君の思想は愛し給わず  by P. Zindel


Paul Zindelの作品の4冊目である。もっとも多分20年近く前にMy Darling, My HamburgerとThe Girl Who Wanted a Boyの2冊は読んでいるようだ。前作は Zindelの代表作で、2人の少女の生き方を書いている。私は多分これは何かで 紹介されていたのを注文して読んだのだった。悲劇的な結末だったことは覚え ている。Zindelの作品を数冊読んだ今となっては納得がいく。ヤングアダルト 向けの作品とはいえ、必ずしもHappy Endではないのだ。後者の作品は全然覚 えていない。実際手にとってみたが、読了したことは日付を最後に書いている から確かなのだが、カバーを見ても、出だしの部分を読んでも少しも思い出せ ない。印象が薄かったからかな。

Zindelの作品を3冊読み終わった段階でInternetでZindelを調べてみた。確か に今でも読まれ続けている作家らしい。小学高学年以上の生徒たちの感想文が 結構あった。一番人気があるのはやはりThe Pigmanらしい。彼の写真も初めて 見た。穏やかなイメージだ。

ただやはりその作風に厳しい批判があるのも事実らしい。彼は去年インドを訪 問して現地のアメリカンスクールを訪れた時の紹介記事も読んだ。アメリカ大 使館の機関紙みたいなものに載っていたと思うが、現実の醜さ・厳しさを徹底 的に描いているのが、特に読者対象が青少年だけに批判も多いのかもしれな い。彼はインドではwritingも指導したようだが、そこではあくまでも現実を 見据えて、自分の実体験に基づいて書くようにと指導していたと書いてあった ように思う。彼の作品もそうしたものが多いとか。だから作中人物は、全くの 想像物ではなく、実際に自分が出会った人物にヒントを得ているということら しい。

さて今回私が読んだ第4作目は、
*I Never Loved Your Mind by P. Zindel (Banatm Books)
である。

ともに高校中退の17才の主人公Deweyと18才の女性Yvetteの出合いと別れを描 いている。Dewyの中退の理由も曖昧だ。学校の教育が無意味だということのよ うだが、あまりはっきりしない。それにエンジニアの父と司書をしている母親 は彼の自主性を尊重するというか、そうした生き方を有しているらしい。家庭 や親に対しては不満があまりないという少年は初めてだ。このへんは前3作の 作品とはかなり違う。

DeweyはRichmond Valley Hospitalという公立病院で酸素吸入器の操作をする アルバイトにつくのだが、やはり同じ病院で医療器械の手入れの仕事をしてい るYvetteと出会う。この辺の設定もえらく簡単に医療関係の仕事につけるなと 日本と大分違うようで不思議な感じもする。

しかしDeweyとYvetteをとりまく環境や考え方は太陽と月ほども違っていた。 彼女が病院のトイレットペーパーや備品を定期的に盗んでいるのをDeweyは知 る。カバーの絵はそうしたことに気づいたDeweyが、こっそりと彼女の盗みの 現場を観察している場面らしい。Deweyは彼女に関心を持っている時だから、 今で言うストーカーまがいの行動もしている。盗んだ品物をどうにか隠そうと するYvetteとDeweyの駆け引きみたいな物が結構詳しく書いてある。

このYvetteという女性の生き方がこの本で一番面白い。恵まれない家庭環境で 育った彼女だが、家を出て自分の兄(弟?)を含む3人の同居しているのだが、 Dewyに対してデートで映画を見る代わりに映画代をくれるように請求したり、 全くの他人にただで酒をおごらせるのがうまかったり、極め付きはDeweyが訪 れたときは家の中を掃除するのに裸のまま掃除したりする。彼等は服を着ない でいることが、自然だという思想の持ち主らしい。ここで兄といったのは、16 才の弟も家でしたという記述はあるので、弟かなとも思うが、なにしろ彼女に は兄弟姉妹が多いからはっきりしない。一応兄として、その兄も含め3人の同 居男性との関係もなにか不思議な関係だ。同じ思想を共有する者同志の共同体 という感じで、意識的には社会全体を敢えて見下そうとしているところがあ る。

NYのまっただ中で家主に知られないように、2頭の馬を飼っていてそのために 家を追われるのだが、自然主義・環境主義者というか、一番近いのはヒッピー の生き方に似ているようだ。生き物は蟻といえども殺してはいけないという信 条の菜食主義者だが、最後には4人はそうした文明社会から離れた生活をする ために旅立っていく。その時に病院で仕事をやめると言ったYvetteたちを人々 が唖然として見送る中で、彼女がDewyに叫ぶのがタイトルのI Never Loved Your Mindである。1回は愛したが、その時にもあなたの考えを愛したわけでは ない。ただの肉体的な関係でしかなかったということだろうか。

彼女の中では、病院の備品を盗むことと、自分たちだけがいわばこの地球を守 っているという高尚な使命感は多分矛盾しないのだろう。動物は保護するが、 植物のことは全然気にもしないというのもおかしかった。彼女が同居している 3人はバンドを組んでいろんな店で演奏しているらしいが、多分Yvetteがリー ダー的存在だろう。彼女の兄はある日仲間から隠れてハンバーガーをたらふく 食っているところをDewyに見つかったりする。このへんは現実の反映かもしれ ないと妙に納得しておかしかった。

辞書無しでZindelの作品は読んだのだが、どうも彼は使用している語彙が多い と感じている。こうした作品は2度目を詳しく読んでいけば、単語力もUPし、 英語の勉強には役立つかもしれない。大筋は読みとっていると思うのだが、特 に今回医療関係の専門用語等が多いのだが、読んでいるときも確認していない のだから当然読み終わった後もほとんど頭に残っていない。だから細部がぼけ ている。このあたりは私の読書の欠点というか、ただ単に英語の実力がないと いおうか、時にはじっくりメモを取ったりしながら読んで行かなくてはいけな いのかなと思ったりする。

1998-5-12 



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