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_廉が妙子殺害に失敗して、妙子は病院に担ぎ込まれ、ももセンセ・妙子の母がやってきた。妙子の母は「やってもいいよ。告訴ってやつをさ、・・・娘を乱暴したヤツは裁いてもらうよ」と言い出す。しかし、母は堕胎することを条件としていたが、妙子は拒否し、永遠をパパにしたがる。たとえ、不本意な状況で妊娠したとしても、彼らには、素朴な形で「人間の命の重さ」をわかっていたせいなのであろうか?
_裁判に入り、証人として工場長が立つが、彼の言葉は真実であっても、安西弁護士の策略に引っ掛かり、「工場の工員に暴力を振るったことはありますか?」という質問に、社長・三郎に強要されたといえ、永遠を殴り角材で鈴の目に傷を負わせた彼は、うなずいてしまう。そして、借金や「クビにするぞ!」という脅しを受けていたことを理由に、彼の証言の信頼性はは否定されてしまう。工場長は自分の証言が役に立たなかった事を悲しみ、せめてもの抗議として、工場で自殺を試みるが、廉によって阻止されてしまう。そして、鈴に「鈴・・・、許してくれ。私を許して・・・」と泣き崩れる。内部事情をよく知り、工場の子供たちをこよなく愛する彼にとっては、たまらない思いであったのだ。
_妙子が法廷に出され、妙子が社長から性的暴行を受けていたこと、「親に迷惑をかけていいのか?」と脅されていて黙らされたことを証言したが、安西弁護士は、公正な裁判の」ため、知的障害者の証言は採用されてない・・・という論理を盾に、具体的な日時を言えない、彼女が堕胎しなかった・・・などといった点を突き、二人の合意の上でのことだろうと主張する。彼女はただ泣き続け、川原で自殺を試みる。「だって、誰も私の言う事を信じてくれないのよ。何言っても嘘だって思ってるのよ。」と、探してきた工場の仲間達と泣き崩れる。知的障害者の発言は、本当にそこまで信頼性がないのだろうか?甲山事件では、事件から3年も経ってから、園児の証言を基にして寮母が逮捕されたが、健常者の恣意・都合に合えば、証言として信頼性を持ち、そうでなければ、信頼性を持たない・・・ということは、余りにもひどすぎやしないだろうか?
_三郎を殺し、妙子を殺しかけた廉は、「告訴をやめろ。でないと殺すぞ」と俊輔に襲われたももセンセを助け、「あたし、こわくなっちゃったわ」と言うももセンセを抱きしめる。ももセンセに淡い恋心を抱く彼にとっては、ももセンセは「砂漠のオアシス」なのである。しかし、社長(悪魔)に魂を売り、三郎を殺し、妙子に手を掛けようとした彼は、「僕はもう、何をしても救われない」と言う。妹のためだけに社長の言うなりになるロボットに成り下がった彼にとっては、もう救いの道はないんだろうか?それも社長に「構うこたねぇんだ。死んだって泣くヤツなんていねぇ。・・・俺は裁判なんかごめんなんだ。やるんだ、やるんだ!」と殴られながら・・・。
_宇野弁護士は、「唯一の目撃者」永遠に証言の練習をさせる。知的障害者の証言能力が信頼されていないために、確実に証言させる方法として、メトロノームでリズムをつけて、状況を思い出させたのだ。永遠は、妙子を救うために一生懸命に思い起こそうとする。宇野弁護士に連れられ、永遠は法廷へ向かう。彼の証言は、法廷で生きるのだろうか?そして、「ボク達がホントのこと言っても、全部ウソになっちゃうのはなぜですか?神様教えてください。ボク達もあなたの造った人間なら・・・。」という彼の問いかけに、私たちはどう答えたらいいのだろうか?
_妙子ちゃんかわいそう・・・。ママに赤ちゃんを堕ろされそうになってねぇ。ママは無理に堕ろそうとしてたけど、ママは妙子ちゃん産んだことに後悔してたから、そうさせたいみたい。でも、妙子ちゃん「なんで妙子産んだのよっ!」って泣いてたね。永遠、「パパになって!・・・パパはママと赤ちゃんをずっと守るのよ」って言われて、パパになる約束してさ、どういうこと意味してるかわかってないね。だけどね、約束をしちゃうなんて、永遠らしいよね。(あたし、永遠取られちゃうのはイヤだけどね。あたしは永遠取られてもどうにもならないんだけどね。)
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<インプレッション>
_永遠は、法廷へ証人として出廷し、社長のレイプ行為を彼なりの見方で、メトロノームのリズムで証言する。しかし、安西弁護士は、反対尋問の場でコップをわざと床に落とし、彼のリズムを打ち壊して、彼が証言できなくなったことに揚げ足を取り、検察側が「予め嘘で固めたシナリオを彼に丸暗記させ」たということを主張する。しかし永遠は「嘘はついてないでしょ、ボクは嘘はつかないでしょう」と、言い張るが、結局は、彼の証言は有効とはならず、社長は無罪となった。それでも、安西弁護士自身には疑念が残り、社長に問い掛けるが、社長は冷たく自分の潔白を主張する。裁判に勝ったからいいとしても、ここまで罪の意識を打ち消しきってしまう社長の表情は、なぜか怖さを感じる。
_廉の言葉に基づき、工場長とももセンセは、工場の裏を掘っていくなかで、三郎の死体を見つける。廉からの電話で、ももセンセは彼と会い、彼と、盲目になった妹・鈴の世話のために、実母の元を訪ねるが、実母は再婚し、子供がいたことで、彼は絶望し、自首することを諦める。
裁判では無罪となった社長だが、裁判をやったことは竹上家の崩壊を招く結果となった。妻・裕子と息子・俊輔は、長野の実家へ去ってしまう。「見せかけだけだったんでしょ・・・家族なんて!」と裕子は言い、肩にかけ止めようとした社長の手を俊輔は「放せよっ!」と振り払う。社長は、思わぬところから、自分の生きてきた環境を崩され始めたのである。裁判で気持ちは荒れ、終わっても家族を失ってしまったのだ。
_そして、社長が工場へ入った時、廉に襲われる。廉は、妹の面倒を見てもらうためだけに、社長の命令で三郎を殺し、妙子に手をかけたのだ。その中で、彼の心は砂漠のように潤いを失い、希望を失ったのだ。社長ともみ合いになって腹を刺された廉は、工場に石油をまいて火を放つ。妹・鈴に「全てが終わるよ。・・・安心しな、お兄ちゃんも一緒だから・・・。」と言いながら心中を図る。鈴は死ぬことを嫌がるが、兄に勧められて「聖者の行進」を笛を吹く。その音に気づいた永遠や工場の仲間達は、燃える工場に飛び込み、「俺と鈴はここで死ぬ。生きてたってしょうがないんだ!」と粘る廉と、そうなる状況はわからなくても生きたかった鈴を助け出す。たとえそうだったとしても、工場の仲間達にとっては、彼らにとっては友達であり、仲間であるのだから・・・。
救急車で運ばれて行く中で、廉はももセンセに「・・・いつのまにか何者でもない化け物になっていた。それでも、あなたを愛していました。」と、彼女へ愛を告白する。しかし、彼は死に、彼の「心の砂漠」に水を注ぐチャンスは二度となくなってしまった。
_燃え盛る工場の中で、社長と永遠が向き合う。もう助からない状況の中で、社長は、母を早く失い、父が働けなくなり荒れてしまった状況の中で必死で生きてきた自分の姿を「工場で働くようになった障害者」に重ねあわせて、彼なりに愛情を注いできたことを永遠に話す。しかし、自身の家族の歪み(妻からは愛されなくなり、息子との絆は失われる)で心を歪ませていった。子犬のように社長を慕う障害者達だけが社長に残され、「大きな声を出して怒鳴ったら、オマエ達は涙を流して震えた。・・・オマエ達を見る度に、いつも何かに脅え、すがろうとした俺自身を見るようで、吐き気がした。そして俺の中に悪魔が巣食った。俺は強くなり、感情をなくした。」と、自分自身を省みるのであった。社長が生まれ育ってきた時代・高度経済成長期は、誰でも「持てる者=強者になれる」チャンスがあった時代であった。しかし、その中で、自分のエゴのみが「全ての価値を決める基準」という思考が定着し、周囲との関係が希薄になっていった時代でもあった。社長自身も「強くならなければならない」という脅迫観念に押しつぶされ、弱い者(ここでは、知的障害者達だが)の上に君臨する姿を取ったのだ。
_焼け落ちた工場の前で、工場の仲間たちとももセンセは、廉と永遠のための追悼演奏を行おうとする。しかし鈴が何かに取り付かれたように工場の中へ入っていき、PHSの呼び出し音が聞こえてきた中で、永遠が地下倉庫から救い出される。それから後、工場長が経営者として、工場再建チャリティコンサートが開かれる。間中工場長は「許されるなら、ずっとあの子達の側で・・・」という思いを宇野弁護士に語る。こういった人達の「献身的な努力・犠牲」によって、日本の障害者雇用がやっと成り立っているのが、現状である。私が知る範囲では、作業所の中には、仕事がなかなか回ってこない、あっても非常にコストを安く抑えられてしまい、普通に働いてもらえるような賃金が払えないそうである。こういったところにも、彼ら障害を持つ人々が、社会の中で生きて行こうとするには、大きな障壁となっているのである。
コンサートで演奏する中で、ももセンセはトランペットを吹く廉の幻を見、永遠は指揮棒を振る(小説版では、観客席にいるんだけど?)ありすの幻を見る。彼らにとって、二人は見えない姿になっても「かけがいのない仲間・トモダチ」であり続けるだろう。ドラマはここで終わってしまうが、彼らの「行進」は、ここで再び始まったばかりである。色々な問題を抱えての格闘が続くが、しっかりと行進し続けていって欲しいなぁ。
_このインプレ書いてきた、Sonnarオジサンから、工場のみんなに「励ましの言葉」をプレゼントして、この『聖者の行進』インプレを終わらせてもらうね。ある西洋で読み継がれてきた古典から、希望を持って歩き出すみんなのために・・・。
_「・・・それだけでなく、患難をも喜んでいる。患難は忍耐を生み出し、忍耐は錬達を生み出し、錬達は希望を生み出すことを知っているからである。そして、希望は失望に終わることはない。」
_「目に見える望みは望みではない。なぜなら、現に見ている事を、どうして、なお望む人があろうか。もし、わたしたちが見ないことを望むなら、わたしたちは忍耐して、それを待ち望むのである。」 |
_永遠が裁判所で緊張してる姿見て、あたしは大丈夫かな?って、最初思ってた。だけど、一生懸命メトロノームでリズムつけて思い出しながら証言してたから、あたしは「あ、これでホントのことが証明される」って思ってたよ。だけどね、安西って弁護士、目ざとくさ、リズムつけて思い出して証言してるのを見てて、永遠のリズムをブチ壊して、どぎまぎしてるとこへ質問を浴びせ掛けるなんて汚いよ。それでさ「嘘をつくのはよくないよ。」って言うなんてさ、サイテーだよっ!永遠は一生懸命「嘘じゃないでしょ。社長さんは悪い人でしょ。」ってさ、ホントのこと言ってるのに、無理矢理退廷させるなんて、めっさムカツクし、ひどいよっ!
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