空撮テク(8) 機体へのカメラ装着




 今回はパラグライダーの機体(キャノピー)にカメラを装着する方法について紹介しましょう。
 これはランディングを見下ろしてや、有りそうで無いサーマルで用いた手法です。まずはこの写真をご覧になってみて下さい。



 パラグライダーでの飛行中、頭上に広がるキャノピーにカメラを装着すれば、このように自分を中心にして地上の景色を写し込むことができます。自分を上から写すなんて普通しませんから、それだけでも面白い写真になりそうです。
 ただしキャノピーは布で出来ていますから、カメラをネジか何かで固定することはできませんし、あまり重いものを装着することもできません。そこでカメラの取り付けにあたり、いろいろ検討しなければなりません。
 まず、この方法で留意しなければならない点は、ざっと以下のようなものがあります。

ライズアップにあまり支障がないこと
カメラ部が重過ぎると機体が立ち上がらなかったり、装着した部分が折れたまま立ち上がってきたりして危険です。

簡単かつ確実に装着できること
テイクオフで行なうカメラ機材のセッティングは、最小限の労力と時間で済ませたいものです。また、飛行中に万一にもカメラが落下することは、絶対に避けなければなりません。

パラグライダーの飛行に与える影響が無いこと
布で出来ているキャノピーの下面に物を装着するわけですから、その重量によって翼の断面形状が多少なりとも変化します。あまり重いと翼形状の変化が大きくなり思わぬ飛行特性の変化を招く恐れがあります。

着陸後のことも考える
ランディング後にキャノピーを落とす際、カメラが地面にぶつかって壊れちゃったら悲しいです。


 これらをもとに、まず使用するカメラを選択します。
 使用するのはもちろん、軽量コンパクトなカメラです。となるといわゆる「コンパクトカメラ」が適任です。
 少しでも画質やレンズ選択の自由度にこだわりたい私としては、やっぱり一眼レフを付けたいとは思います。実際、小型軽量の一眼レフと軽いレンズを使えば、キャノピーに装着してもそれほどの影響は出ないかもしれません。しかし今回は安全性を優先し、一眼レフは諦めることにします。

 さて、ではどんなコンパクトカメラを選べばいいかというと答えはひとつ、「リモコン付き」であることです。キャノピーに装着したカメラに手は届きませんからね。
 コンパクトカメラのリモコンは私の知る限り、100パーセントが赤外線リモコンです。説明書に最長到達距離が書かれていると思いますので、パイロットからキャノピーまでの距離(7〜8m程度)で届くかチェックします。
 でも例えば説明書では5m程度しか届かないと書かれてあっても、実際はキャノピーまでの距離くらいならOKである場合が多いと思いますので、足りないからといって使えないわけではありません。まずは実際に届くかどうか、屋外でチェックしてみることをお勧めします。

 ちなみに私の持っているコンパクトカメラは、キャノンの「オートボーイ ルナ」というズームレンズ付きのカメラです。付属の赤外線リモコンを使うと、ボタンを押してから約2秒後にシャッターが切れます。すぐシャッターが切れないというのはシャッターチャンス的には不利な面もありますが、利点もあります。それは、パイロットが自然なポーズで写るということです。
 と言うのも赤外線リモコンは発光部をカメラに向ける必要がありますから、押すとすぐシャッターが切れてしまうカメラの場合、カメラに向かってリモコンを持った手を挙げている不自然なパイロットの姿が写ってしまいます。しかしシャッターが切れるまで時間があれば、その間にポーズをつけることが可能、というわけです。


器具の構造図  では次に、カメラをキャノピーに取り付けるための器具の製作についてです。
 この空撮用器具は、カメラをしっかりとキャノピーに固定し、地面との衝突からカメラを保護するという重要な役割があります。かつ、小型軽量に作らなくてはなりません。
 この器具の素材に選んだのは段ボールです。丈夫で軽量、かつ加工性に優れており、おまけに安価(ていうかタダで手に入りますね)と、文句のつけどころがありません。

 さて、肝心の器具の構造について、私の製作したものの構造図を左に示します。
 構造的には大きく分けて、カメラを載せるベース部と、カメラを守るためのガードから成り立っています。
 ベースとなる段ボールの端を折るのは、曲げの力に対する剛性を高めるためでもあります。それほど頑丈で分厚い段ボールを使わなくても、平らに四角に切っただけのものに比べ格段に丈夫になります。ランディング後キャノピーを落とす際に誤ってカメラを地面にぶつけた時の、カメラのガード性能の向上が期待できます。

 もちろんそれだけでは不足なので、もっと積極的な対策として図にあるように半円状にカーブさせたガード(これも段ボールです)をふたつ取り付けます。カメラよりも出っ張っているこのガードにより、特にカメラのレンズ部が直接地面に当たるのを防ぐというわけです。おまけに段ボール製ですから適度な柔軟性があり、そこそこの衝撃吸収もしてくれるはずです。
 ガードの取り付けにあたっては、カメラを保護するような高さと場所を選ぶと共に、写真の画面内に写り込まないよう、レンズの画角を確認することが必要です。

 両面テープや接着剤等を用いてガードを付けたら、さらにガムテープで補強しておきましょう。



器具完成写真  この器具の製作にあたり、ポイントが三つあります。

 第一に、この器具の横の長さを、自分の乗っているキャノピーのセル巾(厳密に言えば、ラインの取り付け巾です。)と合わせることです。 というのも器具の横から出ているヒモを、キャノピーのライン取り付け部に通して一緒に結んで装着するという方法を採るからです。

 第二に、フィルム残量や撮影モードが表示される液晶表示板がカメラの裏蓋にある場合は、これを覗くための穴をベース部に開けることです。ついでにファインダーも覗くための穴も開けておくと良いでしょう。段ボールのガードが画面内に写り込まないかが確認できますので。

 第三に、できるだけ小型に作ることです。素材が段ボールなので重量的にはあまり問題ありませんが、不必要に大きく作ると空気抵抗もバカにならないし、だいいちカッコ悪いです。器具の横の長さはキャノピーのライン取付け巾に依存するので自由にできませんが、奥行きはカメラが収まるギリギリに設定し、ガードも必要以上に大きく作らないのがコツです。

 器具が出来上がったら、これにカメラを取り付けます。やり方は簡単、フィルムを入れたカメラを載せてベース部にガムテープでぐるぐる巻きにするだけです。へたな方法よりこの方が確実にカメラを固定できます。
 取り付け時のカメラの角度調整は、カメラと段ボール製ベースの間に小さく切った段ボールや、ティッシュ等の詰め物をして調整します。実際の撮影結果を見ながら、そこに写っているパイロットが自分の望む位置になるように調整していって下さい。



 次に、撮影にあたってのポイントをいくつか挙げてみましょう。

カメラはキャノピーの中央部に取り付けること
あまり翼端に装着すると乱気流などによりキャノピーが潰れた際、回復不能になり大変危険です。基本はやはりキャノピーの中央です。
 またコード(翼弦)方向の位置としては、4本ライザーの場合はBまたはCラインの付け根あたりが良いと思います。 なぜならあまりトレーリングエッジ側に取り付けると、カメラの重さによりブレークコードが引かれたみたいになってしまい、飛行に悪影響を及ぼすのが予想されるからです。また、リーディングエッジ側は前縁潰れを食らった時の挙動が不安です。だからなるべく揚力中心付近が望ましいというわけです。
 私の乗っている機体はキャノピーからライン接続用のループが出ているので、その輪の中に器具両端のヒモを通し、しっかりと結んでやります。(ラインが直接縫い込まれているキャノピーの場合は、工夫が必要かもしれません)
 さらに飛行中の風によるバタツキを防止するために、ガムテープを上から貼り付けると万全です。 なお、ガムテープを剥がす時にキャノピー生地のコーティングが痛むのを防止するため、服へガムテープを貼ったり剥がしたりして予め粘着力を落としておくといいと思います。

器具装着状態
ライズアップは慎重に
軽量とはいえ余計なものをキャノピーに付けているわけですから、風を選び、キャノピーにしっかり風をはらませて一気にライズアップします。キャノピー中央を持っててもらうサポートをお願いしておくといいと思います。

テイクオフ前に、カメラがリモコンモードになっているのを確認する
これはカメラの種類にもよりますが、私の使っているコンパクトカメラではリモコン受信モードにした場合、何も入力がないと4,5分でリモコン受信モードが解除されてしまいます。従ってこのタイプのカメラの場合、テイクオフ寸前にリモコン受信モードにし、すぐにテイクオフする必要があります。サポートの友人にこの操作をやってもらうと安心です。(さらに飛行中にもリモコンモードが解除されないよう、あまり間隔を空けずに撮影を行なう必要があるのが、チョット面倒です。)

レンズの焦点距離は28〜35mm程度
ズームレンズ付きカメラの場合、まずはこの程度の焦点距離に合わせておきましょう。あまりズーム側にしておくと、パイロットが写真に写る範囲から外れてしまいます。まずは広角側から始めて、結果を見ながら焦点距離を調整していくことをお勧めします。

リモコンの落下防止
飛行中に手に持った送信側リモコンを誤って落としてしまうのを防止するために、ヒモを取り付け、もう一方の端を手首に巻くなどして落下防止策を施しておくべきです。

キャノピーは縦にして落とす
ランディングしてキャノピーを地面に落とすとき、なるべくキャノピーは縦に、かつキャノピー下面が上を向くように落としてカメラへの衝撃が最小限になるよう操作しましょう。 ただし風の弱い時はそのまま真っ直ぐ落とした方が良い場合もあります。このへんの操作は、空撮をしようと思っている位のパイロットなら釈迦に説法かと思いますが...


 ...こんなところです。
 トップアウトしてテイクオフの直上を通りながら撮影するとか、ウイングオーバーしてみるとか、サーマルトップで他の機体を下にした状態で撮影するなど いろいろな状況で撮影すると面白い写真が撮れるかと思いますが、空撮の準備万端整えた時に限ってブッ飛んでしまうのは結構アリガチです。(笑)
 いずれにしても、くれぐれも安全に注意して楽しんで下さい。
 (2001.1)





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