立花隆 21世紀知の挑戦


立花隆の本を読んで見ました。もっともこの本の中心テーマであるバイオ関係は、基礎知識が無いから、拾い読み程度かな。まじめに読んだ所と、ざっと読み流した所と有ります。

*立花隆 21世紀知の挑戦 文藝春秋 2000年7月10日

もともとはTBSで放映された番組取材をきっかけに、文芸春秋に発表された7つの論文が元になっているようです。私が一番面白かったのは、ツングースカ大爆発に関する論文だったから、DNAとか遺伝子治療などのバイオ関係の論文が中心のこの本のねらいからはかなりはずれます。

しかしこの本のもう1つのテーマが、日本の将来への立花のかなりの危機感です。この国の教育状況がかなり危機的になっているとは思っていましたが、その根底には知的関心の崩壊という現実があるかもしれない。

「ゆとり有る教育」が生み出したものが何であれ、日本人の科学に対する好奇心が急速に減少していることだけは間違い無いようです。20世紀は科学の時代だったし、21世紀はバイオ・情報技術を中心にますますその傾向は進むでしょう。ところが日本はあらゆる調査によっても、科学への関心が一番低い国民になりつつあるようです。この本では、「理科が好きな生徒の割合」、「科学技術に関心を持っている一般市民の割合」、「科学技術について知識を持っている一般市民の割合、科学の新しい研究に対して関心を持つ一般市民の割合などが、紹介されていますが、そのいずれでも日本は最下位です。しかも圧倒的なさをつけられています。ここに挙げられている国が調査国のすべてなのかどうかは分かりませんが、いずれにせよ主用欧米先進国は入っていますから、余りのひどさに愕然とします。理科が好きな生徒、科学を使う仕事をしたいと考える生徒の割合は、いずれもアメリカやシンガポールの3分の一、トップの国と比べると、4分の一です。

最近「分数を分からない大学生」に続いて、「少数を分からない大学生」という本も出たようですが、数学・科学を含めて、日本人の好奇心が急激に低下している感じです。立花は21世紀をバイオの時代と捉えているようですから、生物学の知識は国家の運命を左右すると認識しているようですが、ここでも彼我の大学生の知識の差は、開くばかり。アメリカでは大学レベルでは文系学生に対しても、あるいは大学職員に対しても生物学必修を義務付けている所が多い。ところが日本では医学部に進学する学生でも、生物学を取ってない学生もいるわけで、中学生のときの知識レベルで高級官僚となっていく若者も多い。交渉どころか、対話が成立しないことになりかねない。

こうした警告本は、少し大げさな所も有るとは思うのだけど、それにしても現状では日本の10年後・20年後はかなり厳しい。科学に対する関心が高いのが、40代・50代で、20代が最も低く、小学生になると、理科を毛嫌いしている。これだけの事実からみると、これは予測の域を超えて、確実に来るべき将来が見えてきます。

若者の可能性を信じる意見も、読むのは好きなのですが、たしかにそうした中にあっても、日本の若者が知識欲旺盛で人類の将来を考えていると言う話しは、あまり聞かないな。まあ、平凡な小国として生き残るのも悪くはないのかもしれないけど、あまり面白そうでないな。

2000-8-8



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