温泉に行こう1.5

 

ぴたりと閉めてある障子越しに入ってくる柔らかな光は昨日から降り続いている雪が止んだことを教えてくれていた。マリアの寝起きの、ぼんやりとした焦点の合わない眼に白地に紺の幾何学模様の布地がじんわりと染み混むように映った。そして、なんだか妙に落ちつく不思議な暖かさに彼女は久しぶりの幸せな気持ちでもう一度うっとりと目を閉じようとした。しかしずっと顔が横を向いていたので首が痛い。それに同じ体勢でいたからすっかりと固まってしまった体をほぐすために少し動かそうとしたときだった。なぜか体がうまく動かない。何かに拘束されている。薄く開いた目を2・3度しばたかせてからはっきりとあけると彼女の体の上にはごつごつとした筋肉質な腕が乗っている。寝ぼけた頭で『またカンナが人に抱き着いて眠っている』と思っていつものようにぽいっと投げようと腕を取った。違う。その感触の違いにマリアは困惑し、恐る恐る腕の付け根に顔を向け、ようやくそれで自分の身に起こった事を思い出したのだった。
身動きするのを諦めた彼女は隣で気持ち良さげに眠る大神の寝顔をまじまじと見つめた。
理知的な額に長いまつげ。閉じられた瞼。その下には意思の強そうな瞳が隠されて。通った鼻梁。ひきしまった口元。それらをまとめるのは日焼けした肌。花組の誰もが思いを寄せているこの青年は何故だか自分を選んでくれた。それでもずっと長い間、キス以外は何もなかったのだけど、昨夜、とうとう彼と結ばれたのだった。そこまで思い出すのと一緒に昨夜の行為のあれこれも一緒に思い出されて顔がどんどん赤くなって行くのが自分でもよくわかる。初めて男の人と朝を迎えた。カンナが隣で寝ているときは抱き枕がわりに私の事を抱きしめることがあるけれど、それとは違う、もっと暖かくて、切なくて、泣きそうなほど幸せで。こうしていられることに全世界のありとあらゆる神様に感謝したい気分。でも、その最上の幸福感と同時に失いたくないという恐怖感。双方入り混じって不安がまた首をもたげてくる。自分が捨ててしまうことはありえない。捨てられるのか、それとも死や種種の事情が二人の間を分つのか。そのどちらもが永遠にこないことを胸の底で密かに強く祈る。今、手にしているこの幸福が砂の城のように儚いものだとわかっているから。
「ん…。」
大神がみじろぎをする。彼女はその目覚めを不安な気持ちで見つめていた。ぴくぴくっと瞼が小さく震えてゆっくりと目を開けると彼の瞳の中にぼんやりと不安げな彼女の顔が映った。
「良かった…。」
寝ぼけた声で大神は呟いて、それから彼女の体をすっぽりと覆っている腕にきゅっと力を入れて自分のほうに抱き寄せた。
「た、隊長?」
「目を開けたら…マリアがいない夢を見た…。いて良かった。」
金色の、絹糸のような髪にすりすりといとおしそうに頬擦りをして耳元で呟いた。大神もまた彼女と同じような不安を心の底に沈めていたようだ。
「ずっと側にいます…。」
「うん。」
「隊長がいらないとおっしゃるまで。」
マリアはそう口にすることで己の心が決して他に向かないことを、彼の命に従い続けることをあらわそうとしたのだが、マリアの意図とは違う反応を大神は返してきた。ひどく悲しそうに眉を顰め、落胆したように力ない小さな声で呟いた。
「俺は…そんなつもりは…。」
しまった!マリアは瞬間、大神の心を傷つけてしまったことに気づいた。ミカサの中で、一生守ると誓ってくれた言葉を忘れていたわけではない。大神が遊びで抱いたのではないことも分かっている。ただ、自分には不相応な幸せがいつまで続いてくれるのか、それが終わるのが怖くて。幸せな夢が覚めてしまっても自分が悲しくないように防御に入る癖がいつのまにかついていた。
「あ、あの…。」
謝ろうと口を開くけど、言葉の代わりに出てくるのは大粒の涙。こんな馬鹿な、可愛げのない自分では本当に愛想をつかされてしまう。自分を守る為に人を傷つけてしまう、こんな醜い心を持っている自分が情けない。
「すいませんでした…。」
涙と一緒に沸きあがってくる嗚咽をようやくこらえながらそれだけを言うと、大神の腕の中から抜けようと体を反転させる。きっと今の私はひどく醜い顔をしているに違いない。こんな顔を見られたくない。まだ愛されていたい。嫌われたくない。そう思って布団を抜け出ようとした体を急に力強い腕に引き戻された。
「マリア…?」
耳元で困惑したような声がする。
「ごめっ…ごめんなさいっ…。」
逃げようとするマリアの体を後ろから大神の腕がしっかりと捕まえ抱きしめている。いくらマリアが背が高くても華奢な体、男の力には勝てるはずもない。
「どうしたの?マリア?」
「見ないで…ください…。」
「え?」
「きっと、今、醜い顔をしています…。こんな顔、見たらきっとキライになります。だから、私…。」
ひくっとマリアの肩がしゃくりあげた。腕の中から逃れるのを諦めたように体から一気に力が抜けて行った。少し背中を丸めて、ひくひくとしゃくりあげている彼女の肩が悲しげで、儚げで、なんだか少女のように見えた。ここにいるのは愛されるのに慣れていない一人の少女。大神は先ほどの責めるような自分の言葉のうかつさを呪った。あの彼女の言葉には恐らく他意はない。相手と駆け引きを出来るような人ではない。一途な人なのだ。それくらい知っていたはず。そこに惹かれてもいたはず。きっとさっきの言葉は、彼女なりの誓いの言葉だったのだ。
「マリア。命令だ。聞いてくれるかい?」
彼女の耳元でできるだけ優しい声でささやいた。半ばパニックを起こしかけている彼女に話しを聞いてもらうにはこういう方がいいかもしれない。案の定、命令という単語にぴくりと彼女が反応する。
「はい…。」
「一生、俺の側にいること。」
マリアの返事はなかった。
「マリア?」
「はい。」
心配になって大神が少し横から彼女の顔を覗き込むと、彼女は頬を紅潮させ、それは幸せそうに微笑んでいた。良かった。安心すると同時に、大神の心の中に少し残念な気持ちも湧いてくる。彼女のこの笑顔が好きなのに後ろから抱きしめていると表情も見えない。しかし、その途端に悪戯心もむくむくと起きてくる。
「あっ…。」
マリアの体がぴくりと震えたのはそのすぐ後だった。マリアが逃げないように先ほどから彼女の体を後ろから抱きしめていた右手が浴衣のあわせからするりと中に入り込み、片手に余る彼女の豊かな乳房を掬い上げるようにしてその大部分を手に納めると柔らかく揉んだのだ。
「た、隊長っ…!」
咎めるような口調で言って振り返ろうとした瞬間に今度はうなじに暖かい大神の唇がつぅっと下から上に這い上がる。二の腕から肩甲骨、肩甲骨から首筋へと、皮膚の下が波立つような感触が走る。マリアは体を再び震わせて、抱きすくめられている上体をわずかに後ろに反らした。それがまるで合図であったかのように浴衣の中に入り込んでいた大神の右手は親指と人差し指で彼女の胸の先端の突起をかるくつまんだ。
「あ…っ…!」
その衝撃に今度は大きく彼女の全身がのけぞった。思ったとおりの感度の良さに大神の口元が自然と緩む。更に指先に力を入れて突起を少しひねるようにすると今度はかすかな喘ぎが彼女の唇からこぼれ出た。
「や…。」
「ん?なんだい?」
「いや…。」
拒否の言葉だけれども、言葉に力がなくなっている。マリアの体の下になっていた左手を動かし、マリアの下肢の浴衣の合わせ目から刺し入れる。抵抗をしようと、マリアは太腿をぴったりと合わせようとするが、彼女のすでに固くなっていた乳首を大神の右手が摘み上げたのでそちらに神経がいってしまい、下肢に力が入らなくなっていた。やすやすと秘所に手をふれると、そこはすでにとろりとした彼女の蜜で潤っており、それどころか、蜜壷は大神の右手の愛撫の動きに合わせてまるで大神自身を誘うようにひくひくと蠢いていた。大神は指で彼女の蜜を救うと彼女の目の前に差し出した。
「こんなにして…それでもイヤなの?」
マリアの耳元で囁きながら目の前でゆっくりと指を開いてみせる。指と指との間に透明な糸をひいているそれはしとどに秘所が潤っていることを示していた。
「意地悪…です…。」
顔を布団に伏せて呟く彼女はその仕草こそが大神を煽るのだということも気づいていない。大神は左手を戻すと中指を蜜壷の中に指し込み内壁を指の腹でぐぐっと擦り上げた。
「くぅっ…。」
その刺激に指の根元がきゅきゅっと締め上げられる。中の襞が全て意思を持っているかのようにざわりと指全体にからみついた。下肢から、胸から大神によってもたらされる溶けそうなほどの刺激にマリアは翻弄されていた。新たに加わった親指での花芯への愛撫に体が一度強張り、そしてまた溶けていく。マリアの体がもう一度強張り、足の指までもがしなって、上り詰め、かくりとその体から力を失うにはそんなに時間がかからなかった。
大神は体の中に篭る熱をもてあましている彼女の体を後ろから抱きしめていた。もうこれ以上は我慢できない。そう思った彼は胸にさし込んでいた右手を抜くと自分の体を起こした。そしてマリアの細い腰を持ち上げると、乱れた浴衣の裾をぱっとめくり上げる。白い、柔らかそうな形の良い臀部があらわになり、その更に奥に彼女の蜜で濡れそぼって誘うように収縮をしている秘所を見たときに、大神の頭の中は真っ白になっていた。
「あっ…。」
自分の取らされている体勢の意味に気づいたマリアが力の入らなくなっている体でなんとか逃げ出そうとするよりも早く、大神が自身をマリアの中に埋め込んでいた。
「ひっ…。」
濡れているとはいえ、あまりの急激な挿入にマリアの喉がか細く鳴った。初めてではないといってもまだ2回目なのだ。慣れているわけではない。その悲鳴にも似た声を大神は無視をするように一気に腰を沈め最奥の壁に先端を叩きつけ、またすぐさま引き抜くと言った激しい運動を繰り返した。逃げようとして失敗したマリアは四つんばいのまま、彼を受け入れさせられていた。自分のこの姿勢はまるで獣のようではないか。マリアの顔が一瞬で羞恥に染まる。
「た、いちょう…。こんなの…イヤです…。」

そうは言うものの、彼女は逃げようともせず、がくがくと震える腕でその上体を支えつづけていた。そうして、そのうちにマリアも昨夜とは違うところを突き上げられ、また、大神に絡み付く蜜に痛みは和らぎ、かわりにお腹の底に鈍く溜まる熱を感じるようになった。その熱は大神に突き上げられる度に熱さを増し、お腹から全身へとゆっくりと、まるで毒のように回っていく。全身にすっかりと熱が回る頃にはマリアの唇からは甘い喘ぎがこぼれるようになっていた。そして、大神が自身を奥に埋め込むときにわずかではあるがマリアの腰が大神の方に動く。大神はマリアのその痴態に口中に溜まっていたつばをごくりと飲み込んだ。上体を少しかがめるとマリアの腰を持っていた両手のうち左手を外して左の乳首をきゅっと摘み上げた。
「きゃっ。」
マリアの白い背中がしなった。同時にマリアの中の自身の根元が強く締め上げられた。もう限界が近い。大神は再び彼女の腰をしっかりと持った。そして先程よりもさらに激しく、マリアの中に抽挿を開始した。
「ふぁ…あんっ…あっ…。」
マリアの喘ぎがだんだんと増え、そして、彼女の全身ががくがくと痙攣を起こしたかのように震え、大神を受け入れている部分全体がきゅうっと大きく収縮した。大神もとうとうその刺激に耐えきれなくなり、彼女の一番おくの壁に向って精を吐き出していた。

「ごめんよ、マリア。」
拗ねてしまった恋人の耳に謝罪の言葉を囁いた。
「知りませんっ。」
「でも、マリアが欲しかったんだ…。」
マリアはまだ背中を見せたままでいる。
「ようやく、手に入れたから。だから、もっと触れていたかった…。」
大神がそこまで言うとようやくマリアが布団の中でこちらを向いた。結局はこの人にかなわないのだと、マリアは苦笑していた。


END

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