10.13鳥栖×甲府(at沖縄)観戦記
   いくら蹴球好きでもやってはいけない事

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 10月に入って筆者は休暇を取り、八重山は離島巡りの旅を満喫していた。そして最終日はおまけということでJリーグ初の沖縄開催「鳥栖×甲府」を見ることにしていた。また出発前にオフ会の仲間に、試合終了後即羽田に戻るのでその足で飲み会をしようなどと言っていたりもした。
 旅が始まりしばらくすると、めりけんの攻撃が始まり那覇が注目を浴びる存在になってしまった。まぁ離島にいるときはまったくといっていいほど関係ない話だったので気にしていなかったのだが、13日が近くなるにつれだんだん不安になっていた。ただでさえタイトなスケジュール[15:00試合開始(沖縄市)〜15:50頃前半終了後競技場を後にし空港へ向かう〜17:40羽田発の飛行機に乗車〜20:00羽田着]なのに、空港のテロ警戒に備えての厳重なチェックがこれに加わるのだから、不安が増すのも無理は無いことである。
 ということで前日の時点で北屋店長のBBSにおいて試合は見に行くのを止めたと発表していた。そして試合当日、石垣から那覇に移動した際にも空港のカフェで再度行かないことを宣言していた。ついでに12:00頃届いた初代崖淵三郎氏からのメールでも宣言していた。
 そんな流れがふとしたきっかけで変わるのである。

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 石垣から那覇空港に11:00過ぎに到着したのだが、観戦をキャンセルした今となっては帰りの便の出発時刻17:40までかなりの空き時間がある。最初のうちはカフェで巡回したり、今まで読んでいなかった雑誌の立ち読みなどで時間を潰していたのだが、それも限界がきてしまった。時計の針は13:00を過ぎたばかり。これ以上空港内で時間を潰せなくなった筆者は、那覇市内の国際通りで時間までふらつこうと思い、何も考えずに(ここ重要)バスに乗ったのだった。
 国際通り方面行きのバスはしばらくすると那覇バスターミナルに到着した。結構降りる客がいるので筆者もつられて降りてしまった。ここから市内徘徊を開始するのもいいだろうと思っていた筆者の視線が、ひとつのバスの行き先案内に向けられた。
「総合運動公園北口」
 これから開催される試合の会場である。バス会社に聞くとバスはもうすぐ出るらしい。時刻は13:35。筆者は、タクシーで30分ばかりの距離だから1時間もあれば着くだろうと考え、当初の予定通り試合を観戦しようと決めたのであった。13:40「総合運動公園北口」を泊まる泡瀬行きのバスはターミナルを出発した。そのときの所持金は6000円弱であった。

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 バスは快調に走るもの、と思っていたが那覇市内は違っていた。無茶苦茶混んでいるのである。そりゃそうだタクシーとバスとレンタカーが山のように走っているから混むのも当然である。この混雑から抜け出すまで20分かかってしまった。そしてふと頭上の停留所一覧を見るとまだバス停は5つしか過ぎてなく、目的の停留場までは膨大な数があるということに気がついたのだった。ターミナルからの停留場を数えてみるとなんと60個。出発して20分でわずか5個。筆者の背中には沖縄の暑さからくるものとは違う、なんかこうぬめっとした汗が流れるのだった。
 渋滞を抜けるとバスはそこそこのスピードで走るようになった。ついでにバスの走りっぷりも見事なもので、相手が誰であろうか関係なしに容赦なく隙間に入り込む気合十分の運転であった。とりあえずよほどの度胸が無い人は那覇市内は車の運転は控えたほうが良いと思うのであった。
 走行中、途中の停留所「第一古波蔵」で下車すると那覇市内を通らずに空港に向かうことが出来る事がわかる。筆者は競技場から戻る際にここで下車し、タクシーを拾って、時間料金のロスを最小限に食い止めようと思うのであった。片道のバス代は810円。試合のチケットは既に購入しているので、タクシー代に使える金額は残金4000円ほど。この代金と距離の兼ね合いが今回のポイントだと筆者は悟ったのであった(実際は的外れなのだが…)。
 14:40。出発して1時間が経過したが未だ着く気配はなくまだ20個も停留所を通過しなければならない。試合開始は15:00である。この時点で本来ならば試合に間に合うかを心配しなければいけないのだが、実際は帰りのことを心配していた。
 単純に15:00に着いたとしても1時間20分。帰りも同じ時間がかかるとして、それにタクシーで空港まで行く時間を含めると1時間30分は見ておかないといけない。これにバスの待ち時間や空港での手続きの時間を40分ほど見ると、結局30分も試合を見れないのではないかという結論に達するのである。もっともこの時点で筆者の試合についての関心は薄れていた。頭にあるのは「帰りの飛行機に間に合うか」その一点だけだったのである。
 それでもバスは後半から見事な空きっぷりで15:00ちょい前に目的地「総合運動公園北口」に到着したのであった。

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 キックオフぎりぎりにバスを下車した筆者。競技場までダッシュせずに、帰りのバスの時刻をチェックした。15時台は14,34,54の3本のみ。観戦と飛行機のことを考えると乗るべきバスは決まっている。15:34のバスのみである。それより早い便だと数分しか観戦できず、遅い便だと飛行機に乗れる保障がない。結果、20分ほど試合を観戦して戻るということになった。
 話はそれるが、今回乗る17:40の羽田行きの飛行機が最終というわけではなくその後にも便は存在する。乗る便をずらせば問題はないのであるがずらせない理由があった。前述したとおり今日は石垣から出発したのだが、その際に那覇−羽田の便の登録も済ませていて、預かり荷物を羽田に指定しているのである。もし乗り遅れた場合、主が未だ沖縄の地にいる時に荷物だけ羽田の荷物受取所に取り残されている図が目に浮かぶのである。もっとも大丈夫な方法もあるかもしれないが筆者がその方法を知っているわけではないし、何より今いる場所は那覇空港ではなく沖縄市の競技場なのである。
 早足で数分歩いた後、本日の試合会場である総合運動公園競技場に到着したのであった。ちょうどキックオフを迎えたところだった。

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 この競技場、メインスタンド以外は全て芝生席だがなかなかいい雰囲気である。20分間しか観戦の時間が取れないので筆者は足早にメインスタンドのほうへ移動した。
 メインスタンドは人でいっぱいだった。後で知ったが4000人以上の人が詰め掛けたそうでちょっとびっくりしたのであった。すぐ会場を出ると分かっているので席を探すことはせず、通路で突っ立って試合を見ることにした。
 鳥栖、甲府ともども知っている選手など皆無に近く、聞き覚えのある選手といったら矢野マイケルとシュナイダー潤之助ぐらいなものでこの知らなさは、JFLの横浜FCのリトバルスキー監督以外皆無に匹敵するものであった。とりあえず、スタメン見ても分からないので主審の確認でもしようとメンバー表の方に目を移した。メンバー表は国立競技場と同じく、斜めの板に貼り付けるタイプのものだ。だがちとおかしい。試合が始まって5分経過しているのに未だメンバー表を貼り終えていないのである。「はて?」と思ったのだがしばらく見ていたらその理由がすぐわかった。国立ではマグネットを使ってメンバー表を貼っていたが、ここではセロテープ(状のもの)を使って貼っているのである。ちょっとくらくらきた。筆者はこの瞬間、メンバー表から主審を知ることを放棄した。さてどうやって知ろうかとピッチ上に目をやった瞬間、筆者はずっこけそうになった。ちょいと背の高いよく見る外人が笛を吹いているのである。モットナムである。「なんで埼玉のこけらおとしでなくこっちにいるの…」くらくらはまだ続いていた。
 観戦時間20分で良い場面に出会うという事はそうそうあるわけではない。たとえJ初の沖縄開催としてもだ。ということで鳥栖のゴール前のFKチャンスを置き土産に競技場を後にした。入場口は続々と客が入ってきている。あー申し訳ない。

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 停留所に到着したのは15:30。バスの来る4分前である。あとはバスに乗り「第一古波蔵」で下車→タクシーで接続して空港に一直線と1時間コースで行くだけである。要は那覇市内を外せば渋滞を回避することが出来るので早く目的地に着くことが出来る算段なのである。とりあえず小銭確保に自販機でBOSS購入。飲んでいる間にバスがやってきた。そのバスに乗車しようとした時、運転手がこう言った
「普天間経由だけどいいのかい?」
 筆者はやはり何も考えずに「大丈夫っす」と返してそのバスに乗ったのだった。
 そのバスに乗車した時点での筆者の心境といったら、ただ「普天間に寄れてラッキー」の一言に尽きるのであった。現在の状況が旬なだけに、どんな警備をしているのかわくわくしてVAIOカメラを構えていたのだった。その普天間の状況だが、はたから見た感じでは2年前に通った時となんら変化は無かった。よくよく考えてみればバスで見た時点でピリピリしていたとしたら、その前の那覇空港の時点で雰囲気が違っているはずなのである。それでも縁起物(ちと違う)ということで観察していたのだった。
 そういうぬるい時間を過ごしているうちに、ふと気になることが浮かんだ。「那覇に何時ごろ到着するんだろう?」
 乗っているバスは、行きに寄らなかった普天間を経由している時点で、行きのバスと走る距離や時間が違うということが分かる。帰りの時間設定は行きのバスを参考に決めたもので、このバスだと若干の差が出てくるのである。そんなことを考えている時に、タイミングよく運転席の前の各停留所の通過時刻を書いた紙を見つけた。そこの「那覇バスターミナル」の到着時刻を見た瞬間筆者は凍りついた。
 17:05。…予定よりも20分遅いのである。それならば、このバスが「第一古波蔵」に到着するのはどのあたりかを一覧を見て探した。が、「第一古波蔵」を見つけることは出来なかった。そう、このバスは「第一古波蔵」を通らないのであった。
 その瞬間、それまでのぬるい筆者の姿はなくなっていた。あるのは大量の変な汗を流し続ける筆者であった。

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 筆者が行きに乗ったバスは30系統泡瀬東線と言い、沖縄の東側(中城港湾側・国道329号)を通って「運動公園」に行く路線である。そして帰りに乗ったバスは80系統屋慶名線大名経由と言い、先ほどとは逆に西側(浦添市方面・国道58号)を通って普天間を経て「運動公園」に行く路線である。そして両路線が合流する地点はほとんど終着のバスターミナル付近であり、第一目的の「第一古波蔵」に80系統が来るなどありえないのである。
 16:00。筆者は依然変な汗を流し続けている。そんな自分に言い聞かせるように呪文を唱えた。
「焦るのは飛行機の出る1時間前(16:40)になってからだ」
 昔の人はよく言ったものだ。「焼け石に水」と…。時々携帯メールで同時間に埼玉で行われている「浦和×横浜」の結果が届く。しかしこの時点で筆者はサッカーのことを考える余裕など無かった。「飛行機」の三文字しか頭になかったのだ。「大丈夫。まだ大丈夫だ」と言いながら視線は宙をさまよっている筆者であった。
 16:25。バスはまだ那覇市内に入らない。相変わらずどこで降りればいいかは判断がつかない。ただ救いと言えば現在国道58号線を走行していて、一定間隔ごとに那覇市内・空港の行先案内板が出て、現状の確認ができることである。これで那覇市内に入ったときに動き出せばよいのである。そして16:35バスは那覇市内に突入した。
 これからは一停留所毎が勝負である。空港に行くのに効率が良く、かつ短距離で行ける場所で下車すること。それが目的の飛行機に乗るための条件なのである。何度かしくじったと思う場面があったのだが、結果的には杞憂で終わっている。そして次の停留所が「若松なんたら」と告げたときに道路上の行先案内板に「右折:若松」と書いてあるのが見えた。筆者は下車するならここしかないと思い、ここで下車した。
 下車して行先案内板を見て目が点になった。「右折:若松」ではなく「右折:若狭」なのである。当然バスは右折することなく直進していった。時計の針は16:40。焦りはじめるには丁度いい時間だった。

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 もう次のバスを待つ時間はない。とりあえず空港方面に歩きながらタクシーを捕まえることにした。ここは天下の那覇市内。タクシーの数は多い。そこらじゅうにタクシーが走っている。しかし空車のタクシーが見つからない。筆者は思った「何故バスを使わないのだ?横着者めが」本末転倒である。そんなことをぶつぶつ言いながら50メートルぐらい歩いているとタクシーを発見した。そして無事乗車することができた。16:50。この時点で最悪の事態は免れた。
 タクシーに乗ってからは早かった。運転手が神風体質なおかげもあったがものの5分程度で空港に無事到着することができた。搭乗手続きは始まっているがまだ呼び出されるほどの切羽詰った時間ではない。それでも出発45分前という時間は、筆者に本気で絶望感を与えるには充分な時間であった。
 今回の件で身に染みたことは、飛行機は時間にシビアで乗り遅れた場合に本気で迷惑がかかるので、タイトな日程を組んじゃいけないということであった。変な汗の出る量はバスや電車の比じゃありませんでしたわ。あー胃が痛い。(了)