自分にとって日本でのW杯は「ちょっと規模の大きいキリン杯」という思いがあった。開幕前の報道で、来日する海外サポーターの人数は少ないと言われていた。だから見に来る人のほとんどが日本人なので、普段のW杯の雰囲気は味わえないのではと思ったからだ。
 今日神戸に来てその思いは見事に覆された。

 スウェーデン側のゴール裏から発生したウェーブはナイジェリア側も巻き込んで既に3周目に突入していた。いつまで続くんだろう。これから激しい試合が待ち受けているというのにお祭り気分全開である。しかしアンセムが流れた途端、お祭り気分は一変して戦いの前の緊迫感に包まれた。これからゲームが始まる。

 ナイジェリアで知っている選手はカヌ、オコチャ。スウェーデンはリュングンベリ、なんとかアンディション。これだけである。それで充分、いや名前は関係なかった。各々のプレイヤーが自分の国のサッカーを貫いてくれたから。試合が終わった頃には両方の国のサッカーが頭の中にはっきり残っていたから。

 ナイジェリアは平塚競技場で横浜と試合をしたそれとはまったくの別物だった。身体能力のみを追求したプレースタイル。個人プレーを突き詰めるとここまで行くのかと思わせるプレースタイル。それはJリーグや日本戦では決して見る事の出来なかった「ありえない」プレーの連続だった。
 ボールを持ったスウェーデン選手に3人が襲いかかる。それはプレスとか言う生易しいものではなく、獲物を狙う野獣の本能に思えた。攻撃も同様に細かいパス回しもする事はなく、ひたすらドリブルで相手を抜こうとする。何度となく防がれてもドリブルを止めようとしない。
 スウェーデンも堅い守備とカウンターという自分たちのサッカーで幾度となくチャンスを作るが、時間が経つにつれナイジェリアの強烈な個性が目立ち始めた。
 高い跳躍力や快速ぶりを魅せる選手は見たことがあるが、全員が全員極上の身体能力を持ち約束事を持たない(守らない?)チームなんて「ありえない」と思ってた。だけどそんな集団「ナイジェリア」は目の前にいた。

 前半中盤、右からのクロスをナイジェリアが打点の高いヘディングで合わせ、ゴールネットを揺らす。スウェーデンDF陣を頭1つどころか遥かに高い位置で抜け出していた。圧巻だったのはゴールパフォーマンス。ゴールを確認するとすかさずバク転バク転。止まる事のないバク転は見ている自分たちの方に迫ってくる。TVでしか見たことの無い普通じゃ見る事の無いパフォーマンス。それを目の前でやってくれた。
 パフォーマンスをした選手はアガホワという人だった。