001:声
自らの内なる声に目を瞑り聞かぬふりして後悔多し
002:色
何色に染められたきとは思はねど知らず知らずに染まりし我も
003:つぼみ
花開く前のつぼみに見えぬ手が魔法の粉振り呪文は解けぬ
004:淡
淡き色繋げて通す糸を編み我が手の中で指輪の現る
005:サラダ
そうじゃないサラダを食べたいわけじゃないドレッシングのキラキラが好き
006:時
風よりも空気より尚目に見えず時と心は移ろい易くて
007:発見
もう一度コドモに戻り発見のドキドキ感を味わいたいな
008:鞄
詰めるより詰める前にはこの鞄もっと入ると思っていたのに
009:眠
安眠という名の幻想束の間に目覚めし後の節の痛みよ
010:線路
続かない線路もあると気付いた日囲みし海を埋めんと欲す
011:都
あの頃を忘れたいのに思い出す都忘れの花の紫
012:メガホン
メガホンを握る掌汗かいて声を飛ばしぬ応援席より
013:焦
あの頃を忘れたいのに思い出す都忘れの花の紫
014:主義
個人主義あの人の言う利己主義とどう違うのか誰か教えて
015:友
お互いに年をとったと友は言うされど気持ちはあの頃のまま
016:たそがれ
たそがれは逢ふ魔が時と知って後すれ違う人見ないふりする
017:陸
ひと昔前に云われたこの町は今も変わらず陸の孤島
018:教室
見慣れたる教室なれど４月にはメンバー変わり新鮮になる
019:アラビア
世界地図見てもわからぬアラビアはイメージの中ゆらめいており
020:楽
廻りたる独楽の健気さ目に痛く横になさむと常に負けたり
021:うたた寝
うたた寝をしたくて合はす目覚ましの針を気にして眠られぬ午後
022:弓
ケイロンの引きし弓矢は誰に向く星に託せしギリシャの神話
023:うさぎ
お仕置きを行ふうさぎは世代越へ今も人気のアニメの世界
024:チョコレート
幼き日父の土産はチョコレートただそれだけで勝ったとわかる
025:泳
水の中息継ぎなしに泳ぎたいエラが欲しいと海見て思う
026:蜘蛛
桃色の蜘蛛は青空飛びたくて奪ひし蝶の羽根でダイブす
027:液体
血の色の液体見ればドラキュラに罵られても口移しせむ
028:母
母性とは本能なりと言はれしも父性を言はれぬ男よ怒れ
029:ならずもの
西部劇なくてはならぬならずものガンマンだけでは映画にならず
030:橋
いくつもの橋はあれども渡るべき一本選べず遠回りする
031:盗
罪なしと開き直りし手にしたる枝を誇れり花盗人は
032:乾電池
それだけじゃ役に立たねど乾電池君は動かず誰かを動かす
033:魚
人間は魚だったと聞いたから捌かれたくてこの身を開く
034:背中
相談は答えを求めるためならず背中押さるる口実欲しさに
035:禁
禁断の木の実囓れと唆す蛇を愛したイブの血騒ぐ
036:探偵
探偵になりて自ら観察し報告書には如何に書くらむ
037:汗
真夏日のエアロビ背中に汗流れ痩せた気になりぐびと水飲む
038:横浜
赤い靴履いてる娘は未だ消ゆイメージのある横浜は今も
039:紫
目を細め紫の煙くゆらせて独り佇む女になれず
040:おとうと
おとうとは生まれた時から姉がいて疑いもせずおとうとでいる
041:迷
迷っても迷わなくても選びたる答えは同じそれでも迷う
042:官僚
官僚の完了形は天下り我には無縁の世界なれども
043:馬
馬鹿なのはわかっていてもあなたには言われたくない大きなお世話
044:香
残り香の消えないうちに思い切り深呼吸して肺に刻まん
045:パズル
バラバラのパズル拾いて組み合わせ記憶を辿り我は創らる
046:泥
歩き方下手なわたしのふくらはぎ泥のドットが雨降りにあり
047:大和
ちんまりと大和三山座しておりいにしえ人の恋を語りぬ
048:袖
袖無しのＴシャツ着られぬ中年の我には元々振り袖のあり
049:ワイン
「いつ飲むの？」聞かぬふりして寝かせおり一本だけのワインを守る
050:変
変人と個性的との差は何処にあるのかわからず君を見ており
051:泣きぼくろ
飲むほどに笑い上戸になる君の居心地悪げな泣きぼくろかな
052:螺旋
いつのまに上るつもりが下降して行き先無くす螺旋階段
053:髪
幼子の髪結いしゴムに透明なゼリーの如きいちごの飾り
054:靴下
引き出しの中で靴下行き別れ見つかる時は片方ずつで
055:ラーメン
どんぶりを持って急いで追いかけた最初で最後の移動ラーメン
056:松
クリスマスリース作りの材料に松ぼっくりを拾いしあの日
057:制服
制服も校舎も変わる母校なり思い出だけはかつてのままで
058:剣
剣持ちて闘う古代の英雄に今の戦の感想訊きたし
059:十字
頭垂れ十字を切りて祈る夫我は両の手合わせて黙す
060:影
泣く時に聴きたい曲を問われたら『青い影』なり昔も今も
061:じゃがいも
急ぐ時じゃがいも入れずカレー炊く最近常に入っておらず
062:風邪
夏休み過ぎていきなり多くなる風邪の薬のテレビＣＭ
063:鬼
年重ね思い出す度切なくて『泣いた赤鬼』心を揺らす
064:科学
万能とかつて言われし科学でも踏み込み難し人の心は
065:城
不夜城のネオン煌めく異空間人を飲み込み幻見せおり
066:消
消したしと思う過去のみ多くなり未来の我は過去持たざらむ
067:スーツ
スーツ着て教壇に立つ孫娘一目見むとぞ父は願えり
068:四
四班は嫌だと言いし隣人の拘りを聞き五班となりぬ
069:花束
名も知らぬ野辺の花束差し出して「あげる」と言いし園庭の隅
070:曲
この曲が聴きたかったと新品のプレーヤー買いレコード乗せる
071:次元
我の目は三次元しか映し得ずその向こう側あるやもしれず
072:インク
中学の入学祝いの万年筆インクの色はブルーブラック
073:額
幼き日縫いし額の傷触り蘇り来る記憶はおぼろ
074:麻酔
麻酔にも睡眠薬にも縁は無く無我の世界に少し憧る
075:続
続編が面白かった例しなく観んと思へどまた騙されており
076:リズム
メロディーはコピーできてもこのリズム真似できないと評論家は言う
077:櫛
長き髪櫛削るたび抜け落ちる黒と白とに塗り分けられて
078:携帯
携帯に便利と謳う商品の置き場所困る日常の時
079:ぬいぐるみ
突っ張りの兄はこっそり弟のぬいぐるみ持ちベッドに飾る
080:書
お習字といえば子どもの手習いで書道となれば威厳のありて
081:洗濯
何故だろう歩み始めし洗濯機脱水しつつ徐々に移動す
082:罠
そんなこと百も承知で飛び込むよあなたの仕描けた罠であるなら
083:キャベツ
ここいらじゃ見かけないよね芽キャベツは小さいけれど目立つんだけどね
084:林
木がふたつ並んで立って林です身を縮めてるこっちがアナタ？
085:胸騒ぎ
ドキドキは胸騒ぎかな期待かなあの角曲がればどちらかわかる
086:占
音沙汰のなかった友がいつのまに占い師になる消息を聞く
087:計画
いつまでも実行しない計画は伸ばす言い訳のみが積まれる
088:食
食パンに砂糖まぶして食べていた祖父の姿をふと思い出す
089:巻
フランス語巻き舌できず諦めて今更ながら子どもに習う
090:薔薇
手を触れて壊したくなる砂の薔薇ポロリポロポロ砕けて散って
091:暖
一枚の有るや無しやの暖簾でも無ければ寂し飲み屋の軒は
092:届
届かぬと深く沈めし我が想い君の光の射す日もや来る
093:ナイフ
身を護るそのナイフ持ち我が胸に突き立てたしと願う時あり
094:進
ゆっくりと進むつもりが走り過ぎ逸る心にブレーキを踏む
095:翼
取り換えて私の腕とその翼溶けてもいいからイカロスになる
096:留守
我ひとり玄関閉めた家の中チャイムは鳴れど居留守を決める
097:静
凍つる夜の静謐の中繰り返し君のことばを我が身に刻む
098:未来
探さない 未来は何処にあるかなど今の我が身を過去に見せよう
099:動
子等を連れ動物園で過ごしたる春の一日の夢の如くに
100:マラソン
見るだけで諦めていたマラソンのゴール地点にやっと安堵す