻って、この同意を越える漢字表記は康煕字典体に戻るべきであり、新JIS体が犯した方法は完全に誤りであったことを非難すべきであり、明確にさせることにあるのだろう。
 しかるに、ワープロの普及で顕在化した紛らわしい字体や字形を、確たる根拠もなしに調べたという使用頻度から、わざわざ29文字だけは略字体の使用を認めようと言うのである。
 戦後の廃墟の中から国語を平易にしたいという熱情で立ち上がった諸先輩の討議をよく踏まえたらこんな腰の引けたご都合主義の提案などは出来ないはずである。
 ましてや今度の提案にあたり、通産省(JIS水準)を非難するのが嫌で足して2で割る方法を採ったのだとすれば、お役所仕事を通り越して仲間内の<隠蔽>ということになるのであろう。

 今回の素案はこの後2年間をかけて検討されると言う。その結果はこれからのものではあるが今度のような腰の引けた提案でなく、「新JIS体の決定は誤りであり、国語審議会の検討ルートに則った<常用漢字表=1945文字><人名漢字表=166文字>をもって一般表記の範囲内とし、これを越える表記に使う漢字形は康煕字典体による」と明記すべきなのであろう。
 なお付け加えるべきとするならば、個々の略字体は単体でのみ許された表記法であり、合成の思想は許されていないことも併記すべきなのであろう。

 勿論のことながら、常用漢字表の拡大や人名漢字表の拡大などは別途の検討項目であることは言うまでもない。そして何よりも大事なことは、「国語」を検討し提案する主管は国語審議会(文部省)であるという自意識の確立ではなかろうか。

<参考文献>
◎1998年6月25日付、読売新聞・毎日新聞・朝日新聞ほか
◎「国語国字の根本問題」
    (渡部晋太郎氏 新風書房 1995年)
◎「コンピュータに混乱させられた文字の世界・異体字調査の中で感じたこと
    (山口忠男 <私家本> 1996年)


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