船戸与一 砂のクロニカル


ようやくこの本を読み終えました。何しろ分量が多かったから、内容は面白かったけど、一気に読み終わるというわけには行かなかった。

*船戸与一 砂のクロニカル 毎日新聞社 1991年11月30日

2人のハジと呼ばれる日本人が出てくる。2人とも語学には堪能で、英語はもちろんアラビア語とかペルシア語とかも、流暢に使いこなせる。主な舞台は、革命防衛隊が、実験を握るイスラム革命後のイラン、その中でもクルド民族の聖地と呼ばれるマハバート。クルド独立を夢見る若者たち、イスラム革命の義に殉じようとする少年。それに日本人の武器商人と、もと過激派組織フェダイン・ハルクの活動家がからんで物語りは展開するのですが、政治革命の持つ残酷さをいやというほど教えてくれる。

クルド問題とか、少しは知っていたけど、この本を読むと、中東の複雑な人種問題がよくわかります。イラン・イラク・トルコなどにちらばる、クルドの悲劇もそうですが、アゼルバイジャンとかアルメニア、スンニ派とシーア派、ゾロアスター教徒の団結などなど、小説とはいえ、中東の紛争背景がいかに複雑かがよく分かる。

船戸与一はこの本を含め集中的に5冊読んだけど、今まで読んだのはいずれも外国が舞台だった。しかも主人公は、日本人ではあるが、武器商人とかもと外人部隊あがりのテロリストなど、いずれも現在の日本からはみ出た人物ばかり。ストリーテラーとしての、彼の才能は見事だけど、どことなく違和感も感じる。この小説でも、10人以上の主要人物たちは、ことごとくが死んでしまう。それもほとんどが悲惨な死。面白い小説ではあるのだが、なんとなく落ち着かない。

こうした小説が、いつ頃から出てきたのか?最近では現代風俗小説としてはせいぜいが経済小説くらいしか読んでこなかった私には、よくわからない。バイオレンス小説とも少し違うと思うが、馳星周の「夜光虫」は、100ページくらい読んだ所で、読むのにつかれてきた。最後まで読まなくても、大体のストリー展開は分かるし、多分このまま図書館に返すことになりそうです。

面白い小説を、ひとまず楽しんだけど、多分愛読書にはならない。

2000-9-8



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