題詠マラソン2005 by 陽奈







最終訂正日 2005年 11月3日




    001:声
    故郷の船溜まりの人の輪に生きているごとき父の声聞く

    002:色
    春を告ぐ先駆けなりや桃色のカワズザクラは一番に咲く

    003:つぼみ
    朽ちし花も固きつぼみもうち混ざり紅く白く山茶花が咲く

    004:淡
    淡々し明日のことは考えず 落ち葉焚く焔をあかず眺めおり

    005:サラダ
    デパチカで買ったサラダがはばを利かす今夜のメニューはちょっと手抜きよ

    006:時
    あなたとは違う時代に出会えればかなりいい線いってたかもよ

    007:発見
    洗面所に夫の足跡発見す意外に大きくなぜだか安堵

    008:鞄
    旅支度小さな鞄ただひとつ帰ると思えばこんなもんだよ

    009:眠
    横になるや ドーンと深かく沈みゆくこの眠りのまま天国まで行け

    010:線路
    手をふりて線路の向こうに君がいる電車の通過をもどかしく思う

    011:都
    都落ちと言う人あれどうれしかり君が待ちいる街に帰ると

    012:メガホン
    体内にメガホン持ちてときおりは怠け心にエールをおくる

    013:焦
    焼け焦げた魂のそばで立ち尽くす そこから先は一歩も進めず

    014:主義
    カッコよく主義を貫くなんていう頑固なだけと思ったりする

    015:友
    さまざまなものを薦める友がいるとうとう今日は魂を売りに来

    016:たそがれ
    泣くほどにうれしと思う言葉さえ記憶の底にたそがれていく

    017:陸
    陸遠し四月の海を割りて往く真白き泡の筋をひきつつ

    018:教室
    故郷の教室八つの小学校全校生徒はやがて八人

    019:アラビア
    アラビアのロレンスに会う夢の中で我も白布をなびかせる砂漠

    020:楽
    青葉城紅く染め燃ゆいにしえの武者さばかりか楽天イーグル

    021:うたた寝
    春陽浴び新聞を読みつまどろみてうたた寝る午後テーブルに溶ける

    022:弓
    公園で真弓の若枝をしならせてスズメさざめき夜更け待ちいる

    023:うさぎ
    おちる落ちる落ちつづける夢のなかでウサギの穴にアリスを追いかける

    024:チョコレート
    言わないよ チョコレートみたいにその一語口に含んで溶けていくまで

    025:泳
    つまづいて空を泳ぎし一瞬にまさかの老いが脳裏にかすむ

    026:蜘蛛
    はかなげに蜘蛛の糸のように繋がれりただただ君のメール待つ我は

    027:液体
    個体から液体に変わる一瞬の口腔内は我のみの宇宙

    028:母
    故郷で母が手摘みしエンドウの皮をむきおり今夜は豆ご飯

    029:ならずもの
    大空にわが魂を解き放てならずものとなりて帰り来たれよ

    030:橋
    新緑と橋の上から海を見て高速バスはただひた走る

    031:盗
    午前四時盗汗(ねあせ)おぼえて目覚めけりようやくしらじら夜は明けんとす

    032:乾電池
    乾電池はかなくなりてとろとろと我が行く道は手探りに似たり

    033:魚
    トラックで魚商う行商の来たるを告げる声が近づく

    034:背中
    言い訳も疑うまいと思えども素直になれず背中向けいる

    035:禁
    言いかけて禁忌(タブー)の一語を飲み込めば曇なき空はただ高かりき

    036:探偵
    多発するドラマのような事件ばかり名探偵コナンはいまだ現れず

    037:汗
    脱ぎ捨てし汗の臭える背広あり梅雨の季節やアジサイの花

    038:横浜
    もの言わぬ人となりたり二時間あまり新幹線は横浜を過ぐ

    039:紫
    うす紫のキャミソールがよく似合うねと告げる人あり心はずむ我は

    040:おとうと
    我を慕う若き人ありおとうとと言い聞かせてむや我にも彼にも

    041:迷
    ただただに歩み来し今とどまれば迷い迷えるばかりなりけり

    042:官僚
    私を「官僚的ね」と言う友のメールはいつも季節と用件

    043:馬
    誰言いし天の御厩のおん馬は白毛のみとか星を見上げる

    044:香
    くちなしが香る門より三軒目通れば君がいるかと思う

    045:パズル
    新聞のパズルを解くを楽しみに卒寿の母は独り暮らしす

    046:泥
    静静と一晩続きし夏雨に枝突きのばす萩の葉泥泥

    047:大和
    大和なるくに連綿と眺め来し天平佛の鈍色の目は

    048:袖
    恋をする娘が浴衣の袖を振り下駄音軽く夏祭り宵宮

    049:ワイン
    君の居ぬ二十五回目の記念日を雨音聞きつワインで乾杯

    050:変
    逢いに行く車窓に映る我の目に心変わりのなきを問いつつ

    051:泣きぼくろ
    触れてみる子供の頃にはなかったよふと気がつけば泣きぼくろあり

    052:螺旋
    螺旋に蔓の這うごとく絡みおり生きた証しと紅芙蓉咲く

    053:髪
    だんだんと母に似てくる心地する鏡の中に白髪見ており

    054:靴下
    温もりの残る靴下手にとればかかとの薄く擦り切れんほど

    055:ラーメン
    たまさかの一人ぼっちの夕食は手抜きがうれしいカップラーメン

    056:松
    松明の火の粉を浴びるお水取り 暑さの別れは野の彼岸花

    057:制服
    子供らのその時どきの制服と思い出を詰めるダンボール三個

    058:剣
    惚けし母はディサービスに行かぬぞと剣幕顔で我をにらみいる

    059:十字
    十字切るその手で合掌拍手(かしわで)となにを祈るか神や仏に

    060:影
    身丈より長き影曳き曲がり角曲がれば影も身をよじり追う

    061:じゃがいも
    じゃがいもの小さき芽あり二つ三つ春は花にもなるべきもの

    062:風邪
    誰よりも丈夫に見える息子から今年も風邪をひき初めており

    063:鬼
    言い訳もすんなり入らぬ人となり我が身の内に住む鬼ありき

    064:科学
    科学しか信じられぬと言う人が凶のおみくじ枝に結びいる

    065:城
    城壁に水位の記録を刻みおり堀底見せる渇水の夏

    066:消
    ことあらば頭をよぎる恥があり消せればいいね消去ボタンで

    067:スーツ
    久々にスーツに袖をとおす日はこのまま仕事に行きたしと思う

    068:四
    立ち止まる迷路のなかの四つ角で我が行く道をコインで決める

    069:花束
    ただ一葉濃き紫を加えれば白き花束はなお華やぎぬ

    070:曲
    この曲をいっしょにと言う我が夫はいつしか同じ趣味はカラオケ

    071:次元
    制服の娘(こ)らいっせいに携帯でピッピ車内を異次元にする

    072:インク
    二十年消せぬ記憶が綴られているインクの色も変わりしノートに

    073:額
    故郷に帰れば会える父がいる鴨居の上の額縁の中

    074:麻酔
    脳みそに麻酔打たれし心地して父の病名告げる声聞く

    075:続
    平凡な我が人生の続編は少し危険なかおりがほしい

    076:リズム
    ヘッドホンつけて恍惚リズムとる向かいに座る中年紳士

    077:櫛
    急ぎ来て君に逢わんと地下鉄の車窓の我を手櫛で繕う

    078:携帯
    携帯に出張先の証しにと錦帯橋の写真が届く

    079:ぬいぐるみ
    リビングでテディベアーのぬいぐるみ息をひそめてなにを見て越し

    080:書
    胸痛む白秋が書を閉じおきて流しに向かい水を流しいる

    081:洗濯
    秋晴れの洗濯日和の朝なればベランダいっぱい干して一息

    082:罠
    若き日にあなたの罠に落ちてよりいまだ逃れず二十年過ぎた

    083:キャベツ
    幾重にも衣重ねてかたくなにキャベツの芯に似ておりわが身は

    084:林
    歩み来て森林浴の一呼吸 箕面の御山の滝を見んとて

    085:胸騒ぎ
    終電を過ぎても君は帰らざる 風ざわめきて胸騒ぎす

    086:占
    占えば「有卦に入る」とでるけれどついていないよ残りふた月

    087:計画
    わたくしの自由人化の計画はまだ案のうちに雲散霧消す

    088:食
    住吉の社に鳩が群れおりて蒔きし餌を食むまた一羽来て

    089:巻
    若き日に巻き戻せるならわたくしのドラマの筋を変えてみようか

    090:薔薇
    咲く薔薇を愛でるがごとく自らを愛でてやりたし手鏡をとる

    091:暖
    秋さなか暖かき部屋でまどろみつ寒波到来のニュース見ており

    092:届
    待つ人に早く届けとキーを打つ まだ明けやらぬ朝を待ちつつ

    093:ナイフ
    いさかいてうわの空にてナイフ持ち柿剥く我を見ており君は

    094:進
    共に来て迷路に入りて進まれずこれより先はそれぞれの道

    095:翼
    急降下翼広げてすれすれに地面かすめて燕飛びゆく

    096:留守
    留守にする言い訳いろいろ考える 赤のまんまはただ赤く咲く

    097:静
    幾筋も腕の静脈浮きており埋火燃えて拡がるように

    098:未来
    わが目には暗き未来は見えずして現(うつつ)も夢も今日限りなり

    099:動
    秋空の曇動かずに風もなく入日にわかにたそがれてゆく

    100:マラソン
    我も走る題詠マラソンの道筋にあまた輝く星が輝く






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