大統領と人種問題を話す(7-20, ESSAY)


少し遅れましたが、7/20のTIME US版のESSAYを読んでみます。

*Talking Race With The President
Arguing over old issues, but with a heartening sense of goodwill
  By ROGER ROSENBLATT

ESSAYで、こんなに素直な文章を読んだことはあまりありません。文章が易し いというのではなく、書かれていることが非常に率直というか、皮肉とか、複 雑な言い回しが無いようなのです。作者の人柄でしょうか。

作者がクリントン大統領を囲んで、人種問題についてパネルディスカッション に参加したときの感想を書いています。司会はJim Lehrer。作者以外のパネリ ストは、Cynthia Tucker, Elaine Chao, Sherman Alexie, Clarence Page, Richard Rodriguez, Kay James , Roberto Suroです。合計10人ということに なります。いずれも錚々たるメンバーなのでしょうが、私はクリントンとJim Lehrer以外は知りません。

最初作者は参加が決まってから、そのための準備をしようと思ったようです。 school vouchersについての論文を読んだり、専門家の意見を聞いてみようか と、思ったのですね。school vouchersはよく分かりません。学校入学に当た って、その人の人種等を記す書類などのことでしょうか。とにかく人種問題は アメリカそのものですし、それを大統領と議論することになるわけですから、 作者も少しは心配したのでしょう。And any time you meet with a Presiden t, if you say you're not nervous, you're lying or legally dead. このへ んの大統領観も普通はESSAYの欄ではお目に書かれないものです。

しかし結局は自然体で行こうと決めた。アメリカ人として、これまでこの問題 を避けては生きてこれなかったわけですし、自分の気持ちも分かっている。他 のパネリストも同じような態度で臨んだようです。結果的にはこれがよかった のでしょうか。

作者は人種問題がマスメディアで議論されるごとに不自然さを感じていたらし い。各人が持っている自然の感情をそのまま議論するのではなく、理論的にな り、偏狭や批判ばかりが目立つ。Now we live with thwarted expectations and the sort of intellectual meanness that goes with disappointed hopes. Integration, the best idea this country ever had, dares not speak its name. これはわかりにくいところもありますが、人種問題を論じ ると、(実状を無視した議論になり) 期待が裏切られたり、失望してしまうこ とがよくあるが、この国が成し遂げた最大のこと、integrationすなわち人種 差別廃止の偉業については誰も語ろうとしない、ということでしょうか。これ は驚くべき言葉だと思います。

筆者は現代は筆者が育った過去の時代と比べて、その倫理的環境はまったく別 世界のようだと言うのです。例えばテキサス州、Jasperで1人の黒人が3人の 白人のsubhumanたちによって車で引きずり回され殺された事件を考えて見よ。 40年前だったら、これは大事件になったろうが、黒人の市長も、志望した男の 家族も、これを人種差別として高えなかった。すべてを人種問題から議論する ことはない。Jasperの事件の記事を読んだときにも感じたことですが、アメリ カは人種問題ではかなり寛容になってきているようです。

パネルディスカッションで、作者の友人のPageが、依然として人種問題は存在 することを証明するために、シカゴ郊外で10代の黒人が白人の警官から嫌がら せをされていると発言した。Pageは黒人のようですが、それに対する作者の考 えは、40年前だったらそもそも黒人の家族が郊外に住むことなど不可能だっ た、ということのようです。

もちろんintegationが完全に目標を達したとは筆者も考えていない。そこでク リントンの意見を聞いたようですが、大統領はaffirmative actionも弁護しな がら、さらに多様性ということに関心も持っている。彼はintegrationという 言葉は、identityやseparatismという言葉と必ずしも相容れないと感じたの か、うまく話題をかわしてしまった。

結局議論の中心は平等なチャンスを支持するものと平等な結果を支持するもの に分かれた。クリントンは両者を支持したが、preferenceを重視する考え方に 近いようだった。これは多分少数者優遇制度を支持することだと思います。人 種平等を実現するためには、底辺から積み重ねなくてはいけない。つまり少数 者優遇制度もある程度仕方がないということでしょう。筆者の考えはこれと少 し違うようです。確かに多様な学生集団も、それ自体教育的だが、それは自尊 心selfesteemが物理学physicsよりも重要だという議論と同じだ。affirmative actionを廃止して、チャンスさえ平等に与えればよい、という考えでしょう か。しかしここの段落は抽象的で、分かりづらい。多分筆者は白人だと思うの ですが、人工的に平等を推進するような動きにはあまり賛成できないのでしょ う。ここは細かいところまで正確な内容把握をしているかどうかについて、あ まり自信はありません。

しかし作者が感じたことは、こうした議論の違いではなかった。大統領と他の パネリスト同士もほとんどが初めて会った間柄であったが、みんな家族のよう だった。こうした議論が普通は騒々しい騒ぎになるか、savage politenessに なることを考えれば、これは珍しいことだった。そこには無意味と同義語の形 式的な礼儀正しさは見られなかった。お互いに他のものの幸せを願っていた し、大統領の幸運を願っていた。

大統領もこのパネルディスカッションが大分気に入ったようだった。もっと話 したがっていたし、実際議論が終わってから45分も他の参加者たちと楽しく過 ごしたようです。肌の色が異なる10人の参加者全員がアメリカの繁栄を願って いた。人種ではなく国が重要だった。つまり私たち全員の幸せが大事なのだ。 この議論で何か成果があったと言うわけではないが、作者はかなり満足したよ うです。

かなり省略をしましたし、特にチャンスを重視するか、結果を重視するかを説 明した文章のところは、思いがけない勘違いをしている可能性がありますが、 作者が感じたことは読み間違えていないと思います。人種問題や宗教問題など の微妙な問題は、どうしても書かれた文章だけからは、見えてこないものがあ ります。この文章は、今まで読んだことの無いような、それでいて一見当たり 前のことを書いているだけに、大多数のアメリカ人の感情を表しているような 気がします。まだ完全に人種差別の無い社会が実現されているわけではない し、矛盾も多いが、それでも後戻りはない、というところでしょうか。

この文章を読み終わって、これは案外難しい文章だった、大きなミスをおかし ていなければいいがと、今頃になって思っています。



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