巨人軍の彼ら2

 

平成12年5月13日土曜日。巨人対阪神8回戦。U完封で巨人が勝利を収めた。同僚の先頭打者ホームラン、そしてNのツーランホームラン。それとフォアボールによる押し出しで4点を貰ったUは阪神の打線を2安打におさえての勝利だった。
「うん…もう、だめ。」
「まだだ、まだ…。」
「あぅっ…、いく、いっちゃう…。」
掠れたような声が部屋に響く。それと共にくちゅくちゅという湿った音が絶え間なく続く。真っ暗な部屋にはテレビの画面だけがこうこうと光っていて、したり顔の解説者が自分の経験に基づいて人のプレイを勝手な憶測だけで話している。
「初回。フルカウントからの先頭打者ホームラン。」
テレビのアナウンサーの声がどこか遠い世界のことのように聞こえる。
「ああっ!」
うごめいていた影が最後にびくりとして、そしてぱたりと力なく崩れる。後にははぁはぁという荒い息遣いが聞こえていた。
「ここで、Nのツーランホームランで巨人3−0とリード。」
アナウンサーの言葉に反応する影。
「ねぇ、どうしていつも、頭たたくわけ?」
画面の中で、ホームに生還した自分を迎える彼はぽんとグラブをはめたままの手で頭を軽く叩く。
「どうしてって…おかえりっていうつもりなんだけど?」
「お帰りなら、別に頭叩かなくったっていいじゃない。ああやってるとなんだか、子供扱いされてるみたいだ。」
ちょっとだけ拗ねた顔でふいと横を向く。
「そーやって拗ねるから子供なんだよ。…一体、どこの誰がクールなんだか。笑っちゃうね。」
「別に自分でクールって言ったわけじゃない。…勝手にファンやマスコミが言ってるだけだ。」
「ホームラン打っても嬉しそうな顔ひとつしないもんな。」
「自分のために打ってるわけじゃないからね。」
「じゃ、誰の為に打つんだよ?」
悪戯っぽく覗き込んだ顔はなんて答えるかをわかっているようだ。
「知らない。」
「ほらほら、言えよ。」
「そんなことしてると肩、冷やしちゃうよ?」
話しをそらそうとして言う忠告も彼には全然聞こえていない。それでもNは毛布を彼の肩にかけてやった。にこにことしてNの返事を待っている。
「Uが勝てるように…だよ。」
「そっか、嬉しいよ、N。」
プロスポーツ選手にしては多少線の細い体を抱きしめる。Nは照れて逃れようとするがしっかりと抱きしめられていて彼の腕の中であえいだだけになる。
「ねぇ、もう明日はベンチ入りしないんでしょ?明日、先に帰っちゃうの?」
「いや。一緒に帰るよ。…一人で帰ってもつまらないから。それに…。」
「?」
「明日も大阪におれば、またおまえを抱けるからな。」
にんまりと笑ったUにNは抗議の声をあげようとするけれど、唇をふさがれて声にならない。そのまま舌先でNの唇を割って中に入り込み、Nの舌先を絡めとる。
「ん…ふ…。」
されるがままになっているNの体の力が完全に抜けたのを確認するとそのまま唇を滑らせ、首筋や胸に所有の赤いしるしをつけていく。それと同時にNの下腹部に手を伸ばすと、それはすでに破裂しそうなほどになっていて、先にぬるりとした透明な真珠のしずくをたたえていた。ゆっくりと握って上下させると腕の中のNの背が反った。
「あ…。」
「ん?どうしたんだ?」
「い…や…。」
「何が嫌なんだ?」
「そんなの…しないで…。」
「こんなになってるのに?」
かあっと顔が赤くなってそっぽを向く。その仕草が可愛くて余計にいじめたくなる。もう少し激しく動かすと言葉にならないような短い悲鳴をあげた。
「いじわる…。」
「ほら。こっちに来い。」
Uは彼の腰を引き寄せるとそのまま何の準備もなしにいきなり自分のものを彼の中に埋め込んでいった。
「あああっ!」
下肢に走った痛みに4つん這いのような形でNが手をついた。N自身のものはまだUがしっかりと握っている。U自身が動くのと一緒に手も少し動かすとNの背が大きく弓なりにしなった。
「やめ…て、お願い…。」
Uは無言だった。さらにNの中を深く穿つ感覚と、Uの手で与えられている感覚とで体が浮いてしまいそうだった。
「いや…だ…狂っちゃうよ…こんなの…。」
「狂えばいい。」
耳元で囁かれた声は凶悪な犯罪者のそれにも似て…。その声にさえも感じて自ら腰を使っている自分にどうしようもない愚かさを感じながらも、やめられない自分がいる。
「やめて、出ちゃうよ、ねぇ。」
「出せよ。」
懇願も聞き入れてもらえないどころか、Uは激しく動き始めて、前後、両方からの快感にNはもはや意識を保っているのでさえ困難になってきた。意味不明の言葉が口をついて出る。
「いい…、いや…、もっと。」
Uが笑った気がした。一瞬とまったUの動きはさっきよりもさらに激しくなり、そしてとうとう耐えられなくなった自分はUの手の中に、Uは自分の中にそれぞれを解き放つとゆっくりと意識も手放してしまった。

「明日も試合なのになー。」
くすくすと笑いながらUはNの寝顔を見ていた。今日、完封勝利をおさめた彼は明日はベンチ入りもせずにゆっくりとすることができる。
「ま、いいか。俺以外のときに調子がいいのもくやしいからな。」
そんなUのつぶやきなんか知らずにNは無防備な寝顔をさらして眠っていた。

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