がじゅまる2005-I
究峰
最終訂正日 2005年 2月28日
  
  
2005.1.1
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元旦の朝の街には賀状配るバイト生のみ目立ちておりし
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新春の歌の入選に常に見し名前少なく広きを思ふ
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二年ぶりメールをくれし人ありて我が歌詠むを信じておらず
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鹿児島から熊本に寄り正月の朝大波止でフェリーに乗りき
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テレビにて実況無ければ数字のみ変わる画面を更新しおり
1.2
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君が行く佐世保の街の初売りは歴史ありとぞ始めて知りぬ
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車無く仕事場までを歩きたる正月二日の小雨降る朝
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メルマガを発行すれば日常が少し戻れる気がする正月
1.3
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正月も終わりの三日訪ね来し青年らとただ話しおり
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乾燥す空気の故に声は出ずお茶をば一気に飲み干しにけり
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昼遅く家に戻りてネット見れば北高健児敗れておりし
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見も知らぬ遠き人らとチャットにて歌のことのみ話す不思議さ
1.4
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三が日終わりて少し忙しき日常をば楽しみており
1.6
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本棚の整理をせんと思ひしはいつのことやら覚えてもおらず
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まどろみの朝寝の中で旅だつとメールをくれたる人の文読む
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南海の島の暑さで憩えるや我が住む島は今日は冬なり
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この島にあらん限りの消防車幾台なるや信号を停めり
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団服を着込みて集う消防団女が目立つ出初式かな
1.8
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遠浅の浜に寄せては返す波深き緑に木霊しており
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幻想の姿を見せる高浜は住む人無くて横たわりおり
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砂丘をば駆け上がりては遥かなる沖の白波近くに聞こゆ
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澄みわたる水の流れる砂浜に貝殻だけが毀れてありし
1.9
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突然に脳波乱れて眠れずに長々し夜悶々としおり
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真夜中に異国にありて寂しきや女が送るグロテスクな絵
1.10
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年初め歌壇で見つく我が名前下段であれど心ひきしむ
1.11
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仕事終え冬の冷気を浴びし後頭割らるる心地のしおり
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横たわり安逸のみを貪れば頭と喉の痛みも和らぐ
1.12
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我がものと思えぬ声が聞こえけり痛む喉にて搾り出すとき
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昼時に客の姿の見えざりし公設市場で惣菜を買う
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寂しさは江川町公設市場かな空き店舗のみ広々としており
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真夜中に咳するたびに体内の細胞どもが震えておりし
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喉奥をごろごろ鳴らし出る声の奇妙さをばしばし楽しむ
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群れおるが好きであるらん乙女らは友の来るのを階段で待つ
1.13
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薬てふ嫌ひなるをば飲みて後頭と喉の痛みは消えし
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暇あれば横になりたる日が続き昼寝も朝寝も楽しまずあり
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眼鏡屋のソファーに座りて定まらぬ酒井美紀の絵眺めておりし
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涙ため見つむる乙女に向かひ云ふ言葉は無くてただ頷くのみ
1.15
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空腹を覚える夜はストーブで焼きし餅をば食むことありて
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メルマガも落ち着き戻り日常によふやくなれる今年となりし
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休眠の只中にあるかのごときメーリングリスト盛り上がりており
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歌のことチャットで話す時ありて歌会のことなどを聞きおり
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歌詠むを忘れしことも気に留めず他のことなど考えており
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創世記異なる版を読み比べ厚き本らも取り出しており
真冬の夜の幻想なりや・・・
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真夜中の幻想のごと溢れつる想ひを歌に紡ぐ人あり
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夢のごとネットの向こふで返す歌戸惑いつつも楽しみており
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見も知らぬ浜辺を詠ふ君の歌我の知る海と重なりてあり
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題詠を楽しみたる日の戻りきて我が泉にもいつしか溢る
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戸惑いのチャットで始め真夜中の幻想を浴びて君に歌送る
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表には見えざる泉時くれば下を流るがやがて溢れ出づ
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即興で幻想の歌詠む人のおるとはつゆぞ思はざりけり
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即興で歌詠む快楽初めてであるかのごとく心は舞ひし
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幻想に遊ぶほどには若からずされど湧き出る想ひもありて
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言の葉と軽やかに遊ぶ君の歌我が歌に無き魔法を持つや
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消えゆきて思ひ出だけが残るのかかの如き時も瞬夢なるや
1.16
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歌雑誌を読みつつ思ふ 知らざりし世界は広く無知なりしこと
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冬らしき雨が降りたる高台に椰子の並木も寒く濡れおり
1.17
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忘れしと思ひし人のメールありて眠気も覚めて返事を書けり
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どろどろと私益のみをば廻らすや公の益てふ衣纏へど
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神ならぬ人の身なれば未来をば見通す技の無きが悲しき
1.18
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我が子をも見知らぬ母は哀しかり年をとれども健やかなるが
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踏み台に足を滑らし左手を骨折するはサッシ工事の日
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世の流れ手向かう如く情報を狭めておりしケーブル契約
1.19
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病院に入りて感ず暖かさ人もウィルスも活動しおり
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仕事終えみとせぶりに求めたるスーパーの半額弁当は硬き
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みとせぶり真夜中過ごす仕事場も夜は更けゆき歌を詠みおり
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遅かれど我がプロバイダー容量を増設すると知らせて来たり
PC昇天
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ばりばりと壊れ逝く音我がPCはいまだ若くして昇天せり
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如何せん多くのファイル失えりその無念さはいまだ分からずも
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兆候を見逃したる我が不手際を悔みておれどすべぞ無ければ
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ひとつなるファイルをなくし一週間気力の失せしマックユーザーの頃
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雷でモデムを壊し掲示板書き込みできぬ時もありたり
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失ひしファイルの重みそれよりもパソコン無きを如何にすべきや
1.22
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口癖に早く戻れと言う母の病室は暗き雨模様の夕
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管理さる牛の飼育もデータ重視勘に頼らず競りは進みぬ
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公正を奉ずメディアの醜聞を怒りも無くて眺むる不幸
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仕事場でネットは出来ず所在無く詠えぬはずの歌を詠みおり
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我向けに仕様をしたるパソコンは手元に届くまでが長かり
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そういえばふと気づきしはあのファイルも失くしてあらん寂しさ覚ゆ
1.23
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病院の非常口の廊下にはルノアールの絵の模写図がありし
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病院を飾る油絵作者には地元歌人の名前がありて
1.24
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うとうとと朝寝楽しむ月曜日一席入選のメールは届きぬ
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自信ある歌では無けど一席てふ余韻に浸りまた寝入りたる
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我がPCは海を渡りてあるらんか組み立てするは日本にあらじ
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焼き芋と苺を持ちて静かなる老女のみおる部屋へと向ふ
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大声で若き看護婦が老婦らに語りかけるは五島弁なり
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レントゲン写真を前に分かりやすく医者は手術の要を説きたり
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高齢の手術であれば安全は保証し得ぬと医者は云ひけり
1.25
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病室は季節知らずで半袖の看護婦らはきびきびと動き
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善悪の区別が分かる時代劇ストーリーではなくて美人見ており
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改修の工事を終えて請求書見ればITの時代を映す
1.26
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手術を終えし母なり両手を吊縛されて足のみ動かす
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麻酔から醒めしか醒めざりしか分からねど母の言葉は意味をなさずに
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うめきをば聞かさぬためや部屋のドア閉められたるを気づかずにあり
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出る痰は皆吸い取られ残る無きや舌は乾きて水を求める
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畑のみの高台は今晧々とありて様々な色の街となる
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夢を見つ寝言も言ひつ更けゆきて手術の夜の時よ過ぎ去れ
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目覚めては痛さに耐えて日常の心配事を云う母なりし
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四人部屋年寄りのみで寂しけど個室の夜は見知らぬ音は無し
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みとせ前生死の境で祈る夜過ぎしときより安らかなれど
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左手を釣られしままの姿勢にて右手に刺さる四つの点滴
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絶食と絶水なれども点滴が痰となりては外に出たりし
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手術室入りゑずしてベッドもなき個室に立ちて雑談しおり
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三時過ぎ病院内のレストランで我と義兄(あに)のみ食事をしおり
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大きなる回転ドアは三時には停まりてあればドアを押して出る
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安らぎの顔が突然ゆがみおり眠らぬときに痛みが戻る
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眠りしと思ひておれば突然にうめきておりぬ手術の夜
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機械では吸い込み出来ぬ痰もあり重ね重ねにティシュで拭けり
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点滴も様代わりにて蛸足回線の機械が管理す
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安らけき寝息を立てる個室には酸素発生の泡音のみが
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苦しさの中にありての応答も看護婦なれば丁寧たりし
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携帯の電源切りて過ごす夜眠る能はず時に歌詠む
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買い求む寿司弁当は温かき部屋には入れずベランダに置く
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看護婦を呼ぶベル音が聞こえておりナースステーション前の個室の夜
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うま下手は避くべきことと聞きたれど技巧に遠き我が歌なれば
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個としての自立をなせと云ひたけど群れるが好きな乙女らなれば
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清掃婦がなれぬ手付きの実習生看護婦をただ見つめておりし
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手術の後のロビーにて医者への謝礼のことが話題となりぬ
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真夜中を過ぎて痛みも和らぎしや眠りのときが長くなりゆく
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何処より聞こえてくるや大きなる男のうめき時々なれど
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大きなる鏡の前で真夜中に己を見ても面白くも無し
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左肘みつに別れし小さき骨金属片で繋ぎておりし
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真夜更けて眠れぬ夜を眠らじと苦きコーヒーを啜りておりし
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何事も歌に詠まんとする我は形ばかりの歌人の真似ごと
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奇特なる人もおるもの歌評を求めておれど我にすべ無し
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長き夜を本も読まずにペンと紙ただそれだけで歌詠みており
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人知れず水仙の花三輪が母のテーブルにある病室なり
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整形の部屋は日ごとに変わりおり手術前後の出入りがあれば
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母の杖どこかに消えて現われし夜の彷徨させぬためにや
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最新の設備に囲まれ血圧を手動で測る小夜の看護婦
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パチンコにガソリンスタンド老人ホーム夜は更けれど明かりは消えず
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詠みし歌書き付く紙のなくなりて病院の紙の裏に記録す
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点滴の針の刺さりし右腕で血圧測れば悲鳴をあげぬ
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夜なれば幻想の歌に遊びたき重き現が妨げせねば
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ワンルームの如き間取りの個室なり鬼岳眺む景色は欲しけど
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かくまでに車多きやと思ふほどパチンコ店に人は集えり
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幾年も手にとらざりしコミック誌を食堂で読む整形病棟
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一脚の椅子を持ち来て足伸ばせと看護婦の言ひし午前三時
1.27
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徹夜明け眠らんがため携帯の電源も切りて身体を横たゆ
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賑やかに客が溢れし時もあるスーパーに二億の売値が出ており
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順調と思ひし術後血液の流れを止める塊ありて
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内出血あると知らせる姉の言葉己の無力感じるとき
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左足の黒ずみたるが悩ませる血の塊でそこにいませり
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赤血球十の値が六となり輸血をすると医師は告げたり
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すやすやと寝入る母をば見ておれば体内異変あらざる如く
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一晩の泊まりと思ひし個室部屋いつまでいるや409号室
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病院の周辺のみが開けゆく新しき店賑やかなりて
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寝息のみ聞こえておりし病室の外の日差しは真春の如し
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バイキングで惣菜を売る店の前夜が更けても車が止まる
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鬼岳の変わらぬ姿遠景にベランダに照る陽は冬ならず
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名前のみ知る看護婦の顔知らず白衣の下にプレーと隠せば
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食欲は衰えずして昼飯を平らぐ母に少し安堵す
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真夜中に廊下のベッドで喚きおる男はかつて教師なりとぞ
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ピッシュをと云える母は点滴の痰を右手で拭いておりし
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真赤なる赤血球輸血凝固せる血をも溶かして腫れはひけるや
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右足の静脈輸血血管を求めて針は幾度刺さりしや
1.29
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病室でチェバの定理を解きてあり赤き鬼岳今日も動かじ
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幾何学のパズルのごとく歌詠みも補助線あらば良き歌出来んや
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採血に付け替えにと繰り返し病室の外に追い出されてあり
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咳き込みも苦しげなりし顔なれど声大きくて慰めており
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待ち時間ありとぞ言ひてただ一人義兄の見舞う土曜日の朝
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点滴が切れしを告ぐるピーピー音迷ひのあれど呼び出しを押す
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突然にアロエを飲むと云ふ母は病の癒えぬに苛立ちており
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血液を固むと溶かすと相反の治療を同じ時に行ひており
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空も地も濡れておりしを窓辺にて下を眺めて気がつく四階
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いつのまに濡れておりしや空と地の雨音はなき病室の中
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鉄骨の高き塔建て思ひのまま支配せんとす幻想のあり
1.30
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採血の看護婦の顔が消しおきしテレビ画面に映りておりし
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採血と点滴続けば針を刺す血管の無きや母の左足
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終日の点滴なるは幾日ぞ寝返り打てぬ姿勢のままで
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つかの間を家に過ごしてメールチェック返信を書くゆとりは無けど
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市議会の解散を求む投票日閑散たりし午後の投票所
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いつ借りしそれも覚えぬ本二冊読みたき人の待ちおると聞く
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幾年の昔に誘う奇妙さを覚えて読みし「ビッグコミック」誌
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日常の少し歪みて異次元におるがごときで病院におり
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咳き込みし顔の赤さもか細かる声聞くよりは心静けき
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わが島が舞台であるらん小説を週刊誌で見つけ読みたり
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我が歌で祖母の病めるを知る姪は国試を控え電話をかけ来
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看護婦が頭を垂るを見下ろせば黒髪の中数本は白
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中国からスキー研修へと変わりたる島の高校の修学旅行
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生涯で見しことも無き雪景色初めで終わりのスキーやも知れぬ
1.31
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圧倒的多数で負けし議員らは思惑外れ選挙が近し
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新しきパソコン届くつかの間に寝る間も惜しみネットに繋ぎし
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寒気団襲ひてあると聞きしかど風のうなりは思ひてあらじ
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咳き込みて我を起こせど何事も無きが如くに又寝入る母
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雪積むと思へる夜の病室でいちごを置くはベランダなりし
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目を瞑りフロアに臥して歌を詠む眠りたくとも眠れぬ病室
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安らけき母の寝息を聞くときに眠らんとすれど意識は冴える
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安眠を好む我とぞ思ひしに寝つけぬ夜の続きてありし
2月1日
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群鳥は白き世界に何を見る 朝食(は)む餌も凍えてあらん
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少しだけ雪の積もれる道路でもゆるりゆるりと車は進む
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白き床に臥したるごとき鬼岳を朝の光のはしごが照らす
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常よりも車間距離を広げてはそろりと止まる雪積もる朝
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暗闇で分からずありし外の景明くるにつれて白き屋根屋根
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あちこちに車を乗り捨て職場へと向かう人いる寒気団の朝
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十キロのスピードで走るハンドルを白き道路が狂わせており
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街中は雪は降れども積もらずに我が車のみ雪を被りし
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歌人らに混じりて我も走らん 登録終わる題詠マラソン
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新しき試みなれば歌心初心に戻り身を引き締めん
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吐く息の白さも濃きと旅(たび)行きし高校生は京都を語る
2.2
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高浜の写真を撮りて我がページに載せよと言ひし友が訪ふ
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雪降りてバスの運行時刻表ネットで調べて妹に告げる
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小雪舞う夜を急ぎしハンドルを道の白さにしかと握りつ
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昼寝して夜には寝ざる母なれど咳き込みて痰出すはなくなり
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我が撮りし写真を見てはこれこそはおのがアロエと云う人ありし
2.3
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病室のベランダに出て冬朝の冷気を感じ生気漲る
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朝七時まだ明けやらぬ空の下点灯したる車列の見える
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朝食にパンが出てきて毎食パンとのメニューなりご飯に替えし
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夜のスーパーに弁当は無くオードブルを購ひし後病室で食む
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次々とこの世を去りし友のこと語り続けて母は飽きざる
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絡み合う命の糸は年寄りに思ひもかけぬ強さも与ふ
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九時過ぎて交代したる妹はバイクに乗りて暗き道行く
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夜半前よふやく寝入る母の息昼に寝れざる我も眠らん
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警備員毎夜違えど我が顔を覚えし故のフリーパスかな
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運転の技量を誇る義兄なりし今は数度の切り返しをす
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病室のフロアに臥して過ごす夜は床の硬さに幾度も覚めし
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いずこにも時は同じく流れるに思考の止むが如き病室
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眠れずば眠らずとてもよきかなと寝息を聞きつ歌詠みており
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初めてのリハビリなれば疲れしや母は寝入りて覚めることなし
2.4
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まどろみに誘はれ我も寝入りたり生々しげな夢を見ており
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看護婦は黒きを纏いマスクしつ尿を移しぬ咳きをしながら
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知られじと思ひてあるに漏れたりて叔母らが見舞う母の病室
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楽しげに笑ひだしたる母の夢痛みが薄れ何で遊ぶや
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美しき夕陽であればデジカメに記録せんとて急ぎてふ友
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パソコンはウィルスのソフトで固まりて玉響は我一人で出さん
2.5
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朝まだき鬼だけの上赤らみし冬の空には下弦の月あり
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うす雲を貫く大き陽が昇り 山を離れて小さくなりぬ
2.6
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点滴は右足となりよふやくに右手に針が突き刺さらなくて
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手際よき看護婦の針一度だけ顔をしかめて母は眠れり
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愛想よき若き看護婦おりたりて孫を思ひて母は笑みし
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知人より見知らずなりしと云はれたる義兄の機嫌は姉にやつあたり
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彫深き女が一人若くして清掃婦らと仕事をなせり
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右手にて昼飯食べる母の側硬くなりたる弁当を食む
 
2.10
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亡霊の消えざるごとに次々と過去を悔ゆらすことは起こりぬ
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合格と不合格との感情を抑えてともに学ぶ乙女ら
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自立には縁なきと覚ゆメディアありネット時代の波に呑まれる
2.12
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パソコンの直りて戻る日常を玉響出して君と祝ひし
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指先の痛みを告げて飲む薬増えたる母の入院暮らし
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夜遅く弁当買へば笑ひつつ従姉の盛りし飯は多くて
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泊まらずに水とバナナを台に置き別れを告げる母の病室
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肉体の疲れは無くて気力失せ我が多忙なる日々は戻らず
2.13
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まだ暗き五島病院の裏口で救急車が点滅しており
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幻想の文を記してよふやくに時が戻れる長き空白
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朝食を前に寝入りし母のいびき起こすべきや否やと迷ふ
2.14
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学校に行きたくなしと突然に少年の云ふバレンタインの朝
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ブラインドに映える光に飛び起きて病院へ急ぐ月曜の朝
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淡雪の如き青空朝陽受け黄金色に照らしており
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足に触れ治りしと告ぐ内科医は診察前に病棟に来
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朝思ふ予定のすべて果たせずに流るる日々をただ過ごしおり
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大部屋に移りて変わる治療法リハビリ始む月曜の朝
2.15
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優しげに医学用語を散りばめて話す看護婦に老女は黙せり
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災ひの続ける日々は絶えずして又も起こりし入院と事故
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偶然を必然となすにあらねど周りが老ひて悩みも多し
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胆石を抱えし義兄は弱りおり 馴染みの医者は気づかずありて
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水飲めず夜を過ごせし母の言 ものを言はねば不安ぞ募る
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受信は出来て送信の出来ざるIP電話に時を過ごせり
2.20
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四階に母を見舞ひて三階に義兄を訪ねる日々の始まり
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一月(ひとつき)も老母の世話で病院に泊まる女の薬は切れし
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雪が舞ひ風が吹き荒る日曜日市議選の顔見知らぬ多く
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胆嚢が防ぐ管故絶飲と絶食なりて義兄は元気なし
2.21
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屋根にのみ雪積もる朝郊外に近づくほどに白き野となりぬ
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濃淡の白き世界にオウトウの山も墨絵の世界となりぬ
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名で知りて位置を示せぬアメリカは遠くにありてゆとり教育
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孫よりのメールを読みて涙してリハビリで過ぐ母の昼下がり
七嶽神社幻想
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七峰の聳えて見える遠景に心洗われ潮風を吸う
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山岳に神を見つけし魂の我にも湧きて七嶽の山
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人影は見ず我のみの時だけが古のごと雲に流れる
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ただ一人駐車場に寝転びて青空の雲見つめておりし
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厳粛に人はいずとも登り行く階段の上梅の香れり
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数々の絵馬の願ひに知る人の消息見つけ時を思ひぬ
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深山に人の姿は無けれども車の音のかすかに聞こゆ
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転ばじと険峻な道登りゆけば社の跡は石壁が囲む
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知らざるは刻まれし名が想像の翼を後に与ゑんことぞ
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ロマンをば愛せし人が古のこの地に住みてこの気を感じ
2.23
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嬰児を抱きて乗り込む波止場にて日帰りなれば島は遠くて
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みとせ前シスターとならん夢抱き島を離れし娘がいたり
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学びたる修道院のホームページに今なお残る写真を示し
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パソコンが壊れて知らず投稿の我が住所は古きままなるを
2.25
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ひととせの時が過ぎしは幻や重ねし歌はしかと残れど
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寄す波も引く波もある歌詠みを続けて重ぬ記念号かな
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年毎に歌詠む歴史重ねつつ延びし絆も広がらんとす
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歌詠みに寄せる想ひは変わりきて変わらぬものは託せる思い
2.26
ガース・ニクス「古王国物語」三部作を読みて
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ファンタジーの世界に遊び数日の時を忘れて現実に戻り
2.28
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鹿児島ゆ海を見下ろし飛ぶセスナ父の見舞ひに島への飛行
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電波なぞ届かぬ空を飛びおるや連絡できず不安の声聞く
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家族乗せ海を越え来しセスナ機が管理事務所前に駐機しており
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幼な子は管制官と話す父の英語を聞けば誇らしげなり
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歌うごと挨拶言ひて入り来るヘルパーの声で朝は始まる
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リハビリの辛さに涙す夕の母ひと時過ぎて笑顔が戻る
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みとせ前無口でありし清掃婦今も無口でヘルパーとなりし
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市議選で時を映せる流れあり棹差す議員は葉の落つを知る
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玉之浦一人富江は二人岐宿だけ六人なるを予想はし得ず
3.1
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題詠の時が始まり我が歌も共に走りて跡を残さん
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プリントの題をひたすらに見つめしが詠む歌未だ沸きては来ざり
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我が詠まぬひと日のうちに二時間もかけずにゴールす人あるを知る
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見慣れざる題は無けれどもすらすらと湧き出る歌もまた無かりしか
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メルマガを忘れてありし如月は弥生になりて時は流れる
 - 
異端児が浴びる言葉は変わらずて変革阻む力は強し
 - 
変革を望む心も潜みおり常たる日々に時に湧き出づ
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知らぬ間に狭量たりし我が心優柔不断で揺れ来し果てに
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入試前不安にからる乙女らは友に負けじと不眠を競ふ
 - 
眠り魔に魅せらる如く乙女らの首が項垂る授業の間かな
 - 
声立てず眠りに落ちる乙女らの深き疲れに刻を思ひし
 
   
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