池澤夏樹の本など


*池澤夏樹 骨は珊瑚、眼は真珠 文藝春秋 1995年4月30日発行

9つの作品が収めてある。

一番印象に残ったのは、「北への旅」。空気感染する生物細菌によって、ほとんどの人類が死滅した地球を描く。最後の生存者かもしれない主人公は1年に及ぶシェルターの生活に耐えきれなくなり、雪が積もる所でクリスマスを祝うために北に旅立つ。アリゾナからカナダまで、残された時間は、この奇病の潜伏期間の4週間しかない。一人だけこの地上に残されたときの孤独。

それを動物のトガリネズミの立場から描いたのが、「最後の1羽」。しかし同じ死を描いても本のタイトルにもなっている「骨は珊瑚・・・」には、死に対する恐れも不安もない。この世を満足に生きぬいた死者が、妻へ語るというスタイルを取るこの物語は、不思議な透明感さえ感じる。「眠る人々」にも、現代という時代が歴史の中においていかに恵まれているかを、描いているという点で共通するものを持つのかもしれない。

「鮎」は、作者はスペイン語圏の物語からとったと書いているが、私にはラフカディオ・ハーンの、「蟷螂の夢」を思い出させた。30年間の現世の営みが一瞬にして幻と化するかのようなファンタジー的結末。「パーティ」は、ちょっとホラー的な要素が強いが、似たようなものかな。

「アステロイド観測隊」は、この作者には珍しくユーモアの要素を含んでいる。「眠る女」は、沖縄の今は途絶えた風習を題材にとっているが、少しわかりづらい作品。

*池澤夏樹 海図と航海日誌 スイッチ・パブリッシング 1995年12月15日発行

読書案内。自分の私生活やら、自伝等については語ることを潔しとしない著者が、今までの人生で読んできた本については、饒舌に語ってくれる。序章も入れて20章は、それぞれのテーマ毎に、いろいろと語られている。ただ目次やタイトルを見ただけでは、一見読書録と見えない所が面白い。

最後には作者が選ぶ99の小説のリストが載っている。これは作者の好みが反映しているから、これまで他の人が選んだリストとはかなり異なる。古典は少なく、19世紀から20世紀の小説が中心だが、例えば日本では23の作品が選ばれているが、藤村・漱石・鴎外・志賀直哉・康成・太宰治・三島由紀夫などは入っていない。その代わり賢治・中島敦・大岡昇平・福永武彦・大江健三郎が2作ずつ選ばれている。私が知らない作家では神沢利子の「流れのほとり」が選ばれている。外国の文学に関しても、私が名前を知っている作品は半分くらいだろうか。読んでいる作品となると、もちろんその割合ははるかに小さい。

最初は普通読んでいる本よりも字の多き大きさも小さく読みづらかったが、内容はなかなか面白かったから、最後まで楽しめた。「アレクサンドリア四部作」など現代外国文学に疎い私には教えられることが多かった。

*米倉誠一郎 ネオIT革命 講談社 2000年6月15日発行
副題は「日本型モデルが世界を変える」

日本の未来に関しては、今までもいろんな本を読んできたが、この本はあまり日本の将来に関しては楽観的な見方をするほうにはいる。作者がまだ40代後半と言うこともあるのだろうか。

明治以来、常に挑戦しつづけた日本は、現在の逆境を乗り越えて世界に範を垂れるだろうということなのだが、はたしてどうだろうか?ただ私の周囲とマスメディアの報ずる世界のギャップがあまりにも大きいものだから、以前としてIT革命の実態がよく分からないのだが、やはりこれは産業革命に匹敵する大きな革命なのだろう。別にこうしたことを知らなくても、日常生活は普段とあまり変わらないように見えるのだが、やはり底流ではかなり大きな変化が起きているように思う。時々そうした中で自己分裂を感じないでもないが、やはりそうした違和感は少しずつ無くなって行くだろうと思う。

1週間くらい前に、読み上げた本だから、細かいことまでは覚えていないが、地域振興券の代わりに、小中学生全員にパソコン券を配るべきだった、と書いているのには私も同感だ。どうしてこうした発想が、政治指導者に出来ないのだろうか?書かれている内容がすべて正しいとは思わないが、現代を知るためには、こうした本も時々読んで見ると面白い。

以下の本は、タイトルだけ記しておく。読み終わった時には、それぞれ感想を書こうと思ったのだが、時間が経つと、少しつらい。

*長谷川慶太郎 「日本の復活」元年 徳間書店 1999年11月30日発行
副題は「2000年、長谷川慶太郎の世界はこう変わる」

長谷川慶太郎の本は、読後感に時々不満が残るのだが、つい読んでしまう。新しい情報というか、いろいろと知らないことも教えてくれるから。

この本は、まあ総選挙の話題やら、時事性の強いものはもう古くなっているからだめだけど、他にもいろいろ教わったから、そんなに無駄ではなかった。

*クライン孝子 歯がゆいサラリーマン大国・日本 翔伝社 平成11年2月10日
 「なぜドイツ人は不況にも動じないのか」

*浅井隆+ベンチャーサポート ベンチャー大革命 第二海援隊 1997年4月1日
 「日本変革はベンチャー企業の活力から」

*石井正幸 日銀崩壊 毎日新聞社 1998年10月10日

*桃井真 2001年・日本の軍事力 翔伝社 平成10年2月10日
 「有事」の際、本当はどこまで守れるのか

*三浦綾子 雨は明日はれるだろう 北海道新聞社 1998年7月10日

2000-7-31



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