Photo Sonnar ショーケース
☆Contax II Jena Sonnar 50mm F2沈胴仕様付
<紹介・使った印象>
世界最大の光学機器メーカーであったZeiss Ikon社が1936年に発表した距離計連動式写真機である。前モデルのContaxを元にし大幅な改良を施したモデルである。前モデルが黒塗りであったのでブラックコンタックスと呼ばれるのに対して、クロームメッキがボディに施されたので、クロームコンタックスと呼ばれる。I型からの大きな仕様の違いは、2眼式距離計から1眼式距離計への変更で、フレーミングと焦点調節が同時にできるようになり、フィルム巻き上げとシャッター速度設定ノブが、軍艦部上部に移ったことで、操作性が大きく向上したことである。ライカが一眼式ファインダとなり一軸不回転式シャッターとなるのは、1954年発表のM3以降なので、当時のZeiss Ikon社の威信をかけた力の入れ具合がわかる。

 シャッターは独特の縦走りフォーカルプレーン式の鎧戸シャッターである。Contaxの弱点はこのシャッターの羽を繋ぎあわせる天然繊維のリボンが切れやすく、故障の原因となる。このためContaxは壊れやすく、構造が複雑であるので直らないという偏見を持たれている。ライカ型であるならば、シャッター幕はゴム引き布幕なので調達は容易であるし、ライカ型の構造を持った写真機は多く作られ、修理技術を持った人は割と多くいるのに比べて「修理しづらい機種」であるのは確かではあるだろう。だが、実際は技術を持った修理工房に依頼すれば、若干の時間と予算はかかるが、ちゃんと直って使える。Contaxと長く付き合っていくためのポイントの一つは、修理技術を持っていて部品を持っている修理工房を探すのが苦労することであるかも知れない。店主は2000年春にEbayでアメリカの売り手からシャッター不調品を55ドルで購入し、手元にあったマウント部品を部品取りされたContax IIIを部品取り品として修理工房に持ち込み、工房が調達してきたシャッター幕の部品代込みで\15000で完全に調子を取り戻した。1/50秒以下のシャッター音は、Contax特有のネズミ泣きがあり、戦前型Contaxや戦後のKiev所有者の中にはこの音を愛好する方々もいる。1/125秒以上であれば、普通に聞こえるが、幕が金属なので「チャッ」という音がする。割と静かなので、スナップに都合がよい。

 ファインダは一眼式距離計で、かなり長い有効基線長を持ち、35ミリ判写真機でContax IIよりも長い基線長を持つものは、KodakのEktraぐらいしかない。このEktraも2000台余りしか生産されていないので、普通に手に入る範囲で最も距離計精度を誇るものといえば、このContax IIであるだろう。ファインダは倍率が若干低めだが見やすく、ファインダは50ミリの視野が見渡せる。交換鏡玉を装着した時は、ファインダの距離計で焦点を合わせ、外付けのファインダを用意してフレーミングしなければならないが、バルナック型ライカならば、50ミリですらも内蔵ファインダで同じようなことをするのだから、当時としてはかなり長所であったのだろう。

 このContax IIとセットになっている標準鏡玉は、Carl Zeiss Jena Sonnar50mm F2 である。3群6枚構成であり、店主の手持のものは、薄い青色のコーティングがされているが、コートを施した製品につけられる赤いT刻印がないので、後コートされたものであろう。沈胴仕様となっているので、オーバーコートのポケットに、レンズを沈胴させれば入れることができるが本体が大きいので、実際にする人はいないかも知れない。Contaxの標準鏡玉は本体のヘリコイドを利用するので、非常にコンパクトであり、鏡玉を交換した時には、上着のポケットに入れることができる。店主は2000年初夏にEbayでアメリカのパシフィックリムカメラから送料込みで80ドルで購入し、掃除を行って実用的に差し支えないコンディションになった。店主はこの鏡玉にUNの40.5mmのラバーフードを付けて使っている。フードを使った場合ファインダは、右から1/3・下から半分の対角線上にケラレるが、不要な光を省いてよい画質の写真を撮るには必要であるし、そんなにフレーミングを隅々までやるのに使う写真機ではない。近接した場合の視差補正はないので、これは慣れが必要だと思う。フィルム巻き戻しは、底蓋のボタンを押しながら巻き戻しノブを回して行う。巻き戻しノブが小さくてやや掴みにくいので、店主はIII型やその変化型のKiev IIIの巻き戻しノブが使いやすいと感じている。

 Contax IIを使ってみると、ファインダがクリアで距離計の分離が経年劣化をしているのにも関わらずはっきりしており、焦点を合わせやすい。だが、焦点合わせダイヤルで焦点を合わせると距離計窓を人差し指で塞ぎやすいので、焦点合わせダイヤルは、無限遠ロックを外すためと割り切って、鏡玉を直接回してしまう方が使いやすいかも知れない。シャッターのレリーズやフィルム巻き上げなどは、若干重さを感じるかも知れないが、調子のよい個体はやや重いなりにも滑らかにできるので、重くてギクシャクした感じである場合には、メンテナンスに出せばすっきりすると思う。販売されていた当時としてはかなり速写できる方であったのだろうが、現在使うならば、手に持っている時に大体の絞りやシャッターを合わせて、ファインダを覗いた時には焦点の微調整を行ってシャッターを切る形でやれば、割合速く撮れる。店主の場合には散歩の時に持ち出し、目に付いた気になるものを拾い撮る形で使っている場合が多い。どうも店主にとってContaxは「50ミリ鏡玉1本で勝負する写真機」というイメージを持っている。広角や望遠の鏡玉をつけて外付けターレットファインダをつけたときの「ものものしさ」は威圧感抜群であるが、標準のみの装備の時には「スパルタン」で男性的な印象を感じる。本体デザインが曲線で構成されている部分の多いライカではこんな印象はない。

 撮ってみての印象は、色のりは標準的で、解像力は良好である。原色のものを撮れば鮮やかに写るが、階調は現代の基準からすればやや柔らか目だろう。焦点の合っているところとぼかしたところのつながりは割合滑らかで、Contarex用Planar 50mm F2のようなはっきりとした落差は見られない。写真機材についての知識のない人かに、Contax IIで撮ったものを見せても、普通に写っている写真と思われる程度で、特に違和感を感じないらしい。しかし、1930年代の設計の鏡玉であることを考えてみると、これは驚異的なことである。スナップで石像を撮ったり古い木造建築を撮ったりしたが、材質の質感をよく拾ってくれるように感じる。
このContax II は店主のところでは、稼働率はかなり高い。中古市場でもライカに比べたら性能の割に安く手に入れることができるので、Contax系は店主のお勧め写真機である。本体の程度ももちろん大事だが、メンテナンス先を確保しておくことが、Contaxと仲良く付き合っていくコツであると思う。ライカ使いに比べて、Contax使いはかなり少ないので、一目置かれたいと思う好事家にはContaxはいい相方になってくれるのではないだろうか。(現に店主は、ライカM6を使っていたご年配の方に声をかけられたことがある。)

 
作例写真