独り言3(パイロットのカメラ選び)



 ここではパラグライダー・パイロットの皆さんが、趣味として「写真を撮りたい」と思った時に、どんなカメラが必要なのかについて話をしたいと思います。参考になるかどうかは分かりませんが、まあ一つの意見として読んでいただければと思います。

 ひとくちにカメラと言ってもその種類はたくさんありますが、大別して普通のフィルムを使うカメラと、デジタルカメラに分けられると思います。
 そこでここでは、その中でも普通のフィルムを使うカメラ、それも最も普及している35mmフィルムを使用するカメラを対象にしたいと思います。
 でも35mmフィルムを使うカメラといっても、その種類はこれまた沢山ありますが、大まかに分けると...

  1. 使い捨てカメラ
  2. コンパクトカメラ
  3. 一眼レフ
 の3種類になると思います。

 そこでこれら3種類について、パラグライダーのパイロットが作品として写真を撮り、それを鑑賞して楽しむといったことを目的とした場合、どういう点に考慮してカメラ選びをしたらいいか、個人的な選択基準を挙げてみたいと思います。




1. 使い捨てカメラ

使い捨てカメラ  これは別名「レンズ付きフィルム」とも言いますね。撮り終わったらカメラのまま現像に出してしまい、後は中身のフィルムとプリントした写真だけが戻ってくるという文字通りの使い捨てのカメラです。

 長所はなんといっても安いこと。1000円もあれば大概のものは買えてしまいます。
 安いということは、壊れても精神的・経済的なダメージが少ないことになります。高価な他のカメラでは躊躇してしまうような過酷な条件や場所でも、このカメラなら心配要りません。(そんな過酷な飛びかたをするかは別として、ですが…)
 それに軽くて小さいですから、いつでもどこでも携帯しておく気分になれます。ということは、それだけ良いシャッターチャンスに恵まれる確率も高くなるというわけです。

 モーターや電池等の要らない手動フィルム巻き上げですし、焦点距離やピントも固定です。加えてシャッター速度や絞りまで固定。これ以上ないほどのシンプルさも長所と言えるでしょう。それだけ故障しにくい、とも言えるわけですし。
 肝心の写りだって、値段を考えれば充分いいと思います。これを使って空撮をする時は、ガムテープ等でカメラにヒモを取り付け、落下防止用として役立てると良いでしょう。いくら安いからとはいえ、空中から物を落としたりすることは絶対避けなければなりませんから。

 ただし本格的に「写真を撮る」ことを目的とするならば、使用機材がこのカメラだけというのは少し寂しい気がします。写りがいいと言っても、レンズだけで何万、何10万円もする一眼レフカメラにかなうはずがありません。
 また、いずれにしてもこのカメラはフィルム交換が出来ないんですから、自分の使いたいフィルムを選ぶことはできません。
 低感度ネガフィルムやリバーサルフィルムを使いたい人にとっても、使い捨てカメラの使用は諦めるしかないわけです。(まあ、そういうフィルムを使うような人が使い捨てカメラを常用するとは思えませんが...)

 さらに付け加えると、シャッター速度や絞りは固定(シャッター速度はおよそ1/100秒、絞りF11程度)ですから、「ココはスローシャッターで流し撮りしたい」とか、「絞りを開放してボケ味を出したい」なんて芸当は絶対できませんし、いくらネガフィルムのラチチュードが広いとはいえ、例えば暗い夕方の撮影などは厳しいものがあります。

 おまけに被写界深度の深さに頼ったピント固定方式(つまり常時パンフォーカス撮影になっているわけです)ですから、ボケボケの写真になることがない代わりに、特に至近距離や無限遠での撮影ではいまひとつシャープに撮れません。


 これ以上は撮影者それぞれの判断だし、あくまで趣味で写真を撮るわけですから、自分が満足できればそれでいいと思うので決め付けるわけではありません。しかし、より美しい写真を撮りたいと思った場合このカメラでは限界があります。
 まずは撮ってみて、その結果に満足できないようなら、コンパクトカメラなり、一眼レフなりへとグレードアップしていけばいいと思います。要は、自分が写真に対してどういうスタンスで取り組んでいるのか(より美しい写真を撮りたいのか? また画質よりも小型軽量・安価というメリットを活かした撮影方法をとりたいのか? など)によって変わってくるわけです。




2. コンパクトカメラ

コンパクトカメラ  これには いろんな機種があり、中には一眼レフを上回るような性能を持つ高級機もあります。
 しかしもっとも一般的なのが、フラッシュが内蔵され、ズーム機能の付いた普及型のタイプではないでしょうか。このタイプのカメラなら、ほとんどの方が既に持ってるかも知れません。

 ではパラグライダーで使う場合の普及型コンパクトカメラ選びについて、思い付くまま書いてみます。

・フィルム自動巻き上げであること
別に手動でも構わないのですが、特に空撮する場合においては余分な操作はなるべく自動であることが望ましいと思います。まあ、いまどき手動巻き上げのコンパクトカメラを探す方が難しいと思いますが...

・オートフォーカスであること
使い捨てカメラのように、ピント固定のタイプもあります。価格が安いのが利点ですが、どうせ買うなら自動でピントを合わせてくれるタイプの方が画像もシャープで良いと思います。

・(場合によっては)ズームレンズであること
普及型コンパクトカメラの欠点が、「レンズ交換できない」ということ。それであれば、あらかじめできるだけ広い焦点距離をカバーできるズームの方が良いのではないかという単純な理由です。なおかつ広角側の焦点距離がなるべく短いもの(28mm程度)が使いやすいと思います。

 ただし明確な撮影目的があって、その撮影にあたって単焦点レンズでも構わない場合は、この限りではありません。実際、10万円以上する高級コンパクトカメラは、そのほとんどが単焦点レンズを使っています。これはズームの利便性よりも画質やレンズの明るさを優先しているからです。
 ですからこの「スームレンズであること」という条件は、カメラ選びの基準から外しても構わないとも思います。

・レンズの性能がいいもの
ちょっと無理矢理な基準ですが…。性能と言っても、どういう性能がどのくらいならいいのかというと一概には言えないし、実は私にもよく分かりません。全体的に、値段が高い物ほど性能が良いのは当然ですが、それが自分にとって必要なものなのか、また我々が使うサービス判程度のプリントで値段に見合うだけの差を見つけることができるのかといった話もあります。

 まあ目で見てすぐわかる性能と言ったら周辺光量不足があまり目立たないことくらいかなと思います。これは出来上がった写真を見た時に、画面の明るさが四隅の周辺部で暗くなる現象のことで、一般に広角なレンズであるほど、また絞り開放に近づくほど目立ってくるようです。(特に曇天や夕方などの光量が少ない時に出やすいように感じます。)

 とは言っても、実際に店頭でこういうレンズの性能を見極めるなんてのは普通できないと思いますので、目安としては雑誌の比較記事を参考にするとか、店員さんに聞いてみるとか、カタログを見るなどして判断するしかないと思います。そして常識的な価格帯の中から、使わないような多機能を謳っている物よりも、光学性能を売り物のひとつにしているようなカメラを選ぶと良いかと思います。(どの機種もそうかな?)

・リモコン付きのもの
カメラを手に持って撮影するとは限りません。機体のどこかにカメラを固定したりして撮影したりする場合が今後あるかも知れませんので、リモコンは付いていた方がいいと思います。さらに欲を言えば、リモコンの使用可能距離が長い程いいです。しかし赤外線リモコンを使用している現在のコンパクトカメラでは、どれも似たようなものだとは思いますが...
 また機種によっては、リモコン受信の待機時間に制限があり、しばらくするとリモコン受信モードから通常の撮影モードに戻ってしまうものもあります。できればこういう制限もない方がいいですね。

・なるべくコンパクトで軽く、丈夫であること
やっぱり野外で使うものですし、何かにぶつけたりする可能性もあります。それに山で夕立に遭ったり、田んぼに沈した時などのことを考えると(考え過ぎか?)、生活防水くらいはしてあった方が理想なのかもしれません。でも、なかなかそういう要求を満たすカメラはないですね。まあこれはカメラの取り扱いに気を付ければ、それほど気にしなくてもいいようなポイントだとは思います。

 ...と、こんな所だと思うのですが、国産主要メーカー(オリンパス,キャノン,ペンタックス,コニカなど)から、ほとんどの条件を満たしているコンパクトカメラは出ているようです。あとは好みの問題かもしれません。




3. 一眼レフ

一眼レフ  一眼レフの大きな利点は、レンズを通してフィルムに写し込まれる画像そのものが、ファインダーで確認できることです。
 他の種類のカメラ、例えばコンパクトカメラは撮影用のレンズとは別にファインダー光学系を持っているので、厳密に言えば実際にフィルムに写し込まれる画像と違うものを撮影者は見ていることになります。レンズの焦点距離を変えればファインダー光学系もそれに合せて変化させる必要があるし、特に近距離の撮影においては実際に写る範囲との誤差が生じやすくなります。

 しかし一眼レフは撮影用のレンズを通った光をミラーとプリズムによってファインダーに導いているので、レンズを交換したとしてもファインダー光学系をいじる必要はありません。 このため一眼レフカメラには対角線画角180°を超える魚眼レンズや接写を行なうマクロレンズ、そして超望遠レンズまで多くの交換レンズが用意されており、レンズを取替えるだけでコンパクトカメラでは絶対に撮れない、いろいろな撮影が可能になります。
 この「レンズが交換できること」、そして「様々な種類のレンズを選ぶことができる」というのも、一眼レフの利点のひとつです。

 それと一眼レフカメラはその大部分の機種で、シャッター速度や絞りを自分の意志で任意に変えることができるようになってます。わざとシャッター速度を遅くして流し撮りしたり、絞り開放して背景をボカしたり...自由自在です。
 他にも2重露光や超スローシャッター、フィルタによる特殊効果など、使える手法はキリがありません。もちろん使いこなせるかどうかは別の問題ですが、できないよりはできた方がいいですね。

 しかし欠点もあります。それは、重くてデカくて高価で壊れやすいことです。
 地上から撮影するぶんには重くてもデカくても大した問題はないのですが、飛びながら撮る場合は考慮しなくてはなりません。そこで、私なりの一眼レフの選びかたです...

・軽量コンパクトなもの
まず一番重要なのがこれだと思います。コンパクトとは言っても、一眼レフである以上 限界はありますけどね。だけどこういった軽量コンパクトな一眼レフは安価であることがほとんどなのが、嬉しい点です。(逆に高価な高級機は、大抵でかくて重いのです。)

 空中では両手でしっかりカメラを構えて撮影するなんていうことは難しいため、どうしても片手持ちでの撮影が多くなります。そんな時に重いカメラは構えられません。また撮影時以外でも、かさ張るカメラは邪魔です。万一壊してしまった時のダメージを考えても、やっぱり軽くて安いカメラが合っていると思います。腕力のある人は別として、数字で言えばカメラボディだけで500g以下でしょうか。
 あと欲を言えば後々の耐久性を考えて、レンズマウント部分(カメラボディにある、レンズとの接続部)ぐらいは金属製のやつが望ましいと思います。

・自動巻き上げ,オートフォーカスであること
これはちょっと個人的な好みなのですが、オートフォーカス(AF)カメラが普及し、大きさ・価格ともマニュアルカメラ(MF)に対してのハンデが無くなった現在の状況を考えると、やっぱり一般的に使いやすいAFカメラがいいかなあと思ってます。AFカメラでも、MF機みたいに手動でのピント合わせは出来るし、その他の設定もだいたいがマニュアル操作できます。

 ただAFカメラは電子機器ですので、電池がなくては撮影できません。その点、機構がシンプルなMFカメラは機種によっては電池が切れても撮影可能な物もあります。
 例えば冬の空など、極寒の世界では電池電圧が低下することが考えられますが、そういう過酷な条件でも撮影可能なのがMFカメラの利点であり、こういった信頼性の高さから、プロの中にはMFカメラを愛用している方々もおられるようです。 それに空撮での被写体は遠距離であることが多いため、あらかじめピントを無限遠に合わせおけば良く、敢えてAFである必要はないのかも知れません。

 まあ、空撮オンリーの使い道ではなく他の撮影もするし、氷点下なんていう極寒の条件では飛ばないというのであれば、AFでも全く問題はないと思います。逆に、既にMFカメラを持っている方は、わざわざAFカメラを入手しなくても平気だと思います。
 ただしMFカメラはフィルムの巻き上げが手動であることがほとんどですから、手持ち以外の撮影をするのであれば、ワインダーが必要になります。

・使用したいレンズがあること
つまり、自分の使いたいレンズが用意されているメーカー製のカメラを選ぶ、ということです。これ、実はとっても重要なことで、カメラボディを決めてからレンズを選ぶのではなく、レンズを選んでから購入するカメラボディ(のメーカー)を決めることをお勧めします。レンズあっての一眼レフなんですから...
 普及価格帯の国産AF一眼レフのメーカーとして代表的なのは、ニコン,キャノン,ミノルタ,ペンタックスの4社です。それぞれのメーカーでレンズマウントが違うので、レンズの互換性はありません。

 だから例えば魚眼ズームレンズを使いたいのであれば、現在のところ当該のレンズはペンタックスからしか発売されてませんので、他メーカー製のカメラを買っても使えないことになります。また手ブレ防止機能のあるレンズはキャノンのカメラしか使えません。

 こんな例がありますので、自分がどういう写真を撮りたいのかという目的をはっきりさせ、それに合うレンズとセットで購入機種を検討されると良いと思います。とはいえ、シグマ・タムロン・トキナーといったレンズメーカーの製品まで含めれば、だいたいどこのメーカーのカメラを選んでも大丈夫だとは思いますが。

・その他
あとはオートブラケティングと言って、自動的に露出補正を変えて複数枚撮影してくれる機能が付いていると、リバーサルフィルム使用時に便利です。リモコンも付いてないより標準で付いている方がいいですね。


 ....と、こんなところでしょうか。
 後は自分の懐具合と相談して、無理せず揃えてゆけばいいと思います。カメラを買ったために飛びに行けなくなったら何の意味もありませんから。
 予算ですが、コンパクトカメラで2〜3万円程度、一眼レフでレンズ1本込み5〜12万円程度と言ったところでしょうか。

 個人的なオススメ機種は、やはり一眼レフです。コンパクトカメラではほとんどの操作が自動的に設定されてしまうため、撮影者ができるのはシャッターを押すことぐらい。もちろん、どういうレンズを使って、被写体をどういうタイミング、フレーミングで写すとかいった重要なポイントはありますが、とりあえず今回はカメラの話に的を絞りたいと思ってますので、別の機会にしたいと思います。(と、逃げる...)
 (1999.1)





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