「くそっ、きりがないな」 タケルは、壊れたマネキンのようなダミーに剣を突き立て留めをさすと、後ろに 身を引いた。 「頑張って!!後、二体よ!!」 「さっきも同じ台詞言ってなかったか?」 振り向く事なく、タケルは背中越し言った。 「仕方無いじゃない、仲間が来るなんて思わなかったし」 「まっ、確かにな」 二体のダミーを交互に見ながらタケルは間合いをはかった。 「ピクシー、ジオンガは撃てるか?」 「駄目ぇ、もう品切れぇ」 幼児のような舌足らずな声が、タケルの問いに答える。 「ちっ、そんじゃ、せめて傷を回復出来ないか?」 タケルの体のあちこちに浅い傷が刻まれ、血が染み出している。 「ごめぇ〜ん」 「となると早いとこやっつけるしかないか」 タケルは、模擬刀を大きく振りかざすと、一気に間合いをつめ満身の力を込めて 振り降ろした。 ガキッ!!刀はダミーに食い込み、そのまま大きく切り裂いた。 キリキリキリ、歯車がきしるような音を立ててもう一体のダミーが近付いて来る。 「おらよっ」 それを察知したタケルは、動きを止めたダミーに足をかけ、刀を一気に引き抜く。 バキッ、「うわっ、刀が」 無理な攻撃のせいか?引き抜く角度が悪かったのか? 模擬刀は、音を立て折れた。 「タケル!!」 エクシーが悲鳴を上げる。 「これでも食らいやがれ!!」 パン、パン、パン、刀を見切り、タケルはワルサーを連射した。 ピシッ、ピシッ、ピシッ、ダミーの体に穴があき、亀裂が走る。 「くっ、タフな野郎だな」 動きを止めないダミーにタケルは、焦りを覚えた。 「だが」 タケルは、ワルサーを構え直すと、再び引き金を引いた。 カチン、「げっ、弾切れかっ?!」 後ろに身を引こうとしたタケルにダミーがギクシャクと襲いかかる。 「タケル!!」 エクシーが、叫びダミーに向かう。 「こらっ、離せ!!それは、わたしんだっ!!」 エクシーの小さな拳がダミーを打つ。 「おいおい、そりゃどういう意味だよ」 ダミーの下からタケルの声がした。 「えっ?」 「よいしょっと、どうやら断末魔だったようだな」 ダミーの体がグラリと動き、それを押しのけるようにタケルの顔が現れた。 「な、な〜んだ、無事だったんだ………心配して損しちゃった」 エクシーは、プイッと横を向くとピクシーの方へ飛んで行った。 「そういう言い方は、無いと思うぞ」 タケルは体の埃を払いながら立ち上がった。 「ふんっ、イ〜だ」 振り向いたエクシーは、指で口を広げながら舌を出した。 「しかし、これが東京とはな………」 荒れ果てた廃墟のような瓦礫の山を見ながらタケルが呟く。 タケルの記憶では、一ヶ月ほど前まで、ビルがそびえ、人が行き来していたのだ。 「あの閃光に包まれてから何年も経ってるとはな」 「だから説明したじゃない、異空間に投げ出されて時間が止まってたんだって」 「う〜ん、でも、何か、こう………引っ掛かってるんだよな」 「な、何わけの、わ、わからない事い、言ってるのよ!!」 「うん、俺もそう思うんだけど………う〜ん」 「そ、それより、今夜の寝場所を確保しないと」 「そうだな………あっちの方なら雨風をしのげる程度の廃屋があるだろう」 比較的破壊の後が少なそうな一角を見ながらタケルが答えた。 「そうね」 エクシーは、タケルの言葉に返事をするとスイッとそっちに向かった。 リーン、リーン。 大破壊の前と変わらぬ虫の音が、夜の闇に響く。 崩れかけた廃屋の中で火がユラユラと揺れる。 「これからどうするつもり?」 すぐ前に座ったエクシーがタケルを見上げて尋ねた。 ピクシーは昼間の疲れからだろう、タケルの横手で布団代りのタオルにくるまって 早々と眠っている。 「そうだな、取り敢えず代わりの剣を手に入れないとな」 刃の折れた模擬刀を見ながらタケルが答える。 「で、その後は?」 「ううん、その後って聞かれてもなぁ」 タケルは困ったような顔で宙を見る。 「学校もバイト先も家もとっくに無くなってるしな」 苦笑いを浮かべタケルが呟く。 「そうね………先の事まで考えられないわよね」 「そういう事だ。今を生きるのが先決だ」 「ところで、仲魔にした悪魔だけど」 「ああ、かなり増えてるな」 「どうして使わないの?」 「マグタイトの節約、それに、俺の腕を上げるため」 「腕を上げる?」 「ああ、この世界は前の時代と比べるとすっごくハードだろ?」 「うん」 「だからもっと強くならんとな」 「でも、それなら仲魔と一緒に戦っても」 「俺さ、軟弱だから強い仲魔がいると頼っちゃうから」 「………でも、死んだら元も子も無いと思うけど」 「まあ、それもそうだけど………実際は、むさくるしい悪魔より可愛い悪魔と 一緒に旅する方が好きなだけかもな」 「あ、あのねぇ〜」 「それに、いざとなったらエクシーのアネゴがサポートしてくれるんだろ?」 「そ、そりゃ………そうだけどさ」 「だったらいいじゃん」 「ううっ………」 「さあ、そろそろ寝るぞ。明日は秋葉原に行こう」 タケルは噂で復興の兆しのある街の中から一つの名前を上げた。 「武器を買いに?」 「ああ、それとどんな風になってるか知りたいし」 「そうだね、ともかく今の世界の情報を集めないとね」 「そういう事、じゃあ、おやすみ」 そう言うとタケルは、壁に背をあずけて目を閉じた。 エクシーは、取り残された形でタケルの前に座っていた。 (そうだね、先ずは生きる事、だね) タケルの顔を見上げながらエクシーは、心の中で呟いた。 (おやすみ) 心の中で言ったエクシーは、タケルから離れようとして、止まった。 (ちょっとだけならいいかな?) エクシーはタケルの顔をうかがいながらふわりと空中に飛び上がり、ゆっくりと 近付いた。 (タケル………) 小さな体を預けるように、男の胸にしがみつく。 頬を寄せると心臓の音が耳に聞こえ、呼吸をすると微かな汗の匂いが混じった体臭が かおる。 (私も馬鹿よね、相手は人間なのに………まったく、よりによって) 胸にもたれるようにしてエクシーは寂しそうに笑った。 (でも、仕方無いか………こればっかりは、理屈じゃ無いもん) 「ううん………ゆうこ………」 「えっ?」 タケルの寝言にエクシーの体が硬直する。 (今、何て………まさか、覚えてるの?いや、そんなはずは………そうか、寝てる 時は、意識下との交流が起こり易いんだ) 擬似空間の記憶は、意識下、つまり潜在意識の奥に欠けらのような形で存在する。 例え催眠療法等を使用しても、確かな形として引き出す事は出来ないだろう。 だが、抽象的なイメージとしてなら現れる事はありうる。 きっと、潜在意識に収まりきれない思いが、やや境界が弱くなる夢の世界に 溢れているのだろう。 エクシーは、そう思うとちょっぴり嬉しくなった。 (忘れたわけじゃ無いんだね) 浮かんだ笑顔を胸のうずめエクシーは、アニキだったタケルとの生活を思い出して いった。 「おい、起きろよ」 「ううん………何よぉ、アニキ………きゃっ!!」 目の前にタケルの顔をアップで見たエクシーは、一気に目が醒めた。 「な、何よっ!!いきなりっ!!」 「何怒ってんだよ?」 「お、怒ってるわけじゃないわよっ!!た、ただ、いきなり顔近付けるから」 「近付けるって………お前が俺に抱きついてるんだけど?」 「えっ?あっ、あわわわ」 自分の状態を知ったエクシーは、慌てて飛びのく。 どうやら、あれからあのままの状態で眠ってしまったらしい。 「ご、ごめん」 背中を向けたエクシーの顔は真っ赤だった。 (ど、道理で夢が妙にリアルだったはずだわ) 「別に謝んなくてもいいけど………そう言えば、なんか、変な夢を見たような」 「夢?ど、どんな夢?」 背中を向けたままエクシーが尋ねる。 「何か、お前さんにそっくりな女の子が出て来て、俺に向かって色々話すんだ」 「ど、どんな事?」 エクシーの心臓が、一気に飛び跳ねた。 「何て言うか………忘れた」 タケルは、そう言って小さくなった焚き火に木を足してかき混ぜた。 本当は断片的に覚えていたが、『私に事、好き?』なんて聞かれたなんて恥ずかし くて言えない。 ましてや、それに『ああ、好きだよ』と答えて抱き締めたなんて絶対に言えない。 「そんな、思い出しなさいよ!!」 「知らん、忘れたと言ったら忘れた」 「ケチ!!」 「『ケチ』ってなぁ」 「むにゃむにゃ、おはよぉ〜」 二人の騒ぎを聞きつけてピクシーが起き出して来る。 「ああ、おはよう」 「あら、起きたの?………ほらほら、髪がくしゃくしゃじゃない」 エクシーは、起き抜けでボォ〜としているピクシーの側に舞い降りると歯ブラシの 先を切り取って作ったブラシを荷物から取り出し、髪を撫でつけ始めた。 「ほらっ、ジッとしてる」 まだ、目が醒めきってないピクシーは上体をユラユラと揺らす。 「いいもんだな、そういうのって」 強くなった焚き火でお湯を沸かしながらタケルが言った。 「何が?」 髪を撫でつけながらエクシーが言葉を返す。 「何か、その、家庭的で………お母さんって感じでさ」 「ピィッ!!痛いっ!!」 いきなりピクシーが、悲鳴を上げた。 「ご、ごめんっ………ほらっ!!あんたが変な事言うから手が滑ったじゃない!!」 「変な事って………別におかしな事言ってないぞ」 「う、うっさいわね」 「痛いっ、痛いっ、痛いよぉ〜」 「す、少しぐらい我慢しなさいっ」 「だってぇ〜」 ピクシーの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。 「おいっ、ちょっと貸せ」 「あっ、何すんのよっ」 「今のお前に任せてたらピクシーにかつらが必要になっちまう」 「うっ、な、何よ!!だいたいあんたが」 「どうだ?」 「うん、痛くない」 「いけないお母さんだよなぁ」 「うん」 「ぐっ、ぐががががぎぎぎぎ、だ、誰がお母さんよっ!!」 「よし、まあこんなもんだろ」 「ありがと、タケルお兄ちゃん」 「なんの、なんの」 「………………このロリコン」 エクシーが、ボソッと呟く。 「ち、違うぞ!!俺はロリコンなんかじゃ」 「その割には、お優しい事で」 「仲魔に優しくするのが、いけないって言うのかよっ?!」 「あ〜ら、小さな女の子の夢も見たんでしょ?」 「夢の事まで知るかっ!!」 「どうかしら?夢は願望の現れって言うしね。どんな夢を見たのやら」 「ど、どんな夢だっていいだろ!!」 「そう、人に言えないような夢なんだ」 「な、何でそうなんだよっ」 「だったら、教えてくれてもいいじゃない」 「わ、忘れたって言っただろ」 「本当かしら?あっやしいわね」 「あのなぁ………何か、今日お前おかしいぞ」 「………」 エクシーは、プイッと背中を向けた。 「………ふむ………ちょっと来い」 「きゃっ、何よ!!ちょ、ちょっと何処触ってんのよ!!」 タケルは、エクシーを後ろから捕まえると胡座をかいてその上にエクシーを乗せた。 「な、何する気?ま、まさか………」 エクシーが、何か危ない事を想像し、体を震わせる。 そのエクシーの髪にブラシが当てられた。 「えっ?」 「お前も結構髪がバサついてたからな」 「う、うん………」 「ほら、うつむくなって」 「ごめん………」 「別に謝らなくても」 「うん………」 エクシーは、自分の髪がサラサラと音を立てるのを聞いた。 それに混ざるように、サッ、サッという髪をすく音が聞こえる。 体が石になったように感じた。 「何だな、思えば長い付き合いだな」 「そ………そうね」 「何だ?いきなり声が小さくなったな」 「………………」 「お腹空いたぁ〜」 「ああ、ちょっと待ってろ」 ピクシーの声にタケルが答える。 「………もう、いいよ。食事にしよ」 「そうか?」 「うん、ありがと」 エクシーは、タケルの足から飛び降りると飛び上がった。 「そんじゃ、食事にするか」 「わぁ〜い」 タケルの言葉にピクシーがはしゃいだ声を上げた。 「んぐんぐ」 ピクシーは蜂蜜をといたお湯を飲み、パンをかじる。 「しかし、マグタイト以外でも大丈夫とは思わなかったな」 「大丈夫ってわけじゃないわ」 「うん?」 「マグタイトは必要よ、ただ、食事すると自力で体内にマグタイトを作り出す事が 出来るの」 「ふうん」 「でも、あまり多量じゃないからあくまでも補助的だけどね。それに効率悪いし」 「まあ、どっちにせよ節約できるのは嬉しいな」 「食料を調達する方が、よっぽど手間だと思うけど」 「まあ、そういうなよ。俺一人で食事するってのも侘しいし」 「私達も食事は好きよ。マグタイトは味も無いし、満腹感も無いからね」 「あたちもご飯好きっ」 「というわけよ」 「なるほどね」 エクシーが肩をすくめ、タケルが苦笑する。 「でも、実際、食事の併用のおかげでかなりのマグタイトが溜まってるわ」 「そりゃ、いい事だな」 「反面、マッカがイマイチ」 「それは仕方ないな。それに、マッカはなるべく使う方がいいだろう」 「何で?」 「マグタイトは悪魔しか狙わないが、マッカは人間も狙うからさ」 「それは、そうだけど」 「物に代えるにしてもあまりかさばるようなものは避けたいな」 「でも、食料は必要よ」 「うん、できればベースになるアジトが欲しい」 「アジト?」 アニキとゴンだった時を思い出し、エクシーの心臓がドキリと跳ね上がる。 「ああ、寝起きができて食料や器材を保存出来るようなねぐらだ」 ドキッ、ドキッ、ドキッ、エクシーの胸が早鐘のように脈打つ。 「で、でも、それだと行動が制限されるじゃない」 「いいんじゃないか、別に」 「で、でも」 「俺達は別にこの世界を隅々まで調べてるわけでもないし」 「そ、そりゃ、そうだけど」 「おうち?」 「そうだ、おうちだ」 タケルは首を傾げるように彼を見上げたピクシーに向かって笑いかける。 「わーい、おうち、おうち」 「いいの?」 「ああ、だけど探すのは大変そうだな。そうなると他の仲魔も召喚しないと不公平 だろうし………かなりの広さが必要だな」 「げっ、本気なの?」 「一応な」 「………あんたって変わってるわ」 「そうか?」 「そうよ、普通そんだけの力を持ってたら、もっとでっかい事考えるもんよ」 「でっかい事?」 「例えばメシア教の幹部目指すとか」 「あの連中とは肌があいそうにないからなぁ」 「じゃあ、ガイア教」 「あっちの連中とは趣味が合わない」 タケルは笑いながら答える。 「じゃあ、両方まとめて締め上げるとか」 「意味無いと思うけど」 「この世界を支配出来るかもしれないわよ」 「この瓦礫と貧困と殺戮の世界をか?そんな虚しい世界の覇権を欲しがる奴は よっぽどの馬鹿っ!!だぞ」 「その上で自分の好みの世界を作り上げたらいいじゃない」 「そんな苦労の割には実入りの少なそうな事業に精出すのは、馬鹿を通り越して 大間抜けだぞ」 「うっ、言えるかもしれない」 そういった馬鹿や大間抜けが、高位の悪魔にぞろぞろいる事も知らずにエクシーが 言葉につまった。 「そういう道化仕事は、頭の足りない連中に任せてだな」 「任せて?」 「俺達は、取り敢えずアジトを作る」 「う〜ん………何か、イマイチ趣旨がわからないけど」 「生活の安全を確保するって事さ」 「安全ねぇ」 「このまま根無し草の生活を続けるわけにもいかんだろ」 「そりゃそうだけど」 「だったら、な」 「そうね、でも、アジトに適した場所が見つかるかしら?」 「それは探してみないとわからんな」 「それじゃ、秋葉原に移動しつつ探しますか」 「そういう事………ピクシー、もうそろそろ行くぞ」 コップに顔を突っ込んで底に残った蜜を舐めてる妖精にタケルは声をかけた。 「ふぁい」 コップの底から仲魔の声がする。 「やれやれ」 蜜だらけになった顔と手足と髪の事を考えながらタケルは溜め息をついた。 「武器ねぇ」 秋葉の街中からわずかに離れた所で寝っ転がっていた男とタケルは話をしていた。 情報提供料は、相手の希望で食料だった。 タケルが手に持った保存食に目を奪われながら、男は言葉を探していた。 「残念だが、俺はそういうのと縁が無いから」 男の傍らには鉄パイプにボロ切れを巻いた物が転がっている。 そいつが男の身を守る武器というわけだ。 「ただ、秋葉の中心はまだ色々と残ってるらしくって、それを元手に商売してる 奴等がいるってのは確かだぜ」 「そうか、サンキュー」 タケルは男に保存食を投げるとその場を離れた。 「今のどう思う?」 タケルのジャケットの内側からエクシーの声がして来る。 「嘘では無いと思うな、噂と同じだし」 「で、そんな情報に食料を恵んでやったわけ?」 「恵んだわけじゃない、情報に対する報酬さ」 「それにしては、随分と気前がよくない?」 「まあな、でも、おかげで襲われる事も無かったろ?あんまり値切ると食料目当てに 飛びかかって来たかもしれんぞ」 「あんな奴、恐くもなんともないわ」 「確かにそうかもしれんが、敵を増やす事はあるまい?」 「そうね、確かにゴタゴタは避けたいわね」 実際、ここに来るまでに何度か悪魔の類に遭遇し、かなりの弾薬を消耗している。 どうやら、秋葉の覇権をあらそってガイア教徒とメシア教徒が小競合いしてるらしく 人間まで襲いかかって来る始末だ。 「ああなると、人間も悪魔も変わらんな………いや、話が通じ難い分始末に悪い」 「まったくね。自分等の考えに絶対的な賛同をしない奴は、即成敗だもんね」 「悪魔の方が可愛く感じるようになったら人間もお終いだな」 タケルは、少し虚無的な苦笑を浮かべた。 「人間にも悪魔にも色々いるって事よ」 「そりゃ、そうだな。個人差があるもんな」 「まあ、悪魔と人間じゃ、かなり違うけどね」 「どういう風に?」 「悪魔は種族の集合意識が強いのよ」 「???」 「例えば、ピクシーの場合」 「呼んだぁ?」 同じようにジャケットの内ポケットにいたピクシーが、反応した。 「呼んでないわ」 「ふうん、そう」 そう言うと、ピクシーは再び体を丸めた。 「個体としての意識とピク………種族としての意識も持ってるの。ううん、それが 融合して一つになってるって感じかな?」 「ふうん………」 「わかって無いでしょ?」 「いや、なんとなくわかるんだが、実感が」 「つまりね………ほら、仲魔に誘うと、みんなちょっと考え込むでしょ?」 「ああ」 「あれはね、考えてるというより集合意識から過去に同族が遭遇した事があるか? その時どんな行動をしたか?強さはどれくらいか?なんかの情報を引き出してる というか………思い出してるのよ」 「………そうだったのか」 「そっ、だから過去に同じ種族に対し、敵対的な行動をしてると、いきなり攻撃を 食らったりするわけ」 「ううむ、まるで生きてる分散処理型ネットワークだな」 「問題も無いわけじゃないけどね」 「問題?」 「力の弱い悪魔って、その分数が多いのよね」 「そこら辺は、普通の生物と同じだな」 「だから、その分集合意識も強いわけよ」 「つう事は?」 「わからない?相対的に個体としての意識は小さくなって、思考能力に制限が かかる事になるの」 「………ああ、つまり、ピクシーが幼稚なのは」 「呼んだぁ?」 「ああ、すまん、別に呼んだわけじゃない」 「ふうん、そう」 返事をしたピクシーは、今度は体をもぞもぞと動かし始めた。 「おしっこぉ〜」 「わっ、何だ?いきなり」 「おしっこぉ〜、おしっこぉ〜、もれちゃうよぉ〜」 「わっわっわ、たんま、たんま、エクシー!!」 「はいはい、ほら、こっちでしましょうね」 先に飛び出したエクシーが、ピクシーを先導して瓦礫の間に消える。 「やれやれ………しかし、妖精がトイレとは………イメージが丸潰れだな」 二人が消えた方をぼんやりと見ながらタケルは呟いた。