葬儀屋が人を殺した!!  by P.Zindel


*The Undertaker's Gone Bananas by Paul Zindel (Bantam Books)

今回の作品は、今まで読んだZindelの作品とがらりと違う。若い男女のペアが 主人公であることには変わりがないが、今までのように彼等が交互に出来事を 述べていくということはなく、普通の客観的な第三人称的な形で物語は語られ ている。そして話しの中身も、殺人事件を取り扱ったミステリー物だから、な かなか楽しめる。しかし私は例によって、あらすじは脇に置いて、読了後の余 韻に浸りつつこの作品で面白かったところを思い出すままに書いてみます。

Bobby PerkinsとLauri Geddesが今回の主人公。舞台は、New Jerseyにある30 階建ての建造間もないCentury Tower Apartment. マンハッタンもGeorge Washington Bridgeも見渡せるから、まあ州は違うがNew Yorkと言ってもい い。各階10戸ずつですから合計300戸くらいだから1つの村くらいの規模です ね。といっても、家賃が高いのか、特に高層部は入居者はまばらです。例え ば、Bobbyの家は、24-Hですが、同じ24階には他に入居者はいない。24-GにMr. Hulkaが入居してくるところから、物語は始まるのですが、下の22階と23階に は入居者はまだ誰もいない。各階とも作りはalphabetで同じなようで、特にG は贅沢な作りになっている。例えば寝室が3部屋、メイドの部屋、洗濯部屋(a private laundry room)、forty-three-footの居間、これは約13メートル四方 だということだとすれば、160平方メートル以上になります。そしてwrap- aroundのテラスとありますから、テラスがぐるりと回りを囲んでいるのでしょ うね。家の中は迷路みたいになっているという表現もあったようですから、か なり大きなマンションだと思います。

しかも駐車場は地下の3階部分を占めているようで、このマンションは管理人 としてもかなりの人が働いている。彼等の間にも序列があって、本文にあげら れているだけでも、doormen, concierges,lobby assistants,a garage manager,mailmen,parcel post delivering men, window washers, そして paper deliverypersons, daily paper deliverypersons, Sunday paper deliverypersonsなどいます。全員が常勤なのかどうかは分かりませんが、職 業の中には複数の者もかなりありますから、このマンションには多くの専用ス タッフが働いているということがいえます。主人公たちの家庭は、そんなに特 別に裕福ともいえないようですが、なかなか豪華なようです。専用のプールも ある。24階から見ると、プールの人影も、蟻のように見えるようです。

主人公のBobbyはとにかく変わった少年、年齢は本文に書いていたかもしれま せんが、よく覚えていない。Fort Lee Highの生徒ですから、15才くらいだろ うと思います。彼もZindelお気に入りの、indivisualismの化身のような人物 で、他人が自分をどう思おうとも自己流の生き方を貫く人物。人から誤解され ても別に気にもしない。学校内でもその行動は誰一人知られないような有名な 人物です。特に逞しいというわけでもなく、問題児ということでもない。先生 や他の生徒とは全く違う価値観で動いているから、多分周囲の者は彼を愚か者 と思うか、ほとんど理解できない。彼の最大の理解者は両親のようです。両親 は、息子の行動を全面的に信頼しているようで、まあ世間から見たら彼等もも 大分変わっている。芸術的才能が豊かな一家かもしれない。

一方のLauriは常に死を恐れている少女。これは彼女が以前住んでいた町での 悪夢のような経験の影響がある。彼の隣の家の全員が火事で死んだ。大分後に なって、彼女の独白というか、Bobbyに仮想のLove Letterを心の中でつぶやく 場面が出てきますが、その中で隣の家の少年に密かに想いを寄せていたことが 分かる。そのことは誰も知らないことだが、とにかく事件後あらゆることを死 に結びつける。エレベーターに乗っているときはもちろんその落下を恐れる。 橋は崩れ落ちるかもしれないから渡れない。トンネルも同じ。町を歩いていた ら、ガラスか飛行機かクレーンが落ちてくるかもしれない。とにかく生きたい という強い願いを持っているるが同時に、いつも死の強迫観念から逃げられな い少女。両親は彼女のことを心配して、このマンションの3-Aに引っ越してき た。彼女の場合も、Bobbyと出会う前は両親が最大の理解者ということになる のでしょうか。

Lauriがある事件でBobbyの無罪を証明した2人は急速に仲良くなる。修道士や 尼の格好をしたり、24階から風船に水を入れて、マンションのプールめがけて 飛ばしたり、時には警官から尋問されたりもする。その中でLauriも少しずつ 死の恐怖を忘れかけたというか、現実を直視することが出来るようになってき ている。

どうも背景が面白いから前書きが長くなりましたが、物語は24-GにMr.Hulkaと その妻が入居してくるところから始まる。Billyはテラスから隣の部屋にいる Mr. Huskaを見てどうも気に入らない。the eyes are the mirror of the sou l.というわけですが、このへんは面と向かい合っている人の目を見ているわけ でもないのに、Billyはよほど目が良いのでしょうか。(^^;

ある日両親が休暇でいないときに、Billyは隣の部屋から言い争い・女性の悲 鳴・物が壊れる音などを聞く。このアパートは作りも頑丈で、普通は隣の家の 物音が聞こえることはない。テラスから24-Gの部屋を見たBillyは、Mr.Hulka が妻らしい女性の死体らしき物を寝室に運ぶのを見る。早速Lauriに連絡し て、Lauriとともに警官や管理人たちが駆けつける。しかし警官はBillyの話し に半信半疑。彼はいままでいろんな悪戯をしていますから。さらに部屋をいろ いろ調べても、怪しいことは特にないし、殺されたはずのMrs. Hulkaが家に帰 ってきたから、なおさら悪戯ないし勘違いということで、警官たちは、Billy たちを強く戒めて、帰っていく。

その後BillyとLauriが24-Hの部屋に2人残されたとき、またしても女性の悲鳴 と物音。警察に電話しても、信用されず今度再びいたずら電話をかけてきた ら、少年院に送られるぞと脅かされる始末。この辺から物語はミステリーじみ てきます。果たしてMrs Hulkaは本当に死んだのか。そのうちMr.Hulkaが大き なトランクを持って外出。追跡する2人。自分の経営する葬儀社によったMr. Hulkaは、最終的にHudson川にトランクを投げ捨てる。Mr. Hulkaの会社の葬儀 車で後を追っていた2人がハンバーガーショップに乗り込んで、そこにたむろ していた同級生たちに事件の経過を説明しても誰も信じない。笑い転げたり、 からかわれたり。どうもBillyは日頃から他人からは全く信用されていない。 Billyは我が道を行く少年ですが、あまり他人からは、好かれていないようで す。もっともLauriも、Billyの話しが勘違いだと思っている具合ですから、ま あこれは無理もないでしょう。

24-Hに戻ってテラスから2人が24-Gの部屋を覗くと、Mrs. Hulkaがハンモック で読書している。これを見てLauriの心は、既に自分の家でBillyも交えておい しい夕食を食べることに移っている。しかしBillyの心は以前として何が24-G で起きたのかにある。Lauriと違って、Billyはなかなか信念が強い。その後電 話でMr. Hulkaと駆け引きしたりする場面もなかなか緊迫しています。Mr. Hulkaが外出したのを見計らって、24-Gに侵入する2人。そこで見たものは、ハ ンモックの女性が、Mrs.Hulkaではなく、別の女性の死体だということ。しか もMrs.Hulkaの首だけが、TVのコンソールに入っていた。すべてを理解した2 人。トランクで捨てたのは、Mrs.Hulkaの首以外の部分で、ハンモックにある のが多分Mr.Hulkaの愛人で最初に殺された女性。

そこにMr.Hulkaが戻ってくる。しかし彼はまず24-Hに行って、電話線を切り、 さらに24-Hの玄関を外からチェーンで何かに結びつけて内側から開けれないよ うにする。テラス越しに24-Hに戻った2人に、Mr.Hulkaの魔の手が伸びてく る。テラスから、2重ガラスをハンマーで叩いて侵入しようとするMr.Hulka。 それに熱湯やブタンガスで防御しようとする2人。このマンションのガラスは 頑丈だから、ハンマーで叩いても粉々にならないというところも感心しました が、この辺は一気に読ませます。なかなかはらはらさせます。

こうした恐ろしい最中Lauriは、自分が死ぬことよりも、Billyが死ぬことの方 を恐れる。彼女のBillyへの友情は、いつしか愛情に変わっていたことを自覚 するわけです。現実の死が自分と愛する者に身近に迫ってきたとき、彼女の病 的な死への恐怖はなくなった。Mr. Hulkaの攻撃を懸命に逃れる2人。最後は定 石通りHappy endはになると分かっていても、まあ時間のたつのを忘れるとい うか、残りページが少なくなるのが惜しいといおうか、なかなか楽しめます。

後半は一気に読めました。そういえば今まで読んだZindelの作品もいずれも後 半は一気に読めました。物語の世界に溶け込んだということもありますが、 Zindelの筆力もあるのだろうと思います。この作品も、他にも葬儀屋を世間の 人はどう見ているかとか、家庭内で大量のゴミを処理できる設備とか、いろい ろ興味深い記述がありました。どうも本筋とはあまり関係ないこうしたところ が今の私には面白い。そうかといって、固有名詞や単語などで分からないとこ ろをそのままにして読み進んだから、本当にこの作品を堪能したのかどうか、 もっと実力があれば、さらに面白かったかもしれないとも思います。

タイトルのthe Undertaker's gone bananas! というのは、主人公の2人がMr. Hulkaの手を逃れて、Lauritが自分の家にかけ込むときに叫ぶ言葉。これに Billyがロビーを走りながら、各家庭に知らせます。go bananasは、「頭がお かしくなる、気が変になる」という意味ですが、私はタイトルのように訳して みました。

Zindelの未読の作品で、私が持っているのはこれで残り1冊だけ。これを読ん でしまったら、もうZindelは読むこともないかもしれない、と思っています。

1998-5-28



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