歯止めが利かない。
明かりを消した部屋の中に、ぼんやりと光るように浮かび上がるのは龍麻の白い肢体。着やせをするのか、見た目よりも実際は豊かな胸が僕の動きに合わせて揺れている。
「んんっ、ふっ、ああん…。」
両手でシーツを掴み、耐え切れないと言った様子で頭を左右に振る。薄く開けられた唇が濡れていて妙に色気がある。そう言った仕草を見るだけで僕はさらに龍麻を激しく突き上げてしまう。
「ひ、すいっ…。」
龍麻の声に、動く速度を上げると彼女は細い首をのけぞらせた。白い首筋は扇情的で、その喉から僕を狂わせるような甘いかすれたような声を出す。切羽詰ったような声はもう限界に近くなっているようで、彼女の中の熱くたっぷりとした量の水蜜をたたえた襞が急激な収縮をはじめる。それと同時に、僕の背中に回している腕や、僕が布団に押さえつけている足ががくがくと震え、強張っていく。
「龍麻…っ。」
そして、彼女の中の強い収縮とともに僕は彼女の一番奥に精を吐き出した。
「ごめん。」
僕の腕の中でくったりとしている龍麻に僕は謝っていた。
「大丈夫。」
そう言って彼女は微笑んでくれるけど、でも、ずいぶんと辛かったようで、首を持ち上げる気力もでてこないようだ。
龍麻を抱くのは、これが4度目でその度ごとにのめりこんでいく自分がわかる。そして、龍麻がこんなになってしまうほど、責めてしまうのだ。もっと優しくすればいい、容赦をすればいいとわかっているのに、気がつくと必要以上に激しくしてしまっている。そんな僕を責めるでもなく、龍麻はいつも微笑んでいるから、いつも胸が痛んで龍麻の顔がまっすぐに見られなくなる。
今日もそうして龍麻の顔が見られなくなってしまった。それを誤魔化すように胸に龍麻の顔を抱きこんでしまう。ごめん、龍麻。心の中でそう思いながら。
「あのね、翡翠。」
胸の中に抱き込んだ龍麻が僕に話し掛ける。
「うん?」
僕はそのままの体勢で返事だけする。まだ顔が見れるほど罪悪感が薄れたわけじゃない。
「私ね、翡翠とするの、嬉しいよ?」
僕の胸に額をちょこんとあてて龍麻は言った。
「ちょっと疲れちゃうけど、でもすごく嬉しいの。それだけ翡翠が、私のこと好きでいてくれてるって、思うから。…うぬぼれてるかなぁ?」
僕は言葉では答えずに、そのまま頭をふる。返事を待って僅かに緊張していた龍麻の肩から安心したように力が抜けた。
「最初の時にね、こんな傷ばっかりの私でもいいって、そう言ってくれたから。私が、翡翠に上げられるたったひとつのものなの。」
抱き込んでいるから顔は見えなかったけど、語尾の方が僅かに震えていた。
「だからね、どんなにされてもすごく嬉しいよ?翡翠が、私のプレゼントを受け取ってくれてるってことだもん、ね?」
僕は龍麻の同意に答えるように彼女を強く抱きしめていた。どうして、龍麻はいつもこうなのだろう。僕が悩んでいることの数歩先に回って僕が欲しい言葉を与えてくれる。それで不安や迷いや恐れが吹っ切れて楽になれる。龍麻自身はそれに気がついてはいないけど。
「龍麻。僕が龍麻から貰っているものはそれだけじゃないんだよ。」
「え?」
「もっといろんなものを、僕は龍麻から貰ってる。とても大事なものを、ね。」
「えー?そうかなぁ?」
「そうだよ。」
僕はようやく龍麻の顔を見る勇気が出た。少し体を離して顔を覗き込むと、綺麗に微笑んだ顔があって、でもちょっとだけ目が赤い。
「龍麻、ありがとう。」
僕が礼を言うと龍麻は恥ずかしそうに俯いた。こういうところが可愛くって、また抱きたくなってしまう。それを我慢しながら僕は龍麻に囁いた。
「浴衣もあることだし。できれば、毎週週末にプレゼント貰いたいんだけど、だめ?」
すると龍麻は夜目にもわかるほどに紅くなって、それからさっきよりも小さく、こくりとうなづいた。
浴衣、買ったかいがあった。僕はこれから毎週龍麻から貰えることになったプレゼントを抱きしめながら密かにほくそえんでいた。
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