ハイペリオン


この所分厚い本をかなり読んだ。それぞれは分厚いというものでなくとも、シリーズ本という形で全体的に見たら、かなりの厚さになるものもある。しかしどうやら、読書への飢餓も一段落したし、そろそろマイペースで読書するのが良いかもしれない。この2カ月、かなりのハイペースで読書してきたが、さすがにこの調子を保つのは難しいと思う。今後は日本語の本だったら、1カ月10冊くらいを目標に、もしも英語の本が加わるようだったら、1カ月に数冊ペースでも構わないと思う。

*高橋克彦 刻謎宮(ときめいきゅう) 徳間書店

ギリシア神話の草創期に、沖田総司、坂本龍馬、アンネ・フランク、マハタリが活躍する伝奇小説。10年前の作品らしいが、私は知らなかった。彼の最初の作品「総門谷」の雰囲気に似ていたので、長編だが一気に読み終えて楽しめた。そういえば、私は「総門谷」を長崎新聞の連載で読みながら、初めてこの作家を知ったのだった。それ以来いくつかの作品を楽しんできたがまだかなりの見落としがあるらしい。「総門谷」は、今でも私の大好きな作品の1つである。この作家も多分手当たり次第に読んでいくと思う。今の所そんなにがっかりさせられた作品には出会っていない。

*ダン・シモンズ 酒井昭伸訳 ハイペリオン 早川書房

2段組の小さい活字で530ページ以上。しかもまだ続編がある。最初からあまり読みにくいとは言えなかったし、この作家が語彙が多いのか翻訳された日本語も固有名詞を中心に、知らないものや分かりにくいものが多かった。読み終えることが出来るかどうか不安だったが、どうにか3日で読み終えた。多分、これ以上時間がたったら、私の場合放り投げていたろう。

テーマそのものは壮大な物語だから、まあ嫌いではない。この作品は主要人物6人が、惑星ハイペリオンの「時間の墓標」の巡礼に出る傍ら、自分たちの物語を語るという、デカメロンやアラビアン・ナイトの形式を取っている。時は28世紀、多分人類の存亡が彼等の巡礼にかかっている。しかし部分的には難しいところも多い。

ただ1つ、Later alligater, While crocodileの挨拶が出てきたのは面白かった。e-palから習ったのだが、こうしてみると結構使われているのだ。この続編をすぐに読むかどうかは未定。続編はさらに長かったようだし、こんな内容の濃い物語で1000ページ以上読む根気があるかどうか。普通の本だったら6・7冊分の長さだが、主観的にはもっとある感じだ。

*ダン・シモンズ 酒井昭伸訳 ハイペリオンの没落 早川書房

前作の続編。600ページ以上ある。どうにかあまり時をおかないで読むことが出来た。こんな長編を読んだのは学生時代にドストエフスキーを読んだとき以来か。確かにシリーズとしては、「グイン・サ−ガ」やロダンシリーズなどかなりのものがあるのだが、それらとは違って、この本は内容的な統一性・緊迫性の方がはるかに高い。もちろんシリーズものと違って一気に読破しなければその面白味もない。最初はこの作品とてもじゃないが、最後まで読破できるとは思わなかった。転位システムを中心に未来社会の状況描写もなかなか個人的には興味が持てたし、それに宗教・神話・歴史その他いろいろの題材が一体となって、心地よい読後感をもたらした。かなりの余韻を残した本。

*栗本薫 朝日のあたる家 I, II, III 光風社出版

芸能界を舞台にした現代小説。私は3冊シリーズと思っていたが、どうやらまだ続編があるらしい。ファンタジーの本、例えば「グインシリーズ」ではあまり気にしなかったくどさが、途中でいやになって第3巻目で中断してしまった。どうもコミックというか、少年少女漫画のような描写法で、一瞬一瞬が永遠の時で有るかのように、しかもそれが独白というか心の内部のモノローグのような形で書かれると、その世界に浸っている間は良いのだが、少し醒めると私には馬鹿らしくなってきた。題材があまり関心を持てないせいもあるのかも知れないが、このへんはどうやら私の入っていけない世界なのかもしれない。栗本薫は、ファンタジーというか、伝奇空想的小説的なものは、面白いのだが、現代小説は私の好みとは少しずれるような気もする。今思い返しても、彼女の作品で好きなものBest 5の中には現代小説はあまりない。

*高橋克彦 刻謎宮 光輝編 徳間書店

今度は中国古代が舞台。しかし衝撃度は第1作が大きかった。「龍の棺」にしても、新シリーズになると、少し熱気が醒めて来るという傾向がある。

*高橋克彦 黄昏奇談 毎日新聞社

*川上弘美 蛇を踏む 文藝春秋

さっぱり分からなかった小説。カフカの「変身」にしても、私はあまりその良さは分からないのだが、この作品はそれ以上。私はこうした抽象小説には縁が薄いのかもしれない。あまりにも分からなかったから、かえってこの作者の作品を後数冊読みたいとも思うのだが、果たしてどうなるやら・・・

*澤木耕太郎 檀 新潮社

*澤木耕太郎 象が空を 文藝春秋

*平野啓一郎 一月物語

久しぶりに小説らしいというか、一行一行を堪能しながら読了するのが少し惜しかった小説。この作品も大学在学中に書いたのだろうが、作者の博識ぶりには驚いた。私が読み方を知らない漢字も結構出てきた。芥川賞受賞作品「日蝕」もすぐにでも読もうと思っている。私は老後の楽しみに泉鏡花全集と海野十三全集、それにもう少しで完結する日本古典文学大系を所有しているのだが、この本を読んで鏡花と十三の作品で未読の作品を今すぐにでも読みたくなった。古典文学大系の方はさすがに将来もどれだけ読めるかは分からないが、この2つの全集は手元においてあって私の蔵書の中では宝のようなものだから、そろそろ集中的に読んでみるのも良いかもしれない。とにかく「高野聖」の世界に紛れ込んだような、現代離れした小説でなかなか楽しめた。そういえば20年くらい前の芥川賞作品で、私好みの作品があった。作者も題名も忘れているが、多分手元に取れば思い出すだろうから、そのうちにまた会えるかもしれない。この作家はまだ2冊しか単行本はないと思うのだが、今後注目しておこう。

*川上亮一 学校崩壊 草思社

*藤原伊織 雪が降る 講談社

1999-5-23



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