シンプル・プラン


*スコット・スミス シンプル・プラン 講談社ワールドブックス  1995.12.18
 *A simple Plan by Scott Smith

このごろあまり英語を読んでいないので、図書館にあった講談社の英語シリ ーズを借りてきました。本当はこの前読んだHarry Potterの続きを読みたかったのですが、どうも長い間、誰かが第2作も第3作も借りたままになっているらしい。

さて、この本、表紙の所に日本語の解説があって、それによると主人公と兄 とその友人の3人が、墜落した小型飛行機の中から、現金440万ドルを発見する所から始まります。それから始まる混沌と恐怖の物語ということで、追跡劇みたいなものを予想していたのですが、全然違っていた。

思いがけぬ大金を前にして、人はどのように行動するのか。この場合、彼ら は人々が飛行機を発見し、そのほとぼりが冷めるころにその金を山分けすると いうことで一致する。そしてそれぞれが新しい人生を始めればいい。たしかにうまく行きそうな計画だった。

ただひとつだけ、人間の欲望はそう簡単ではなかった。主人公のハンク、と 言うよりこの物語は、終始彼の一人称で語られるのですが、決断力はあまり無いものの物事を冷静に判断できたはずの彼の計画は、すべてどこかで歯車が狂って、より大きな悲劇へと入りこむ。周りの人が、彼のような人ばかりでは無いのは当然です。

最後の方は、一見生臭くなってきますが、結局ハンクだけは、生き残る。金 持ちになる夢は無くなり、自分の犯した罪を背負い込んだままこれから生きていかなければならないとしても、多分彼は世間的には善良で信頼できる人として、これからの人生を静かに生きていく。

だが殺人を犯しながらも、人はそれをどのように正当化していくのか。最後 近くの殺人現場では、背後に聖書を解説するラジオ番組が聞こえている。しかしハンクは罪と言うことを、そうした神との対峙で考えるような人物ではない。逮捕されないために、刑務所に入らないために、そのためにはどんなことでも許されると考える。彼の立場からは、道徳とか犯罪の持つ意味は、露見するかどうか、社会的制裁を受けるかどうかが問題であって、それが良心の呵責として残ることはあっても、あまり大きな意味は持たない。ゲンダイジンの感覚にはこちらの方が遭っているのかもしれないし、もともと人間とはそういうものかもしれない。

この小説全体では、9人の人が死ぬことになりますが、別に殺人事件がテー マではない。どうしてその殺人がなされなければならないかを、ハンクと妻のサラの立場から、くどいほど聞かされるわけですが、たしかに彼らの立場一つ一つは分からないわけではない。

simpleの持つニュアンスは、いろいろあるとしても、案外正よりも負のイメ ージが強いのかもしれない。

500ページもある厚い本でしたが、英語のやさしさと、物語の面白さからか、案外簡単に読めました。分からない単語ももちろん数多く出てきたけれど、例によって無視しました。結構熱中した本でした。

翻訳は、この本の解説注釈をしている近藤純夫の訳で扶桑社から出ているよ うです。

2000-9-25



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