Photo Sonnar ショーケース
☆Contax IIIa Opton Sonnar 50mm F1.5付
<紹介・使った印象>
世界最大の光学機器メーカーであったZeiss Ikon社が、ドイツ敗戦の影響で本社のドレスデンがソビエト連邦占領下に置かれ、工場設備がソビエト軍に接収されたのに対して、経営幹部や主要な技術者はアメリカ軍によって西側に連れ出され、シュトゥットガルトにあった工場で会社の再建を図り、1950年に発表した距離計連動式写真機である。前モデルのContaxIIIを小型化しモデルである。前期型と後期型に大きく分けることができる(IIa型も同様)が、1954年にLeica M3が発表されて後は、Zeiss Ikon社は距離計連動機の対抗機を開発せず、一眼レフ開発に力を注ぎ込んだため、Zeiss Ikon社最後の距離計連動機といえるものである。

 III型からの大きな仕様の違いは、距離計基線長が小さくなったが、ファインダ倍率が上がったことで、135ミリレンズまでならば、実用的には合焦精度は維持され、見やすくなったことと、本体の小型化がなされ、より使いやすくなったことである。前期型(ブラックダイヤル)と後期型(カラーダイヤル)の違いがあるが、フラッシュシンクロの関係で、前期型はシンクロアダプタを手に入れなければ、今普及しているエレクトリックフラッシュが使えないが、後期型は一般用のシンクロコードを用意すれば、そのままエレクトリックフラッシュを使うことができる。店主は古典的写真機でフラッシュを使う撮影をほとんどしないので、どちらでもよいと思っているが、もし、フラッシュを使った撮影を考えている場合には、カラーダイヤルタイプを購入するべきだと思う。アダプタ付きの前期型も後期型もフラッシュのシンクロ速度は、1/50秒である。今時の1/250秒シンクロに比べてかなり遅いが、M型ライカの大抵のモデルでも同じようなシンクロ速度であるし、現行型のM6TTLやM7でも利点は専用フラッシュを用いた場合の自動調光くらいのものだから、余り気にすることはないし、専門メーカーが製造・販売している汎用フラッシュならば外光式自動調光できるので、さほど問題にはならない。それよりも現代の単焦点やズーム搭載のコンパクト機やズームをつけた一眼レフよりは鏡玉そのものが大口径で、少ない光を拾い取る力が大きいのだから、高感度フィルムを使ってアベイラブルライトで撮影する方がよい気がする。露出設定は内蔵露出計は屋外であればなんとかなるが、室内では単体露出計か、最近の写真機の内蔵露出計を使った方が確実だろう。

 本体が小型化されたため携帯性が向上した面もあるが、デメリットも一つある。ボディ内部も小さくなったため、戦前型35mm F2.8 ビオゴンが入らなくなり、IIIa用(IIaも同様)には設計し直されたビオゴンか新設計された35mm F3.5 Planarを使う必要が出てきたことである。この二つの鏡玉はそれぞれに特徴のある描写をするが、かなり高価な相場となっているので、なかなか手にする機会がない。III型と同様にセレンを使った外光式露出計もIIIa型に装備されているが、より小型化されて高感度になった。室内でもよほど暗いところでなければ、経年劣化や調整不良なら話は別だが、そこそこの値は出るので、参考用に使っている。難点は非連動式なので、屋外では一度大体の露出を計って、それを参考に適当に絞り・シャッター速度を調整して撮影するのが、一番使いやすい気がする。店主の手元にある個体は、2000年春頃にEbayでパシフィックリムカメラからスローシャッター不調の前期型を240ドルで購入し、しばらく使っていたが、2001年冬になって距離計が不調となり、2002年に量販店経由で修理専門店にOHに出し、鏡玉のOH(\10000)込みで\55000で戻ってきた。今は絶好調で稼動している。OH後の操作感触は抜群で、こういった古典的写真機を気持ちよく使うために必要なことは、適度なお手入れであることがわかる。シャッターレリーズは戦前型よりもかなり軽く、音は「シャリッ」という音は大き目だが、歯切れ良く切れるので、手ぶれは意外としにくい。シャッター速度設定は、巻き上げノブの外側にあるシャッターダイヤルを持ち上げて回せば設定でき、巻き上げる前に設定してやれば、シャッター機構に負担をかけないようである。この設定方法も戦前型より改善されている点である。トータルとして見れば、戦前型の威風堂々とした迫力には欠けるかも知れないが、実用性能の面では大きく向上していると思われる。

 このContax IIIaにつけている標準鏡玉は、Zeiss-Opton Sonnar 50mm F1.5である。この鏡玉は、Carl Zeiss財団が本拠イエナがソビエト連邦軍に占領されたのに対して、アメリカ軍が首脳部・主要な技術者を連れ出して、シュトゥットガルト近郊のオーバーコッヘンに再建させたところで生産されたものである。当初イエナのCarl Zeissとの商標権問題で、Carl Zeiss銘がつけられず、Zeiss Opton銘で生産が行われた。1950〜53年頃に生産されたZeiss鏡玉にはこの名称がつけられている。1954年以降は、商標権問題が解決し、オーバーコッヘンで生産される鏡玉はCarl Zeiss銘がつけられるようになった。生産開始当初にはトラブルがあったため、Optonの鏡玉は悪いという風評(現在でも言われている話だが)があったが、生産が軌道に乗るようになってからは、順調に生産されていったようである。

 このSonnarは、3群6枚構成で1930年代にベルテレによって設計されたものにTコーティングが施されたものである。この時代では大口径の高性能鏡玉であったようである。Leitz社が変形ガウス型のXenonやSummaritなどの鏡玉を対抗策として出したが、Sonnarのものの相手ではなかった。(店主はLマウントSummaritを使ったことがあるが、フレアやハロの多い鏡玉であるという印象を持っている。)理由の一つとして、当時はガラス面への反射防止コート技術が発達していなかったため、ガウス型は収差補正がしやすくてもガラス面の反射がフレアの増加につながったのに対して、Sonnarは3枚張り合わせや2枚張り合わせなどを行い、徹底してガラス面を減らす設計をしたため、フレアの少なくできたことが、高性能を確保できた秘訣であろう。この鏡玉には、元々反射の少ない構成にさらにTコートが施されているので、更にコントラスト再現性の高い描写ができるように考えられている。店主の手持のものは、2000年夏にEbayでjotepperから送料込みで約80ドルで入手した。最初手に入った時には、かなり汚れ、絞りも若干渋くなっていた。前玉や後玉を分解せずに掃除して一応奇麗になった時に撮影したが、特に問題なく撮影できた。IIIa型OHの時に一緒にOHしたとき、一気に奇麗になって戻り、絞りもグリスアップされて非常に滑らかになった。フードは必需品なので、店主はUNの40.5mm径ラバーフードや、Hansaの40.5mm径のメタルフードを使っている。少しファインダがケラレてしまうが、鏡玉の性能をフルに絞り出すためには必要なので、割り切って使っている。

 実際に撮影してみると、よほどの逆光は別だが、かなりコントラスト再現性の高い写りをする。色再現能力も高く、原色もかなり鮮やかに写し取ってくれる。Contax II型のJena Sonnar 50mm F2 と比較すると、描写はやや堅めだが、がりがりというわけではなく、丁度良い鮮鋭さを持っている。Sonnar型はぼけが汚いという話をよく聞くが、後ボケは芯の残るぼけ方をするので、背景を選ぶ必要があるかも知れない。質感描写もかなりよく、古い街並や田園地帯を歩いて気になったものを拾い撮るということが多い店主にとっては、自然物や古い木造建築物が質感よく写し出してくれるのはうれしい。(これが、東京の渋谷辺りで人物スナップを撮るのであれば、トーンの滑らかさよりもコントラストの高さやガリガリの堅さが街の雰囲気に合っているような気がする。店主ならば、Auto NikkorのS.CタイプをAI連動に改造した鏡玉かでISO400でよく絞り込んだ撮影をしたくなる。渋谷名物ヤマンバギャルのポートレートを撮る場合、Tri-XかベルビアとAuto Nikkor S.C 105mm F2.5辺りで化粧や肌のディテールを拾い撮りするだろう。)

 Contax IIIaは、Zeiss Ikon社が戦後復興した証しともいえる存在の写真機である。1950年代には機械式の写真機では名機ともいえるものが多く生み出されたが、その中の一つとして、今でも実用性を持ったものであると言える。店主は50mmをつけっぱなしにして使っている。Contax使いであれば、外付けファインダで威風堂々ないでたちで撮るのも一つのスタイルであるだろうが、シンプルな形で軽快に歩くのがスマートであると思う。IIaならば外付けファインダをつけた姿は割とさまになるが、IIIaでは露出計の上に外付けファインダをつけてもさまにならないし、近接撮影時の視差が余計ひどくなるので、やめた方がいい。戦前型に比べれば威風堂々とした威圧感はないが、操作感も軽くメンテナンスを受けてくれるところも割とあるので、実用機として使うにはいいのではないだろうか。(店主の場合はRF系旗艦としての存在なのだが、それはLマウント機がキヤノン7だけで、Contaxマウント機が3台もあり、実用機としてKievが存在するという「特殊事情」がある。一般的にはLeica系が主力だろうから・・・。)

 
作例写真
Data 1/125秒 F5.6 フィルム Fuji Speria100 
Data 1/125秒 F8 フィルム Fuji Speria100