題詠マラソン2006 by 究峰




ブログ 思い浮かぶがままに




最終訂正日 2006年 10月31日




    001:風
    海原を吹きぬく風が大陸の砂を運びて島は霞みぬ

    002:指
    指先の示す向こうに故郷の山が見えたる小江原の丘

    003:手紙
    古本の中にひっそり隠れたる手紙が語る苦き想い

    004:キッチン
    キッチンで丼飯を作り上げ周五郎の世界に紛れ込む

    005:並
    坂道に敷き詰められし赤レンガの椿並木に鶯が鳴く

    006:自転車
    下り坂女子高生が自転車で一気に駆け行く朝の風景

    007:揺
    揺れ動く心に惑ひ重ねたる時の流れが移ろひて行く

    008:親
    年老ひて夢と現の境目を自在に生きる親よ何想ふ

    009:椅子
    硬き椅子に座りて歌を詠む夜に野分の風がカーテンを揺らす

    010:桜
    三月に歌い初めにし桜をば夏の終わりに詠み継がんとす

    011:からっぽ
    歌心いつしか消えてからっぽのわが心なるか詠むを忘れたり

    012:噛
    人里を離れてモモは寂しきや走り回りて甘噛みせがむ

    013:クリーム
    寂しさの紛れに食めば甘き香のヴァニラクリームに惑わされており

    014:刻
    それぞれの刻(とき)を埋めて奥深き匡を開くべき鍵も失せたり

    015:秘密
    今日もまたネット世界に流れ出る秘密情報我に縁無し

    016:せせらぎ
    せせらぎの音が聞こえる森の中秋が来たれば今年も歩く

    017:医
    誇らかに医師となりしを遠きより知らせる君の文字は変わらず

    018:スカート
    南国に雪積む朝も乙女らの制服スカート定番なれば

    019:雨
    大陸の匂ひもあるや海の香を含みて原に秋雨が降る

    020:信号
    目と目とが信号発し縺れ合ひ理解と思ふ誤解の始まり

    021:美
    美と醜も気分で変わる恋心路上に落つる椿がひとつ

    022:レントゲン
    レントゲン技師となるべく若者は島を離れて遠き岡山

    023:結
    堅き紐岩に結びて昼寝して目覚めてみれば海原の中
    結ばれし糸もほどける世の習い寂しき風が稲穂を揺らす

    024:牛乳
    冷蔵庫開けてみれども飲み物は白き牛乳ただあるのみにて

    025:とんぼ
    大群でトンボの飛ぶを見ぬままに今年の秋は深まりて行く

    026:垂
    垂直に削り取られし山肌は煌めく朱をいつしか隠す

    027:嘘
    惑ひたる嘘と知りつつ聞き返す未練たらしき心の隙間

    028:おたく
    おたくさに想いを託しシーボルト様々な色梅雨に開きぬ

    029:草
    ブラインド降りたる部屋の片隅の小さき鉢にけんか草萌ゆ

    030:政治
    満ち潮のひきゆく如く薄れゆく眼差しをして政治を眺む

    031:寂
    寂しきは我が心なりひたすらに熱意を注ぐものが途絶えし

    032:上海
    上海は権力闘争の蔓延りて栄華盛衰今も同じく

    033:鍵
    空しくも心の扉開ける鍵欲しと思ひし日々ぞ懐かし

    034:シャンプー
    目に入るシャンプーの痛み堪えつつ洗髪される理髪店の秋

    035:株
    売り買いの思惑乱れ荒れ模様株式市場いつもの如く

    036:組
    勝ち組を目指して今日も頑張ろう蜃気楼の夢を掴むため

    037:花びら
    可憐なる野の花びらに癒される馴染みたれども名前を知らず

    038:灯
    明々と東シナ海照らしたる女島灯台無人化の波

    039:乙女
    乙女らが激しく舞ひてうずくまりまた立ち上がる祭の夜は

    040:道
    森の道人に会ふこと時にあり声かけて若き男走り去る

    041:こだま
    深山の紅葉の中を射る如く君のこだまが吸い込まれゆく

    042:豆
    ほかほかと上手く炊けたか豆御飯香りはよくて色もまあまあ

    043:曲線
    人知れずネットの隅に花咲いてやがて忘れらるワロス曲線

    044:飛
    大空を飛び行く鳥は汚されて翼を何処で洗ふのだろう

    045:コピー
    極まりし情報社会の行く末にコピーと本物分つ線薄れ

    046:凍
    凍てつきしツンドラの下マンモスは幾万年の夢をも閉ざす

    047:辞書
    パソコンで文を書くとき難しき語彙を辞書無しで楽々使う

    048:アイドル
    年経れどアイドルの如き面影をいまだ残せり吉永小百合

    049:戦争
    戦争に遭うこと無くて過ごせしが何やら不気味半島情勢

    050:萌
    ゆらゆらと萌ゆる想ひのときにあり眠れぬ夜の妄想に似て

    051:しずく
    朝陽受け里芋の葉と戯れた露のしずくも大地に戻る

    052:舞
    放られてわらじの上で宙に舞ひ娘は笑うヘトマト祭り

    053:ブログ
    様々にブログを分けて書き記す己の心分かつが如く

    054:虫
    鈴虫の透明な音が昼の野に響き渡りて足を留める

    055:頬
    頬杖をつきて眺める光景の今は懐かし遠き日のこと

    056:とおせんぼ
    大犬が道を塞いでとおせんぼ無視するふりして恐々通る

    057:鏡
    金色の書物の帯が煌めいて鏡となりて我を写せり

    058:抵抗
    改革と言う名の神輿担がずに右往左往の抵抗勢力

    059:くちびる
    薮の中分けて進むにくちびるの切れて辛きを舌で味わふ

    060:韓
    日韓の相互理解そのままに闇をば写すネット掲示板

    061:注射
    海越えて小島の浜に流れつき注射針は月光を浴びる

    062:竹
    孟宗の竹で造りし帆船は船出の時を我が部屋で待つ

    063:オペラ
    オペラ好き首相が辞めて政界に非常時なれば秋風も強し

    064:百合
    白百合が今年も咲いて楽します森の小道のこことあそこで

    065:鳴
    竹薮に遊びし雉が突然に一声鳴いて空高く舞ふ

    066:ふたり
    繋がりしふたりの綱も縺れ合ひやがてほどけて流されて行く

    067:事務
    事務員の仕事はなべてパソコンに代えられ来たり人はいらぬと
    事務員の仕事はなべてパソコンがするが如きの世とはなりしか

    068:報
    半島の核実験の報道に侃々諤々識者が語る

    069:カフェ
    寂しげな場末のカフェに集ひては歌会に興ず女らの刻

    070:章
    章末の注の多さが物語る研究熱心読まずに飛ばす

    071:老人
    老人になるを厭ひて自決せし人のことなど思はざりしが

    072:箱
    思ひ出を入れたる箱の幾つかは忘れたままにたしかあるはず

    073:トランプ
    器用さに騙されまいと見つめつつ見抜けぬままのトランプ魔術

    074:水晶
    水晶に流れる影の綾を見て即座に決める女占ひ師

    075:打
    均衡を破るズレータの本塁打打球を見つめバンザイをする

    076:あくび
    待ち時間携帯で詠む題詠に少し疲れてあくびをひとつ

    077:針
    針刀鬼の身体に突き刺して一寸坊師は暴れ狂ひたり

    078:予想
    ことごとく予想が外れ無力さを隠して歩く秋の山道

    079:芽
    緑の葉ことごとく落ちた植木鉢いつしか忘れ新芽を見つく

    080:響
    台風の傷跡なるや屋根上に響く工事の音に目覚める

    081:硝子
    台風に叩きつけられ様々な押し花模様硝子のサッシ

    082:整 
    本などが積まれてありて我が机整理整頓夢のまた夢

    083:拝
    参拝の有無を巡りて激昂の反日民衆いずこか消えし

    084:世紀
    新世紀早や幾とせか賑わひし終末論今はいずこに

    085:富
    富める者濡れ手に粟の術ありて広がりゆくは格差社会

    086:メイド
    哀しくも恋の実らぬマーメイド己の命捧げて果てし

    087:朗読
    愛読の本の数々朗読し保存したテープ今はいずこに

    088:銀
    青空の果てに隠れる幾億の銀河は我と終に見(まみ)えず

    089:無理
    願わくば名探偵に成り代わり無理難題を解決してみたい

    090:匂
    マンションの廊下に匂ふ香水は別れし君の想ひ出にも似て

    091:砂糖
    安売りの定番仲間順繰りに顔見せするに砂糖もはいる

    092:滑
    草スキーで歓声あげて滑りゆく子らも見えずにすすきが揺れる

    093:落
    山道は枝と落ち葉で覆われて踏みゆく足にさくさく答ふ

    094:流行
    流行の華やかさには縁遠く時に感じる我は異邦人

    095:誤 
    誤射誤爆想定内のことなるや着弾地点遠く離れし

    096:器
    茹でられた五島うどんはたっぷりと器に盛られ白き露玉

    097:告白
    おずおずと音楽室の片隅であの子が渡す愛の告白

    098:テレビ
    山道の緑の中で崖下に不法投棄のテレビが見える

    099:刺
    刺すほどに強きライトを浴びながら深々下げる頭が並ぶ

    100:題
    題詠の旅を今年も歩みきて詠めざる日々の懐かしきかな






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