「グルルル、グオォォォォ!!」 雄叫びを上げたケルベロスは、怒り狂ったように地面に爪を立てえぐった。 憤怒の念に彩られた顔に赤光を放つ目がぎらつく。 「何をしている!!は、早くそいつらを始末しろ!!」 フランシスが叫び声を上げながらアームターミナルのキーボードを叩くように 操作する。 「グロォォォォ!!」 荒れ狂ったケルベロスが、たてがみを振り回し跳んだ。 「タケル!!」 悲鳴に似たエクシーの叫び声が目標になったタケルを呼ぶ。 「ちっ」 メシア教の騎士を相手にしているタケルにそれを避ける術はない。 「ままよっ!!」 タケルは、わざと腰を落としギリギリの姿勢で相手の剣を受ける。 のしかかられたら支えきれない姿勢である。 無表情な相手の顔に初めてうっすらと笑いが浮かぶ。 出来れば一生見たくない類の歪んだ笑いだった。 殺戮の予感にその濁った目に狂気を帯びた喜びの光が灯る。 「おいおい、そんな顔じゃ女の子にもてないぜ」 食いしばった歯の間からタケルは声を絞り出した。 だが、相手はまるで聞いていない。 ただただ目の前の敵を殺す事しか考えていない。 いや、考えているかどうかも怪しい。 「くっ」 更に体重を乗せて来た相手の剣の重みにタケルの表情が歪む。 血塗れの相手の姿を夢想したメシア教の騎士の口元から涎が垂れる。 だが、次の瞬間、タケルの剣が急に軽くなった。 それと同時にザアァっという音が聞こえて来る。 目の前の騎士は、背を反り返すように棒立ちになっていた。 タケルの視界に赤い色が見えた。 それは、騎士の背後の地面を染めていた。 騎士は呆然と後ろを振り返った。 彼は自分の背後に見たのは己の血で赤く染まった地面と一匹の巨大な獣だった。 そして、目の端に見えた鋭い爪を生やした前足が自分に迫るのを見た。 それが彼が最後に見た景色だった。 ブチィィィという何かが引き千切られる音に続いてゴンという鈍い音がし、 その後、ゴロゴロという何かが転がる音がした。 タケルがつられてそっちを見ると虚ろな笑みを浮かべた騎士の首が虚空を 眺めていた。 (おいおい、味方を殺すかよ) ケルベロスの視界と自分の間に騎士を割り込ませたのは単なる牽制のつもり だったが、相手は味方を単なる障害としてしか感じてなかったようだ。 そして、そのタケルの目の前に立っていた騎士の残りの部分が倒れるより早く ケルベロスの一撃が首と反対側にその体を殴り飛ばす。 (こうなると敵とはいえ哀れだな) 物扱いされた騎士の姿に思わず同情の念が湧く。 だが、そんな余裕は無かった。 遮る物が無くなったタケルの目の前に牙を剥き出した魔獣が唸り声を上げて いたのだ。 「おい、そんなに不機嫌な顔するなよ」 タケルはそれでも軽口を叩きながらゆっくりと姿勢を戻す。 ケルベロスはいらだったように地面を叩きえぐる。 (何だ?何かおかしいぞ、こいつ) タケルは妙な違和感を感じ、ケルベロスの表情や仕草に注意を集中する。 「な、何をやっておるのだ!!み、味方をこ、殺す奴があるかっ!!」 フランシスの焦ったような叫びがタケルの耳に届く。 微かにカチャカチャというキーボードを操作する音が後に続く。 (まさか、こいつを制御しきれてない?だとしたらどんなからくりでこいつを 仲魔にしたんだ?) タケルの考えをケルベロスの咆哮が中断させた。 ケルベロスが突進しつつ前足を振る。 辛うじてその鋭い爪から身を交わしたタケルのサバイバルベストに三条の爪痕が 残る。 「タ、タケルゥゥゥ!!」 「来るなっ!!エクシー!!」 叫び声を上げながら飛んで来ようとしたエクシーをタケルが止める。 「それより親玉を何とかしてくれっ!!こっちもそう長くは持たんぞ!!」 「わ、わかった。ほらっ、あんた達っ、あのくそおやじを袋叩きにするのよ!!」 「ヒーホー」「あぎゃぎゃぎゃぎゃ」「あ〜い」 ケルベロスを相手にしなくていいと知った仲魔は喜びいさんでフランシスに 殺到する。 「うわっ、だ、誰か!!わしを守れっ!!」 悪魔達が自分に迫って来るのを見たフランシスが悲鳴を上げた。 その声を聞いて氷結していない騎士が戻ろうと動いた。 「ええいっ、雪だるま!!あんたはあいつらを足留めしてっ!!」 「おいらは雪だるまじゃないホー」 「グズグズ言わずにさっさとやる!!」 「ヒーホー、ブフーラ!!」 エクシーの剣幕にジャックフロストは戻ろうとする騎士に攻撃を加える。 ジャックランタンとピクシーは空を飛びフランシスに迫った。 なまじ我が身の安全のために後方に距離を置いていたのがフランシスの不覚と なった。 「あぎゃぎゃぎゃ、アギラオ!!」 「ジオンガ!!だよぉ」 「ぐわぁぁぁぁ!!」 火炎と電撃にその身を焼かれフランシスが悲鳴を上げる。 「まだよっ!!徹底的にやりなさいっ!!」 「あい、ジオンガ!!」 「アギラオ!!」 「ヒィィィ!!た、助けて………………」 燃え上がる爆炎の中でフランシスは崩れ落ちた。 「やったわ、タケル!!大丈………、な、なにっ?!まだ………」 ケルベロスにずたぼろにされながら何とかその攻撃をしのいでいるタケルの姿に エクシーは口を覆う。 「エクシー!!そ、そいつのアームターミナルだ!!そ、そいつをどうにか しろっ!!」 「わ、わかったわ、やってみる」 エクシーは黒こげになったフランシスのアームターミナルに精神を集中した。 「まだ動きそうだわ………えっ?えっ?な、何これっ?!」 アームターミナル内のプログラムを見たエクシーが驚きの声を上げた。 「は、早くしてくれっ!!防ぎ切れん!!」 「えっ、あっ、わ、わかった」 エクシーは悪魔召喚プログラムを起動し、ケルベロスを強制的に戻した。 「ふう」 ケルベロスが光と化し、アームターミナルに戻るとタケルはその場に尻餅をついた。 「だ、大丈夫?!タケル!!」 「おう、何とか生きてる。助かったぜ、相棒」 「えっ、う、うんっ」 タケルの笑顔とウインクにエクシーは思わず目を反らす。 「ヒーホー、アネゴ、何照れてるんだホー」 「う、うっさい!!それより雑魚は?」 「全員、氷付けだホー」 「うん、よしよし、よくやったわね」 「ヒーホー」 「あたちも、あたちも」 「はいはい、あんた達もよくやったわ。ご苦労さん」 「えへへへ、誉められちった」 「あきゃきゃきゃ」 「さてと、行くか」 立ち上がり服の埃を払いながらタケルが言った。 「ちょ、ちょっと待って!!あのアームターミナルを持って行かなくっちゃ」 「ん?何でだ?そりゃ、戦利品にしてもいいが」 「そうじゃなくて!!あれ、普通じゃないわ!!」 「普通じゃない?」 「うん、詳しく調べないと断定出来ないけど………ともかくっ、普通じゃないわ」 「………わかった。お前が言うならそうなんだろう」 タケルはエクシーの真剣な表情にうなずくとフランシスの死体に近付いた。 「悪く思うなよ。そっちが売って来た喧嘩なんだからな」 そう言いながらタケルはアームターミナルを取り外す。 「成仏しろや」 立ち上がったタケルはそう呟くと秋葉を背にした。 「で、どうなんだ?」 その夜、半分瓦礫と化した廃屋の中でタケルが聞いた。 エクシーは答えず、アームターミナルの上に腰掛け目を閉じている。 「ふう」 タケルは溜め息をつくと壁によかかった。 夕方にこの場所を見つけ、食事が終わるや否やアームターミナルを調べ始めた エクシーは、この数時間ずっと動かないままだ。 壁際にはにはタオルにくるまって寝息を立ててるピクシーと半分うつらうつらと したジャックコンビがいた。 (確かにあのケルベロスの様子はおかしかったよな。それにあのおっさんも) タケルは昼間の戦いを思い出し顔をしかめた。 この荒廃した東京に降り立って以来、何度も戦ったが、未だに慣れてはいない。 特に人間相手の殺し合いは心を重くする。 今は静けさすら重荷のように感じられた。 そんなタケルの心を軽くしているのは、仲魔達の気配だった。 彼等は確かに悪魔であったが、その呼び名のイメージからはほど遠かった。 外観、能力はともかく、そのメンタリティはさほど人間と変わらなかった。 もちろん、タケルがそういう種族をある程度選択しているという理由もあったが 少なくとも予想も出来無いほど異質な思考を持つ悪魔と出会った事はまだない。 むしろ悪魔の思考形態は単純明快とも言えた。 何を考え企んでいるかについては、人間の方が余程複雑怪奇な存在とすら思える ほどだ。 「事、悪辣さにかけては悪魔は人間には勝てんな」 苦笑を浮かべたタケルは、ぬるくなったコーヒーに口をつけた。 「ふう」 静かな部屋にエクシーの息を吐く声が聞こえた。 「ご苦労さん」 アームターミナルから降りて背伸びをするエクシーにタケルが声をかける。 「コーヒー飲むか?」 「うん?うん、頂戴」 「よし来た」 タケルは焚き火にくべられてるポットから自分もコップへとコーヒーを継ぎ足すと 粉ミルクと砂糖を入れ、味をみる。 そして、小さなコップに注ぎ分けるとエクシーに渡す。 「で、どうなんだ?」 「ん?うん、大体思った通りの代物だった」 そう言ったエクシーがコップに口を付けて一口コーヒーを飲む間、タケルは 黙って待った。 「あれは言わば苦痛を与えるプログラムね」 「苦痛を与えるプログラム?」 「そう、データ化した悪魔をいじってある種の信号に反応するように再構成する プログラムとその信号を発信するプログラムがあったわ」 「………逆らうと信号で苦しめられるってわけか」 「そう………いくら悪魔でもあれじゃたまらないわ」 「………なんとかならないのか?」 「なんとかって?」 「つまり、その、いじられた部分を治すとか」 「………無理ね。プログラムそのものは使おうとすれば使えるけど、わたしじゃ それが限度ね」 「………そうか」 「ごめんね」 「いや、いいんだ。お前はよくやってくれてるよ」 タケルはすまなさそうな顔をするエクシーに笑みを返した。 「そう?」 「ああ、助かってるよ」 「そっかぁ、えへへへへ」 「しかし、あいつも可哀想な奴だな」 「あいつ?」 「ケルベロスの事だよ」 「………そうね。例えこの場で自由にして上げてもすぐにメシア教の連中に捕まる だろうしね」 「何か方法は無いもんかな?」 「う〜ん………………そうだっ!!あそこよ、あそこ!!」 「あそこ???どこ?」 「じーさんよ、じーさん」 「じーさん?………あっ、邪教の館か!!」 「そうそう、あのじーさんなら何とかしてくれるんじゃない?」 「なるほど、悪魔のプロだもんな」 「駄目元で相談する価値はあると思うわ」 「そうと決まれば今日はもう寝るか」 「センサーは?」 「もう、とっくに設置済みだよ」 タケルはエクシーのアイディアで、野営をするときは周りにセンサーを設置していた。 マグタイトを多量に持っているとはいえ無限ではない。 小人数で移動する場合、野営の見張りはかなりきつくなる。 そこでセンサーを見張り代わりに使っているのである。 もし、センサーが反応すれば、タケルのコンピューターがアラームを鳴らし、 エクシーにもすぐに信号が飛ぶ。 幸い、今迄センサーが反応した事はあまりない。 「さあ、明日は秋葉原に戻るぞ」 「うん、じゃあ、お休み」 「ああ、お休み」 エクシーは、ピクシーの近くでタオルにくるまり、タケルは壁にもたれるように 毛布を被った。 寝静まった彼等を、小さくなった焚き火の明かりがユラユラと照らしていた。 「ううむ」 翌朝早く出発した一行は、邪教の館を尋ねていた。 「無理か?」 「ううむ」 タケルの話を聞いた館の主は、更にエクシーの説明を聞いた後、腕を組み 唸り続けていた。 「やっぱり無理みたいね」 エクシーがタケルの肩で投げやりに呟いた。 「そうか、無理を言ってすまなかった」 「ちょっと待てぃっ!!誰も無理とは言っておらんわいっ!!」 帰りかけたタケルに館の主が怒鳴った。 「じゃあ、出来るのか?」 振り返ったタケルが聞くと、館の主は再び「ううむ」と唸った。 「出来無い事は無いと思うのじゃが、責任は持てん」 「随分と無責任な言い方ね」 「仕方あるまい。事が事だけに時間をかけて実験するというわけにはいかんしな」 「まあ、実験なんてされたらかなわないけど………」 「理論的にはデータ化した悪魔をいじれば、元に戻せるはずじゃが」 館の主は、そこで言葉を切り考え込んだ。 「問題は、その場合、元に戻ったと考えれるか?………単に新しくケルベロスを 生み出したのではないか?………これは、哲学的な問題であるな」 誰に言うのでもなく主は呟き始めた。 「だが、このままってのも可哀想だしな」 「でも、元に戻るのでなければ意味無いよ」 「それもそうだが………………ええいっ、本人に決めさせよう」 「本人?………って、もしかしてケルベロスに?!」 「そうだよ、自分の事は自分で決めてもらおう」 「でも、ここから出したらいきなり暴れ始めるかもしれないよ」 「そん時は、そん時だ」 「危ないって」 「危なけりゃすぐ戻せばいい」 「それは………そうだけどさ」 「じゃあ、決まりだな」 「わたし、知らないよ」 「大丈夫だって、どうせここは他人の家だし」 「それも、そうね」 「おいおい!!黙っていれば物騒な相談をしおって」 「じゃ、そういう事で」 主の言葉を無視してエクシーは、ケルベロスがデータ化され封じられている アームターミナルに手を触れる。 「じゃあ、いくよ」 「よし」 「『よし』じゃなぁぁぁい!!」 主の叫びも虚しく、ケルベロスが実体化した。 「よぉ、大将」 タケルは低い唸り声を上げているケルベロスに笑いかけた。 だが、ケルベロスはそれを無視してゆっくりと低く身構え始めた。 「何だよ、折角あいつらにいじられた体を治してやろうっていうのに」 タケルの言葉にケルベロスの動きが止まった。 「一応あのおっさんはやっつけたけど、そのままじゃすぐに捕まっちまうだろ?」 ケルベロスは、タケルの真意を計りかねて戸惑っていた。 「でも、うまく治るかどうか100%保証出来ないんだ。で、お前さんの気持ちを 聞こうと思ってさ」 「ナニガ、メアテダ?」 魔獣であるケルベロスの口は、構造的に喋るのは苦手だ。 「目当てって程のものは無いけど、もしよければ治ってから仲魔になってくれれば いいかなぁ〜なんてね。はははは」 「コトワルッ!!」 吠えるようにケルベロスが答えた。 「だろうな。こんだけ人間にひどい目にあわされたんだからな」 怒りの光を帯び始めたケルベロスの目に居心地悪そうに頭を掻きながらタケルは 呟いた。 「いいよ、駄目元の願いだったんだから」 「フンッ」 ケルベロスは鼻を鳴らすと、周囲の様子を伺い始めた。 「ミョウナトコロダナ」 「ああ、俺もそう思う」 ケルベロスの言葉にタケルが笑いながら答える。 「妙とは何じゃ!!妙とは!!」 主がこめかみに血管を浮かせて抗議の声を上げた。 「まあ、まあ」 タケルがそれを諫めるように手を振る。 「ヒーホー」 「アギャ?」 「おいっ、こらっ!!それに触るでない!!」 ダブルジャックが、悪魔合体の機械に好奇心を刺激されたらしく、あちこち 触り始めたのを見て主が慌てて止めに走る。 「まあ妙は妙だが、ここしか治せそうになかったんでな」 「フンッ、マダシンヨウシタワケデハナイゾ」 「あんたねぇ、疑い深くなってるってのもわかるけどね。もちっとわたし達を 信用しなよ」 エクシーが、呆れたように抗議の声を上げた。 「フンッ」 ケルベロスは、鼻を鳴らしそっぽを向いた。 「可愛くない奴」 「まあまあ、互いにいがみ合っても仕方が無い。で、どうなんだ?治療を受けて みるのか?」 「ナイヨウシダイ、ダナ」 「まあ、そうだよな………じーさん、説明頼むわ」 タケルがそう言いながら振り返ると、肝心の主はダブルジャック相手に悪戦苦闘 していた。 「やれやれ」 肩をすくめたタケルは、仲魔をおとなしくさせるために歩き出した。 「というわけじゃ」 主はケルベロスに悪魔合体システムを利用した治療法の説明を終えた。 「ナルホド」 ケルベロスは、床に伏せたままの姿勢で呟いた。 怒りを沈めた魔獣の目は、タケルが思っていたよりはるかに知的だった。 獣の外見とその喋り方によって知能が低く思われがちだが、ケルベロスの知能は 決して低くない。 「ワカッタ、オマエタチニカケテミヨウ」 ケルベロスは、のっそりと立ち上がると悪魔合体システムの方へと歩き出した。 タケルは、その時初めてこの魔獣がかなりの老獣であることに気付いた。 おそらく、彼なんか赤ん坊に思えるほどの長い年月を生きて来たに違いない。 「おい………」 「ナンダ?」 ケルベロスが振り返りタケルは、言葉を切った。 「………その、なんだ………うまく元通りになれるといいな」 老獣の存在感にやや気圧されそうになりながらタケルは言った。 「アア、ソウダナ」 タケルの言葉に戸惑いながらもケルベロスは答え、再び歩みを進めた。 「幸い、前にケルベロスの合体を手掛けた事がある。その時のデータを流用して 正常体へ戻す」 主は、悪魔合体システムをカスタマイズしながら誰と無く言った。 「マカセル」 短く答えたケルベロスは、ヒョイと跳ねて悪魔合体システムの上へ乗った。 「では、始めるぞ」 主の操作に従いシリンダーが下がり、ケルベロスを閉じ込める。 システムが低い唸りを上げ、シリンダーに注水が始る。 まるでパイプオルガンのような音を立てて、システムの別の部分が稼動し始める。 「頑張れよ」 誰に向かってでもなくタケルが励ましの言葉を呟く。 「再生処理開始じゃ!!」 主の叫びと共にシステムに電光が走り、シリンダー内が泡立つ。 その泡に溶かされるようにケルベロスの姿が消える。 「ここまでは予定通りじゃ」 よく見ると主の額に汗が吹き出ている。 恐らく主もかなり緊張しているのだろう。 その息遣いが遠目に見ても荒いのがわかる。 だが、その目は輝き、表情には喜びが溢れている。 (やっぱり危ねぇじーさんだな) タケルは心の中でそっと呟いた。