真・女神転生 ELSE(5)


「おいっ、そこの兄さん!!薬はいらんか?こんな世の中じゃ、どこで怪我するか
  わからんぞっ!!」
「そこの渋いジャケットの男前!!防具はいらんか?今なら格安で販売中だよ!!」
秋葉原には、瓦礫の山の間を縫うように露店が立ち並んでいた。
露店と言っても、布切れを敷いた上に商品を並べただけのものから、屋台を使った
もの、かろうじて残ったビルの一画を使ったものまで様々だ。
「お兄さぁん、寄ってかない?」
鼻にかかった甘い声で天幕の隙間から肌もあらわなアーマー姿で客引きをしてる
女もいる。
いったい、何の店なんだか、怪しい事おびただしい。
そんな、混沌とした熱気がこの街にはあった。
「噂以上の賑わいだな」
「そうね」
肩の上でエクシーが答える。
最初は人目につかないように隠れていたのだが、街の中に悪魔の姿をちらほらと
見るにしたがい外に出てきたのだ。
ピクシーは、頭の上にうつぶせに寝ている。
タケルは、嫌がったのだが、彼が嫌がれば嫌がるほどピクシーは喜んでしまい結局
なしくずし的にそのポジションを得たのだ。
「ホント、悪魔にも色々いるな」
露店で魔除けのアクセサリを売ってる老人の後ろで細工物をしてるノームを見ながら
タケルは呟いた。
「あのノームは、一般的じゃないわね。私達と同じように契約してる身だもの」
「じゃあ、あの爺さんも悪魔召喚プログラムを?」
「ううん、あの契約方法は、ずっと昔からあるやつね」
「つうと、魔法陣書いて、いけにえ捧げて、呪文を唱えて、ってやつか?」
「それに近いわね………感じからするともっとスマートな方法を使ったみたいだけど」
「ふうん」
「そこの可愛らしい妖精を連れてる二枚目の旦那っ」
タケルの横手から微かな声がし、一人の男が愛想笑いを浮かべていた。
「へへへへへ、何か、お探しでやんすか?」
揉み手をしながら男は近付いてきた。
「武器をな」
「武器っ?!それは結構っ、旦那は運がいいっ!!」
「まあ、確かにタケルのLUK指数は高いけどねぇ」
エクシーが、胡散臭げな顔で男を見ながら呟いた。
「いやぁ、お嬢さん。見掛けの可愛らしさからは想像出来ない程のしっかり者だねっ
  、あっしもびっくりでげすよ」
男は、おどけた調子で目を見開いた。
「そりゃ、どうも」
エクシーは、気の無い調子で答える。
「う〜ん、そのクールさが、また一段と素敵でやんすね」
「で、何の話がしたいの?」
「そうそう、それそれ、武器を探してるとおっしゃいやしたね」
「はいはい、おっしゃいましたわよ」
「へっへっへ、掘り出し物がいくつかあるんでやすがね」
「掘り出し物?放り出された物の間違いじゃないの?」
「ううっ、これまたきつい言葉をさらりと駄洒落で切り返すとは………脱帽もので
  やんすな」
「で、内容は?」
「へへへ、さすがにそこまでは………ここでは言えませんや」
「じゃあ、何処でなら言えるの?」
「こっちでやす」
男は背を向けると瓦礫に間に身を潜り込ませた。
「やれやれ、ついて行くのか?」
「うーん………駄目で元々、行くだけ行ってみようよ」
「そうだな、そういうのが秋葉らしくていいかもしれん」
タケルは笑みを浮かべると男の後に続いた。
「ここでやんすよ」
男は、瓦礫に周りを囲まれた狭い空地にタケル達を案内した。
そこには、トタン板で上を覆った、かろうじて掘っ立て小屋の範疇に入るかどうか
といった感じの代物が建っていた。
いや、瓦礫にもたれているから建っているとは言えないかもしれない。
「ふうん、随分と辺鄙な立地条件ね」
「へへへへへ、その通りで。おかげで客引きでもしないと商売にならねぇでやんす」
「ふうん、で、商品は?」
「ほいほい、こっちに並べてやす」
小屋の前側はカウンターになっていて、そこに商品が並べられている。
大きな品物は、カウンターの後ろや横に置かれたり、ぶら下げられたりしていた。
「で、掘り出し物は?」
「それは、旦那の望み次第で」
「剣が欲しいんだが」
「剣っ?通でやすなっ!!銃もいいけど弾を使わなけりゃならない、その点剣は」
「口上はいいから、ブツを出しなさいよ!!」
「あっ、すいやせん。前口上が長いのがおいらの悪い所でやして、日頃から
  知り合いにも『お前は前口上が長い、そんなだと肝心の話をする前に相手に
  逃げられちまうぞ』って言われるぐらいでやして」
「だ〜か〜ら〜、それが長いって言うのよっ!!」
「ああ、すいやせん、すいやせん、剣でやしたね。これなんか」
「ふうん、随分と………何か凄そうな剣ね」
「なんせ、うちで一番高い剣でやすから」
「銘は?」
「ああ、その………無銘の剣でやす」
「嘘おっしゃい!!これほどの剣が無銘のわけないでしょ!!」
「ええっと、そう言われても、文字通り掘り出し物なんで」
「文字通り掘り出し物?………もしかして、掘り起こしたの?」
「ピンポーン」
「………なるほどね」
「切れ味は、保証しやす」
「でしょうね、こりゃ余程の業物か………でなければ妖刀だわ」
「そこまで見破るとは、たいした目利きでやすな………てへっ」
「『てへっ』じゃない!!」
「取り敢えず、見せてもらおうか」
「いいの?もしかしたら妖刀かもしれないのよ」
「まっ、そんときゃ真っ先に餌食になるのはこのおっさんだろうしな」
「ひぃぃぃぃ」
「それじゃ、鞘から抜かせてもらうか」
「ちょ、ちょっと待ったぁぁぁ」
「どうした?」
「いや、その、ええっと、他の刀の方がいいかなぁ〜って」
「俺は、これが気に入ったんだが」
「それじゃ、そのままお買い上げという事で」
「買う前に刃こぼれが無いかぐらいは見ないとな」
「旦那ぁぁぁ」
「何だ?」
「くうぅぅぅ、肩のお嬢さんに負けるとも劣らぬ性格」
「何か引っ掛かる言い方ね」
「ともかく、抜くぞ」
「ひぃぃぃぃ」
「ほれ、抜くぞ」
「ひゃあぁぁ」
「ほれほれ」
「ぬあぁぁぁ」
「いつまでやってるのよ」
「いや、つい面白くて」
「タケルって結構性格が悪いのよね」
「いいでがしょう!!あっしも男だ!!腹くくって見届けやしょう!!」
「それほどのもんなのか?」
「うーん、結構危険かも」
「ふむ」
「どうしやした?あっしは覚悟を決めたんでやんすよ、今更旦那が恐くなったなんぞ
  と言うようなら………」
男が威勢良くまくしたて始めると同時にタケルは、ひょいと刀を抜いた。
「何か言ったか?」
途中で勢いを止められポカンと口を開けた男にタケルが尋ねる。
「うぐぐぐぐぐ」
「ホント、タケルって性格悪いわよね」
「妖刀では無かったようだな」
「わかんないわよ、すぐには症状が出ないのかも」
「症状ってな」
「潜伏期間が長いとやっかいよね」
「妖刀の呪いは、伝染病か?」
「よ、よかったでやすぅ〜、一時はどうなる事かと」
「そんなら、こんな剣商うなよな」
「で、いくら?」
「えっ?」
「値段よ、値段!!ただし、安くしといてよねっ、こっちも命賭けたんだからっ!!」
「それなら、あっしだって」
「こっちは三人よ!!」
「うっ………」
「差し引きしても二人分の命を賭けたんだからね!!」
「ううっ………」
「それも、こ〜んなに可愛らしい女の子の命なんだからね!!」
「うううっ………」
「安くするわね!!」
「………へい」
男は半泣きである。
「それと、銃の弾も欲しいな」
「それも安くしてくれるわよねっ!!」
「ううううう………」
「まあまあ、エクシー。そんなに苛めるなって」
「あら、苛めてるんじゃないわよ。値切ってるの」
「あたち、あれ欲しいぃ〜」
タケルの頭の上で静かに寝てたピクシーが起きるなり叫んだ。
その目は、カウンターの上のペンダントに向けられてる。
「おい、いくらなんでも大き過ぎないか?」
「ううんっ、欲しいぃ、欲しいぃ、欲しいよぉぉぉ〜」
「わかった、わかった」
「わぁ〜い」
「光り物に目が無いんだからな」
「それは、魔除けの効果があるペンダントでやすから、ちょびっと値が張りやす」
「まけてねっ!!」
「あうう………」
男は、世にも情けない顔で懐から出した算盤を弾いた。

「で、次は何を探す?防具?」
「その前に行きたい所があるんだが」
「何処?」
「ダイヤモンドワールドのあったビル」
「あっ」
「残ってるという保証は無いけどな」
「行こっ、行こっ」
「わぁ〜い、わぁ〜い」
「………あんた意味わかって無いでしょ?」
はしゃぐピクシーを見ながらエクシーが言った。
「うんっ」
ピクシーは天真爛漫な笑顔で大きくうなずいた。
「………………」
「ともかく、行こうぜ」
無言で眉間に皺を寄せ、目頭を揉むエクシーを励ますように言ったタケルは記憶を
頼りにダイヤモンドワールドに向かった。

「これはぁ〜………」
「何か怪しい建物よねぇ」
古びた建物の前で三人は呆然としてた。
「あたち、恐い」
ピクシーはそう言うとタケルのジャケットに潜り込んだ。
「しかし………この建物ってダイヤモンドワールドのあったビルより古かないか?」
「うん………どう見ても古そう」
秋葉原の一画でこの建物だけが周りと雰囲気が異なっていた。
「幽霊屋敷か、化け物屋敷って名前が似合いそうだな」
「呪いの館とか、魔の廃屋ってのでもいいんじゃない?」
「恐いよぉ〜」
「悪魔も恐れる恐怖の館にようこそ、ってのはどうだ?」
「立ち入る者、汝全ての希望を捨てよ。ってキャッチフレーズは?」
「随分な言い方じゃな」
「ん?おわっ!!何だあんたはっ?!」
「人にものを尋ねるならば、自分の名前から名乗るのが礼儀というものじゃろ?」
「うっ、お、俺の名はタケル」
「私はエクシー、そこの中で震えてるのはピクシーよ」
「ほう、わしはこの邪教の館の主じゃ」
「邪教の館?………失礼しました」
「おいっ、何故帰る?」
「俺等、あんまりそういった、その、宗教とかとは関わらないようにしてるんで」
「こらっ、待たんかいっ!!」
「じいちゃん、随分と足腰が丈夫ね」
三人の前に回り込んだ老人にエクシーが感心したように言った。
「ふぉっふぉっふぉ、この稼業は結構体力が必要なんでな」
「で、何の用なの?」
「おぬし、悪魔召喚プログラムを持っておるな?」
「あっ、このパターンは………」
「パターン?」
「いえ、こっちの事」
「仲魔もいるようじゃな」
「はいはい、そうですよ。では、そういう事で」
「待てと言っておる!!」
「また、回り込まれてしまった………ただもんじゃねぇな」
「より強い仲魔が必要なんじゃろ?」
「いや、別に」
「ふぉっふぉっふぉ、隠しても無駄じゃ」
「別に隠してないぞ」
「嘘はいかんな、嘘は」
「だから嘘じゃないって」
「この邪教の館ではな、悪魔合体の儀式を無料で行っておる」
「………人の話を聞かんじいさんだな」
「お主の仲魔を合体させ、より強力な悪魔へ変える事が可能なのじゃ」
「で、代わりに幸せを呼ぶ印鑑だのありがたい仏像だのを買わされるんだな」
「うちは、新興宗教とは違うわいっ!!」
「じゃあ、なんでタダでそういう事をしてるんだ?」
「ふぉっふぉっふぉっ、それはじゃな、真理のためじゃ」
「真理?」
「そう、より高位の悪魔を作り出すための組み合わせを知るのが、わしにとっての
  真理追求なのじゃ!!」
「じゃあ、勝手にやってれば」
「うむむむ、しかし問題があってな」
「問題?」
「そうじゃ………わしは戦闘は全然駄目なんじゃ!!」
「………」
「だから、こうして仲魔を連れた悪魔使いをひたすら待っとるのじゃ!!」
「………」
「だから、悪魔合体させてくれっ!!じーちゃん一生のお願いじゃ」
「あのな………」
「剣合体でもよいぞっ!!なんなら特別サービスで突然変異を」
「残念だが、俺にその気はない」
「そんなこと言わずに、その妖精を合体させれば、きっと強力な仲魔に」
「いらんっ!!この子達をどうかしようなんか思ってない!!」
「し、しかし、悪魔は人間と違って能力は成長せんぞ」
「構わん、俺が守る」
きっぱりと言ったタケルの言葉に肩の上のエクシーは胸が高鳴り、真っ赤になった。
「しかしじゃな」
「このままで能力だけを成長させれるなら考えてもいいけどな」
「無理を言うでない、悪魔というのは個体というより種族といった方が正しい存在
  なのじゃ、能力を上げようとしたら、より高位の悪魔になるしかない」
「そこを何とかするのが、真の真理追求者じゃないのか?」
「うっ………しかし………まあ、確かに研究の余地はあるかもしれん」
「まっ、研究が完成したら、また声をかけてくれや」
「うっ………どうじゃ、せめて悪魔合体の装置だけでも見ていかんか?」
「おじいさん、もしかして寂しいの?」
エクシーが、すがりつくじーさんに向かって聞いた。
「い、いや、さ、寂しくなんかないぞ、た、ただ、その、わしの研究成果をだな」
「やっぱり、寂しいんだ」
「寂しくなんかないと言うとろうがっ!!」
「無理も無いわよねぇ、こんな薄気味悪い館で一人暮らしじゃ」
「こ、こらぁっ、勝手に決めつけるなっ!!」
「うんうん、わかる、わかる。素直になれないのね」
「人の話を素直に聞かんかっ!!」
「じーさん、あまり怒鳴ると頭の血管が切れるぞ」
「うるさいわいっ!!」
「タケル、可哀想だから見学だけしてあげましょうよ」
「そうだな、これもボランティアと思って」
「わ〜い、見学、見学」
「お、お、お、お、おまえらなぁ〜」
じーさんは、顔を真っ赤にして体を震わせた。

「で、これが悪魔を情報化する装置じゃ、ここで変換された悪魔情報は、中央の
  コンピューターに送られ別の悪魔情報と合体プログラムに従ってミックスされる
  そして、新しい情報として出力された情報に従って再構成され、あそこに出現する
  わけじゃ」
「悪魔を情報化?悪魔召喚システムに似てるな」
「その通り、元々このシステムは悪魔召喚システムの発展・応用型として生まれた
  ものでな」
「ほう」
「同好の士が、ネットワークで連絡を取り合い完成させたのじゃ」
「なかなかハイカラなじーさんだな」
「今でも全国で13箇所の邪教の館で研究が続けられておる」
「なんかチェーン店みたいね」
「なお、今週は特別月間として10回の合体につき一回の突然変異をサービス中じゃ」
「ますます、チェーン店みたい」
「どうじゃ?一つ試してみんか?」
「だから言っただろう、俺はその気は無い、と」
「残念じゃのぉ、例の三人組が来なくなって以来、合体依頼が途絶えて久しいんじゃ」
「三人組?」
「なんでもこの世界を救うとか噂されてる男達じゃ」
「ふうん、そんな酔狂な奴等がいるのか」
「なんでも、今では浦安方面にいるらしいがの」
「よくわかるな、こんなメディアが崩壊した世界で」
「ふぉっふぉっふぉっ、邪教の館ネットワークはまだ健在じゃからの」
「なるほど、しかし、まだ無事な回線が残ってるとは」
「探せばあるもんじゃよ、ただし、管理システムは停止してるからの。使えるように
  するには骨が折れたわい」
「ううむ、侮れないじーさんだわ」
「ふぉっふぉっふぉっ」
「ふむ………ところで悪魔データを改変出来るなら能力値だけを上げることも
  出来るんじゃないのか?」
「ううむ、それがじゃな。悪魔合体プログラムは一種のブラックボックス状態でな」
「なんじゃ、そりゃ?」
「お主の悪魔召喚プログラムと同じじゃよ。何人かの有志が解析しておるが、未だに
  解析できとらん」
「なるほどね」
「というわけで、今の所合体しかできんのじゃ」
「それじゃ、悪魔能力アップシステムが完成したらお願いするか」
「うむむむ、残念じゃ」
「ところで、ここでは悪魔預かりサービスはやってないのか?」
「なんじゃ、そりゃっ!!わしはモンスターじーさんかっつ!!」
「いやぁ、仲魔の数が増えて、これ以上データが入らないんだ」
「そういう時には悪魔合体!!パワーもアップして数も減る!!」
「うーむ………」
「それに、うまくいけばピチピチギャルに変身じゃぞ」
「うううむ、それは………マジで迷うな」
「迷うなっ!!」「迷うなですぅ」
エクシーとピクシーが両肩から蹴りを放った。

「まったくもう」「もう、ですぅ」
「だから、あれは冗談だって」
邪教の館を出て以来、エクシーはご機嫌斜めである。
ピクシーの場合は、エクシーの真似をして喜んでるだけだが。
「どうかしら?タケルって結構女好きだからね」
「だ〜か〜ら〜、さっきから何度も謝ってるじゃないか」
「シルフを仲魔にする時も歯の浮くような台詞を並べてたし」
「だって、仲魔にするには好意的にするのがいいって、お前が」
「あのねぇ、あれは好意的というより、完全に口説いてたわよっ!!」
「やきもちか?………ふっ、馬鹿だなぁ、俺が愛してるのはお前だけだよ」
「な、な、な、何馬鹿な事、い、言ってるのよ!!」
エクシーは全身真っ赤だ。
「あははは、冗談だよ」
「じょ、じょ、冗談ですってぇ〜………この、ろくで無しがぁぁぁ!!」
「無しがぁ〜、きゃはははは」
大きく飛び上がったエクシーが勢いよく両足でキックを放ち、ピクシーが面白そうに
真似をする。
「ぐあっ、わ、悪かった、謝る、謝るから」
「この甲斐性無しの、根無し草の、すけべぇ男がっ!!」
「すけべぇ男がぁ〜、あはははは」
「だぁぁぁ、たんま、たんま、ちょっと待て、話せばわかる」
「うるさいっ!!」
「うるしゃい」
「頼むから………周りの連中がみてるじゃないか」
「えっ?」
エクシーがタケルの言葉に周りを見ると
「やれやれぇ」
「姉ちゃん、頑張れ」
「そんな甲斐性の無さそうな奴より俺の所に来なよ」
とか勝手な事を言う野次馬にいつの間にか囲まれていた。
「うっ………」
さすがにエクシーも恥ずかしくなったらしく動きが止まる。
その横でピクシーがわけもわからず「あはははは」と笑っている。
「今回はこれくらいで許してやるわっ」
エクシーはそう言うとプイッと横を向いた。
「はぁ〜、助かった」
野次馬が「もう終わりかよ」と不満そうな声を上げ、タケルが肩の力を抜いた時
ガチャガチャという音と共に人垣の一画が崩れた。
「ほう、やはりな………妖精を連れているということは新顔の悪魔使いか」
白と青を基調にした服と磨き上げられた金色の防具がその男達の身元を表していた。
メシア教の巡回聖騎士団。
布教と浄化と称して反発する連中に片っ端から天誅を下している輩である。
「ほほう、年も若い。役に立ちそうだな」
総勢五人の先頭に立つ男がにやりと笑った。
他の者は黙って後ろに控え周りに無言の圧力を発散している。
「おい、お前。名前は何と言う?」
鷹揚な態度で男はタケルに声をかけた。
「エクシー、ピクシー、行くぞ」
「はいはい」「あい」
「おいこらっ!!何処へ行く気だ?!」
「俺はあんたの部下ってわけじゃない、何処に行こうと俺の勝手だ」
「貴様っ!!聖フランシス隊長に何という無礼な態度を!!」
後ろに控えていた若者の一人が叫びながら剣を抜く。
「まあいい、ダビデ。剣を収めろ」
「フランシスにダビデ………純日本人的顔立ちには似合わない名前だな」
しらけたようにタケルが呟く。
「オホン、見ての通り我々はメシア教の者だ。私はこの小隊を任されている
  フランシスという」
「俺はタケルだ………ところで本名は何て言うんだ?田中さんか?鈴木さんか?」
「………………昔の名は捨てた」
「なるほど、それじゃ、フランシスさん。また」
そう言って手を振ったタケルは再び背中を向けた。
「だから待てというのに」
フランシスは己の寛大さを示すように笑いながら言った。
「まだ、何か?」
「用はまだ済んどらんぞ。実はお前を我がメシア教にスカウトしたい」
「結構です」
そう言うとタケルは再び足を踏み出した。
「そうはいかん、断れば異教徒としてそれなりの扱いをせねばならん」
「やれやれ」
「お前にとっても悪い話では無いと思うがな」
「それは、そっちの思い込みだろ」
「そうでもあるまい。うちに来れば食うのにも困らんし、色々といい思いも
  出来るぞ」
「別に今でも食うのには困ってないし、それなりに楽しい暮らしもしてる」
「そうつっぱるな」
フランシスは、まるで営業セールスのような笑顔を浮かべ話し続ける。
「何も我々は個人的な利益を求めてるわけではない。この荒廃し混乱している
  世界を元の秩序ある姿に戻そうと努力しておるのだ」
「さっきと随分話の内容が違うな」
「違わんさ、先ずは身近な所からまともな生活を作っているに過ぎない」
「ほう」
「いつかは全ての者達が食べるのに困らず、心地好く過ごせるようになる。いや、
  せねばならんのだ!!」
フランシスは周りの人間を意識しながら話を続ける。
つまり、タケルをネタに布教活動を行っているわけだ。
「そのためにも今はお前のように人並外れた力を持つ者が必要なのだ!!」
再びタケルを見据えてフランシスは言葉を切った。
「買いかぶり過ぎた、俺は臆病なんだ。そういう事には向かん」
「それは心配に及ばん。我等の元に来れば立派な戦士として指導してやろう」
「そういうのも向かんのでな。この話しは無かった事にしてくれ」
「ふむ、まだ己の立場というものがわかっていないようだな」
フランシスの笑顔の仮面が剥がれ、別の笑みが浮かぶ。
「ほう、そっちの方がお似合いだぞ」
タケルはゆっくりと間合いをはかった。
「残念だよ、お前ならいい部下になると思ったんだがな」
フランシスは後退し、代わりに背後の男達が前に出る。
「それはどうも」
タケルはゆっくりと腰の後ろに手をやる。
雰囲気を悟ったエクシーはピクシーを連れタケルの背後へと動く。
周りの野次馬も戦いの予感にざわめきと共にその場から逃げ始める。
しかし、完全に逃げ出すわけでなく、安全と思われる所まで逃げると遠巻きに
戦いの推移を見守る。
「やれ!!」
フランシスの声と同時に男達が一斉に動く。
「ピクシー!!」
「あいっ、ジオンガ!!」
閃光が走り男の一人を直撃する。
だが、男は表情も変えずそのまま突っ込んで来る。
「やぁん、恐いよぉ」
その無表情な顔にピクシーが怯える。
「ちっ、薬を使ってるって噂は本当らしいな」
タケルは銃を抜きながら呟く。
タン、タン、タン、音を連続させワルサーが火を吹く。
だが、体に開いた穴も血もものとせず男達は突っ込んで来る。
「ちちっ、多勢に無勢かよ」
「タケル!!」
エクシーの叫び声を耳にしたタケルは銃を構えたまま反対側の腕をそちらの方に
上げた。
エクシーは目を閉じるとタケルの腕のポケットにあるパームトップコンピューター
に精神を集中した。
次の瞬間、ポケットの中から光が漏れ、塊となって飛び出す。
空中で膨らみ変形した光は、悪魔の姿を取り戻し地上に降り立った。
「ヒーホー、れれっ?ヒャーホォー!!」
目の前に迫る無表情な男達の群れにジャックフロストは悲鳴を上げた。
そして、素早く後退するとタケルの後ろに身を隠した。
「おいっ、何やってるんだ?」
「ヒーホー、オイラは平和主義者だホー」
「でぇぇぇいっ!!んな悪魔がいるかぁぁぁ!!」
ジャックフロストの後頭部にエクシーの蹴りが入る。
ガキンッ!!タケルの剣が騎士団の第一撃を受ける。
「ぐっ、この馬鹿力が」
思わぬ力にのけぞりそうになりながらタケルは必死に堪えた。
そのタケルを別の男の剣が襲う。
「ジオンガ!!」
その男の背後からピクシーの魔法が飛ぶ。
そのショックでわずかにそれた剣がタケルの肩に当たり、アーマーが火花を散らす。
「ほら、あんたも働けって!!」
「ヒーホー………」
「それとももう一発蹴りをくらいたい?」
「ヒャーホォ、ブフーラ!!」
騎士団は冷気により半数が固まる。
「よしよし」
うなずいたエクシーは再び精神を集中する。
剣を切り結んだタケルの腕のパームトップコンピュータから再び光が飛び出し、
カボチャ頭の悪魔に変わる。
ジャックフロストと魔界の漫才コンビと並び称されるジャックランタンだ。
「アギャギャギャギャ、アギャ?」
「あんたは、あのおっさんを片付けて」
エクシーは、後方で戦況を見ているフランシスを指差す。
「へい、アネゴ」
ジャックランタンは、戦いの場を飛び越しフランシスに迫った。
「くっ、お前ごときに」
フランシスはマントの下から腕を出した。
「げっ、あれってアームターミナル?」
「ふっ、貴様だけが悪魔使いでは無いぞ」
フランシスは素早く二の腕のキーボードを叩いた。
「いでよ、我が僕よ」
フランシスのアームターミナルから光が飛び出す。
それは大きさを増しながら地上に降り立つと咆哮を放った。
「きゃぁぁぁ!!マ、マジィ〜、ケ、ケルベロスじゃないのっ!!」
エクシーは、その正体に気付いて悲鳴を上げた。


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