本岡類 神の柩


本岡類 神の柩  講談社

私はこの本も作者も全然知らなかった。今でも知らない。この本には作者の経歴について、何も書かれていないから。たまたま本の題名だけにひかれて読んでしまった。しかしこれは非常に面白かった。一気に読了した。

主人公のもとを訪れた親友が死体で発見される。警察の発表は自殺。しかしかつて同じ新聞社で働いていた主人公はその死の背後にある組織の陰を感じる。それは「理性の跳躍」という組織で、日本のエリートの間で急速に信奉者を増やしている集団であった。理性と合理的精神を基調とするこの組織の秘密をフリーライターである親友は探っていたらしい。

1999年3月出版というタイミングもあるのだろうが、最近の社会情勢をきちんと踏まえて、それらについていろいろと解説してくれたりして、この作品はなかなか読み応えがあった。日本をアメリカ型の競争社会にするために、日本人の間にぬるま湯的和の精神ではなく、合理的な思考方法を植え付け、最終的に日本社会の革命を目指す組織という設定もなかなか面白く、作者の政治・経済・社会状況に関する説明もなかなかのもので楽しめた。

自然農法というものについても、詳しいことは始めて知った。最後のクライマックスの場面で主人公が死の寸前まで追い詰められ、しかもそこから脱出するところなどは冒険小説のようでもある。これはジャンル的にはやはり冒険小説なのだろうか?

私にとってもっとも興味深かったのは、殺人者2人に追い詰められた主人公が自然農法を実践している元大学助教授のあばら家に逃げ込むところ。近くに助けを求める人家はない。もちろんその家には殺人者の銃に対抗するような武器も無い。警察が到着するまでは30分はかかる。絶望的とも思える中で、主人公は自分が死んだ場合に備えて、大犯罪の解決のメッセージをあばら家の中のPCからアメリカに向けて発信する。これは事件の一部がロサンゼルスで起きていたからなのだが、元大学助教授は住居はあばら家であってもPCはちゃんとあったのである。元助教授はPCを使ってデータの解析のために利用しており、さらにはInternetを通じて情報も収集していた。さらに自分のHPを英文のも含めて持っており、その中で自然農法について世界に紹介していたというわけである。だからそのメッセージがリンクを貼るようにと言う呼びかけを通じて、またたくまにアメリカ中に流れたわけである。そうして解決済みとされていた事件をロス市警も再調査する。

どうもこのごろ私の読む小説の中にはInternetやらPCが出てくるものが多い。もはやそうしたものはあまりにも日常的な光景だからだろう。しかしこうした話題は、これからもまだまだ多くの可能性を秘めているような気がしている。

この作者、まだ他にも作品を書いているのだろうか?

1999-12-23



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