温泉に行こう1

 

それは11月の終わりの頃。昼のレッスンを終えたマリアはサロンでお茶を飲みながら書庫から持ち出した雑誌を何気なくめくっていた。載っていた1枚の写真にふと目を止める。
「スキーなんて日本でもできるのね…。」
懐かしそうに目を細めた。その写真は日本人が長い板を足にくくりつけて雪の上に立っている。そう、スキーである。マリアの育ったところは雪深く、隣の村に行くにも普通に歩くよりもスキーをつけて移動した方が遥かに早く、歩きやすい。けれども村をでてからはスキーを履くことなんてなかったし、日本に来てからはなおさらのことだった。写真の説明記事を読むと『草津にて』と書かれている。どうやら日本にもスキー場があるようだ。
「やぁ、マリア。どうしたんだい?」
頭の上から降ってきた声にはっとして顔をあげるとそこには大神が立っていた。
「あ、いえ。」
「今日は何を読んでいるんだい?雑誌?珍しいね…。」
そう言ってマリアの膝に広げられた雑誌に目を落とす。
「その…スキーの写真があったんで…。」
「スキーか。マリアはやったことがあるの?」
「こういう斜面を滑走するものではなくて、その、クロスカントリーみたいなものなんですけど。」
「ああ、そうか。雪の多いところだからね。」
「ええ。」
マリアはもう一度紙面に視線を落とした。
「どこだろう?これ。」
「草津…と書いてありますが。」
「どっちかな。滋賀かな、それとも…。」
大神はページを1枚めくった。
「ああ、群馬だね。…行こうか?」
「え?」
急な大神の言葉にマリアがきょとんとした表情で聞き返す。
「お正月。その…何も予定がなければなんだけど…一緒に行かないか?ここはね、天下の名湯、草津温泉があるんだよ。」
ようやく大神の言葉の意味を理解したマリアがびっくりした顔をする。
「あ、いや、別に嫌ならいいんだけど…。なんか、懐かしそうに見てたし…今年も花小路伯爵のところに行くだけなら、たまには遠出はどうかなって…。」
驚いた表情のマリアに慌てた大神は口の中でもごもごとする彼らしくない言い様になっていく。そしてついには困って口を閉じてしまい、しばらく無言でいたが、やがてあきらめたようにぽそりとつぶやいた。
「…マリアと一緒に旅行に行きたいんだ。」
途端にマリアの顔がかぁっと真っ赤になっていく。ストレートに希望を言われたらマリアだって断るわけには行かない。もともと大神に請われる事ならば何でもその願いは叶えようとしてしまう性質である。こくんと小さくうなづくと大神は子供のような笑顔を浮かべた。
「じゃあ、俺が宿の手配をしておくから。」
そうして二人の旅行が決まったのであった。


新年を迎えた帝劇は楽屋でのみんなとの挨拶のあと、それぞれに帰るべき場所に散っていった。例年、ここに残るのはマリアとレニの二人だけなのだが、今年はレニはカンナに誘われて沖縄に行ってしまった。本当はマリアもカンナから沖縄に誘われていたのだが、マリアは暑いところは苦手だからと理由をこじつけて断っていた。
「では、行ってきます。」
大神は支配人室に寄って挨拶をしていた。
「おぅ、気ぃつけていけや。」
「はいっ。」
かえでと米田に見送られて支配人室を出てそのまま荷物を持って玄関に向かう。
「お待たせ。さぁ、行こう。」
玄関でマリアと落ち合ってからメトロの銀座駅に向かった。銀座からメトロに乗って上野へ。そこから蒸気鉄道で軽井沢まで。そのあとは草軽鉄道と言う1両のローカルな単線で草津温泉に入る予定になっている。上野につくととりあえず二人は高崎行きの蒸気鉄道に乗ってボックス席に身を落ちつけた。
「雪。一杯積もっているといいね。」
「はい。」
これからしばらくの間、ずっと二人きり。それを思うとマリアはどうしても意識してしまい、いつものように、普通にしゃべることが出来なくなる。上ずった声が恥ずかしいと思うと余計に声を出せなくなり、黙り込んでしまうようになって自然と沈黙が多くなる。大神はそれでも楽しそうにマリアに話し掛けてきた。
「それにしてもさー、かえでさんって結構顔が広いんだなァ。宿はかえでさんの知人の経営する旅館なんだよ。随分向こうでもいい旅館らしいから、よかったよね?」
「はい。」
「かえでさんが予約とってくれたんだ。」
「はい。」
「草津のお湯は肌にもいいんだって。」
「はい。」
「露天風呂もあるんだってさ。雪の中で入る露天風呂はきっと気持ちいいんだろうね。」
「はい。」
「それから、スキーもできるしね。楽しみだね。」
「はい。」
「マリア、さっきからハイしか言わない。」
「はい…あ!」
大神がジト目でマリアを見る。
「つまらない?」
「いえっ、そんなこと、ないですっ!」
「じゃあ、どうして…?」
「あの、その…緊張してしまって。」
恥ずかしそうに体を小さく丸めながらのマリアの答えに大神はくすっと笑うとマリアの右手をとって自分の左胸にあてる。
「分かるかい?どきどきしてるの。おんなじさ。」
「あ…。」
「だから、おあいこ。」
いたずらっぽく笑う大神に強張った顔をしていたマリアもつられて笑いだした。
「せっかく二人だけの旅行なんだ。楽しもうね?」
「ええ…。」
ようやく普段のマリアに戻ってきた。


それから数時間、蒸気鉄道で高崎まで出てそこから信越線に乗り換えて軽井沢まで。さらに乗り換えて、草津に着いたのは夕方になった頃。
「わぁ。すごい匂いですね。」
降車場から旅館に向う途中で温泉街の中心地にある湯畑というところに出た。ここからお湯が沢山湧いていて、湯の花を取っているらしい。積もった雪がかいてはあるものの次から次へと落ちてくる雪にまた道も埋まり始めている。源泉からは外気の寒さのせいでもうもうと湯気がたっており、湯畑の反対側にある旅館も見えないほどだった。マリアは上へ立ち上って行く湯気を珍しそうに眺めていた。
「ほら、風邪をひくよ。早く旅館に行こう。」
大神に促されて慌ててマリアは後をついていく。中心地からすこし奥に入った旅館は2階建ての純日本風旅館だった。玄関にはあまり履物がないということは他にはそれほど客がいないということか。
「いらっしゃいませ。」
「大神と申します。」
「お待ち致しておりました。」
中に入ると1階の一番奥の部屋に通される。日本庭園に面した部屋は8畳ほどの大きさで静かでまだ新しい畳の匂いがしている。次の間もついている立派な部屋だった。
「やぁ、いいお部屋ですね。」
「ありがとうございます。藤枝様からくれぐれもとおおせつかっておりますので。」
「え?そうなんですか?」
女将らしき女性がにっこりと笑ってうなづいた。
「この時期は雪深くなりますのでそんなにお客様もお見えになりませんから、どうぞごゆっくりおくつろぎ下さいませ。」
それから夕食の時間などを聞いてから女将が下がって行く。
「それじゃ、一風呂浴びてこようかな。」
大神がすっくと立ち上がった。
「マリアも行っておいでよ。まだ時間あるからさ。」
マリアはこくんとうなづいた。


乳白色のお湯が素肌にからむ。二の腕をさするとそれは思いのほかつるりとした感触を返してくれた。それだけ強い成分が含まれているのは周囲に立ち込めている硫黄の強い香りだけでも想像できる。ふと見上げると次から次へと飽かずに落ちてくる雪、雪、雪。いかに熱いとは言えども外気の寒さのせいでいくら入っていてものぼせることはなかった。小さなため息をひとつ吐いてマリアは自分の胸に視線を落とす。カンナに『でかい』と称され(カンナの方が大きいのに)、さくらには『うらやましい』といわれる胸。でも、ただの一度さえも誰にも触らせていない。うっかり見られてしまうことはあったにせよ。使わなきゃ意味がないのは頭と一緒だなんて言ったのはニューヨークのダウンタウンにたむろしていた娼婦達。想いを通わせあっている二人が二人だけで旅行に来ると言うこと、ましてや、一緒の部屋に寝泊りすると言うことは普通ならば抱かれることを承知で来ていると解釈されても仕方がない。ううん、そうじゃない。むしろそれを期待して一緒にきた自分が…あさましかった。
「ふぅ。」
今日、何度目かのため息をつく。静まり返った周囲にそれは吸い込まれて行った。とぷとぷと樋を伝って注がれる温泉の音だけが聞こえている。
いい加減に嫌になっていた。互いに好きでいてもそれを表立って表現することも出来ず、ただの花組の隊長、隊員と言う関係だけでは我慢できなくなっていた。特別になりたい。誰よりももっと隊長を独占したい、誰よりも隊長に近い存在でいたい。副隊長という立場上、確かに誰よりも近い存在ではあるが、そんな職務上の話ではなく、私的な部分で、一人の女として誰よりも近く、誰よりも愛して欲しかった。無論、彼を信じていないわけではない。愛しているといってくれているその言葉に嘘があるなんて想ってはいない。だけど、一番最初に好きだと言われてから何年もの間キスどまりの関係に最近焦りを覚えてきていた。二人がそういう仲であることを知っているものは少ない。知らないものは大神をなんとか振り向かせようと努力を怠らない。それほどに男としてみんなに好かれている大神だから、そのうちに自分なんかよりずっと明るい、花のような彼女たちに大神の心が傾いてしまうかも知れないと、そんな風な危機感が頭の片隅にこびりついて離れない。大神よりも大柄な体。いくつもの銃創をもつ、穢れた人殺しの…。こんな女を抱きたいだなんて普通の男性はきっと思わないだろう。事実、今までに、そんな機会はいくらでもあったのにまだ自分の処女が守られているということが何よりも雄弁にそれを物語っている。だから、こうして二人で旅行に来ていても、自分が期待しているような出来事なんて起こらないかもしれない。
マリアはイヤな思いを打ち消すようにふるふると首を振ると露天風呂から出た。外気の鋭い冷たさが火照った体に丁度いい。手早く体を拭いて浴衣を着けるとゆっくりと部屋に戻った。


食事は心づくしの料理が並べられ、山の幸を堪能することが出来た。お酒もさすがにウォッカはないけれど、地元で作った日本酒を何本も飲んでふたりとも良い加減に酔っている。
「自分もどっちかっていうと山育ちだからね、こういう食事をしていたんだよ。」
大神はにっこりと笑った。マリアには馴染みのない食材が多い。
「これはね、ぜんまい。山に生えてるんだ。塩付けにしてとっておいたんだろうね。それからこれは高野豆腐。お豆腐を干して作るんだよ。それから…。」
何本目かのお銚子が空いてようやく食事を終える。お膳が片付けられ、かわりに布団が敷かれる。はたと気づいて見ると、しっかりと布団は並べて敷かれていた。どきりと胸が大きく波打つ。マリアはそっと今の狼狽を大神に気づかれなかっただろうかと彼を盗み見たが大神は窓の外の庭園を見ていてこっちの様子などは気づいていないようだ。
「今夜はやみそうにないね。」
しんしんと粉雪が降り続く外を眺めたままで大神が言った。
「そうですね。この分だと今夜中は降り続くでしょうね。」
「明日、晴れるといいね。」
「そうですね。」
大神がくるりと振り向く。マリアは思わず息を詰めた。
「窓辺にいたから、少し冷えちゃったな。もう一度、お風呂に入ってくるよ。」
そう言って大神は干してあったタオルを持った。
「眠かったら先に寝ちゃっていいからね。」
さっさと大またでマリアの前を横切って大神が部屋から出て行った。ぴしゃりと引き戸が締まる音がしてから、マリアはほーーっと息を吐いた。どうしても意識しちゃう。隊長が出て行ってくれて安心した反面、あまりのそっけなさに少し落胆もしていた。マリアはコップについであった日本酒の残りを一気に飲み干した。穢れた女は抱きたくない?抱きたいって思うほど好きじゃない?それとも他に誰か好きな人ができたとか?嫌な考えがぐるんぐるんと頭の中を回り始める。
寝てしまおう。
マリアはごそごそと布団の中にもぐり込んだ。


ふと目が覚めたのは何かの気配が近づいたからだった。明るかった部屋の中は今はもう真っ暗になっている。時計もないので今が何時なのか全くわからない。ぼんやりとしたままで目を開きゆっくりと視線を左右にめぐらす。特段にかわったことはない。マリアは首を少し左に向けて見た。その途端、隣の布団に横たわって体ごとこちらを見ている大神と目があった。
「隊長…。どうなさったんですか?」
「いや…。」
大神は体の向きを仰向けにする。
「眠れませんか?」
「ああ。」
大神はふーっと息を吐く。マリアもそれ以上言葉を続けられなくって、黙ったまま大神を見ていた。なんともいえない居心地の悪さはマリアに先ほどの嫌な考えを思い起こさせる。このまま他に好きな人ができたとかそんなたぐいの言葉を聞かされそうな気まずい思い。
「あの…さ、マリア。」
びくりとマリアの体が強張る。
「は…い。」
「その…。」
そう言ったきり大神は黙り込む。マリアはその後に続く言葉を驚くべき早さで数種類シュミレートしていた。思い浮かぶのは全て別れの言葉ばかり。マリア、しっかりしなさいっ。自分で自分を叱りつける。
「なんですか、隊長?」
思いきって聞いてみる。
「いや…なんでもない。」
大神はそう言うと体をマリアとは反対の方に向けてしまった。一体、何を言おうとしていたの?マリアはゆっくりと起き上がると布団の上に座った。
「隊長、どうなさったんですか?はっきりとおっしゃってください。」
予想外のきつい言い方に自分も思わずびっくりする。大神は叱られた子供よろしくおそるおそるマリアの方を向いた。
「あ、す、すいません。」
マリアは慌てて謝ったが、大神は黙り込んだままだった。
「隊長…?」
もう一度おそるおそる話を促すように声をかけてみると大神は伏せていた目線をこっちにまっすぐに向けてきた。
「寒いんだ。」
「え?」
「布団。一人じゃ寒い。」
大神の言っている意味が最初はわからなくってぽかんとしていたマリアだったが、その意味に気づくときゅとふとんカバーを握り締めた。
「そ、そっちに行っていいかな?」
大神の問いかけにマリアの体が強張る。
「嫌…かな。」
悪戯を見つかってしまって叱られるのを待っている子供のような顔で大神はマリアを見た。返事をしようとしても緊張の余りに喉が枯れ、喉がはりついたようになって、声がうまくでなくなったマリアは仕方なく小さくこくんとうなづいた。ほっとした表情を浮かべた大神が自分の布団から出てマリアのほうに移動してくる。緊張のゲージが極大近くまで上がり、小刻みに震えてくるのが自分でもわかるくらいだ。掛けている布団を少し持ち上げて滑り込むように大神が隣に入ってきた。覚悟は決めたはずだったのに恥ずかしさの余り思わず顔を反対側に背けてしまったが、大神はそっと手を伸ばしてマリアの白く滑らかな顎を捕らえ自分の方に向けさせた。
「マリア…。」
神妙な面持ちの大神の顔が少しづつ近づいてくる。マリアはそっと目を閉じるとまずは全部の神経を自分の唇に集中させ、大神の柔らかで暖かな唇の感触を確かめた。いつもなら触れる程度、長くても10秒とはかからずに離れて行く唇の感触は今日は随分と長い間自分の唇の上にあった。仰向けから大神のほうに体を向けると大神はそれに答えるように両手で彼女の体を抱きしめた。広くて暖かい胸に抱きとめられるとほっとしたような気持ちになる。一度唇が離れ、マリアが息をついでいる間にまた唇をふさがれる。今度は唇を優しく吸い上げられ、わずかに唇が割れたときにその間を縫うようにして大神の舌がマリアの中に進入してきた。歯列を割って入り、マリアのを絡めとる。頭にかすみがかかったようになりぼぅっとしてきた彼女の体からは先ほどまで強張るくらいに入っていた力がすっかりと抜けていた。
やがて大神の唇がマリアの唇の端からずれていき首筋に降りてきた。啄ばむ様に首筋に降ってくるキスに声を上げそうになったマリアが慌てて唇をかみ締めて我慢しようとする。キスまではしたことがあってもそれ以上は許したことがなかったから、生まれて初めての感触に戸惑っていた。幾度も落とされるキスはくすぐったいのとはまた別な感覚を生んだ。体の奥底にじんわりと熱を持つような感じに一瞬でも気を抜くと声が漏れそうになってしまう。やがて大神の右手が腰の辺りにきて、彼女の浴衣をまとめていた帯をしゅるりと解いた。大神は白い首筋から頭を離すと上体を起こして彼女を見下ろした。先ほどからの感覚に綺麗な翡翠の瞳が潤み、とろんとした目つきで大神を見上げる。そっと大神は浴衣のあわせに手を掛けると左右に静かに開いた。はっとした顔で慌てて胸を隠そうとする手を大神は掴んで柔らかく布団に押しつけ、目前にさらされた白い陶器のような滑らかな肌を持つ肢体を見下ろした。月明かりに照らされたそれはギリシヤの彫刻のように美しい。大神はごくりと喉を鳴らした。
「…み、見ないで…。」
掠れた声でマリアが哀願する。
「綺麗だよ…。」
「そんなこと…。」
顔を背けるマリアに大神が微笑んでから彼女の体の上に覆い被さった。柔らかな丸みの胸を大切なものを扱うようにそっと手で包んでゆっくりと揉みしだく。
「あっ…ん…。」
思わず漏れた声に自分で驚いて慌てて強く唇をかみ締めた。誘うようにぷっくりと立ち上がっている淡いピンク色の乳首に口付けると彼女の体はびくりとわななく。余計に唇を強くかみ締め、続いてくる快楽に耐えようとしているようだった。
「マリア…唇が切れちゃうよ。」
指で唇に触れかみ締めた歯をあけさせる。
「声をあげてもいいよ…誰もいないから。」
それだけ言って再び先端を口に含んだ。
「あっ…。」
口をついて出た声に自分でも信じられないといったふうに首を振る。満足そうに大神が口の端を上げて微笑むと更なる快感を与えるべくピンクの突起を舌先でもてあそび始めた。声を上げまいとして辛そうに目を固く力を入れて閉じている表情が甘噛みを含めた乳首への愛撫の快感に段段と緩んでくる。かすかな喘ぎ声を漏らすようになる頃には恍惚の表情に近くなってきていた。大神は右手をそっと下肢に伸ばした。びくりと足が震え、固く閉ざそうとしたがその前に手を滑り込ませると既にしっとりと湿り気を帯びた秘所に指を這わせた。
「はぅっ…。」
今度は大きくマリアの背中がしなった。誰にも触れられたことのない場所をなで上げられ、背中をぞくりと何かが蠢くような快感が走ったのだ。その反応を見て取り、大神は人差し指を曲げると濡れそぼった襞の中に少しだけ指し入れる。
「きゃ…あっ…。」
細い悲鳴とも喘ぎともつかない声が彼女の唇から漏れた。そこはねっとりとした彼女の愛液があふれ、指に絡み付く。かき混ぜるように指を動かすとくちゅくちゅという粘質の水音がした。
「い…や…。」
その水音に羞恥を覚えながら掠れ声が抗う意思を伝えるが肝心な四肢は先ほどからの愛撫で力が入らない。むしろ、言葉とは裏腹にその快感を受けるべく身動きもしないままでいた。人差し指はさらに激しく動いてわざと卑猥な水音を高くあげさせていた。
「ふっ…くっ…。」
声を上げまいと食いしばる歯の奥から喘ぎ声が漏れる。秘所のあたりで感じる腰が浮いてしまいそうな感覚に両の太腿をもじもじと擦り合わせて逃れようとしているがそれはほとんど効果はなく、かえって大神の手を余計に敏感な部分に押し付けるだけの結果になっていた。大神は人差し指を休めることなく、今度は親指を花芯に這わせてきた。円を描くようにして芯を覆っている襞を押しのけるとくりっと芯を強めに擦りあげた。
「ひゃっ…。」
マリアの喉から驚いたような声が漏れ、それと同時に体が大きくえびぞった。その反応を確認した大神は先程よりは少し柔らかめに親指を花芯にあてがい少し擦る。
「あああっ!」
もう一度大きく体がしなる。先ほどまで太ももをもじもじと擦り合わせていた両足を突っ張らせ指先まで硬直したように伸びきっている。
「いやっ…。」
「本当に嫌?」
とろりと人差し指に新たな愛液が絡み付く。ぐちゅぐちゅとマリアに聞こえるようにわざと大きな音をあげて襞の中を掻き回す。羞恥に瞳が涙で潤む。さらに親指を動かすと、マリアの体は大きく痙攣し始めた。びくびくとするたびにたわわな胸が揺れ、愛液もあふれてくる。そして痙攣の間隔が短く、大きくなって、最後にはきゅっと人差し指の這っている辺りがひくひくっと小刻みに痙攣したかと思うとかくりとマリアの体から力が抜けて行った。マリアの瞳はとろんと宙を見つめている。しとどにぬらした秘所と、早く上下する胸元をみて大神は満足そうに微笑んで頭をずらして行った。
「ふあっ…?」
突然体全体を襲った快感にマリアはぼうっとしていた意識を取り戻し、自分の下腹部を見た。すると大神がマリアの花芯をむさぼるように口に含んでころころとねぶっている。
「いやっ…た、隊長…。」
大神は返事をする代わりにまた舌先で擦り上げた。思わず腰が跳ねそうになったがいつのまにかがっちりと大神に抑えつけられている。
「だめです…そんな…。ああっ…。」
一度上り詰めて収まったところだったが、再び同じ所を今度は舌先で擦られてマリアは逃れようと身を捩った。けれども逃れることはできずに余計にしっかりと抱きすくめられて何度も体中にびりびりと電流が走っていく。
「あっ、あっ、あっ…。」
びくびくと再び痙攣がきてマリアの意識が遠のきそうになる。大神はその絶妙のタイミングで頭をあげた。ひくひくと受入口がひくつき、あふれんばかりの愛液がすっかりと準備が出来たことを告げていた。大神はお腹についてしまいそうなほどに屹立したモノをマリアの秘所にあてがった。
「ごめんよ。痛むかもしれない。」
そう言って大神は腰を進めた。つぷりと音がしてゆっくりと大神のものが中に入っていく。マリアは唇をかみ締め、眉根を寄せて、辛そうに目をぎゅっと閉じた。
「力、抜いて。」
それでもマリアの体は痛みに強張ったままだった。
「マリア?」
そのあまりにも辛そうな表情にそれ以上の挿入を一度停止してマリアの顔色をうかがった。
「大丈夫です…続けて…ください。」
それでもマリアはひくひくと喘ぐ呼吸の下からようやくそれだけを言った。大神はうなづくとマリアの奥へと再び挿入を開始する。大神の先端が壁に当ったような感触をえた。見るとまだ指1本分ほど埋まりきれていない。しかし、これ以上は辛そうだったのでマリアが慣れるまで全てを埋めるのは待つことにした。
マリアは自分の中に入り込んできた異物感と必死に戦っていた。鈍い痛みが入り口付近でずきずきと熱をもったように続いている。こんなに処女を失うのが痛いことだったなんて。涙さえ浮かびそうになるのを必死でこらえて息を整えようと浅い呼吸を繰り返していた。中を押し広げるようにして入ってきたそれはぴくぴくと脈打ち、熱さと太さでその存在を誇示している。初めて男性を受け入れたマリアの内側はふるふると震えるようにして小さな痙攣のような動きをしながらその太さに慣れていこうとしていた。やがて、マリアの呼吸が少し落ちつきを取り戻した頃、大神は残りの指1本分を埋めるべくやや強めに腰を沈めた。
「くっ…。」
大神の先端が奥の壁にめり込んでいく感触にマリアが思わず白い喉を見せてのけぞり、これでようやくマリアは全てを受け入れることが出来た。
「隊長…。」
「痛い?」
「いえ……。」
思いを通わせ会ってからずっと心の奥底でこうなることを望んでいた。身も心もこれでようやく繋がった嬉しさにマリアの瞳からつぅっと涙がこぼれる。大神はマリアが落ちついたのを確認するとゆっくりと律動を開始した。最初は眉をひそめ、辛そうな表情を浮かべていたマリアから甘い、鼻にかかったような喘ぎが漏れるのにそんなに時間はかからなかった。じゅぷじゅぷと猥褻な音をさせながら自分の最奥を何度も穿ち、内壁を擦り上げる大神と少しでも深く結合できるようにいつしかかすかに彼女の腰も揺らめきはじめた。大神自身は纏わりつくようなマリアの内側の襞に翻弄されながらまだ上り詰めてしまわないように我慢をしていた。もっとマリアの中にいたい、マリアを感じさせたい。ゆっくりだった律動をだんだんと早めていく。彼女が白い肢体を捩って快感に溺れそうになるのから逃れようとしていたがそれを抑えつけ、マリアの両足を肩に乗せた。そしてさらに激しくマリアの中に自身を抽挿する。先ほどよりもさらに深くまで沈み込むようになった大神のものをもっと感じようときゅうっと彼女の内側に力が入り大神のものを締めつける。眩暈をしそうなくらいの心地よい締め付けにこぼれそうになるがどうにか踏みとどまると自分の最速でマリアの奥に自身の先端をたたきつけた。やがて、マリアの両手がシーツを掴み、背中をのけぞらせ、腰を振るわせると彼女の体の動きが停止した。
「あっ、ああんっ…。」
こぼれた声と同時に内側の襞が一斉に絡み付くようにきゅうっと大神のものを締め上げた、そして大神のほうもその刺激にとうとう我慢できなくなり彼女の奥に向って白濁の滾りを放っていた。



END

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