Photo Sonnar ショーケース
☆Kiev 3 (1954年製)Jupiter8 50mm F2付
<紹介・使った印象>
 戦前、世界最大の光学機器メーカーであったZeiss Ikon社が、ナチス=ドイツ敗戦によりソ連軍の占領で工場設備が接収され、ソビエト連邦の技術者へのZeiss側からの指導が行われた。そして生産設備がウクライナ共和国のキエフに送られて、Contax IIやIIIそのものの機種が、キエフのアルセナル光学工場で作られ始めた。1950年代から1970年代にかけて作られたContaxベースの距離計連動機がKievシリーズである。距離計連動機のKievシリーズはソビエト連邦の写真機の中ではFEDやZorkiなどとともに、高級機として販売されていたようである。1950年代に製造されたKievは、ロゴタイプや若干のメッキ仕上げの違いはともかく、機構的にはContax II やIIIそのものといってよく、店主の手持のキリル文字のKiev 3はまんまContax IIIと言ってよい外観部品と機構を持ったものであった。 

 以前店主は58年製のラテン文字のKiev 3も持っていたが、それにはシンクロターミナルがついており、いわゆる3a型と呼ばれるものであったが、機構的にはContax IIIとうり二つと言えるものであった。KievがContaxそのもののデッドコピー(クローン?)から、独自の変化をしていくのは、後の4型以降であり、ソビエト連邦の国力低下を背景に、品質的に低下していったものが多いと言われる。店主のKiev 3は、Ebayで2001年の夏にロシアの売り手から皮ケース付き・送料込みで約100ドルで入手した。最初余りにも奇麗だったので、不良品なのかと思ったが、機構的に問題がないので、デッドストックか買ったけどほとんど使われなかった中古品という感じであった。実際に使ってみても、ホンモノ(Contax II)と比較しても、巻き上げ動作などはそんなに重さを感じることもなく、滑らかに使うことができた。セレン外光式露出計は室内では反応はかなり鈍いが、屋外では割合動作した。ただ、基本設計の年代が古い(ContaxIIIは1936年発売)ので、レスポンスは現代の露出計並みを期待してはいけない。あてずっぽうで露出を決めるより、おおまかな露出の目安としてならば、かなり参考にできるものである。あと、よくあることだが、フィルムの巻き上げスプールがついてこないことが多いので、買う時にはスプールがついているかどうか確認することが必要である。これがないと撮影できない。もしもスプールがなかったら、フィルムのパトローネを分解して中のスプールを取り出して使えば、フィルムのベロを切って撮影することはできる。面倒だと思ったら、スプールの中を糸鋸で引いてそのまま差し込めるように加工するしかない。 

 標準鏡玉のJupiter-8は、Carl Zeiss社のSonnar 50mm F2をコピーしたものである。鏡玉の製造年代によっては、若干の設計変更、コーティングの変更があるが、基本設計は変わらない。店主の手持のもの(本体と同じ1954年製)は、Contax II用のJena Sonnar 沈胴仕様と同様の薄い青色のコートが施されており、本家Sonnarをそのままコピーして作ったものだと思われる。写りも本家と変わらないシャープさと解像力の高さを持っている。やってきた状態が新品同様であったので、手持の本家よりもよく写っている場合もある。しかし、逆光は本家同様に弱い面もあるのでフードは必需品である。 

 Kievは、Contaxと比べれば、若干の仕上げの差、年代や個体による精度・状態の差で出来・不出来があるが、そん色なく実用に使える写真機である。ライカ系に比べたら機構そのものが複雑でデリケートなので、不調になりやすい。修理も受け付けてくれるところもないので、ボディについては割り切って「使い捨て」感覚で新しくボディを買うか、自分で修理の腕を磨くのがよい。 
(ただいま、店主は部品取り用のKievを探している。安価で提供して頂ける方がおられたら、ご連絡頂きたい。) 
オリジナルのContaxを、実際に実用に使っている人は、自分自身を除いては店主は見たことはない。せっかくのZeiss鏡玉がコレクションケースに収まったままで実用にされないのは、もったいなさを感じてしまう。そこでKievを使うのはいかがだろうか? 
本体の精度が悪くて鏡玉がつかなかったり、ついたら最後外れなくなるという代物もあるらしいが、ちゃんと使うことができれば、実用機として使える。鏡玉もZeissの技術で生み出されたモノであり、時代に対応してソ連側が改良していったものなので、距離計連動機用交換鏡玉の実用品として使うのは、安価でZeiss系鏡玉を楽しむ方法の一つである。よく陶磁器の世界では「写し」というものがあり、ホンモノは高すぎるが写しを買って楽しむ方が結構おられるそうである。その感覚で「Zeiss Contaxの写し」としてKievを使うのは、一つの楽しみかたではないかと思う。「忠実な写し」が欲しい場合には、1950年代のKiev 2か2a、露出計つきならば3か3a辺りの本体と、1950年代から60年代前半の鏡玉を探してきて使うのがお勧めである。

<旧ソ連製写真機とネットオークションで思うこと>
旧ソビエト連邦製写真機は、よく雑誌では「おロシアン」など若干の軽蔑のニュアンスのこもった呼ばれ方をする。それで作例写真できれいに撮れれば「意外とよく写る」と書かれ、写りが悪ければ「やっぱり不良品」と叩かれる。こんな評価で惑わされる人は多い。ネット上で雑誌のこの評価の仕方に反発を感じる文章をみたことがあるが、同じ印象は店主も持っている。 
 確かに旧ソ連製カメラやレンズは整備されずに販売されるものが多く、現状のまま作例を作って、本来の性能が出ないままで比較され、不良品扱いされるのは、まっとうな評価の仕方ではない。あのラ○カやロー○イで未整備・現状渡しのモノを安いからと手を出して、 写真を撮って評価して「写りが悪い」と言ったら、多分強力なファン層を持っているだけにブーイングがすごいだろう。だが、旧ソビエト連邦製写真機には強力なファン層が少ないだけに、スケープゴートにされやすく、悪役として叩きやすいのだろう。 
(店主は元々からツァイス系を使ってるので、壊れやすいだの、修理が効かないだの・・・とライカ系ファンにやられているので、きちんと整備してくれる工房を探して、整備してもらって本来の性能を叩き出すように気を使っている。旧ソ連系でも同じだが、旧ソ連系と東ドイツ系は、メンテナンスを受け付けてくれるところがなかなかない。だから、実用品として買うのであれば、整備が施されたモノをちゃんとした店で買った方がよい。日本には旧ソ連製写真機の専門店があるのだから・・・。) 
 
 あと、海外ネットオークションなどでロシア系などの売り手がろくな整備をしてないものを売っていて、日本人が「そのまま使えるモノ」として使っていて、まっとうな評価をしていないせいもあるかな・・・。 欧米系の売り手のある程度でもそうなんだけど、日本人とはサービスの感覚の違いがあって、手に入れたら、自分で整備して使うという考えが日本人にはないから、その感覚のギャップで「痛い目にあった」と思ってしまう人も多いのではないのだろうか。 
(オークションなら格安で手に入ると言っても、店主は整備費用を差し引きして、入札価格を考え、ハズレであっても後腐れのない価格で買うようにしている。それでも失敗することもあるので、オークションはなかなか手強いものである。しかし、安価でアタリを買った時の楽しさは格別なものがあるので、一度はまると、なかなかやめられない。) 
 
作例写真