池澤夏樹 すばらしい新世界


昨日は気分転換に少しだけ池澤夏樹の本を読んだ所、なかなか面白くつい6 00ページ近いこの本を一気に読んでしまいました。

*池澤夏樹 すばらしい新世界 中央公論社 2000.9.10

風力発電の仕事をしている主人公がネパールの山奥に小型風力発電を作るた めの話です。読売新聞に1年間にわたって連載されたものらしくて、今までの池 澤夏樹の作品より読みやすい。これは長編という形式を選んだからかもしれな い。

題材としては、経済小説であってもおかしくない内容ですが、やはり池澤夏 樹の作品ですから、人間の幸福とは何か、宗教が人間に持つ意味は何かをさりげ なく語っています。登場人物も出てくる世界も、われわれの日常とそんなにかけ 離れているわけではない。最後にダライラマに埋蔵経を届けると言う冒険らしい ものが出てきますが、それを考慮にいれても、別に意外性の有る人物が出てくる わけでもなく、劇的なドラマを描くわけでもない。作者の博識に感心するのでも なく、ストリーは1999年までに日本で起きた誰でもが知っているようなさ まざまな事件をも、私たちが日常感じるであろう感覚で受け止めながら、静かに 進行して行く。

小説の形式としては、作者の感想を直接小説の中に書きこんでいる所が面白 い。作者自身が、登場人物たちやその背景について、いろいろ解説したりするの ですが、いわばさめた目で物語を眺めているのですが、これが良いのかどうかは わからない。ただこの小説では主人公と妻・息子の間にかわされるe-メールが重 要な要素を占めています。作品全体もe-メールの、文体とそんなに違うわけでは ない。この辺も一気に読める所以かな。

現代が急速に自然から離れて行く中で、いろんな現実世界を生きているに現 代人ほどう生きたら良いのか。もちろん作者も答えは出していないし、そうした ことを押しつけがましく語っているわけでも有りませんが、何か大事なものをふと考えさせられる作品です。

2000-10-10



感想はこちらに・・・・・・ohto@pluto.dti.ne.jp


ホームページに戻る 

読書室のページに戻る