禁忌

 

煌々と、まぶしいほどの満月は障子を漉かして座敷に差し込み、灯りもつけていない室内を仄明るく照らしている。その部屋の中には濃密な男女の気配がねっとりと満ち、夜更けの、かなり寒いはずの温度を随分と上昇させていた。
「…く…。」
奈涸は快楽に身をうねらせる白い涼浬の裸身を、自分が舌を這わせている下半身の方からちらりと見る。
普段は透けるように白く、あまり温度を感じさせない肌が、先ほどからの愛撫で火照り、ほんのりと薄紅に色づいている。
そのせいか、先ほどから滴る愛液は一向に枯れる気配もなく、それどころかとめどもなく溢れ、会陰を伝って菊口までぬめりを帯びた光に濡れていた。
とろりと零れる愛液をもう一度舐め上げ、先ほどから続けている指での淫核への愛撫をさらに強めればひくりと、引き攣るように白い裸身が跳ねた。
息を詰め、快楽に流されまいとしているのは無理にでも意識をつなぎとめなければならないほど快楽が強いからで、普段の理性的な彼女の性格が快楽に身を委ねることを良しとしないらしい。
もっとも、しらじらしく喘がれるよりは、よっぽどいい。
時折堪え切れずに漏れる声は、本人が意識しているのかどうか、ひどく切なく艶かしいもので、知らず知らずのうちに煽られてしまう。
奈涸の舌がゆっくりと陰唇を這い、やがて淫核に触れると華奢な体躯が先ほどよりも大きく震える。
舌先を充分に尖らせて、ゆっくりと円を描くようにその回りをくるりとなぞれば、より一層甘い声が零れ出た。
同時に奈涸の、男にしては綺麗な細い長い指を膣中に差し入れると、中の壁が一斉に蠢き指を柔らかくしめつける。その心地に満足しながらもう一本指を差し入れると今度は短い嬌声がわずかだが漏れた。
舌で淫核を蕩かし続けながらゆっくりと指を抜き差しすると、急速に体が戦慄いて、きゅうきゅうと指を締め付けてくる感触と、殺しきれずに切羽詰ったように続けざまに漏れる嬌声を上げて、涼浬は一度目の絶頂を迎えた。
中を撹乱していた指を抜くと長く糸を引く愛液が指の股を滴り、手のひらや甲までもぬらしている。
顔をあげて横たわる涼浬を見ると、強すぎた快楽の熱をどうにか逃がそうと胸を忙しなく上下させ、余韻に体をひくつかせて、まだこの先を続けるにはどうにも辛そうである。
奈涸は猛りきった己の陰茎を涼浬に宛がい、涼浬の落ち着くのを待った。
無論、余韻の残る今、押し入ればさらなる強い快楽を与えられるのは重々承知している。が、涼浬は過去にそれに耐え切れず、途中で失神してしまうこともあったから、余韻がひいてから思い切り貫くことにしている。
しかし、本当はそれだけではない。
やはり、何度涼浬を抱いても、この瞬間の、禁忌を破るという罪悪感に少しだけ躊躇ってしまうのだ。
昔、高貴な身分のものは兄妹でも婚姻したが、さすがに同母兄妹のそれは禁忌とされ、そのおかげで皇位継承権を剥奪され、流刑にあったものもいる。
涼浬の幸せを考えれば誰か良い男と契り、夫婦になればよいのはわかっている。
しかし。
涼浬が誰か自分以外の他の男を婿とするなど、その胎の中に自分以外の男の男根を挿れるなどと考えただけで狂いそうなほど腹立たしく、悔しくなる。
たとえその相手が一番気に入っている龍君だとしても、だ。
もっとも、龍君はねっからの衆道狂いで、今この瞬間でさえも鬼哭村の誰かに組み敷かれ、貫かれているだろうからその相手になりうるわけもない。
「…あ…に…うえ…?」
膣口に宛がわれたまま一向に入ってこようとしない兄に、怪訝そうに涼浬が呼びかける。快楽に酔ったのか、少し舌足らずの涼浬の口調に我に帰るのと同時にどくんと下半身に力が注がれる。
そのまま、一気に奥まで腰を沈める。
「んっ…。」
愛液で潤っているとはいえ、元が華奢な作りの体ゆえ胎の中はきつく、幾重もの襞がしめつけてくる。その心地よさに我慢できず、両手で涼浬の足を開き床に押さえつけ、思うさま強く腰を打ち付ければ、もはや堪え切れず、切ない嬌声は上がりっぱなしになる。
その声に煽られ、なお一層早く動けば涼浬もそれにあわせて細い腰を揺らめかせ始めた。
「…ん…。…あに…う…え…。」
情交の最中に兄上と呼ばれるたびに、より一層烈しい劣情がわきあがり、自分でもどうにかなってしまいそうなほどに涼浬を攻め立てる。妹を抱いている、そのことが烈しく涼浬を抱く原動力にもなっている。
いっそのことどうにかなってしまえばいい。そうすればこんなに愛しくて辛い思いをしなくてすむものを。
白い裸身をのけぞらせ、体を精一杯に開いていた涼浬がふと気を緩める。
「…?」
どうしたのかと目で問えば、切れ切れの息のあいだから短く返答する。
「わたしが…うえに…。」
そう言って、繋がったまま快楽に崩れそうになっている体をどうにか起こしたので、そのまま自分は仰向けになり、涼浬をまたがらせる。
恥じらいながらも、ゆっくりと動き出すのを下から突き上げるようにして腰を使う。
自分の重みでより深く結合し、同時に涼浬のあられもない姿に視覚的にも高められていく。
自分から動くという行為に興奮したのか、すぐに涼浬は戦慄きだし、甘い声を漏らし始めた。
そろそろ自分も限界が近い。
胎の中に自分の精を余さずに吐き出せたらどんなにいいことだろう。
しかし、それこそが禁忌中の禁忌。それだけは何があっても決してしてはいけないことだから。
「涼浬…。」
しかし、夢中で聞こえていないのか、返事はなく。
「涼浬…これ以上は…。」
そろそろ切羽詰ってきて、もう一度声をかけるが、より激しく涼浬の腰が揺らめいて、同時に締め付けもきつくなってきた。それがさらなる快楽を生み、思わず精を吐き出しそうになるのをようやくこらえ、涼浬の腰を持って外そうと試みるが。
「んぅ…。」
涼浬は腰を更に深く沈めてその力に抗い、同時におそらく自然ではなく、意図して膣の内壁を収縮させた。
「す…涼浬…。」
かすれる声で呼べば、体の上で怪しくうごめくだけで、一向に退こうとはしない。
いよいよ我慢も限界だ。
これ以上は無理だと、細腰を掴んで引き上げようとすると、白い手が腰に伸びた手を掴み、まるで床に縫いとめるように頭の横に押さえつけられた。驚きに目を見張り、上に乗る涼浬を見つめるとただ快楽をむさぼるのみで。
そうしているあいだにも一層怪しくうねる腰は限界を超えるように促していたし、膣中はきゅうきゅうと痛いほどの締め付けを繰り返していて。
「…っ…!!!」
とうとう、我慢ができなくなって涼浬の胎の中に精をたっぷりと吐き出してしまった。
びく、びく、と震えながら吐き出すと、それに呼応するかのようにひくひくと吸い上げるように中の襞が震えていく。
「…あっ…んん…。」
射精と同時に涼浬も達したようで、体が小刻みに震えながらその余韻に浸っている。
「涼浬…。」
「あにうえ…。」
とろんとしたような、どこか夢を見ているような声で返答する。くたりと、体に力が入らないらしく、崩れるようにしてもたれかかってきた体はしっとりと汗で濡れていた。
「…中に…出してしまった…。」
「…はい。」
先ほどよりもしっかりした答えが返ってくる。
その様子が意外で、胸に顔を擦り付けている涼浬を見ると小さく微笑んでいた。
「…私…兄上の子が…欲しい…。」
呟くように言った一言に、驚いてもう一度顔を見ると決して冗談を言っている顔ではなく、ひどく真剣で、でもどこか悲しそうで。
「他の人と…媾合うのは嫌です…。…兄上には迷惑かけません…。自分一人で…育てますから…。…だから…兄上…。」
微笑んではいるけれど、目には一杯の涙が浮かんでいて、それがぽろりとまるで珠のように光って零れ落ちた。
「涼浬に…兄上の子種を…下さい…。…涼浬の中を…兄上の精で満たしてください…。」
そう言って、まだ涼浬の中に入ったままの男根を刺激するように再び腰を動かし始めた。誰よりも、命よりも大事な妹にそんなことを言われてなんともないわけがない。むしろ、積極的に動かされる腰に中に入ったままの陰茎は刺激され、また勃ち始めていた。
「涼浬…。」
「愛しています…、兄上…。」
白い、陶器のようなすべらかな肌の胸を押し付けるようにして、涼浬が接吻をねだってくる。その紅い唇を食みながら初めて涼浬を抱いたあの夏の日を思い出していた。
そう、すべてはあの日に覚悟ができていたはずだった。
戸惑っていたのは禁忌を犯すことではなく、涼浬が、いつか自分などを捨て他の男へと走るのではないかということを怖がっていただけで。
別れを禁忌の名を借りて恐れていただけだった。
涼浬がいつまでも自分の側にいるというなら。
「…ああ。愛しているよ、涼浬。」
涼浬の上体を抱きしめ、反転して体勢を入れ替える。細い足首を掴み、大きくそれを広げ、その奥まで楔を打ち込めば、涼浬はすぐに反応を返す。
誰よりも愛しく、大事な妹。
何度も、何度も、角度をつけながら、時にはまわすように、突き上げるように貫けば、一層の収縮に射精を促される。
「くぅっ…涼浬っ…。」
やがて、涼浬の奥に二度目の放精をすると、驚いたように、けれどとても嬉しそうに涼浬は微笑んだ。
「…これからは、子種は…涼浬だけに…注ぐ…。」
「はい…、兄上…。」
小さく頷くと涼浬はきゅっと抱きついてくる、その仕草も可愛くて微笑ましく思いながらすがり付いてくるその腕よりもさらに力を入れて抱きしめる。
人の道に外れているとしてもいい。涼浬がそれを望むなら、どんなことでもかなえよう。たとえ、それが身の破滅を招こうとも。




END

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