題詠マラソン2005 by 究峰







最終訂正日 2005年 11月2日




    001:声
    今もなお声は響けど幽明を隔てし二人は遭うことなくて

    002:色
    紅色に頬を染めたる十八の君が迎えし卒業の日

    003:つぼみ
    つぼみたる藪椿にも外海の激しき風は雪を散らして

    004:淡
    淡々と過ぐと思へる日常が破れて狂ふ我が心かな

    005:サラダ
    我が中にサラダの如く混じりあひひとつとならぬ想ひのありし

    006:時
    つかの間の時よ止まれと云う想ひ悟りにあらずやがて消え行く

    007:発見
    生きるてふ旅の半ばで知らざりし己が姿を発見しおり

    008:鞄
    停車場で乙女の群れが遊びおり横に置かれし緑の鞄

    009:眠
    安眠を貪る昼の我が耳に突然聞こゆ火事のサイレン

    010:線路
    谷底を走る線路を見下ろして珍鳥遊ぶ森がありたり

    011:都
    幻の都を求め倒れたる人が眠りし密林も消ゆ

    012:メガホン
    メガホンを使わずあれど若者の応援の声山に木霊す

    013:焦
    焦点の定まらざりし眼鏡にて世界を見れば悩み少なし

    014:主義
    馴染みたる主義にてあれば懐疑てふ理性を抑ゆ感覚強し

    015:友
    信じたる理想に殉じ生き行くを疑わざりし友はいずこに

    016:たそがれ
    たそがれの寂しさ感じ島に落つ夕陽を眺むカトリック墓地

    017:陸
    流されて故郷の島も陸も見ず数千キロを小船は行きし

    018:教室
    降り続く弥生の雪を外に見て教室の窓湿気で曇る

    019:アラビア
    アラビアの栄華が伝ゆ古の知恵無かりせば違ひてあらん

    020:楽
    楽々と歌を詠まんと欲せども浮かぶ言葉は豊潤ならず

    021:うたた寝
    うたた寝で時を見紛う昼下がり脳の起きるをしばし待ちおり

    022:弓
    無心にてただ点のみを見つめては人と弓とがひとつとなりぬ

    023:うさぎ
    首かしげ穴に落ちたる白兎アリスとともに今も生きおり

    024:チョコレート
    ウィスキー入りチョコレートをば虫歯にて噛みしめており君が贈れば

    025:泳
    遠浅の白砂の浜に人はなく少年はただ泳ぎておりし

    026:蜘蛛
    ジダコてふ蜘蛛をけしかけ争わす幼き日々の遊びは廃れし

    027:液体
    液体が放つ破壊のすさまじさ翻弄されし人のやるせなさ

    028:母
    年老いて気丈な母が時に見す自信なさげな眼差し悲し

    029:ならずもの
    一筋の涙を流すならず者いまわの際にかすかに微笑む

    030:橋
    丸木橋台風前夜漁船を見回る人が上から見下ろす

    031:盗
    荒れし山土地盗人のなすがまま不在者との境は決まる

    032:乾電池
    乾電池使い捨てるが惜しければ充電出来を買い求めたり

    033:魚
    トロ箱の氷の中で朝市の魚は青き空を見ており

    034:背中
    扇にて顔を隠して舞ひたりし乙女は消えぬ背中を見せつ

    035:禁
    禁じ手を誰が決めるか知らねども隠れしルールが突如現る

    036:探偵
    歌詠みに探偵のごと捜せども目指す言葉は見つからずあり

    037:汗
    けだるさの中に吹き出て流れ落つ汗を感じる夏の昼下がり

    038:横浜
    横浜で過ごせし若きとき想ひ出は懐かしくあれど苦くもありて

    039:紫
    目立たずに狭庭に植えし花の名を紫式部と妹が言ふ

    040:おとうと
    おとうとの生まれし夕べ父のもと知らせに行きしがじゅまるの下

    041:迷
    もがきても迷路を抜けて行き着けぬ未来は見えず過去も消え行く

    042:官僚
    官僚が立候補しては改革をなすと言ひおる総選挙かな

    043:馬
    東から常と変わりて白き馬天を駆け抜く嵐の前に

    044:香
    外海の広き草原に磯の香を浴びて蜻蛉の羽が飛び交う

    045:パズル
    パズルにも様々あれば好みしと好まざるとが自ずとありて

    046:泥
    汚れたる泥水の中美しき蓮の花今咲きほこりたり

    047:大和
    行く末を知るや知らぬや深海に藻屑と消えし大和を想ふ

    048:袖
    ひらひらと袖をそよがす冷たさに今年の暑き夏も終わりぬ

    049:ワイン
    稀に飲むワインの香り麗しきボトルの与ゆ幻想の過ぐ

    050:変
    変人と呼ばる総理が圧勝し右往左往す良識気取り

    051:泣きぼくろ
    微笑みて可愛く映える泣きぼくろ くしゃくしゃの顔する時あるや

    052:螺旋
    支えなき螺旋階段きらめいて青き空へと続きておりし

    053:髪
    いきつけの女理髪師我が髪のかつて荒きを常に言ひたり

    054:靴下
    暑きとて靴下はかぬ日常のまだ続きおり残暑の秋

    055:ラーメン
    空腹の冬の夜長にストーブ火で作るラーメンの香りが満てり

    056:松
    坂道を一気に降りてたどり着く海の牧場に松が広がる

    057:制服
    中学の制服着るは見納めで母娘連れ立つ高校説明

    058:剣
    海を越え剣はなけれど言葉にて宣教師らは前触れをなす

    059:十字
    夕映えの東シナ海を遠景にカトリック墓地の十字は紅し

    060:影
    秋海の夕暮れ時に赤々と嵯峨の島その影を映せり

    061:じゃがいも
    注意して打つ鍬先にじゃがいもの殊に大きが白く割れたり

    062:風邪
    秋風邪に馴染みし身さえ忘れしや今年の暑さ今も続けば

    063:鬼
    みはるかす空と海との広がりに永遠(とわ)をば想ふ鬼岳の秋

    064:科学
    進み行く科学の果てに辿り着く世には変わるや人の心は

    065:城
    海城の跡に建ちたる高校に学びし君ら島を離れり

    066:消
    その昔江戸屋敷にて河童らが火を消したりと信じる人あり

    067:スーツ
    故里に始めてスーツで降り立てば暑さの戻る盆休みかな

    068:四
    渾身の力で投げてサヨナラの四球にエースは膝まづきたり

    069:花束
    乙女らは戴帽式を終えて後まぶしき顔で花束を受く

    070:曲
    トンネルが出来て通らぬ曲がり坂今も昔のままにあるらん

    071:次元
    今日もまた幻のごと異次元を彷徨ひて後現に戻る

    072:インク
    奥深く仕舞い込まれし万年筆インクの匂ひ未だ漂ふ

    073:額
    話すときじっと見つむが癖なるは額の広き乙女で在りし

    074:麻酔
    パニックで真白になりたる時過ぎて麻酔の脳が考え始む

    075:続
    陸続と運び込まれる怪我人の顔に刻まる震災の跡

    076:リズム
    盆を告ぐチャンココ踊り若者が舞ひて太鼓のリズムが響く

    077:櫛
    お転婆は赤き櫛さしいつになく済まし顔にてただ微笑みたり

    078:携帯
    用無しと思ふ携帯忘れ来て帰りて後にまずメールチェック

    079:ぬいぐるみ
    別人になりたる如く飛び跳ねてぬいぐるみの中で汗も気にせず

    080:書
    書きたしと思へど書けぬときのみがただ過ぎ行きて想ひも消えぬ

    081:洗濯
    憂き事の多く溜まりし日常に歌を詠みつつ命の洗濯

    082:罠
    恐ろしき罠とも知らず嵌り行き抜け道探す術も無きかな

    083:キャベツ
    畑には見捨てられたるキャベツが土になりゆく豊作不況

    084:林
    林間を歩くウォーキング人影は見えず鳥たちが呼び合ひており

    085:胸騒ぎ
    不安なる想ひが募る胸騒ぎのろき歩みの時が過ぎ行く

    086:占
    迷信と嘲り笑ふ占いに魅入られしごと操られたり

    087:計画
    エネルギーの枯れ果てたりて知らぬ間に忘れつつある計画変更

    088:食
    ぐつぐつと茹でて煮込みし真白なる五島うどんをすすりて食べる

    089:巻
    一息に読了したる厚本の続きの巻を読むは楽しき

    090:薔薇
    黒薔薇の茂る彼方に聳えたる城が霞みて墨絵の如し

    091:暖
    正月の寒きあしたにおんのめの餅焼く火で体暖む

    092:届
    届きたる宅配便の中からは本とベルトの贈り物かな

    093:ナイフ
    手に入れし万能ナイフの使い道夢が広がる幼き日あり

    094:進
    進むべき決断出来ずたじろぎし苦き思ひの日も遥かなり

    095:翼
    天空を自在に駆けるイカロスの翼は消えてつかの間の夢

    096:留守
    留守電のメッセージのみが流れ来て消息知らぬ人になりたり

    097:静
    鮮やかな色を見下ろす高層の部屋に漂ふ静寂な世界

    098:未来
    果てしなき時が進みて今の世が点と覚ゆる未来も来よう

    099:動
    くるくると廻り続けて動かざる独楽が揺らぎてまた動き出す

    100:マラソン
    走りてはまた休みつつ歌を詠むマラソンゲートに今辿り着く






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