2005年詠草抄 (陽奈)
by 究峰
最終訂正日 2006年1月5日
【フリーマーケットにて】
- 若きらは捨てるがごとくただ置きたりフリマのシートは無造作が似合う
- 海風がフリーマーケットを突き抜ける客待つわれは貝のごとくに
- ブルーシートに無造作に置くフリマでは奇抜な服から売れていくらし
- フリマにてまた生かされる服愛しよく似合うねと告げて手渡す
- お気に入りに伸びる客の手気になりぬ 売れるもよし、売れざるもよし
【義母のこと】
- 惚け封じの寺と聞きせば身をただし代わりて祈るも義母は惚けおり
- 嫁姑いさかいしことなどなきがごと昔を語る惚けたりし人
- コロコロと歯のなき口してよく笑う惚けたる人を愛しと思う
- 義母の顔シワの数だけ苦労あれば深き幾本か我が刻めり
- いっちゃんと我が名を忘れず呼ぶ人が息子の名さえしばしば忘れる
【夫婦喧嘩】
- ねえ、ここへ来て座ってよ 同じ目線で見れば少しはわかりあえるよ
- 手を伸ばせば触れるあなたに背を向けるこの距離感はマイナス3℃
- 寂しさは一人ぼっちがまだましともの言わぬ人の背中見ている
- 何処にかメール打つ君盗み見て気付かぬ振りして流しに向いぬ
- 目的地までの空気耐えがたし ロマンスシートの隣に座す夫(ひと)
【愛犬メリーへのレクイエム】
- 横たわる傍を通れど動かざるどうしたの今朝は 愛犬死にいる
- 突然の別れを信じられずいてそれでもあたふた花を買い来る
- 昨日まで呼べばのそりと立ちおりし今朝は動かずむくろとなりぬ
- ドッグフード線香たてと花と水 あれから五日まだそこにある
- 十五年前に来た子犬は家族中の誰よりも早く逝ってしまった
- いつもいたその場に犬の姿なくよけずに通れることの寂しき
- 公園を通れば綱を引く気して蝉の穴にも悲しさが増す
- くちなしの若葉を食べたと叱ったねお前でなかった青虫一つ
【母のこと】
- 元気かと便りもせずに過ぎ来たり気付けば母は病みて臥しおり
- シワ深き母は臥しおりもうすこしあなたの娘でおりたしと思う
- 会うたびに老いゆく母あり故郷の庭にアジサイくちなしの花
- 主いぬ母の家に立ち入れば射し込む光にほこり舞う見る
- 臥す母にそこに木ありと教えられ今年は代わりて山椒の実を摘む
- 暮れ初むる母の島の桟橋を汽笛をながくフェリーは離る
- 落花生に実が入らぬとカラカラの畑に水を汲みおり母は
- 新聞のパズルを解くを楽しみて卒寿の母は独り暮らしす
【日々雑詠】
- 土かむり三株ありという雪割草小さき鉢を抱きて帰りぬ
- 黒々と日付の下にメモありて去年のカレンダーをを捨てきれずおり
- 車窓から背中を包む日差し浴びたった二駅を睡魔と闘う
- いつからか使わず置きし電卓と三角スケールに目がいくこの頃
- 春陽浴び新聞の活字がかすみゆくうたた寝る午後テーブルに溶ける
- 巣の下に板切れ一つ打ち付けて燕待ちおり三度目の夏
- 渋滞す盆の帰省のなぐさめは高速脇の白百合の花
- 秋風のわずかに吹けばハラハラと散り敷く萩を踏みて歩きぬ
- まだ暗き駅のホームにボランティアのシャカシャカ箒の音のみぞする
- 朝露に線路輝く鈍色に始発まだ来ぬ駅の静けさ
- 終電の窓に映れるわが顔をじっと見ており他人のごとくに
- わが肩に何も語らず落ちて消ゆ淡雪の如し君の腕(かいな)は
- 物憂げに外を見る人物読む人女性専用車両の行き着くところ
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