橋の上から空を飛ぶ

2.ちょっとした後悔



 いよいよ当日、街の中心部近くにある案内所に集合し、そこからマイクロバスで郊外にある吊り橋へと向かった。この橋は下を流れるカウラウ川まで、高さが約43mある。(後日ラフティングで同じ川を下った時にこの橋を見てみたが、下から見上げてみてもかなりの高さだった。)

 橋のたもとにある事務所に着き、手続きを行なう。この時、希望すればビデオや写真撮影のオプションを頼むことができる。ビデオはその場で、写真は後日クイーンズタウンの写真屋で受け取れるので、一も二も無く申し込むことにした。きっとこんな経験はそう滅多にするもんじゃないだろうと思ったからだ。

 さて、次にやることは体重測定だ。この重さをもとに飛び降りる時に取り付けるゴムロープの長さを決めるらしい。手にマジックペンで でかでかと体重値を書かれ、いよいよ橋の中央へと向かう。

 橋を歩きながら下の様子を伺ってみる。
 「.........」

 すごい、高い。

 川岸を削りながら流れる濁流が、はるか下方に渦巻いている。
 その川により侵食されできた渓谷は、橋の袂から急な角度で落ち込み、深い谷となっている。
高所恐怖症ではなかった筈だが、これを見た自分の顔が青ざめてゆくのがわかる。周りには同じく数人の物好きの観光客、いやバンジージャンパーがいる手前、平然とした顔を作っていたつもりではいたが、きっとその表情は引きつっていたに違いない。

 ゆっくり歩いたつもりだったが、すぐにジャンプ専用の「踊り場」のある吊り橋中央部に着いてしまう。そこでは丁度他のジャンパーが飛び降りるところだった。その女性のジャンパーが悲鳴を残しつつ視界から消えた。すぐ脇に寄り下を覗き込むと、白いゴム紐を引きながら、その女性が小さくなってゆく。

 大変な所に来てしまった。
 これは、すごく、恐い。

そう思っても後の祭り。日本男児として、ここで引き返すなんてみっともないことが出来るわけがない。

 一人づつ順番に呼ばれ、その踊り場にいる係員がゴム紐を装着している。
 やめるなら、今しかない。いや、それはできない。
 この待っている時間の長かったこと。まあ、実際は数分程度だったのだが…

 …いよいよ私の番が来た。もうこうなったらどうにでもなれだ。表面だけは元気を装い、係員の待つ踊り場へと進む。そこで足首へゴム紐を固定される。両足を揃え、緩衝材のタオルを巻いた上からロープ状のベルトをしっかりと結びつける。そしてそこに金具でゴム紐を固定する。
 準備が完了すると、踊り場の先端に立たされる。両足を固定されているので歩くことができないため、ぴょんぴょん小さなジャンプをするようにして進む。
 足首に繋がっている白いゴム紐は直径が5cmはある太さ。数十メートルの長さはあろうかというこの紐の本体は、私の足首の所からはるか下の濁流に向かって伸びている。紐は途中で折り返して、もう一方の端は当然今いるこの吊り橋にしっかり固定されているはずだ。

ひきつる笑顔  前に進むたび、下に垂れ下がっているこのゴム紐の重さを感じる。なんか、下へと引っ張られている感じだ。

 爪先から踊り場の突端まであと10cmというところで、私の足が止まった。
 この恐さ、普通じゃないぞ!

 しかし、躊躇してるヒマはない。係員が、もっと前へ行けと言う。
 ついでに前方遠くに見える別の橋を指差し、あの橋に向かって飛び込むつもりで行け、という。
 そして橋の袂にあるビデオ撮影中のカメラを指差す。
 精いっぱいの笑顔を作って手を振る。視線を下に戻す。


 ああ、ダメだ。前方なんか見てられない。どうしても下の深ーい谷を見てしまう。
 同時に係員がカウントダウンを始めた!

 そ、そんなぁ〜




ページ最終更新:1998/3


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