8.JIS水準設定の主役は通産省
−あきれかえったお役所仕事−

 JIS水準が設定されたのはそれほど古い話ではない。コンピュータ(屋)が世間に送り出した傑作であるワープロも、当初は各メーカーが思い思いに文字パターンを搭載していたのである。それが必要に迫られて統一規格を定めたのが、この「JIS水準」なのである。
 最初にJIS水準として漢字パターンが定められたのは1978(昭和53)年であった。それを5年後の1983年に一部修正(改悪)が加えられ現在に至っている。
 前者の漢字パターンを「旧JIS体」と呼び後者のパターンを「新JIS体」と呼ぶ。今ほとんどのワープロやパソコンに搭載されているのはこの1983年版の新JIS体の方である。
 その内訳は、第1水準が2965種、第2水準が3390種の合計6355字種であるが、その中には同一字種でありながら「新字形」と「旧字形」の両方が登録されており、実質的には約6000種ほどである。(仏=佛、学=學 経=經 etc.)

 この1983年の改定時に<第一水準での字形の整合性を図る>という名目で「改悪」されたものは288種である。そしてこれらは漢和辞典のどれにも採用されていない「ニセ文字」なのである。いたずらに煩を重ねるのが本位ではないが、筆者が何度も強調するニセ文字の「ニセ」たるゆえんを理解していただくために、その両パターンの比較図を掲載する。


唖唖、飴飴、溢溢、鰯鰯、淫淫、迂迂、厩厩、噂噂、餌餌、焔焔、襖襖、鶯鶯、鴎鴎、迦迦、恢恢、拐拐、晦晦、喝喝、葛葛、鞄鞄、噛噛、翰翰、翫翫、徽徽、祇祇、

 《掲載スタイルは、旧JIS体と新JIS体とを併記して比較を容易にしたつもりだが画面によっては新JIS体のみで表記されるかも知れない。
 筆者の述べたかったことは、この両者の整合性を図るという意図が何の意味もない「整形手術の失敗作」と言いたかったのである。》


 全288種を掲載しても無意味だろう。一部のサンプルで論点を進めるが、要するに単独でその略体表記を許された文字を随所に持ち込んだ「ニセ文字」なのである。その理屈付けとしては<第一水準に属する常用漢字や人名用漢字以外の漢字で、その字形の一部に常用漢字や人名用漢字の字形と共通する部分を持つ漢字を、常用漢字や人名用漢字の字形に合わせて変更した>というのである。

 終戦直後多くの有識者が殆ど手弁当で、何とか国語を平易にしようと努力した結果としての「漢字制限と略体表記」であったのだ。その中には今まで述べてきたようないくつかの角度から噴出した非難もこらえ、ひたすらに国語を平易にという大義名分のため、微々たる改良を加えながら、半世紀を過ごし、公用文・教科書をはじめ新聞雑誌はおろか学習用漢和辞典に到るまで、やっとたどり着いた統一的ルールを一挙に覆してしまったのである。
 繰り返し言うが、<漢字表記は1945字の範囲>、それより難しい漢語は<出来るだけ別の言葉に置き換えるか交ぜ書きをする>、<人名にのみ使用可能の漢字>、<動植物名はかな書きにする>、<かなづかいは発音通り>など、功罪取り混ぜてやっとたどり着いたコンセンサスをいとも簡単に覆したのである。
 しかもその決定は文部省(常用漢字表)、法務省(人名漢字)に何の相談もなくJIS水準を管理する通産省主導の内部決定であったというのだからあきれかえったお役所仕事である。


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