そしていくら掛かるのか



 ハンググライダー道具解説で、一通りハンググライダーに必要な道具を書いてきました。機体やハーネスといった”大物”をはじめ、結構こまごまとしたモノにお金がかかりそうな気がします...
 そこで私が勝手に考えた代表例をもとに、最低限必要なものにいくら掛かるか合計してみることにします。 ついでに、買い替え頻度も書いておきますので参考までに。


 ・機体(初級機): 米国Wills Wing社製 「ファルコン3」  46万円
    (10年以上は持つと思うが、自分の技量が上がって機体の寿命より先に上級の機体が欲しくなるかも)
 ・ハーネス(初中級用): 伊国Woody Valley Model社製 「フレックスライト」  12万円
    (モノ自体は丈夫なので、上級者用のハーネスを買う頃まで、長く使える)
 ・緊急パラシュート: 米国Wills Wing社製 「ローラ250」  9万円
    (普通は一生使わないので長く使える。定期的なリパックをお忘れなく)
 ・バリオメーター: 伊国Digifly社製 「アルキメデス」  4万円
    (一生モノ
 ・ヘルメット: 伊国ICARO社製 「スカイランナー」  3万円
    (傷まなければ、長く使える)
 ・サングラス:  0円
    (既にお持ちの物をどうぞ。一生モノ)
 ・無線機:  7万円
    (スピーカーマイクと合わせて、この値段位かな?)
 ・手袋など小物:   全部合わせてもせいぜい1万円

 合計 82万円


 ちなみにハング関連のモノは全て新品の定価で、万円単位に四捨五入してあります。

 気になる値引きについてですが、取引量の少ない零細業界ということもあり、あまり期待できません。とはいえ、特に機体はスクール経由での中古機体を入手できることがあり、運良く出物があれば当然安くあがります。中古初級機の価格は年式や程度にもよるのですが、20〜40万円といったところだと思います。

 さてそこで、上表の合計金額82万円についてです。モノに掛ける金額として、この値をどう思われるでしょうか。3年間この趣味を楽しんだとして、他の趣味と比べてみましょう。

 まずハングですが、道具以外にかかるお金は、だいたいこんなもんです。(あくまで目安です)
  エリアの年会費           24000円/1年
  所属クラブの年会費と機体の保管料  30000円/1年
  交通費                3000円/1日
 毎週1日飛びに行くと、1ヶ月で4日、1年で48日、3年で144日です。
 すべて合計すると3年で141万円になります。1日あたり約9800円です。


 次にスキーを見てみましょう。スキー用具はあまりに値段の幅がありすぎて計算しづらいですが、これもざっくり板・靴・ビンディング・ストック・ウェア・手袋等全部合わせて20万円とします。
 これに加えて、宿や交通費をリーズナブルな線で考えて、
  リフト代       4000円/1日
  交通費        5000円/1日
  昼食代        2000円/1日
  宿泊代       10000円/1泊
 スキーに行く回数は、まあ熱心な暇人でもひと冬で30日位でしょうから、3年で90日です。宿泊代は2日に1回かかるとして計算すると、3年で164万円になります。1日あたり18000円です。


 次に同じ「乗り物」として、バイクを見てみましょう。中型バイクで、例えばHONDA CB400 SUPER FOUR(約75万円)を買った場合、ヘルメットや手袋等でさらに3万円かかり、それ以外に、
  重量税        2500円/1年
  自動車税       4000円/1年
  車検        100000円/3年
  自賠責        9000円/1年
  任意保険(30歳以上)  31000円/1年
  タイヤ代・オイル代  30000円/1年
  ガソリン代・高速代  10000円/1月
 まあバイクで走りに行った先で買い物したり宿泊するなど、お金のかけ方・走る距離は人それぞれですが、バイク関係のみに限定して比較的控えめにしたこの例で、3年で147万円です。1週間に1日乗った(3年で156日)とすれば、1日あたり約9400円です。


 最後にスキューバダイビング。ハングが空の趣味なら、こちらは海の趣味です。楽しむ場所は違っても、その楽しさには共通のものがあるのではと思います。道具にかかるお金はBC,レギュレーター、ダイブコンピューター等まで揃えて凡そ50万円程度かと思います。これに加えて、
  タンク代やボート代     20000円/1日
  沖縄まで往復の飛行機代   30000円/1回
  宿泊代他          10000円/1泊
 住んでいる場所にもよりますが、大都市近郊在住のサラリーマン・OLで毎週ダイビングに行く人も少ないでしょうから、1ヶ月に1回、2泊のダイビングに行ったとすると、1年で12回、24泊36日になります。3年で36回、72泊108日ですから、全部合わせて446万円。1日あたり約41000円です。


 別に狙ったわけではないのですが、これらの結果からも、ハングにかかるお金はスキューバダイビングはもちろんスキーより少なく、しかも年間通して毎週楽しめる趣味だということがお分かりいただけるかと思います。経理的な言い方をすれば、ハングは設備投資(機体やハーネス等)にお金が掛かる代わりに、1日あたりにかかる費用が少ない趣味です。だから、たまに楽しむよりも、毎週通うような楽しみ方のほうが合理的な趣味といえます。




まとめ

 上記のようにハンググライダーで空を飛ぶために、そんなにお金はかかりません。しかし、昨今はまた別の事情があるようにも思えます。

 ハンググライダーが日本の空を飛び始めて30年以上になります。その間、機材の性能と安全性は着実に進化を続けています。しかしその一方で、ハンググライダーを楽しむ人の数は1990年頃にピークを迎えた後、年々減ってきています。同様のスカイスポーツ仲間でありハングの数倍の愛好者数をもつパラグライダーでも同じです。
 確かに危険性にスポットをあてられてしまいがちな趣味だし、金銭面でも初期投資が大きいので気軽に入りにくい世界であるのも確かです。でもこの愛好者人口の減少傾向は何もスカイスポーツに限ったことではなく、山歩きや自転車などの一部の流行スポーツを除き、アウトドアスポーツ全般で減っているようです。何故でしょう?

 例えばスキーを例に見てみましょう。昔は高速リフトも、スキー場へと続く高速道路も、新幹線も、スキー宅急便もありませんでした。道具は現在より高価な割に性能は悪く、リフトは遅くて混雑し、ゲレンデも凸凹していて滑りづらい。今の道具と環境であれば初日にできてしまうパラレルターンも、何年も通ってようやく身につける高等技術でした。それでも当時の若者は道具をたっぷり入れたバッグを担ぎ、夜行列車で山へ行っていました。スキーが最も流行った昭和60年代から平成初期にかけても、金曜日の深夜はスキー場へと向かう車で都内から渋滞が始まっていました。大都市近郊には大きな人工スキー場が建設され、熱心な愛好家は夏でもスキーに通っていました。冬になると若者達は毎週スキー場に通い、1時間もリフトに並んでは技術の上達やナンパなど、それぞれの目的達成に向けてガンバってました。

 しかし今は状況が違うようです。刺激的な経験や新しい挑戦をすることに興味を持つ人は少なく、それよりも大事なのは「自分の時間」と「癒やし」なのです。
 テレビやネットで大概の情報は手に入るし、体験したような気にもなる。わざわざ寒くて疲れることをしなくても、映画を観たり家でゆっくりとゲームをしているほうがいい。だいたい”貴重な休日”を使ってわざわざ雪山に行くなんて、勿体ないし面倒だ。
 同じ趣味の仲間はいなくても、携帯とメールがあれば、いつも誰かと繋がっていられる。せっかくの休日を潰してどこかに行くより、もっと”自分の時間”を大切にしたい、家でゆっくりゲームや連続ドラマを観ていたい。エコだスローライフだ草食系だ、そんな価値観が支配しています。

 でも、「時間」や「癒やし」は自らが積極的に動いて獲得するものです。それにゲームやテレビでは、本当の感動は味わえません。誰かが作った舞台で、誰かが作ったシナリオ通りに自らの願望を投影しているだけに過ぎません。物語の結末は既に決まっており、それを見た視聴者の反応も計算済みです。
 他人の作った土俵で踊らされていながらも、それに気付かず、あるいは気付かない振りをしながら、皆が自分だけは特別な存在だと思っている。そんな生活、何か閉塞感を感じませんか?


 ハンググライダーはそれほど楽ではないし、お手軽でもありません。頻繁に山に通う必要はあるし、アウトドアなんだから冬は寒いし夏は暑い。地上で担ぐハンググライダーの機体はデカイし重いし、講習初期は特に疲れます。怪我を負う危険もないわけではありません。
 それでも、初めて空を飛んだときの感激、初めて上昇気流を捕らえて空高く舞い上がった時の感激、初めて雲を間近に見た感激などが、それらの苦労を軽く吹き飛ばします。
 素晴らしい世界と素晴らしい仲間が、そこにいます。
 どうかその一歩を踏み出してみて下さい。我々はそこで待っています。




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