衾覆いの儀のあと、鷹通は左大臣家で準備した衣類を着て祝宴となる。1日目は簡単に飲食程度のもの。それが終わって、それからまた寝所に入って、本当の床入りはこれからなのだ。
御帳合に二人だけ残されて、あとは皆下がってしまった。私たちは何を話すでもなく、黙ってそこに座っている。こんな時にどんな話をすればいいのかなんてわからない。普段は饒舌な鷹通さんでさえ黙ってしまっている。
「あかね。」
「はっ…はいっ!」
急に呼びかけられて飛び上がりそうなほどに驚いてしまった。これから迎える時間のことを考えるとどうも恥ずかしいし、緊張もしてしまう。小刻みに肩が震えてしまうのは仕方のないことだった。
「疲れたでしょう?」
黒目がちの瞳が柔らかに細められて、穏やかに微笑む顔を見て、やっぱり綺麗だなぁなんて見惚れちゃったりして。お日様のような笑顔は今日も変わらないでいる。私を気遣ってくれる優しさが嬉しかった。
「いっ…いえ。」
「無理をしてはいけませんよ。…今日はそろそろ眠りましょうか?」
鷹通さんは眠そうにあくびをすると髪止めをはずし、メガネも外した。始めて見る髪を解いた姿、そしてメガネを外した顔。さらさらと癖のないストレートの艶やかな髪がはらりと肩にかかる。そういえば、鷹通さんのメガネ外した顔ってはじめて見るけど、かなりの美形だったんだ。友雅さんや泰明さん、頼久さんとはまた違ったタイプ。なんていうんだろう。やっぱり秀才タイプっていうのかしら?
「あかね?」
見惚れてる私に不思議そうに鷹通さんが声をかけた。
「はいっ!」
慌てて返事をする私にくすっと小さく笑いを漏らして、衾をめくる。
「眠りませんか?…大丈夫、何もしません。」
信じてくださいと言わんばかりの笑顔にとりあえずうなづいた。鷹通さんは先に横になっている。私はその横に、ほんのちょっと間を開けて横になった。
「おやすみなさい、あかね。」
そう言うと、鷹通さんは黒目勝ちの瞳をすぅっと閉じてしまった。…すぐに穏やかな呼吸が聞こえてくる。すぅすぅと規則正しい音と共に、仰向けに横たわっている鷹通さんの浅縹の単衣の胸がかすかに上下しているのが見えた。
何もしません。大丈夫です。にこやかに鷹通が言ったその言葉に少しがっかりし、また安心もした。結婚すると言うことに伴う行為がどのようなものか保健体育で習ってるし、また普通に過ごしてきた高校生ともなれば多少の知識はある。だけど、初めての経験に、戸惑っていたし少し不安も、怖さもあった。それと同じ位に好奇心と、何よりも自分が好きな人と結ばれるという嬉しさもあった。今日を迎えるまでずっと、その思いは胸のうちにあって、下手すると日中から頭の中に浮かんじゃって困ったこともあった。最初は痛いんだと、そう聞いていたから覚悟を決めていたのに。なんだか拍子抜けをしてしまい、そのまま丸太のように横たわっている自分が少し情けなくもあった。左大臣家の女房さん達に言わせると、この世界の結婚は3日連続で男の人が通ってこないと成立しないということである。つまり、1日や2日で男の人が通うのを止めてしまったら、それは単なる遊びということになる。遊び、ということは、そういう行為を含んでのことだ。3日目に、初めて披露宴のようなことをして、みんなに結婚したことを知らせるらしい。でも、この場合、どうなんだろう。何もないまま3日目を迎えたら、結婚成立になるのだろうか。
私は小さく溜息を漏らした。
鷹通さんは、どうして何もしないのだろうか。
男の人のそういう欲求がどういうときに起こるものなのか詳しくはわからない。ナイスバディのおねーさんを見たときとか、エッチな写真やビデオを見たときとかに起こるものだって言うのは分かってる。…ナイスバディには程遠いし、ここにはエッチな写真やビデオなんてものがない。
好きな人のすぐ側にいるとそうなっちゃうって聞いたことがあるけど…。それでも鷹通さんは平然と眠っている。
まさか、鷹通さんがそういう行為を知らないとは思えない。だって、側にはあの友雅さんがいるわけで、しかも鷹通さんだっていくら真面目とはいえ、19にもなればそういう話しの一つや二つは絶対に聞くと思う。…残るは、やっぱり。
私は再び小さく溜息を漏らした。
鷹通さんが私を好きなのは妹としての好きなのかもしれない。…神子として京を歩いていたとき、その後だって、いつも何くれとなく世話を焼いていてくれたし。…目の離せない小さな妹。ううん、妹でなくたって、もしかしたら幼馴染くらいとか、乳兄弟とか。色気を感じない仲。そういう風に映っているのかもしれない。
浮き立った気持ちに一気に蔭がさす。…浮かれていたのは私一人で、鷹通さんはそうじゃなかったのかもしれない。私には鷹通さんは素敵な、自分には勿体無いほどの男性に映っていたのに、肝心の鷹通さんは私を女性として意識するのではなく、ただ自分よりも弱い、守るべきものとして映していたのだろうか。
急にじんわりと涙が浮かんできて、それはみるみるうちに大きくなり、目尻から零れてこめかみを伝って床に染みて行く。
もっと、そう、例えばシリンくらい色っぽくなりたかったけど。きゅっと目をつぶると余計に涙が零れて次々とこめかみに落ちて行く。あとほんのちょっとでもいい、もう少しだけ綺麗だったら、もう少しだけスタイルが良かったら。こんな子供じゃなかったら。
思わず漏れそうになった嗚咽を堪えて、鷹通さんを起こさないようにそっと起き上がった。隣で眠る鷹通さんを見ると長いまつげが伏せられて、起きる気配はなかった。静かに御帳合を抜け出してそっと局の端に出る。蔀のすぐ内側から庭を眺めると気が緩んだのか、一気に視界がぼやけて全て水の中に溶けて行った。
ぱたぱたぱた。浮かんだ涙が幾粒か零れて萌黄の単衣に落ちて吸い込まれていく。もう少し大人になったら美人になれるだろうか。鷹通さんが女性として見てくれるような美人になりたい。今は側にいることだけしかできないけれど、そのうちに綺麗になれば本当の奥さんになれる日がくるんだろうか。
ずっとこのままだったら?…そっちの方が確率が高そうだ。それも仕方ないのかもしれない。…それでも好きだから、せめて重荷にならないようにしなければ。自分でついていくって決めたんだから。鷹通さんの側で生きていければそれだけで幸せだって思ったからここに残ることを決心した。
「あかね?風邪をひきますよ?」
後ろから掛けられた声にびくりと肩が竦む。やっぱり起こしちゃったみたいだ。気づかれないように素早く袖で涙を拭いてできるだけ明るい声で返事をする。
「ごめんなさい、眠れなかったから。…起こしちゃいましたね?」
蔀戸の格子から入ってくるわずかな月光に鷹通さんの顔が照らされる。少し困ったような顔をしていた。
「いいえ、いいんですよ…。少し庭でも眺めていましょうか?」
鷹通さんはその場所に座りこんだ。
「これを。」
私が座るとふわりと手にしていた上衣をかけてくれる。冬が来るまでに少し時間があるとは言えども、最近ではかなり冷えて風邪でもひきかねない。そんな優しい心遣いにまたじんわりと涙が浮かびそうになった。
「あかね。ひとつ聞いていいですか?」
傍らに座っていた鷹通さんが優しい声で尋ねた。私がこくりとうなづくとにこりと微笑んで言葉を続ける。
「あかねは…どうして私を…好きになってくれたのですか?」
予想外の質問に私はあたあたと慌ててしまった。どうして眠れないのとか聞かれるんじゃないかと思っていたのに。急に改まって聞かれると、答えようがない。しばらく私は答えになる言葉を捜していた。
「どうしてって…。」
上手く言葉にできないけれど、とりあえず私は鷹通さんの好きなところを上げて見ることにした。
「例えばね、分かりやすいように話してくれるところとか、優しいところとか。側にいて安心できるの。それからね、真面目なところとか。」
私は誉めたつもりなんだけど、月明かりに照らされた鷹通さんの顔はだんだんと困惑の色が深くなって行く。
「ありがとうございます。」
御礼をいいながらも鷹通さんの声は辛そうだった。
「私…何か変なことを…言いましたか?」
鷹通さんはゆっくりと首を振る。
「でも…辛そうだよ?…やっぱり、私、何かまずいことを言ったんだよね?」
鷹通さんはふわりと笑うとそっと手を伸ばして私の体を抱き寄せた。とくんとくんと、少し早目の鷹通さんの鼓動が伝わってくる。
「上賀茂神社で…私が言ったことを覚えていますか?」
鷹通さんは呟くように言った。そして私が返事するよりも早く言葉をさらに繋げて行く。
「私は…八葉として…あなたの側にいるうちに…だんだんとあなたを好きになって行きました。…けれども…本心を隠してあなたと行動をしておりました。本当は…もっとあなたの側にいたい…ずっとあなたと一緒にいたい…そう思っておりました。」
わずかずつ、鷹通さんの鼓動が早まって行く。
「京を救ったあなたが、私の側に留まってくださると言ってくださったとき、とても嬉しかったのです。…私は、一生、元の世界に帰ったあなただけを心の中で思って生きていく覚悟をしていました。それなのに、あなたは私と共に生きてくれるという。…でも。…私は同時に怖くなったのです。」
鷹通さんは私を抱きしめる腕の力を少し強めた。
「この先、私はあなたを失いたくない。一度手にしてしまった幸せを…どうしてもなくしたくなかったのです。そのためにはどうしたらいいのか。…人が聞いたら、きっとばかばかしいと笑うかもしれない。…でも、私は…真剣に悩んだのです。あなたに嫌われないために。」
「き、嫌いになんかなるわけないですっ!!!」
私の言葉に鷹通がにこりと微笑んでうなづいた。
「ありがとう。…でも、…本当にさっきまで、怖くて仕方がなかったのです。…私は、男です。…あなたが私のことを優しいとか、真面目だとか思ってくださるよりも、男なのです。…だから…その…。」
だんだんと鷹通さんの言葉がはっきりしなくなってくる。
「鷹通さん?」
「本当の私は優しくなんかないです。真面目なんかじゃないです。ただ、あなたが欲しい。側にいるだけでなく、あかねの全てを奪ってしまいたい…そればかりを考えていました。」
鷹通さんは真っ赤な顔をしているのだろう。恥ずかしそうに伏せられた目は自分でも感情をもてあましているようだった。
「もしかしたら…そんなことをしたらあなたに嫌われてしまうかもしれない。…そう思ったら…。」
「嫌わないって!」
私はぎゅうっと鷹通さんの体を抱きしめた。
「あ、あかね?」
「私だって、鷹通さんと…一緒にいたいし、奥さんになりたいもんっ!!!そういうの痛いってみんな言うけど、鷹通さんだからっ…。」
上手く言葉にできなくって。恥ずかしいのと、なんて言えばいいのかわからないのと入り混じって言葉がちゃんと出てこない。
「大好きな人と…大好きだから、したいのっ!」
叫ぶように言うと必死で鷹通さんにしがみついた。すると体が急にふわりと浮いた。あれっと思って見まわすと私を御姫様だっこして鷹通さんは御帳合に入った。静かに床に下ろすとそっと優しく額にキスをしてくれる。
「あかね…。私もあなたをお慕いしています。」
真摯な眼差しに見つめられて息が詰まりそうなほどの幸福感に包まれる。私がうなづくと鷹通さんはそっと唇を重ねてきた。
「…んんっ。」
最初は触れ合う程度のキスから段々と激しいものに変わって行く。やがて、鷹通さんの舌が私の歯列をゆっくりとなぞり、その感触に引き結んでいた私の口が少し開くとするりと舌先を割り込ませてきた。戸惑い、丸まりかけた私の舌を優しく包むようにして解くともてあそぶように舌先をからめてくる。息もうまくつげないほどの生まれて初めての濃厚なキスに私の頭は一気にぼうっとなってしまった。先ほどまで強張っていた体中の力はまるで鷹通さんの舌先に吸い取られるようにしてくたりと抜けて行く。鷹通さんの背中に回していた私の腕が解けてぱたりと床の上に落ちるのを待っていたかのように唇を離した。
私の好きな黒目勝ちの涼やかな理知的な瞳は、今は熱い情熱的な瞳に変わっていた。私の単衣を解くと袷をはだけさせる。月の光さえも届かない御帳合で、よくは見えないはずなのにやっぱり恥ずかしい。少しだけ右肩を浮かせて身を捩ると暖かな手が右肩を軽く押して床に押さえた。
「恥ずかしい…。」
私の呟きにくすりと小さく笑うとそのまま首筋に鷹通さんの顔が埋められる。ぬるりとした暖かな感触が急に首筋に触れ、思わず私は身を竦めてしまった。くすぐったいのとは違う、もっと熱い、そう、体の真中に小さな火が残るような感触。気だるい、それでいて、疲れるのではなく、意識がもっと高揚するような不思議な感触。
「あ…あん。」
思わず唇から漏れた声に自分でも驚き、慌てて唇を噛み締める。今の声、自分の声だったのだろうか。あまりに媚びたような響きに呆然としていると、今度は別の感触が体を走る。
「きゃっ…。」
鷹通さんの手が私の胸に触れていた。そぅっと、ゆっくりと大切なものでも扱うかのように包み込まれた胸は柔らかく揉みしだかれていた。少し冷えた空気と対照的に鷹通さんの手は暖かい。そして、自分でも先端が自然に立ち上がってしまうのがわかる。
「い…や…。」
恥ずかしくて、上体をかがめようとするけれども、あっさりとそれは阻止されてしまう。やっぱり男の人だから、力がある。
「本当にお嫌なのですか?」
耳元で優しく囁かれてぞくりと背中が粟立つような感じがした。その声にさらに胸の先端が尖ってしまい、それが自分でわかるだけに余計に恥ずかしさが増して行く。そんな私の状態が分かったのか、鷹通さんは左胸の先端を指でつまむと軽く潰すようにしてもてあそび始める。
「んんっ…。」
今度はびくりと体が反応してしまう。胸だけでなく、ざわりとした感触が左胸から全身に広がるように這いまわる感じに体が震えたのだ。そんな私の様子をうかがいながら再び鷹通さんは指先をくりくりと動かし始めた。連続した刺激は体中をざわざわと出口を求めて這いずりまわっている。上げそうになった声を必死で押し留めていると、今度はもっと強烈な感触が右胸から広がってきた。
くちゅ…わずかな水音をたてて鷹通が右胸の先端を口に含んだのだった。軽く先端を吸われるとそれに呼応するように、勝手に上体が跳ねてしまう。上がりそうになる声を息を詰めて堪えていると、容赦なく鷹通さんの舌が先端のあたりを嬲り始める。最初は舌全体で先端の回りを丁寧になぞり、私の緊張がほぐれた頃に舌先で先端を転がすようにして愛撫をくわえる。ぴくぴくと、堪えきれない体は小刻みに震えてしまい、自分でもどうにもできない。唇を噛み締めて、必死に耐えていると、突然、電流のような衝撃が体中を走り抜けた。
「あんっ…。」
噛み締めていたはずの唇が外れ、思わず声をあげてしまう。歯で柔らかく先端を噛まれたのだった。
「あかね…もっと…声を聞かせてください…。」
そんなこと言われたって〜!夜目には分からないかもしれないけど、私は羞恥で顔を真っ赤にしていた。息を詰めて声をあげてしまうのを我慢していたために呼吸は少し荒くなっていたし、体は完全に力が入らなくなっている。ぐったりと四肢を投げ出していた私を見下ろしながら鷹通さんは来ていた単衣を脱いだ。着物を着ているときよりもずっと逞しい上体がぼんやりと暗闇の中に浮かぶ。やっぱり男の人の体をしているんだ。そんなことを考えている間に、鷹通さんは素早く私の両足を割り、その間に自分の体を滑り込ませていた。膝の裏に手を差し込まれて、お腹に押し付けられるようにされて、私は誰にも見せたことのない場所を鷹通さんの目の前にさらけ出す格好となった。余りの恥ずかしさに涙さえ浮かびそうになる。
「いや…恥ずかしい…。」
「どうしてですか…?こんなに…綺麗なのに。」
そう言って鷹通さんの指がつぅっと下から上に割れ目をなぞるようにして通って行く。
「ふぁ…。」
思わず漏らしてしまった声に私はいやいやと首を降った。
「いい声ですね…。それに…もうこんなに濡れていますよ。」
鷹通さんの指がもう一度、今度は、下の方でゆっくりと円を描くようになぞっている。そこは自分でも分かるほどにぬめりを帯びていて、通る指に全く摩擦を与えていない。円はだんだんと狭くなって、とうとう中心で止まるとつぷりとほんの少しだけ中に指し入れられた。
「ひぃ…。」
掠れたような、喉に張りついたような声が出る。鷹通さんは指をそっと抜くと、今度は上の方に静かに指を滑らせた。
「ここは…どうですか?」
指先でくりっと固くなっていた芯を押されると腰が思わず動いてしまった。
「ああ、いいんですね?」
そう言うと、指で芯を覆っている襞を捲り上げるようにして除いていき、すっかりと露出させてしまうと、今度はそこにかがみこんで顔を近づけていった。
「な…鷹通さんっ…そんな…汚いよぉっ…。」
次の瞬間に、ぬるりとした感触と、体中が波打つような浮揚感が一緒になって襲ってきた。
「んんんっ…ああっ…っいい…。」
尖った舌先が器用に芯の回りや先端を走っていく。そのたびごとに私の体が震え、蕩け、蜜を滴らせて行く。じんわりと気だるげに溜まって行く熱に体の自由はすでに効かなくなっていて、鷹通さんのするがままになっていた。意識はぼうっとなっているけれども、体は鋭敏に快楽を感じ、与えられる感触に内股が震え、ひくひくと襞が蠢く。
やがて鷹通さんが顔を上げて、座りなおした。熱いものが私のからだの中心に押し当てられて、くいとわずかに中にめり込んだ。
「あかね…。」
優しい呼びかけに、とうとうその時が来たことが分かった。肩のあたりに力が入りそうになったけど少し深呼吸をして体の強張りをといて鷹通さんのくるのを待った。
ず…と鷹通さんが押し入ってくる感触が分かる。鈍い痛みが下半身を襲い、自分の中にとても熱いものが押し入って、満たして行くのがわかった。
「大丈夫ですか?」
心配そうに鷹通さんが尋ねる。私は答えることもできずにそのまま異物感と戦っていた。入り口付近がずきずきとして熱を持ち、鈍痛がしている。初めての行為に、鷹通さんのものに圧迫されて、無理やりに押し広げられているような感触にまだなれないでいる。びくりびくりと鷹通さんの脈動が分かるほど、一杯になっていた。
「…く…。」
必死で鷹通さんの背中にしがみつく。やがて、異物は私の中の壁にあたり、先を少しめり込ませるような感じで侵入をやめた。
そのままの状態でどのくらいたっただろうか。ずきずきとした感触が少しだけ薄れて、楽になったとき、私は初めて鷹通さんの背中に回していた腕の力を少し弱めた。
「…動きますよ?」
ゆっくりと、本当にゆっくりと鷹通さんは腰をひいて私の中を埋めているものを引出した。先端を入り口付近まで抜き出すと、今度は再び奥まで押し入ってくる。そして再び抜き出され、また指し入れられて。最初は痛みとの戦いだったその行為がだんだんと甘い疼きを伴うようになってきた。強張っていた体の力も抜けてきて、段々と抜き出されるのを惜しむような気持ちになってくる。奥の壁にずぶりとめり込むほどつき入れられたときにぶるりと甘い痺れに体が震えるようになった。
「んんっ…っあ…。」
そのたびに漏れる声もだんだんと淫猥な響きを帯びてしまう。抑え様にももう自分でもコントロールできないほどの快感に体がすっかりととけていた。最初はゆっくりだった鷹通さんの動きもだんだんと速度を上げてきた。
やがて、甘い痺れが休みなく体を支配し、がくがくと体の震えがとまらなくなる。
「や…もう…へんに…なっちゃうよぉ…。」
「わ、私も…もう…。」
強い快感に体中がまるでひきつけたかのように突っ張ってしまう。重力が奪われて、体が浮かぶような気がした。それよりも少し遅れて、鷹通さんが奥の壁に思いきり自分の物を押しつけてそこに向って大きく震えながら熱いほとばしりを吐き出したのが感じられた。
「こうしてあかねと過ごしていると…帰りたくなくなりますよ。」
鷹通さんは私に腕枕をしながら呟いた。
「離れていると…どこかに消えてしまうんじゃないかとか、誰かにさらわれるのではないかと心配になります。」
「大丈夫です。」
私は笑いながら答える。
「もう、神子としての力もなくなってしまいました。時空を超える力もありません。…だからここが私の場所です。」
私が鷹通さんの胸に寄り添うと鷹通さんもそっと私を抱き寄せてくれる。
そうして二人は幸せなまどろみの中に落ちて行った。
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