空撮テク(12) 横からの撮影




 空の写真集にある山沿いのソアリングや、クルージングでは、伸縮する棒をハーネスに取り付け、その先につけたカメラで撮影しています。飛行中のパイロットを、「横撮り」することのできるアングルです。
 今回はこの手法について紹介します。



器具全体図  長く伸ばした棒の先にカメラを取付け、飛行中の自分を撮影する方法は比較的簡単に面白いアングルで空撮できる利点があります。
 この空撮のポイントは、カメラを支える棒をいかに固定するかという事と、テイクオフやランディングの支障にならないように、その棒を撮影時以外は縮めておけるようにしておくことにあります。

 左が、私が使っている「横撮り」用の空撮器具です。
 本体ベース部は段ボール製で、それに市販の一脚を固定してあります。SLIK社のこの一脚は三段伸長するアルミ製で、全部伸ばすとベース部から1.1mほどになります。
 一脚は本来、地面に対し垂直に立ててカメラブレ防止のために使いますが、この空撮では地面と平行方向に伸ばしてカメラを支えるために使います。

 購入した状態では、カメラを載せる雲台は何段階かに伸縮するパイプの太い方に付いています。もしそのまま使った場合、最も力のかかる根元部分(ハーネスに固定する側)が細くなってしまうので剛性的に不利ですし、見た目のバランスも悪いです。そこで太い側に最初から付いている雲台は取り外し、細い側に雲台を取り付けなおす必要があります。

 下の画像左側が雲台取付部のアップです。一脚に付属していた雲台は使わずに、別の小型三脚についていたものを改造して使用しています。何を元に改造するかで変わってきますが私の場合、まず雲台を長さ10cm弱の金属平板(アングル材)にボルト止めし、そのアングル材を一脚の細い側の先端に、タイラップで固定しています。丸い一脚のパイプに平らなアングル材を縛り付けるわけですから、滑らないようにアクリル系粘着材を使用した強力両面テープを緩衝材として挟んであります。

 下画像右側がハーネス側の固定部分です。水道管を固定する時などに使うU字金具を利用しています。ベース部は段ボール製なので、そのままではボルト止めしても強度が得られません。そこで丈夫な厚紙(キングファイルなどのバインダーの廃品利用)を両面に貼り付けサンドイッチ構造とし、キリでネジ穴を開けた後さらに瞬間接着剤を染込ませてカチカチの樹脂状にします。こうすることにより、ボルトを締め込んでも紙が潰れるだけでちっとも固定できない、という状態を避けています。

 なお、いろいろな方向に一脚を伸ばせるように、このベース部にはいくつかネジ穴が開けてあります。各所に増設された厚紙から、その過程がお分かりいただけるかと思います。

拡大図

 忘れてはならない大事なことは、上の画像のように落下防止用のヒモを付けておくことです。
 一脚は立てて使うのが本来の使い方で、このように横に伸ばしてカメラを支えるようには作られていません。そのため使用中に破損する可能性も無いとはいえません。
 特に私の選んだ一脚は細くてコンパクトな反面、伸長するとカメラの重さでかなり”しなり”、従って強度面でけっこう不安がありました。そこで万一これがポッキリ折れてもいいように落下防止用のヒモを用意し、雲台側はナス環でカメラに、ハーネス側はベース部にしっかり結んでおくことにしました。一脚の強度にかかわらず、落下防止対策は必ず施しておくことを強くお勧めします。

 この落下防止用ヒモは一脚各段のストッパーにガムテープ止めしますが、伸長するときの支障にならないように、各段を伸ばした状態でピンと張るように長さを決めておきます。
 このときのポイントは、一脚の各段は必ずしも最大限に伸ばす必要はない(過剰に長くすると強度が落ちる)ことと、ヒモが写るのを防止するためにカメラから見て裏側(一脚の下側)を通るようにすることです。



 さて、次はハーネスへどうやって固定するかです。
 こればかりは使用するハーネスによって全く違ってきますので、以下はあくまでひとつの例と考えてください。

 一般的に最も固定に最適と思われるのが、大抵のハーネスにある、お尻の下にある底板を利用してこれに一脚を固定するとか、同じ大きさの底板を作ってお尻の下に重ねて置いてしまう方法です。
 しかしエアバッグ一体型の私のハーネスは両サイドがかなり上まで立ち上っており、さらにネオプレンで覆われているため、ハーネス本体に穴を開けるなどの荒ワザを使わない限り、底板方式を使うことができませんでした。

 幸いなことに、ハーネス下部のエアバッグ部にはプロテクターの取外しができるよう、チャックが設けられていました。そこでこの底板とプロテクターの間にピッタリ収まる大きさのベース部を作り、下の写真のようにこの空撮器具を差し込んだ状態でチャックを閉めてしまう方法を採用しました。外に突出した一脚とチャックの間に僅かな隙間ができますが、この程度であればエアバッグの機能には支障は生じないはずです。

ハーネスへの固定


一脚伸長
 左がカメラを付け、一脚をめいいっぱい伸ばした状態です。この写真では自作無線リモコンを使用してシャッターを切ることにしていますが、もちろん有線レリーズコードを使ってもOKです。
 その場合レリーズコードは、落下防止用のヒモと同じように一脚の各段ストッパー部にガムテープ止めしながらハーネスまで伸ばします。これもカメラとは反対側を伸ばすようにして、なるべく写真に写らないようにします。

 ハーネスまで届いたレリーズコードは、目立たないように手元まで持ってきます。例えばフライトスーツ着用時は股間のチャックからコードを入れ、袖口までフライトスーツ内を通すと良いと思います。

 有線レリーズコードを使った場合、簡単確実にシャッターを切れるのはいいのですが、セッティングに少々時間が掛かるのと、ランディングしてもこのコードを抜かない限りハーネスを外せず、面倒なのが欠点といえば欠点です。


 一脚を出す方向については左右どちらでもOKですし、斜め前方や斜め後方にしてみるのも面白いです。ただし、ハーネスの構造を見ながら、エマージェンシーパラシュートの操作等に支障のない範囲を選ぶと同時に、後述する留意事項も考慮されてください。

 ちなみにハーネス左側に一脚を出した場合は、写真には左が進行方向として写ります。ハーネス右側に出した場合はその逆です。
 細かいことですが、日本人が字や絵を見るとき、左から右に視線を動かすことが多いだろうことを考えると、右を進行方向とした方が構図的に安定するような気もします。でも一方で、左を進行方向としながらもスピード感や迫力を感じる列車・飛行機・車などの写真や絵も沢山ありますから、どちらがいいとは言えないようです。私もいちおう研究課題としているのですが、結論が出る見込みはありません。それよりも、何をどう写すかが大切だからです。


 では最後に、実際の空撮に関して留意する点をいくつか挙げてみます。

使用レンズについて
画角の広さ・軽量さから、魚眼レンズがお勧めです。魚眼でない超広角レンズではどうしても画角が不足してしまうので、より長く伸ばせる一脚を使用しなければなりません。また、特に一眼レフ用の超広角レンズは重いものが多いため、軽さが要求される今回の空撮にはあまり向いていないと思います。

カメラはあらかじめ雲台にセットしておく
空中での操作は一脚の伸縮だけにしておき、カメラアングルや電源ON、絞りやシャッター速度、ピント位置の設定などは地上で済ませておきます。意外と難しいのがカメラアングルで、なるべく一脚が写り込まないように、かつフライト時にカメラが水平になるように(これ大事)、シミュレーターにぶら下がりながら雲台でアングルを調整します。ピントはパンフォーカスとなるようにMFで設定しておくと良いでしょう。

離陸後に伸長し、着陸前に収納する
伸ばしたままテイクオフするのは危険だし、機材も壊れてしまう可能性大です。そこでテイクオフして高度を稼ぎ、安全を確認してから片手で一脚を伸ばします。カメラの重みで一脚がしなって動きが渋くなるため、けっこう力が要るはずです。あらかじめ地上でシミュレータにぶら下り、練習しておくと良いと思います。また着陸時は高度に十分余裕をもって収納しましょう。

操縦特性の変化
一脚を縮めた状態では特に違和感ありませんが、伸長するとカメラ部分の重量モーメントが大きくなりますので、多少そちらに傾くような違和感を感じるかもしれません。操縦に支障を生ずるほどではないと思いますが、気になる場合は反対側に重量物(ツリーランセットなど)を集めるといいと思います。私の場合、ハーネス右サイドにエマージェンシーパラシュートの収納部がありそちら側が重いため、一脚は原則として左側に出すことにしました。
 (2004.5)




もどる