セレスティザムから何とか無事に陽だまり邸に戻ったアンジェリークたちはようやくゆっくりとすることができた。
エレボスを倒したお祝いのパーティーをささやかに5人で開いて、無事にニクスを開放することができたことを喜び、地上に戻ってきたことを喜んだ。
ジェイドが作ったさまざまな料理に舌鼓をうち、たくさんのスイーツを食べたところでアンジェリークは緊張が解けたのか、うとうととし始めてしまった。
「アンジェリーク。ここで寝ては風邪をひく。」
肩を貸していたヒュウガが心配そうに囁くと、アンジェリークも眠い目をこすりながらうなづいて部屋に戻ることにした。
おやすみなさいと、とろんとした目のままでいうと、階段を上り、自分の部屋に戻っていく。4人はその後ろ姿を微笑ましく、また心配そうに見送ってから、またそれぞれのほうに向きなおった。
「で、いつキリセに帰るんだい?」
ジェイドから尋ねられ、ヒュウガはグラスを置くと、うん、とうなづいてから話し出す。
「荷物の整理が済み次第、といったところか。2、3日かかるやもしれぬな。」
「ずいぶんと急だな。」
「思い立ったら早いほうがいいだろう。」
「僕もいこうかな、キリセに。」
ジェイドの言葉にヒュウガは目を丸くして彼を見るが、いたずらっぽく笑った顔にからかわれたのだということを知る。
「結構役に立つと思うんだけどなぁ。料理とか、家だって小さな家なら建てられるし。」
ジェイドに続いてレインまで身を乗り出してくる。
「おれもキリセまでひとっ飛びのアーティファクトを開発して、そっちにラボを持とうかなぁ。」
「それなら、私がキリセに別荘を購入すればよいのですよ。お部屋の一つぐらい格安でお貸ししますよ、レイン?」
「なんだよ、金とるのかよ。」
やはりみんなアンジェとは離れがたいのだ。ヒュウガは苦笑しながらみんなの半分本気な会話を聞いている。もし、アンジェリークが他の誰かについていくことになったら、やはり自分だってそういうだろう。
そう思うからこそ、一刻でも早くキリセに行きたいと思う。
「まぁ、今回は仕方がないからヒュウガに譲るとしましょう。」
ニクスがいつもの肩をすくめながらのアクションつきでようやくアンジェリークに対する権利を放棄する。
「ああ、そうしてくれるとありがたいな。」
「ただし。」
ニクスは眉を片方だけあげて安心したヒュウガにさらに追い打ちをかけるべくいう。
「先日のようなことは二度とはなさらぬように。」
「先日の…?」
何のことか一瞬理解できないでいたが、自分がアンジェリークに対して行ったことでアンジェリークの不利益になるようなことといえばあれしか思い浮かばない。
そう、アンジェリークに一方的に別れを告げたこと、そのことだろう。
「いまさら私がいうことではありませんが、あなたはアンジェリークの気持ちを全く聞いていないでしょう?ヒュウガ、あなたが尊重すべきはあなたの責務などではない、アンジェリークの意思です。それをゆめゆめ忘れることのないよう。」
そう言われてしまうとヒュウガにはぐうの音もでない。ニクスだけでない、ジェイドとレインもうなづいている。
「真面目すぎるんだよな。…銀樹騎士なんだからさ、女王云々の前に、その大事な女王を泣かしちゃだめだろうが。」
「今度そんなことしたら、本当に僕ら、キリセに行ってアンジェリークをさらってきちゃうからね。」
「ああ、わかった。アンジェリークを悲しませるようなことは二度としない。」
「それならば安心ですね。」
ふふっとニクスが笑ってようやくお許しが出た。
「どうぞ、お幸せに。」
「ああ、もちろんだ。彼女と一緒にいられるだけで俺は幸せだからな。…ああ、もちろん、アンジェリークも世界一幸せにしてみせる。」
銀樹騎士の頃には塔の上で夜通しアルカディアを守ると熱く語ったというヒュウガの、やはり熱い宣言に一同、固まる。
「ニクスよりすげぇぞ。」
「ストレートすぎて聞いてるほうが恥ずかしくなるよね。」
「私と比べないでください。私など足元にも及びませんよ。」
小声でひっそりと囁きながら、今は夢の中にいるであろう恥ずかしがり屋の少女の今後に3人は心の中で同情を寄せた。
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