3人の名探偵


名探偵シリーズの3冊を読んだ。といっても私が今までに知っていたのは伊集院大介だけ。あとの二人は今まで読んだことが無かったし、名前もほとんど知らなかった。巫弓彦も匂坂俊介も何冊かのシリーズ物となっているらしいのだが、私が読んだのはどちらも最初の事件簿であるらしい。これは偶然なのだが、運が良かったのかもしれない。

1. 栗本 薫 タナトス・ゲーム…伊集院大介の世紀末 講談社
2. 北村 薫 冬のオペラ 中央公論社
3. 米山公啓 ロックド・イン症候群 学陽書房

1は伊集院大介の最新版、だと思う。前作の新・天狼星事件後1年くらいたっているのかな。いずれにしても今年7月発行の作品である。しかし伊集院大介も助手のアトム君こと滝沢稔君の助けを借りて、この頃の事件簿は大体がインターネットやPCがらみの事件である。

そして今回、彼が調査するのは、私にはよく分からないマイナーなヤオイの世界。やおいの意味は広辞苑には載っていないが、「現代用語の基礎知識」には載っている。

--------------------------------------------

◆やおい〔マンガ文化〕
「ヤマなし、オチなし、イミなし」を略して、同人誌少女たちが自分たちの「アニパロ」(アニメパロディ)を自嘲的に称した造語。一九八○年代初頭、ロリコンに対抗して始められた「少年趣味」ショタコン(正太郎コンプレックス)と少女マンガ二四年組によって生まれた「少年愛」路線(JUNE、耽美派ともよばれる)が結びつくことで生まれた。少女たちによる作品のとらえなおしとでもいうべき方法論でもある。マンガ、アニメなど既存の作品の中の男性キャラクターのバイセクシャルな関係を抽出・変型することで、女の子たちにとっての超虚構的ラブストーリーを生み出している。マンガやアニメにかかわらず、歴史、小説、TVドラマなどあらゆるものを変型していく行為で、わかりやすくいうならホモセクシャル関係を核にしたパロディという構造をもつ。八五年ごろの「キャプテン翼」ブームの中で盛り上がり、やおい系作家をメインにした商業誌が出る一方、少女マンガ誌のひとつの流れにもなっている。

-------------------------------------------

やおいの語源が「ヤマなし、オチなし、イミなし」というのには驚いた。もう少し意味がある言葉なのかなと思っていた。どちらにせよ、こうした特殊な趣味・関心を持つものにとっては、いまや情報収集の手段としてHPやらMLの世界は無くてはならないものなのだろう。異常な世界ではあるが、HPやMLやインターネットやら、なじみの言葉が出てくるので案外楽しく読めた。多分伊集院大介は、今後ともますますPCを活用していくのだろう。そのうちにアトム君ではなく彼自身がPCのエキスパートになるかもしれない。

私は作者栗本薫がタイピングをマスターし始めたときのことを読んだことがある。彼女は1週間でタイピングを完全にマスターしたと言っていた。それに同じころタイピングの天才を扱った作品も読んだことがある。こうした点では作家は幸運である。自分が新しい知識を吸収して行く過程を作品化できるのだからおそらく彼女のPCの知識とともに、伊集院シリーズもますますハイテクの世界に入っていくのだろう。

2の北村薫も3の米山公啓も私にとっては初めて読む作家である。北村薫については、この人と京極夏彦を好きな人から、是非読むように勧められたことが頭にあったのかもしれない。しかし読後感のインパクトは、あまり強烈なものではないし、私は現代ミステリーにあまり興味があると言うわけではないので、このあとも果たして読み続けるかどうかは分からない。

この作品は93年発行だから大分前の作品のようだが、主人公の巫弓彦(かんなぎ・ゆみひこ)が探偵業を初めてから2年間の事件簿である。といっても2年間で依頼された事件数がたったの3件しかない。それも最後のは殺人事件だが、これも含めて報酬はほとんど貰っていない。というよりおそらく大赤字であろう。というわけで、彼はフリーター探偵というか、普段は週3回いろんなところでアルバイトをしている、という設定になっている。読みやすいし登場人物の点からも、赤川次郎の作品に近い気もしたが、そちらもあまり読んでいるわけではないし、もしかしたら現代のミステリー作家の作品は案外こうしたものかもしれない。私にとっては栗本薫の伊集院大介が個性が強すぎるからか、まだそれを上回る探偵は今のところ見当たらない。

3の匂坂俊介シリーズでは、主人公は自宅で3台、医局でも何台かのMacを駆使して、インターネットやら各種のデータベースを利用している。いろんな解析をしている間にインターネットに接続したり、プリントアウトするのにはどうしても複数のMacが必要らしい。Macは医学関係者の間では人気があるのは知っていたが、そうしたところも分かって面白い。そういえば、伊集院大介も確かMacを使っていた。

主人公の匂坂俊介は神経専門の医師という設定になっている。Macを駆使して脳波の分析から半植物状態の人間の考えていることが分かる、しかもそれを音声化してあたかも対話しているかのようにコミュニケーションが出来るし、専門的会話も出来るのだが、もちろんこれは不可能だろう。まあ、フィクションだしこうしたところは別に気にしなくてもいいのだが、専門知識の説明が素人には少し分かりにくい感じがする。

3は3年前の作品だから、Macの性能もはるかに良くなった現在、環境は大きく変わっておそらく医学の世界でも使われ方は急速に変わっているだろう。現代の名探偵に取っては、インターネットやらPCは当たり前の世界になりつつあるのだろうか。今では犯罪集団もそれを追いかける側も、どうやらサイバー空間で火花を散らすことが当たり前になってきているようだ。

結局3人の探偵の中で、私はやはり伊集院大介が一番好きだ。この作品が私の好きなホームズの雰囲気を、一番持っているからだろう。私はファンタジーが好きで、あまり現実的なミステリーには興味がないと言うことも一因かもしれない。

1999-12-19



感想はこちらに・・・・・・ohto@pluto.dti.ne.jp


ホームページに戻る 

読書室のページに戻る