2つの大裁判の間で (TIME/ESSAY)


みなさん、こんにちは。TIME Dec.30のESSAYです。ただ、広瀬さん、Picard さんが、述べているように今週号のAsia版がCover Storyの中にESSAYも含んで いるとすれば、内容的にこれではないと思います。私は合併号のTIMEはまだ見 ていません。CompuServeのTIMEはDec.30号になっています。つまり合併号では ないようです。それにこのESSAYの日付はDec.23になっています。先週号はTOY STORYでしたから、これも少しおかしな話ですが。とにかくUPして面白かった ので、一応書いておきました。

TIME DEC.30のESSAY、ALGER AND O.J.です。Algerは、Alger Hissのこと。副 題は「世紀の2つの裁判ーーーその間の我らの旅路」作者はCHARLES KRAUTHAMMER 。

(1段落)
もし、この世に偶然というものがあるのならば、O.J.の裁判の第2幕の間に Alger Hissが、死んだことこそ1996年の最たるものだったろう。ある時代の世 紀の裁判の主役が、もう一つの世紀の裁判の主役が初めて証言台に立つ1週間 前に、この世を去ったのだ。

Alger HissはGlorier百科によれば、1904年生まれで、1950年ソ連のagentと協 力したことを否定したかどで、偽証罪に問われ有罪になった政府役人。この事 件は政府内に共産主義の勢力が浸透していることが問題になった1948年に、注 目を集めたようです。1945年にはHissはヤルタ会談でのルーズベルト大統領の 補佐官、1946年にはカーネギー財団国際平和部門(正式名称は?)の会長職にあ ったようです。当時TIMEの編集者で、ソビエトのスパイだったWhittaker Chambersの告発がきっかけのようです。

この事件がきっかけでアメリカでマッカシーのいわゆる赤狩り旋風が吹き荒れ ます。Chaplinをはじめ有名人がアメリカを脱出したんですね。アメリカの共 産主義者スパイ事件としてはローゼンバーグ夫妻の事件が有名ですが、これは 1918年でした。

generation: 同世代の人々,同年代の人々

(2段落)
しかしこの2つの有名な事件を結びつけるのは、神の悪戯というか、この世の つかの間の出来事と言おうか、そういったもの以上の重要な意味がある。ヒス もシンプソンも圧倒的に有罪の証拠が多かった。2人ともはっきりとそれを否 定した。2人とも国家に催眠術をかけ、国論を2分させた。

(3段落)
この半世紀を隔てた2つの裁判を見ることで、この国の歩んできた道がはっき り分かる。ヒスはアメリカの左翼と右翼を分け、シンプソンは黒人と白人を分 断した。

trajectory: 軌道

(4段落)
50年前、国家を分断していたのはイデオロギーだった。現在では人種だ。かつ ては共産主義が重要な論争の対象だったが、現在は人種である。ヒスの事件以 来、ある人のイデオロギーを知っていれば、その人がヒスを有罪と考えるか、 無罪と考えるかは予測できた。今日ある人の人種を知っていれば、シンプソン についてどう考えるかは大体分かる。(黒人の約3分の2が無罪と考え、白人の 約3分の2が有罪と考えている)

ideological: イデオロギーの
overriding:主要な,最優先の
ideology:イデオロギー
acquit: 無罪にする,解放する
convict:有罪を宣告する

(5段落)
この2つの大事件の間には、長いイデオロギーの糸が横たわっている。ヒスの 時代には、急進的反対者の拠り所は社会主義だった。社会主義はアメリカのブ ルジョア的生活に反対して基本的には集団主義の未来を示した。あるものにと っては、理想の社会とはソ連だった。当時のスターリン体制のではなかったと しても、レーニンの、トロッキーの、ブハーリンのソ連だったのだ。急進派の いわゆるシンパの中には、共産主義者達を過激な自由主義者と考え、甘やかし ていたものもいる。こうした人々は熱烈にヒスを弁護した。

spectacular: 壮観な,はなばなしい
divisive: 不平を生じる
thread: 細い線,糸
dissent: 反対する
fundamentally: 根本的に
bourgeois: 中産階級の(人),資本主義の
leftist: 左翼の人,急進派の人
indulge: 欲望を満足させる,ふける
mere: 単なる,ほんの
fervent: 熱烈な,強烈な

(6段落)
今日ではまともな人で共産主義を信じている人はいない。社会主義でさえすで に過去の遺物だ。しかし信じるものがなくなったからといって、急進主義者達 がいなくなったわけではない。彼らは宗旨替えをしたのだ。そして多くの急進 的左翼がたどり着いた先が人種主義、より一般的には、identity politicsだ った。アメリカにおいては、人種主義は社会主義の偉大なる後継者なのだ。人 種主義の思想は社会主義と同じように、アメリカの生活をわかりやすく批判し てくれる。以前階級間の権力不平等がそうであったように、人種と性の間の権 力不平等を主張する人は、わが国の民主主義の形式性を痛烈に批判しているの だ。そして社会主義同様、人種主義も人種・性・少数民族を問わず真の民主主 義を生み出すための、ビジョンを示してくれる。

racialismの訳が難しいです。「人種差別」ではなく、人種間でいろんな不公平・ 差別があることを認め、それを解決しようと主張していると思いますが、果た して「人種主義」と訳していいのかどうか。辞書にはどちらも載っています。

identity politicsもよく分かりません。人種主義と同じものとして説明して いるようですが、適当な訳語があるのでしょうか。identityという言葉がもと もと日本語しにくいと思いますが、racismもidentity politicsも単にすべて の人に当てはまる抽象的観念ではなく、人種や性や民族が違えば、それぞれの 価値観は違うのだということを言っているのでしょうか。

relic: 遺物,遺跡
migrate: 移住する
prominent: 重要な,卓越した,著名な
shipwrecked: 難破した
racialism: 人種差別、人種主義
successor: 後継者,後任者
critique: 批評,批判,評論
inequality: 不等,不均等
gender: (文法上の)性,(話)性 (sex)
previous:先の,以前の
dispensation: 分配,処理,統治,(神の)摂理,免除
mockery: あざ笑い,あざけり,偽,にせもの
empower: 権限を与える
ethnic: 民族の,人種の

(7段落)
別な表現でいうと、個人主義に対して反抗した集団主義が、その崩壊と共に、 グループの擁護者になったのだ。今日急進主義が存在する理由は何か。組合の 権利か。ストライキ法案?(striker-replacement laws) そうではない。文化 的にはその存在理由は古くさくなった白人男性の支配を覆すことである。 Great Booksの法律を廃止し、アメリカの歴史は楽園を支配した白人男性の邪 悪な行為であふれていることを語ることなのだ。政治的にはゲリマンダー選挙 区を廃止し、雇用・契約・教育の分野で少数者別枠(group preference)を削減 するいかなる試みにも反対する黒人・ヒスパニックの集団を育成することなの だ。一言で言えば、集団の(特に人種上の)自己意識を高め、特権を保証するこ となのだ。

championing of groups のグループは、ここでは人種とか性を指しているのだ ろうか。Striker-replacement lawsとは? Great Booksとは?

individualism: 個人主義
mutate:突然変異する
striker: ストライキをする人
replacement: もとにもどすこと,交換,返還,返済,復職,取り替え
overthrow: 転覆させる,ひっくり返す
hegemony: 支配権,主導権,ヘゲモニー
abolish: (法律・制度など)を廃止する
canon: カノン,規範,規準,規範集,法規
iniquity: 邪悪,不正行為
equity: 公平,公正,衡平法
gerrymander: (党利党略のための)勝手な選挙区改定
curtail: 短縮する,省略する,削減する
preference: 好み,選択,選り好み,ひいき
entitlement: 資格があること,有資格,社会保障給付金

(8段落)
人種主義にも意義はある。シンプソン判決がショックを与えたのは、公民権法 が施行されて30年にもなるのに、人種間に深い溝があることを明らかにしたこ となのだ。白人と黒人の経済的社会的格差が縮まった結果として、人種間の違 いも少なくなったと考えるかもしれない。実際は、少なかざる部分で違いは大 きくなっているのであり、それは少なかざる人種意識を植え付けようとする左 翼側の執拗な運動のせいなのだ。

verdict: (陪審員の)評決、判決
division: 分割・分配
disparity: 格差,不均衡,不一致
relentless: 容赦のない,冷酷な

(9段落)
その結果は100万人の行進(the Million Man March)のように、硬直化するばあ いもある。あるいはシンプソン判決のように陰険になるばあいもある。これは シンプソン裁判の陪審員団が、例えば左翼のNation誌の言いなりになったとい っているのではない。しかしシンプソンの弁護人だったJonnie Cochranには振 り回された。彼は陪審員の人種意識に訴えたのだ。

stark: 硬直した,厳格な
insidious: 陰険な,狡猾な
jury: 陪審,陪審員団
sway: 揺り動かす
summation: 要約
soak: 浸る,びしょ濡れにする

(10段落) 白人の自由主義者達は無罪判決に愕然としたかもしれない。しかしこれは過 去30年間人種・少数民族・性を絶え間なく問題にしてきた彼らのせいである。 黒人のために志望者別枠をもうけよ、政府の契約を分けよ、大学の寮も選挙区 も歴史も未来も、つまりidentity毎に分けよと彼らは主張してきたのではなか ったのか。そうだとしたならば、裁判が異なった正義を求めたとしてもなんら 不思議はないだろう。

appalled: ぞっとして
acquittal: 無罪放免,無罪判決
bastard: 雑種の,不純な,庶子,野郎,まがいの,にせの,にせもの,粗悪品,私生児
unremitting: 根気強い,絶え間無い
applicant: 申込者,応募者,志願者,希望者,出願者

(11段落)
しかしこの2つの有名な事件には、喜ぶべき類似点もある。ヒスの事件と共 に、論争も終わった。共産主義の崩壊と共に、終止符が打たれた。私たちは現 在では皆反共産主義者であり、ずっとそうであったかのようなふりをしてい る。時と共にidentity politicsに熱中している人も、ボスニアとかルワンダ の悲劇を見て、消えていくだろう。50年後、シンプソンの死亡記事を読んで、 今年ヒスのを読んで感じたように、当惑とずっと昔に忘れられた情熱を不思議 がるようになることを祈ろう。

analogy: 類似
providential: 神意による
mania: マニア,異常な熱意
deter: (恐怖などで)やめさせる,阻止する,抑止する
wreck: 難破,難破船,破損,廃人,破壊する,難破させる
obituary: 死亡広告,死亡告知,死亡告示,黒枠,死亡記事
exhausted: 疲れ果てた

YUKI



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