ユージーンの日記 by Paul Zindel


久しぶりにペーパーバックを読んでみた。特にどれを読みたいものがあったわけではなかったのだが、偶然手にしたこの本を読んでみると、なかなか面白かった。

タイトルは長い。
*The Amazing and Death-defying Diary of Eugene Dingman
by Paul Zindel (Bantam Books)

Zindelの作品は大分前に何冊か読んでいる。その時にまとめ買いして、未読な まま残っているのが、まだいくつかこの他にもあるはずだ。しかし私の持って いるものはヤングアダルト向けの作品が主流だから、ときどきその世界に入っ ていくのがつらい。今回の主人公も15才になったばかりの少年。最初Eugene は、女の名前かと思っていたが、途中で間違いに気がついた。読了後調べた ら、愛称はGeneらしいが、こちらも女性のような気がしてならない。

この作品はタイトルにもあるEugene Dingmanの夏休みの約2カ月間の日記から 成り立っている。Dear Diary,と呼びかけるところはアンネを思い出させる。

家族関係は荒れているというか、かなり乾いているというか、両親は離婚して Eugeneは母と大学から帰ったばかりの姉と3人暮らし。というより、姉は離婚 した父からの仕送りが18才になって止まったから、新学期の分(秋期の分)は自 分で学費を稼がねばならない。新学年度が始まったら、アルバイトで来年の学 費を働かねばならない。最近母親が自宅の地下室に間借り人を置いたが、この 男の存在がEugeneは気に入らない。母親は夏休みの間にEugeneを遠く離れたホ テルのバイトにやってしまう。そして主人公が帰ってくる頃には、2人は結婚 式を挙げに遠くに行ってしまっている。10月くらいまで帰ってこないと言う手 紙をアルバイト先によこしただけ。離婚した父親の方もかなりあっさりしてい る。

作品全体のストりーは、EugeneのDellaという1才年上の少女への愛と勝手な思 いこみ、そして別れが中心になっている。Eugeneは「傍観者たるより、行動者 たれ」というアドバイスをインド人のマハトマという人物より授かるくらいだ から、この作品はストリーとしては次から次に事件があるというわけではな い。それにHappy endingというわけでもない。

しかしこの作品を読んでいて楽しかったのは、作中に出てくる固有名詞の多種 多様さである。Eugeneは将来作家をめざしていていわば本の虫だから、同世代 の仲間からは元々浮き上がっている。彼がホテルに持っている荷物の中には、 Mentor Pocket Dictionary, History of the World, The Complete Book of Famous Births and Deaths, Genius through the Ages,さらにはプルーストの Swann's Wayとか、Masters and JohnsonのSexual Inadequencyとか哲学盛衰 史、愚者の船、ハムレット、PetersonのQuotes and Proverbなどがある。とに かく青少年特有の賢くなりたいといおうか、知識至上主義を絵に描いたような 少年だ。実際彼は、アルバイト期間中にボバリー夫人、罪と罰、モヒカン族の 最期、白鯨などを読破していく。白鯨は読了にはいたらなかったが、こうした 読書傾向から見るとかなり早熟だと思う。ただ英語で書かれている作品は、日 本人の感覚とは違うかもしれない。

しかしこの作品で一番面白いのは毎日毎日飽きもせず引用するBayonne News & Sunという新聞である。これはEugeneが愛読している新聞なのだが、彼はこれ をアルバイト先にも送ってもらう。もちろん実在の新聞ではないと思うが、毎 日平均して3つか4つ挙げられているこの新聞のタイトルだけ読んでいても面白 い。最初の日付6/26の日記にはマリリン・モンローの幽霊が大統領の側近に話 しかけたと書いてある。MMはその後も結構幽霊として登場してくるが、このへ んは現代から見れば少し古いかな。MMが今でも若いアメリカ人には人気がある のだろうか。

他にはぱらぱらとめくっていたら、
*シカゴの司書、UFOに誘拐される
*女性歯科医、夫の愛人の歯を引き抜く
*人魚の群がリバプール沖で発見さる
*行方不明の少年、500ポンドのゴリラの腕の中で眠っているのを発見される
*teenagerが母親をアラブ人に売り渡す(確か逆の例もあったような)
*オーストラリアの2つの頭を持つ赤ん坊は男の子と女の子であることが判明

多分もっと面白いのがあったと思うのだが、毎日こんな記事ばかり載っている ような新聞のようだ。アメリカにはこんな新聞があるのは知っていたが、こん な新聞がWEB上で読めないかと思って興味を持って探していたりする。タブロ イド紙は見つけたけれども、さすがにタブロイド紙さえもここまでは書かな い。こうした種類の新聞は日本にはないだろう。

さらに毎日その日にどうしたことが起こったのかを本で調べて書いている。と きどきは語彙を増やそうと辞書の中の誰も知らないような言葉を引用したりす る。

こうしたものが延々と書かれている。しかもその背後に流れるユーモアという か、これはRanald Dahlにも通じるようなものがある。

最近の日本の少年少女文学というか、10代向けの作品はほとんど読んだことが ないので分からないが、この作品は面白かった。おかげで一気に読んでしまっ た。しかしこの作品をアメリカの少年たちの中で読んでいける人が何人いるの だろうか。出てくる固有名詞は、作家や映画俳優やら、商品名やらほとんど毎 ページそうしたものにあふれている。知らないものも大分多かったし、芸能人 やらアイドルは少し古くさいが丁寧に読んだらかなり物知りになれるかもしれ ない。

今まで読んだZindelの他の作品とは少し違うかなと思ったが、かなり楽しめま した。次もZindelで行こう。

1998-5-7



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