1998年6月25日の新聞各紙に次のような記事が大々的に報じられたのはご記憶に新しいところだろう。
◆常用漢字以外の印刷文字 伝統字体を基本に (読売新聞)
◆漢字「簡易化」に歯止め 国語審議会が素案 (毎日新聞)
◆「なぜ どうなる 問題点は」(国語審の新しい印刷文字基準案)(毎日新聞)
「かもめ」=<旧字形の 區 に 鳥 >
「なぞ」 =<言べんに旧字形の 迷(二点しんにゆう)>
「さかき」=<木へんに旧字形の 神(示へん)>
「めん」 =<旧字形の 麥 へんに 面 >
ワープロやパソコンなどの情報機器が急速に普及し、常用漢字表(1945字)に掲げられていない表外漢字の略字体が増え混乱しているという理由で、基本的に略字体の広がりに歯止めをかける姿勢を国語審議会が打ち出した。というのである。
そしてその案は、なんと280年も前に作られた中国・清の康煕字典体(1716年刊)に基づくというのであった。
その素案を見て、なぜ「鴎」が「鴎」ではいけないのか、「麺類」が「麺類」ではいけないと言われてもすぐにはピンと来ないだろうし、戦後の国語教育の在りようからみれば反対に、なぜ? と疑問が浮かんでくる。
ましてや今までは、それが正しいと教えられ信じ込んできた「一点しんにゅう」が「二点しんにゅう」になってみたり、片仮名の「ネ」で示されていた「しめすへん」が急にかしこまって「示」になったりすると言うのである。それだけに、すぐさま<なるほど>と納得される方は少ないのに違いない。
それもその筈で、今回の混乱の遠因は、敗戦直後の「国語審議会」の発表した漢字制限と、略字体を正字にするという決定にあり、それを増幅してきたのが各新聞社の可読性を高めるというご都合であり、そしてとどめを刺したのがJIS水準であったという半世紀にわたる混乱があったからである。
この分野は筆者も長い間興味を持ち続け、いくつかの角度から論じてきたが、これを機会に再度そのあたりの経過をご報告し、諸氏のご納得を得てみたい。
全体にわたっては「活字形の一点一画」を問題とするものであり、地味なものなので出来るだけ面白おかしくをねらって表現することにした。
興味がおありでしたら、全文(9ページ)をご覧になってみて下さい。