○内暈 その2


 このページは、内暈 その1の続編です。まず前記ページをご覧になってみてください。



 太陽を中心に、半径約22度の円上に現れる内暈について、今回はさらに細かく見ていくことにしよう。

 皆さんも内暈が現れたときは、ぜひ観察してほしいのだけれど、よく見ると内暈には下のような特徴がある。 (太陽に近くて眩しいので、濃いサングラスを着用するか、街灯などで太陽を遮って見るのをお勧めします)

(1) 暈の内側から外側に向かって赤→橙→黄色…と色が並んでいるが、虹のように綺麗に色が分離していない。
(2) 暈の外側は、内側よりも白く明るい。

 なぜこのようになるのか。それを説明するために、前回に続いて理屈っぽい話になってしまうけれども、ご勘弁を。



 まず内暈の現れる原理は、上空に浮かぶ無数の氷の粒(氷晶)によるものだというのは、前回書いた通りだ。氷晶に太陽光線が当たると、最小偏向角である約22度離れた方向に、屈折された光が集中する。

 細かい話をすると、この光が屈折する角度は、光の色(=波長)によって少しづつ違う。だから最小偏向角も、光の色によって微妙に異なることになる。

 前回、最小偏向角の計算に用いた氷の屈折率=1.309というのは、波長0.5893μmのナトリウムD線と呼ばれる、黄色の光でのものだった。前述したように他の色では、少しづつ屈折率が異なる。波長の短い光ほど屈折率は大きく、波長の長い光では小さい。氷の場合、1.314〜1.305程度に変化する。

 そこで光の色ごとに異なる屈折率を用いて偏向角を計算すると、上のグラフのような結果になる。最小偏向角(グラフで偏向角が極小となる部分)が、光の色ごとに微妙に異なることがお分かりいただけると思う。赤い光は最小偏向角が小さいので暈の内側に、紫の光は最小偏向角が大きいから暈の外側に位置する。これが、内暈が色付いて見える原因だ。

 ここでひとつ、注目すべき点がある。上のグラフで偏向角の最も小さい 21.5度付近に見られるのは、ここに最小偏向角をもつ赤の光のみ。それに対して偏向角22度付近では、このあたりに最小偏向角をもつ紫や青の他に、赤や黄色など、それ以外の光も弱いながらも混じってくる。
 どうなるかというと、内暈の内側近くにある赤い光はハッキリ見えるけれども、外側にいくほど様々な色の光が重なり合うから全体的に白っぽくなり、綺麗な色の分離は期待できなくなる。



 この様子を模式的に表現したのが右図だ。それぞれの色の一番下が最小偏向角にあたる部分で、ここが最も光が強く、上に行くにつれて弱くなる。

 図の右側にあるのが、これらの色を重ねたもの。
 いちばん下の赤い光は、他に重なる色がないのでハッキリ見える。しかし上にゆくにつれていろんな色が混じり、白っぽくなってしまう様子がお分かりいただけると思う。

 ちなみに虹が色付いて見えるのも、この内暈と同じく、色によって最小偏向角が違うことによる。しかし虹は内暈と違ってハッキリ色が分離している。
 その理由は、虹の場合は内暈に比べてそれぞれの色の間隔が広く、しかも最小偏向角での集中度が大きいから。内暈のように、それぞれの色が狭い範囲で重なっていないから、色が綺麗に分離して見えるというわけだ。






 さて、冒頭の(1)や(2)の特徴があるのには、実はさらに別の理由がある。それは、氷晶に当たる光の方向に関係がある。

 左図のように、光が氷晶に対して斜め上(または斜め下)から入射した場合、最小偏向角は約22度とはならないのだ。
 この場合、氷晶のプリズムの断面は正三角形とはならず、頂角は60度よりも大きくなる。
 図にあるように、氷晶の底面に対して角度kの高さで光が入射したとき、氷晶のプリズムの断面が作る三角形の頂角をxとする。角度kが大きくなるほど、頂角xも大きくなる
 この条件で入射角θ1と偏向角θ5の関係を計算してみると、下のグラフのような結果になる。
 注:この計算結果は私の解釈によるものであり、個々の値は正確ではない可能性があります。お気づきの点があれば、ぜひメールでご指摘ください。

 ここで注目すべきことは、角度kが大きくなる、つまり より斜めに光が当たった場合、最小偏向角は約22度よりもずっと大きくなるということ。氷晶は様々な向きで空中に浮遊しているから、この図のように斜めに光が当たっている氷晶もたくさんあるはずだ。

 これがどんな結果をもたらすかというと、約22度よりも大きい角度(=内暈の外側)では、さらにいろいろな色が入り混じって、全体的に白っぽく明るく見えることになる。一方、約22度よりも小さい角度(=内暈の内側)には光は屈折してこないので、明るくはならない。

 以上の二つの理由により、冒頭に挙げた内暈の特徴が説明できるというわけだ。

 内暈は、薄い高層の雲が空を覆ったときに、よく見られる。しかし、この壮大な輪が頭上にあるのに気付く人は、意外と少ないように思う。
 興味のないものは、なかなか気付きにくい。しかし、あらかじめ予想して細かく観察すると、今まで見えてなかったものが見えてくる。





○撮影データ(ページ上の写真より)
・1枚目  日時:2006年4月22日   場所:東京都三鷹市
 カメラ:ペンタックス MZ-5  レンズ:ペンタックス SMC F Fish-eye Zoom 17-28mm F3.5-4.5
 フィルム:ベルビア50  その他:シャッター速度優先 1/250秒
 仙川に架かる橋の上からみた内暈。大きな光の輪を、対角線画角180度の魚眼レンズを使ってコンパクトに写し込みました。暈の外側のほうがより明るい(白い)ことがお分かりになるかと思います。

・2枚目  日時:2006年3月18日   場所:東京都江東区
 カメラ:ペンタックス *istD  レンズ:ペンタックス SMC FA28-70mm F4AL (撮影時33mm)
 その他:1/4000 F13 ISO200相当 RAW撮影、JPEG変換・彩度強調
 内暈は色づいて見えますが、外側にゆくほど色の分離はハッキリしなくなります。その様子を見るために、画像を拡大してみました。



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