第9号

今週のジェフのおすすめは

「カイのおもちゃ箱」辻仁成


 今週のおすすめは小説、「カイのおもちゃ箱」。 1997年、「海峡の光」で第116回芥川賞を受賞した辻仁成氏の1991年の作品。 辻氏の3作目の小説になる。1994年には集英社文庫から文庫化されている。

 話のさわりを少し。少年カイは生まれたときから、泣くことも笑うこともなかった。 両親が目を離したすきに都会の雑踏に迷い込んだカイは、少年少女の一団と出会う。 少年少女はカイをキュウセイシュとあがめ、カイを加えた一団は、大切な友達を奪った ヘンシツシャを退治するべく、街の中を進んでいく・・・

 感想をもう少し。作品全体から感じられるのはすさまじいまでの虚無感。そして、 キュウセイシュというモチーフをとおしての希望。この相反するふたつのものがこの 作品の中に混在している。神秘的なものと現実的なものが同時に存在し、叙事詩的な作品である。 読み終えたあとの妙な不快感が心地いい。

 あえて対称的な言葉を使いながら感想を書いたが、この作品を読むとそんな気になる。 快と不快は紙一重であり、不快が快いというようなことを思わされる。 なんというか、ニヒルな気持ちになってしまう。作品の中にはわけがわからなくなって しまうところがあるが、そのわけのわからなさがかっこいいと思えてしまう。

 とにかくこの作品はおすすめである。1度目よりも2度目、2度目よりも3度目と、 読むたびにその世界が心地よくなっていく。これはいくらここで解説しても伝わらない。 気になった人は書店で探してみて。文庫にもなっているからすぐに見つかるはず。

 というわけで、今週のおすすめは「カイのおもちゃ箱」でした。



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