カーストへの挑戦(10/20)


TIME 10/20からです。

*Fighting Back (p.28-35)

長い記事ですし、関連記事のRequiem for the Rat Eaters (p.34)は、既に Picardさんがあげられています。

この記事の感想は、なんと言ったらいいのか。一応知識としては知っていま す。TIME/Newsweekでも、よく載っていますから。しかしこれだけ豊富な実例 を見ると、やはりインドという国は不思議です。

記事の概要は簡単です。副題にもありますように、untouchableと呼ばれる不 可触賎民が、ようやく、自分たちの権利を主張始めたということでしょう。彼 らの武器は教育であり、選挙であり、そして時には銃であるということです。

しかし確かによその土地に住むものには理解し難い制度です。アーリア系の住 民に征服されたインド本来の原住民たちが、カーストという身分制度の最下層 に位置づけられて、TIMEの記事によれば2500年。その制度はいろんな曲折を経 たにせよ、ますます細分化されてきた。この信じがたい制度が続いたというこ とは、例え宗教の力を借りたとはいえ、やはり驚きです。

ガンジーが神の子(ハリジャン)と呼び、彼ら自身は非抑圧者と言う意味の Dalitsを好んでいるようです。辞書にも載っていませんが、TIMEの記事はこれ で通していますので、以下これに準じます。

最初から最後まで、いかにひどい差別を受けているかの実例に満ちています が、ページをぱらぱらめくりながら気づいたことを書いておきます。そのまえ に簡単にカーストに触れておくと、ブラーマン(聖職者),クシャトリヤ(王 族)、バイシャ(庶民)、スードラ(隷民)の4つからなり、その下に賎民がいるわ けです。江戸時代の士農工商に似ていますが、多分徳川幕府はこれにヒントを 得たのではないでしょうか。同一カーストはさらにsubカーストに分けられ、 その数はvarnaと呼ばれる主要4カーストだけで3000以上あるようです。

Dalits の人口は、約1億5000万人。人口の約6分の1。日本全体の人口より大き い。しかし社会の上層部に占める割合は低い。専門職も少ない。だからその差 別の実態を考えれば、Narayananが最初のDalits出身の大統領になったことは 奇跡に近い。

本来は支配の道具として考えられた身分制度が、宗教の輪廻思想と結びつい て生き延びてきた。「分断して統治せよ」は、支配者の鉄則なのでしょうが、 細かく分かれたカーストによって人々の間の不満は違うカーストに向けられ る。

職業は限られ、もちろん教育は受けられず、寺にはいることも、同じ井戸から 水を飲むことも許されない。中世ヨーロッパの封建領主と同じく、上位カース トのものが低いカーストの花嫁の処女権を握り、傘をさすことも許されず、時 計やズボンをはいているだけで脅される。飲食店では、普通のカップでは出さ れず、教室では一緒に勉強させてもらえない。彼らに触れた風は、汚れている から風下にしか住むことを許されない。こうした中から数々の悲惨なエピソー ドが生まれるのは当たり前。彼らの日常生活そのものですから。

しかし今世紀ようやく彼らの堪忍袋の尾が切れ始めた。そのきっかけが、マハ トマ・ガンジーとDalit出身の偉大な法律家・政治家だったBhimrao Ramji Ambedkar。インド憲法の起草者となるAmbedkarも、カースト制度の廃止以外に は解決策はないことを確信していた。彼があるマハラジャの財政顧問であった とき、上位カースト出身の召使いは彼に直接書類を渡さず、机の上に投げたと か。直接手渡せば自分が汚れると本気で思っていたらしい。彼のような例は今 でも珍しくないようです。大学教育を受けて、高級官僚になって故郷に帰って みれば、寺にも入れてもらえなかったり、文盲の人から軽蔑されるというのも どこかに書いてあったような。

しかしもちろん事情は変わっている。Ambedkarが始めたAffirmative Actionの 制度によって、公務員・大学入学の定員枠が設けられたところでは、新しい Dalitsの世代が登場してきた。例えばUttar Pradeshでは、15%の枠が設けられ ているようです。こうした人たちには、自尊心が傷つけられるくらいなら死ん だ方がまし、という気概がでてきた。実際武力を持って立ち上がるものもでて きているようですね。それに政治の中枢に進出するものが出てくるにつれ、も う言われなき差別に我慢が出来ないのは当たり前でしょう。

田舎でも急速に不満・反抗は高まっている。しかし上位カーストの者の反発・ 嫉妬心もそれにつれて出てくる。Krishnaswamyは、有名大学へ入る奨学金をも らったという通知を、上位カーストの郵便配達員に握りつぶされ、結局間に合 わなかった。彼は医学部に入り、さらに政治家になっているようですが、彼の 日常はあまりにも危険なため武装した2人の護衛を連れて活動しているようで す。

もちろん中央政党はまだ上位カースト出身に握られているし、Dalits出身の者 が長にたっても、今までと同じ権力をかさにきた腐敗政治を続けることも多 い。必ずしも同じ境遇の者の代表者になるとは限らない。Dalits内部のsub casteも、彼らの間の分裂を助長している。しかし確かに少しずつではある が、カーストそのものが崩れてきている。差別につぶされず生き残ったdalits のエリートたちがいる。彼らに対する仲間の不満もあるが、これは一気に崩そ うとしても無理でしょう。

Dalitsたちが、Hinduを離れて他の宗教に向かっているということも書いてあ ります。これは日本の仏教も関係があるはずですね。活発な布教活動をしてい るはずですから。

しかし記事の最後の方で触れられているエピソードも面白い。聖なる言葉 SanskritはBrahmanの専売特許だったのが、Kumud Pawdeという女性は、数少な いDelit出身のサンスクリット語教授になった。彼女は学生たちの顔に浮かん だ絶望の表情を忘れることが出来ない。「前世でどういう悪業を犯したから、 私はDalit出身者からサンスクリット語を習うことになったのか。我らの聖典 は汚された」というわけです。

しかしやはり最後の方で紹介されている、Munni Baiの例は悲惨です。毎日40 もの便所掃除をして、小枝で編んだ篭の中に古新聞紙を敷いたものに、排泄物 を入れて、それを頭の上に載せて運ぶわけです。臭いは気にならないか、と問 われて彼女は答える。Just to fill my belly I've had to do these things. 彼女はこれで1月22ドル、約2600円くらい稼ぎ、それで生活している。それで も少しは自由がある。田舎に住むDalitよりは、ましな生活だと言うわけでし ょうか。

最後は金の力がカーストを壊しつつあるということで締めくくられています。 都会のDalitは、読み書きできないかもしれないが、彼の子供は出来る。田舎 に帰れば、寺の僧侶は相変わらず中に入れてくれない。しかし彼の息子たち は、Dalitが持っているTVを見るために彼の家にやってくる。彼の言葉。「ず っとやつらは俺たちのことを汚いと言ってきた。しかし今俺たちの方がやつら よりずっと清潔に見えるよ」



感想はこちらに・・・YHJ00031@niftyserve.or.jp
Internetの場合は・・・ohto@pluto.dti.ne.jp


ホームページに戻る 

TIMEのホームページに戻る