Photo Sonnar ショーケース
☆Fake Leica(Fake Elmar 50mm F3.5付)
<紹介・使った印象>
よくネットオークションで見かけるFake Leicaである。EbayではLeicaというキーワードで検索したら、本家よりもFake Leicaは多く出品されているのではないかと思うくらい出ている。大抵ソビエト連邦製のライカマウント距離計連動機 FedやZorkiにLeicaの刻印を加えているもので、中には黒塗り・金メッキとかヘビ革や木目のグッタペルカ張りのものもあれば、ナチスドイツ時代の「空軍所有」や「陸軍所有」という刻印があるものである。余りの似ても似つかなさや派手さに笑ってしまうものも多いが。オブジェとしては面白いかも知れない。 当のライカとは似ても似つかないFed3型やZorki4型以降のものもあるが、ここで取り上げるのは、Fed I型(f-type)をベースとしたFake Leica(ナチス紋章とBILDBELICHITER刻印入りのクローム仕上げ)である。店主がなぜ興味を持ったのかと言えば、西ゆうじ氏著『クラシックカメラ物語』を読んでいて見ていたFake Leicaと全く同じ刻印のものが2000年初め頃にEbayに出ていたので、ロシアの売り手から約70ドルで落札してきた。(多分工房でまとまった数を生産しているのだろう。)届いた時にはちゃんと動いていたので、安心していた。 

  このベース機となっているFed I型は、1932年に発売されたLeica II型をその年のうちにウクライナ・ハリコフにあった Fedコミューンでコピー機が製作されはじめたものをベースとしている。このFed I戦前モデルはLeica Lマウントとマウント口径やネジピッチは同じなのだが、フランジバックが微妙に違うので、Fed本体と鏡玉、Leica本体と鏡玉の相互乗り入れはできない。これが戦後モデルになってライカ互換となった。Fed I型もいくらかの変容があり、戦後にFedの製造技術を導入したKMZ工場がZorkiを生産したので、このFake Leicaの正体は、Fedで言えば f-typeに相当するものであると言える。(Zorkiのバリエーションは未確認。どちらにしても1950年代中頃の製造だろう。)シャッターはBと1/25〜1/500までがついており、距離計はLeica II型同様の2眼式ファインダである。ただ本家のLeica II型に比べて、筐体の強度維持のためか本体の金属部品の厚みがかなりあるので重みがあり、シャッターを切った時の音はLeica II型に比べてこもった感じの音がするので、意外と静かである。ただ、クロームメッキをかなり厚くやっているせいか、表面をよく見るとメッキ面が微妙に波打っているしギラギラと光るので、目立ってしまうのが難点かも知れない。 

 付いてきたFake Elmar 50mm F3.5もソ連製カメラのサイトを調べて絞り環の形状からInduster 22の刻印を替えたものと判明した。Industerは3群4枚構成のTessar型の鏡玉である。よくLeitz社のElmarのコピーと言われるが、Tessar型との大きな違いは絞りの位置が、Elmarは1群と2群との間にあるのに対して、Tessar型は2群と3群との間にあるのである。だから、IndusterはElmar型ではなくTessar型である。この鏡玉には一応コーティングが施され、面によってコート色が違うが、何かの効果を狙って行われているのだろうか?それとも、各レンズのラインの調整が違って、色がラインごとに微妙に違う状態で作られていたような気がする。 

 こういったFake Leicaを使って実際に撮影する人はいないだろうが、実際に撮影をやろうとした時、意外と難物だった。まず、フィルム装填をするのだが、ついてきたフィルムスプール内側の突起が巻き上げ軸に引っかからず、巻き上げで空回りした。この場合はスプール内側に詰め物をして無理矢理引っかける必要がある。、一度は爪楊枝を突っ込んで無理矢理巻き上げ軸に連動させた。別の時にバルナック型ライカ用のスプールを用意して装着するとちゃんと連動して巻き上げができた。フィルム巻き戻し軸も動きが渋く、一度撮影した時にはフィルムのパーフォレーションが壊れ、それから後は多重露出になってしまったので、巻き戻し軸をばらして金属屑(スラッジ)をベンジンと綿棒を使って掃除したところ、実用に差し支えない状態の滑らかさとなった。 

 実際の撮影では、ファインダが2眼式なので焦点合わせとフレーミングを別々に行うのには慣れが必要である。しかし標準以外の鏡玉を使った時には外付けファインダを使う必要があり、店主のよく使うContaxでも同じ状況になるので、作られた当時としてはさほど気にならなかったのだろう。本体の両側が丸いので握り心地もよく、全体的にコンパクトだが、ストラップ金具がないので革ケースがないと肩などに下げることはできない。(元となるLeica II型も金具がない。) 
 撮影した結果だが、鏡玉の描写は絞り開放ではある程度の解像はしているが、シャープな写真を撮ろうと思うならばF5.6以上に絞る必要がある。色のりは設計年代が古いのでそれほどでもなく、若干黄色味が出るがカラーネガでは大概補正されてしまうので気にならないし、モノクロネガとは相性はかなりよいのではないかと思う。最初このレンズだけテストしよう・・・と思い、Canon7につけようとしたが、7の外バヨネットがレンズの無限ストッパーに引っ掛かり、完全に装着することができなかった。そういう理由で、若干の手入れをしてFake Leica本体を使うこととなった。本物のバルナック型ライカを使ったことがないので、割り引いて聞いて欲しいが、若干巻き上げやシャッター速度設定などの操作に重さを感じる程度で普通に使う分には問題がなかった。ある程度整備された本体であったせいもあるが、一般に旧ソ連製写真機は粗悪品が多いと言われ、特にソ連崩壊前後のものは部品精度が悪くなっているものが多いと言われるが、1950〜60年代のものは整備不良が原因であると思う。 

 Fake Leicaはネットオークションなどでよく見かけるが、Ebayでは送料込み150ドル以内で買うのが妥当だと思う。FedやZorkiも相場的にその辺りが妥当だろうと思う。戦前モデルのレアものは高いが、フランジバックが違うので、鏡玉交換を考えている場合には避けるべきである。(鏡玉も戦前のものを集めるという好事家ならば、話は別。)本物のバルナック型Leicaや距離計連動CanonやNicca・Leotaxはコレクション用であって、実用は勿体無いと思う人も多いだろう。写真機は実際に撮影してこそ価値のあるものだから、実用機として調子のいいFedやZorkiはいいのではないかと思う。できればある程度使われていて大事にされていたものがよいと思う。Fake Leicaに加工されているものよりも、オリジナルの状態のものの方がよいと思う。このFedやZorkiも記念モデルがいくつかあるが、コレクションするつもりならば、お好きにどうぞ・・・というのが店主の考えである。

 
作例写真
Data 絞り F11辺り  シャッター 1/125秒 Fuji SUPERIA 400
店主の自宅の近くで、ガーデニングが趣味らしくて、いつも家の前を花で飾っているお宅がある。この頃はパンジーなどの花が飾られていた。ややパンフォーカス気味で撮ったのだが、線が固くなることなく割と階調豊かな描写をする。パンジーの入った箱の下の影もつぶれずに描写しているのがわかるだろうか?
Data 絞り F8辺り シャッター 1/125秒 Fuji SUPERIA 400
若干逆光気味での撮影。若干フレアがかかるが、こんな古典的な鏡玉に真逆光の撮影をするのは、かなりきついものがあったが、それ以外はしっかり解像しており、雰囲気のある画像になったと思う。